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【小説】あの夢
車を走らせていると、嫌なことを忘れてしまうのは自分に限ったわけじゃない。
この車は法律では問題ない位の改造を加えていて、その為か道の小さな凸凹にも反応して、その度に体が飛び跳ねるのが、体を張って運転している気にさせてくれる。
改造するために軽を買って、足回りを変えてもらう、150万の車が180万になっても、そこは趣味の範疇だ。
何時の頃からか、誰かが見ている自分は中に持っている物とは違うと気が付いていた。
親から見ればおかしな子供だったのだろう、親は車を持って居ないのに、この車、あの車と見に行っていた。
自分の中には車の記憶が有って、夢だったのか、過去だったのか、頭にこびりついた記憶を剝がせなくなっている。
誰もが生まれてからの記憶に頼って生活していて、自分の中にあるものは正しいと信じている。
記憶が正しいかどうか解らないけど、その記憶は私の底の方に有って、自分を支配していた。
自分の名前も知らない人が呼んでいるようで、中々入ってこない状態が続いていた。
それも大人になると無くなって、今は好きな車を買って乗り回す夢が現実になって居る。
「今日も飛ばすから、帰りは遅くなる。」母親には言っておく。
「気を付けてね、車は危ないから。」いつもの返事が返ってくる。
「大丈夫、いつも気を付けているから。」これも何時もどうりの言葉が出てくる。
この人を親と思った記憶がないので、優しい他人として付き合っているので、親子関係は良好だ。
車を飛ばして遠くに行くのが、本来の自分でそこに親が入ってこない限り、この関係は続くだろう。
「本当に気を付けてね。」背中に掛けられた言葉を振り払って車に乗ってゆく。
この車は改造しているので、くねった道が最適だ、その道を子供の頃からよく夢に見ていた。
夢では車が飛んでいて、そこは子供の夢なんだから現実感が無いんだと思っていた。
くねった上り路を結構なスピードで飛ばす、センターラインから出ても、この道は通る車が少ないのだから関係ない。
気持ちよく飛ばしていると、これも夢に見た感じだ、この場所に来たことは初めてなのだけど、これがデジャブって奴か。
『前からトラックが来た』心の底で舌打ちをする、ここには自分しか居ないので、大声で舌打ちをしても良かったのだが、いきなりのトラックに声が出なくなっていた。
あちらの運転手も顔が引きつっている、スピードが出ているので泊まれそうもない。
ほんの少しハンドルを回す、これで回避できるんじゃないか。
思ったところで車が崖から飛んでいた。
あの夢はこれだったんだ。
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![内山祥子](https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/ic3fd94079689.jpg?width=600&crop=1:1,smart)