学術論文に潜むゾンビたち
はじめに
私はゾンビの論文を探し求めている。本物のゾンビを扱う論文を探している。
いやもちろんゾンビが実在しないことは理解している。だから、こう言い換えよう。ゾンビが実在すると仮定しても破綻しない論文を探している、と。
そんなものあるのか?と疑問に思う方もいるだろう。ある。代表例を2つ挙げよう。
まず、政治学者のDaniel Drezner(ダニエル・ドレズナー)ら著作の『ゾンビ襲来:国際政治理論で、その日に備える』。
これはゾンビが実社会に現れたとき、人間がどう考え行動するかを政治思想ごとに分けて論じた本である。ただ、専門的な政治用語が多いのでゾンビに引き寄せられて読むにはかなり難しい本だ。
次に、Robert Smithら著『Mathematical Modelling of Zombies』。
ゾンビ・パンデミックシミュレーションをはじめとした、ゾンビに関する様々な数学モデルを扱う本である。ゾンビ・パンデミックシミュレーションとは、Philip Munzらが2009年に『When zombies attack!: Mathematical modelling of an outbreak of zombie infection』という論文で発表したもので、感染症の増減を記述するSIRモデルをゾンビ用に書き換えたものを指す。infected(感染者)をzombieに書き換えたことから、SZRモデルとも呼ぶ。
ちなみに、『When zombies attack!: Mathematical modelling of an outbreak of zombie infection』は、掲載誌である『Infectious Disease Modelling Research Progress』が絶版になったらしく、今では『Mathematical Modelling of Zombies』にのみ掲載されている。
こういった論文(書籍も)を探すために、Googleスカラーのアラート機能を使っている。Googleスカラーは学術論文を探すことに特化したGoogleの検索ツールで、アラート機能を使えば、たとえば検索条件に「zombie」と設定しておくと二日に一回くらいの頻度でGoogleスカラーが「zombie」の単語を含んだ論文をリストにしてメールで送ってきてくれる。
しかし、私が望む論文がアラートされる頻度は極めて少ない。送られてくる論文は大概二種類で、ゾンビを何か社会問題の比喩として扱うものとホラー映画の分析のどちらかだ。
だがそのお陰で、各学術分野においてゾンビがどのように扱われるか知見が溜まってきた。そこで、今後のゾンビ研究者のために、溜まった知見をまとめておきたい。
何がゾンビに喩えられるのか?
研究者、特にアメリカの研究者に人気のゾンビだが、特に理由もなくゾンビゾンビと言い募ってはいない。彼らがゾンビという単語を使うとき、そこには彼らなりの理由がある。
そこで、学術論文・研究報告に現れたゾンビを以下の通り3通りに類別した。
死んだのに生きているもの(ケース1)
「生ける屍」、「歩く死者」などと呼ばれるように、ゾンビは専ら生き物が死んでから蘇ったものとして認知されている。
このことから、死んだのに生きているものがよくゾンビに喩えられる。ここでいう、「死んだ」とは生物的な死のみを意味しない。ある概念・思想・ツールが時代遅れになったり、誰からも使われなくなったりしたときも、死としてカウントされる。これらをケース1とする。
察せられることとは思うが、もちろんポジティブな意味で使われる例は少ない。概ね「まだ生きてやがるよ、こいつ」といった観念が含まれる。
しかし中立的な価値判断もたまにはある。その場合は、一度死んだ事実があるかどうかは重要ではない。半分生きていて、半分死んでいる場合がそれに当たる。これをケース1-1とする(単なるケース1がケース1-0である)。
被支配者(ケース2)
ゾンビがブードゥー教の司祭に使役されることに由来し、何者かから思うがままに操られるモノ・ヒトを指してゾンビに喩えるケースがある。これをケース2とする。
また、他人に支配されていることから、広義には自由意思がないモノ・ヒトもゾンビに喩えられる。これをケース2-1とする。
余談だが…
