【小説】怖い手
手を繋ぐのが怖かった。
感情が透けて見えるのだ、透けて見えるは解りにくい、何となく自分に対して悪意があるか、善意があるかが解ってしまう。
解るっていいじゃない、そう考える人も居るだろう、でも目の前の人がニッコリ笑って優しい言葉をかけてくれているのに、手が違う事を指している。
それって怖くない?
何時からだろう、私の中に感情が浮かび上がってくるのを感じたのは、身を守るにはいいけど、心は鎧を付けていない、心が大変だ。
子供の頃から感情がみえると、人との対応が怖くなる、第一に親を信じるのが難しくなる。
「あなたのためよ。」ニッコリ笑って母が言う、顔は笑っている、だけど私は知っているのだ、彼女の本当の気持ちを。
言葉を信じたらいいのだろう、歓迎すべきなのだろう、母親が子供を思うのはDNAで刻み込まれている筈だ、本当に脳が刻んでいるのは子供の方だ。
子供は世話をしてくれる人を、愛するように細工されている、それは全部無条件だ。
条件など付けないから、親になるのに試験など要らない、そこに居るだけで圧倒的な愛と信頼を勝ち取るのだから。
私も子供の頃は信頼していた、信頼していただろうと思う。
思うとしか表現できないのは、ちびの自分が感情を見れたのかが解らない。
何せ疑う心を携帯していない時代の自分はどうだったのか、聞くわけにはいかない。
ちびから大きくなる過程で、手が口ほどにものを言うのが解ってきた、別に手を繋がなくてもいい、触ると頭に感情が透けて見えだした。
感情気付くに言葉はいらぬ、その手に触れるだけでいい、そんな状態になってきた。
母のあなたのためには、何でこの子いう事を聞かないんだろう、頑固なんだから、が浮かびあがる、友達の一緒に遊ぼうの中に、仕方ない入れてやるかが浮かぶと、もう一緒には居たくない。
手から浮かび上がる感情は、私を一人にしていった。
人間は群れる動物だ、一匹オオカミと気取ったところで、人と繋がらずに生きていくのは至難の業、私は触ると感情が透けて見える、出来損ないの人間だったので、なるだけ人に触らないのを心がけた。
「また、勉強してない、あんたの為を思って言ってるんだよ、勉強しないで社会に出たら大変なんだから。」ハイハイ、そんな本当かどうか解らない言い訳信じるほどは子供じゃ無い。
チョット触れてみる、「この子ったら成績悪いと、私が恥ずかしいのが解らないのかしら。」ほらね、違うでしょ。
この違いが私に何かを与えるとは、考えても見なかった。