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イルミネーション

 バイト先の後輩達に「忘年会代わりにドライブでもしましょう。」と誘われ車を走らす。厳冬だと騒がれていたのは本当のようで、いつもならうっすらとしか積もらないこの時期から雪が降りしきる。気づけば道路のセンターラインが雪で隠されていく。運転しづらいなぁ…と雪に悪態をつきながら、車を走らせること1時間。近くのイルミネーションがきれいな植物園へ寄ることになった。

3年ぶりに。

 平日の遅めの時間ということもあってか人出はすっかりなく、ザックザクと雪を鳴らしながら異様に浮かれた風景を進む。広大な敷地が煌々と輝くのを見ながら「電飾の一つが消えたくらいじゃ、全体像はビクともしないんだろうなぁ」と呟くと「なんですかそれ」と失笑をくらう。とはいえ、積もった雪に反射するぼんやりとした色彩には目を奪られる。こんなに綺麗だったけ?

 3年前、少し不機嫌そうな彼女を連れ出して此処に来た日も、雪が降っていた。皆の前では楽しく話しかけてくる彼女は、なぜか二人で出かけるときは不機嫌そうにしてることが多かった。この日も唐突に「別に今は彼氏いらない!」と宣言してきたり、「はしゃぐな!恥ずかしい」と怒られたりしていた。イルミネーションデートとかいう舞台上で、なんとなく醸し出されるこの不機嫌そうな空気感に負けて、俺はその日告白する勇気が出なかった。
 一方、彼女のインスタには楽しそうなイルミネーションの写真が上がっているし、俺の携帯には笑顔で映る彼女の写メが残っている。


 正解って何なんだろうな、と言うかいつも正解を求めているな俺は…と思いながら、煌々と輝くトンネルのような廊下を歩く。「誰もいない!めっちゃ綺麗~!俺だけの道みたいじゃない?」と後輩に冗談めいて聞くと失笑だけが返ってきた。急に、3年前に2ショット写真を撮った場所が此処だったことと、「恥ずかしいから、はしゃがんで」と怒られたのもこのトンネルだったことを思い出した。消えていた電飾が一つ、バチバチと音を立てて鮮やかな色を発光した。




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