比喩ではないが、主に評論系の論文でゾンビを扱うときもケース2に該当するものとして読み解くケースが多いように思う。要するに、フィクションに出てくるゾンビを自由意思を奪われた存在のメタファー、社会問題の投影として読み解くというわけだ。
このケースでは、頻繁に『恐怖城』や『私はゾンビと歩いた!』、そして『ゲットアウト』を題材に、女性や移民、黒人が虐げられていると論じることが多い。『ゲットアウト』はゾンビ映画ではないという尤もな指摘もあると思うが、ゾンビの解釈を生ける死者から被支配者のメタファーまで拡張すると『ゲットアウト』はゾンビ映画の流れを組む映画と判定できるらしい。
私はこの解釈が個人的に嫌いだが。
身体的特徴がゾンビに似ているもの(ケース3)
ゾンビのモノマネ、ゾンビのコスプレをしろと言われたとき、あなたはどうするだろうか。唸り声を上げながらのろのろ歩いたり、肌を土気色に塗って傷メイクをするのではないだろうか。
そういった身体的特徴をもってゾンビに喩えられるケースも存在する。それがケース3である。
全般
ゾンビアイデア・ゾンビ概念・ゾンビ議論
ケース1
英語表記:"zombie idea", "zombie concept", ", "zombie argument"
過去に否定されたにもかかわらず、定期的に議論に取り上げられるアイデアのこと。特に政治に使われることが多い表現。なぜか教育学でもよく見る。どちらかといえば政治関連でよく見るため、ジャンルを政治学にしてもよい。
ゾンビ概念はゾンビアイデアの言い換えで、ゾンビ議論はゾンビアイデアが取り上げられる議論を指す。
また、以下のゾンビをゾンビアイデアの子分類と定義したい。ゾンビアイデアを具体的な何かに言い換えただけで、要するに「ゾンビ〇〇」だったら「過去に否定されたにも関わらず再び蘇った〇〇」と理解していただければよい。
ゾンビメディア
ゾンビプロジェクト
ゾンビカトリック
ただ、ゾンビカトリックはわかりにくいので説明を書いておく。端的に表現すれば、ここで言うカトリックとは宗教的保守派のことである。キリスト教国家において何か大きなトラブルが生じて民衆の不安が高まると、宗教的保守派が「昔に立ち返れ」「自分たちの信仰を守れ」と主張し始める、というものである。宗教国家において
ゾンビ文献(ゾンビ論文)
ケース1
英語表記:"zombie paper", "zombie literature"
学術論文は、提出し、査読され、承認を得た後に発行される。しかし、発行後に何らかの理由で撤回されることがある。撤回されたにも関わらず、後続の論文に引用されるものをゾンビ論文という。
経済学
ゾンビ企業
ケース1
英語表記:"zombie firm", "zombie company", "zombie enterprise"
定義をWikipediaから引用しておく。
企業が生きていることを生産活動や売上によって利益を生み出すことと定義すれば、外部からの融資により存続しているのは、まさに「死んでいるのに生きている」状態と呼べる。
また、ゾンビ企業は日本発であるという。後述するが、今やゾンビ企業は日本だけではなく中国やアメリカなど、世界各国で見られる現象で、日本で最初に「地獄が一杯になって死者が地上に溢れ出してきた」だけだろう。そう思いたい。誇るべきことではないので。
ゾンビ論文を探すとき、最も多く私達の前に現れるのがゾンビ企業だ。報告内容は大まかに二種類に分かれる。
ひとつはゾンビ企業周りの論理構築。銀行がいかにしてゾンビ企業を作り出すのか、ゾンビ企業が経済に与える影響はなにか、といったゾンビ企業の理解に必要な理論を作る論文である。
もうひとつは各国におけるゾンビ企業の影響。深く読み込んでいないためよく知らないが、中国のゾンビ企業に関する研究報告が最近盛んであるように思う。
また、冒頭に示した通り英語でゾンビ企業と呼ぶとき、"zombie firm", "zombie company", "zombie enterprise"の3通りが存在する。それぞれの「企業」を意味する単語には使い分けがあるようだが、zombieがついてなお使い分けがあるかは不明である。
使い分けはともかく、どのゾンビ企業が最も頻度よく使われているかは重要である。そこで、各ゾンビ企業をGoogle scholarで検索してみると次の結果が得られた(2023/07/24現在)。
"zombie firm" 489件
"zombie firms" 3,610件
