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悲しみさえも、そして喜びは燦然と輝く

人生は常に
想像もつかないことが起こる、そう感じる。
人との出会いと別れだけでなく、
感情においても、人は経験と学びを積み重ねる。

動物が好きな私は、母亡き後、
柴犬をパートナーとして暮らしてきた。
元気で明るい、野性的な柴犬の雌・ベルは、
これまでに家族や職場、友人関係において
人の激しい感情を浴びるのが苦手な私を
明るい方へ引っ張ってくれた。
そしてベルとの別れ。
伴侶動物の柴犬・ベルを失った私は
どこか空虚な日常を過ごしていた。
動物はどうしても人より寿命が短い。
それは理解していたが、それでも、やはり寂しい。
ベルとの、あうんの呼吸、何よりベルの
とてつもない、明るさ。

空虚な思いの中で2年が経過し、
ベルの命日が迫ったある日、
また犬と暮らしたい、という思いが
湧き上がってきた。
以前にも保護犬について考えていた。
しかし、単身者お断り、と出鼻を挫かれて
躊躇していた。

ある時、保護犬との縁を繋ぐサイトを見ると
かわいい柴犬の女の子が目に止まった。
サイトに載せるということは、保護団体も
縁を繋ぎたいので、良い写真を出すのだろう。
しかし、それにしても、かわいい。



年齢は7歳くらい、保健所から引き出し。
おそらく元繁殖犬、子宮に炎症があり、
卵巣共に摘出。
おとなしい、優しい女の子。
生きる気力が失せていて
ごはんを食べることを拒否していた。

団体のコメントやブログ記事を読み、
この子について情報を得た。
けれども、もう、この子しかいない、
という思いでいっぱいだった。
譲渡条件は単身者可能であったので、
私は団体へ、恥ずかしいくらい熱い
応募メールを送っていた。

そしてこの、柴犬の幸が、私の娘になった。
幸は人に酷い生活を強いられ、
捨てられ、表情がなくなっていた。
団体の代表やスタッフが幸をみんなで
気遣って、一緒に施設で過ごした保護犬仲間
のおかげもあり、笑顔が戻っていた。
それでも、譲渡される時、

わたしは今度は誰と暮らすの?
という不安が幸にあったのだろう。

今にして思えば、私と幸は引き合ったのだ。

人に傷つけられ、生きる気力を
失いながら、それでも安らげる場所を
探していた幸と、

自分の安らぎの場所を自分でつくるために、
この社会で自分を防御して生きてきた私。

私たちは、お互いを引き合った。

幸の安らぎの場所は
私と暮らす、小さな部屋だった。
そこは、幸にとって
おかあさんである私と、幸だけがいる。
他の人は入ってこない。
柔らかなソファーベッドの上で
安心して眠り、嫌なことは何もしなくていい。
繁殖場で閉じ込められて、子を身籠る日々。
生まれた子はすぐに取り上げられてしまう。

幸は人の感情を怖がった。
人の存在も、怖かった。

厳しい口調で、繁殖場で何かを言われたり
していたのだろう。
そうされないために、無表情で過ごして
いたのだろう。

すべて、気にしなくいいのだ。
だって、ここは幸の部屋。
トラウマがある幸を私は
お姫様のように、大切に扱った。
大切に、愛した。

最後の日まで、
お姫様として。

穏やかな日々は
幸の、まさかの不治の病により
3年半で終えることになった。

団体の代表さんに言われた。

おかあさんに看取ってもらうために
幸は生きたのですよ。


生きて幸せになろうという
意味を込めて
幸、と団体代表が名付けてくれた。



5年前の、11月の終わりに
幸は団体に保護された。

それは
思いもよらぬ未来の始まりだった。

出会いが、出会いを結んだ。

そして
私自身、ベルを亡くして
どこか空虚な中で
日常をこなしていた。
それから
自分の中に、ふと、湧き上がってきた
思いから、幸と出会った。

保護犬を迎え、その感情を知った。
恐怖、悲しみがどんどん癒され、
完璧ではないけれど
人と暮らせるようになり、
喜びを感じて笑顔を見せてくれた。
伴侶動物、犬の娘の存在が
私の人生に希望を持たせてくれた。

保護犬はかわいそうな子だから
幸せにしてあげよう、
ではなく、
幸が私の元へ来てくれて、
私が幸せになった。
愛と安らぎを見つけることができた。

幸との別れは辛く、
どうしてこんなに辛いことを
経験しなければならないのか、と思った。

今、幸を亡くして
1年が経過し、
想像もしなかった未来である、
と感じる。

まだ幸と一緒に暮らしていると
思っていた。

私自身の心にも、さまざまな変化があった。

もっと自分を信じて、
自分を労って生きようと思う
ようになった。

幸のような、繁殖犬について
知ってもらうよう、
彼らの苦しみが終わるように、
自分なりに活動をするようになった。
それは小さな本を作り、
販売し、売上を志のある
犬猫保護団体へ寄付するという
ことだが、この小さな活動も
想像もしなかったことなのだ。

そしてこの活動をしている時、
幸と共同で行っているという感覚がある。
私の、お姫様・幸が
私を支えてくれている。

人生は感情を知る旅。
どんな感情も、自分を知るためにある。
私を労い、生きることは
心の中に棲む、ベルと幸を大切にすること
と同じ。私が笑えば、ベルと幸も笑う。

自分の人生を生きることが
いかに大切なことか。
犬たちがそれを教えてくれた。

想像もしなかった未来、
それは
それぞれに刻まれた感情が
悲しみさえも、そして
喜びは燦然と輝く。

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