"zombie company" 209件
"zombie companies" 1,510件
"zombie enterprise" 95件
"zombie enterprises" 678件
検索は各文字列を二重引用符で囲った上で行った。そうすれば、その通りの文字列と完全一致で検索されるため、それぞれの表記が使われている頻度を確認することができる。
複数形も含めると、"zombie firm"の4,499件が最も多く、"zombie company"が時点で1,719件、"zombie enterprise"は773件に留まる。ゾンビ企業を調べたければ"zombie firm"に注目せよ、ということになる。
一応、"zombie corporation"も存在するが、単数形で9件、複数形で92件のため、無視して構わないだろう。
また、亜種としてゾンビ銀行も存在する。
ゾンビ貸し付け
ケース1(生ける死者を作る原因として)
英語表記:"zombie lending"
死に体の企業に銀行が貸し付けを行うことでゾンビ企業が誕生する。この貸し付けをゾンビ貸し付けと呼ぶ。
ゾンビローン
ケース1(生ける死者を作る原因として)
英語表記:"zombie loan"
"zombie lending"が「銀行が企業にお金を貸すこと」、"zombie loan"が「企業が銀行からお金を借りること」。
ゾンビ都市主義
ケース1
英語表記:"zombie urbanism"
Wiktionaryによれば、以下の通りに定義されている。
初出は、2013年に出版された"Shaping the City: Studies in History, Theory and Urban Design" (Rodolphe El-Khouryら編)に収録されている、Jonny Aspen著の"Oslo-The Triumph of Zombie Urbanism"。ただ、こちらのインタビュー記事を読む限り、上記のものとは意味が違うようだ。
ここでは、バラ色の計画に乗ったつもりが、計画が遂行されれば死人のように変わり果ててしまうという危機をゾンビに喩えている。
さらに、"zombie urbanism"という語自体は1997年に出版されたHarverd Design Magazineの第二巻に収録されているWouter Vanstiphout著の"Consensus Terrorism"である。そこに、そのまま"ZOMBIE URBANISM"という項があり、次のように書かれている。
語義にかなりの変遷がありそうだ。機会があれば調べることにする。
哲学
哲学的ゾンビ
ケース2-1
英語表記:"philosophical zombie", "p-zombie"
哲学の論文であることが明らかな場合は単に"zombie"とも。
(工事中)
菌類学
ゾンビアリ
ケース2
英語表記:"zombie ant"
何かに寄生され、その寄生体に操られるアリのこと。ゾンビに喩えられる所以は、宿主が寄生体の思うがままに支配され感染を広げる様子が、ゾンビ映画の感染者が人間を襲い感染を広げる様子を彷彿とさせるからである。アリを支配する寄生体には、真菌類や吸虫(ヒルの仲間)と呼ばれる寄生虫が報告されている。
次の記事に詳細に解説したので、興味があれば読んでいただきたい。
ゾンビキノコ
ケース2(被支配者ではなく、支配する側)
英語表記:"zombie fungus", "zombie fungi"
俗称としてゾンビキノコと記載しておくが、論文内でよく使われる呼称は"zombie-ant fungus"(ゾンビアリ菌)であり、前項で挙げたOphiocordyceps属が主である。
ただ、Ophiocordyceps属の寄生先はアリだけではない。セミや蛾、トンボにコガネムシに寄生する種もある。それらは虫草類と呼ばれ、特に蛾の幼虫に寄生するものは冬虫夏草と呼ばれる。学術的な呼称としては、昆虫寄生菌や昆虫病原菌というものもある。
私のゾンビ論文探しでヒットするのは今のところゾンビアリ菌だけだが、アリに限定するのも寂しいので、すべてひっくるめてゾンビキノコと呼ぶことにしている。ゾンビセミにもなかなか強そうな響きがあるとは思うのだが、なぜ注目されないのだろうか。英語圏にはあまりいないとか?
医学
ゾンビ試薬
ケース1?
Biolegend社から発売されている死んだ細胞を染色し、光らせる試薬のことで、"Zombie …"という名前がついているため、私が勝手に「ゾンビ試薬」と呼んでいる。以下の七種類がある。
Zombie UV(459nm)
Zombie Violet(423nm)
Zombie Aqua(516nm)
Zombie Green(515nm)
Zombie Yellow(570nm)
Zombie Red(624nm)
Zombie NIR(746nm)
()の中身は細胞が光るときの波長ピークを示している。AquaとGreenのピーク波長がほとんど同じであるが、色が異なって見えるのはスペクトルの違いによる。また、すべて可視領域に入っているにも関わらずUVやNIRと名付けられているのもスペクトルを考慮してのことだろう。
また、発光は適切な波長のレーザーで行われる励起蛍光である。
キシラジン(別名:ゾンビドラッグ)
ケース3
英語表記:"zombie drug", "xylazine", "Tranq"
ゾンビドラッグと呼ばれる覚せい剤。
(工事中)
ゾンビウイルス
ケース1
英語表記:"Zombie"
永久凍土に眠る、太古の昔に存在していたウイルス全般がZombieと呼称される。
(工事中)
生物学
ゾンビ細胞
ケース1
英語表記:"zombie cell"
"Senescent Cells"(老化細胞)の俗称。
細胞は様々な刺激を受けたり生きたりするだけでも劣化するため、時間やダメージの蓄積で自らを殺すアポトーシスという機能を有している。しかしその機能を無視して生き残ってしまう細胞がある。それが老化細胞であり、ゾンビ細胞である。
また、2024年5月に異なるゾンビ細胞が定義された。
細菌がウイルスに感染したとき(特にSAR11という細菌がPelagiphageというウイルスに感染したとき)、感染した細胞からはリボソームRNAシグナルというものが検出されなくなる。リボソームRNAはタンパク質の合成を促す役割を担っている(正確に言えばDNAから作られるメッセンジャーRNAを翻訳して合成を促す)ため、それが検出されなくなるということは、その細胞は生と死の過渡状態にあると言える。ゆえに、ゾンビ細胞と定義された。
ゾンビ(DNAバーコードの一種)
ケース1
英語表記:"Zombie"
DNAバーコードという生物種の同定を簡易化する概念がある。本来ならば生きた細胞を使わなければならないところを、転写されたRNAを使ってDNAバーコードを再現することができる。それがゾンビと呼ばれている。
参考文献
ゾンビ効果
ケース1
英語表記:"zombie effect"
殺菌技術のひとつで、銀ジアミンフッ化物(Silver diamine fluoride: SDF)が細菌を殺し、死んだ細菌が生きている細菌を殺す効果を指す。死んだ細菌が使役されて別の生きた細菌を殺す様はまさにゾンビ。
初出は2015年のRacheli Ben-Knaz Wakshlakによる論文。ジャンル的には生物学よりも歯学の方が正確か。
ゾンビツイントロン
ケース1
英語表記:"zombie twintron"
一言では説明できないので、以下を読んでいただきたい。
生物の設計図であるDNA。DNAを部分的に抜粋したものがRNA。RNAからはタンパク質が合成されるが、合成に至るまでにいくつか段階があり、まずはRNAの持つ情報を写し取る転写と呼ばれる過程が入る。RNAを転写しただけの一次転写産物には余分な情報を含んでおり、タンパク質の設計図としてはまだ不適である。余分な情報を切り取ることで適切な設計図へと変化するが、この切り取る過程をスプライシング、切り取られる情報をイントロン、設計図として残る情報をエクソンと呼ぶ。イントロンはDNAの中でエクソン同士をつなげているボンドとでも理解すればよいだろうか。
ツイントロンとは「連続的なスプライシング反応によって切り出されるイントロン内イントロン」であり、つまりイントロン同士をつなぐイントロンも存在するのである。そして、ゾンビツイントロンは以下のように定義される。
おそらく「外部イントロン」がエクソンをつなぐイントロンで、「内部イントロン」がイントロンをつなぐイントロン(=イントロン内イントロン)だろう。となれば当然、内部イントロンがスプライシングされた後に外部イントロンがスプライシングされるのだが、外部イントロンのスプライシングが内部イントロンに依存することがある。しかし依存しない場合をゾンビツイントロンと呼ぶ、と。
初出はSimon Zumkellerらによる2020年にNucleic Acids Researchに掲載された論文。
ゾンビ鹿病
ケース3
英語表記:"zombie deer disease"
狂牛病の鹿バージョン。この病気にかかると鹿が死んでから蘇る…わけではなく、病気にかかった鹿がゾンビになったかのように見えるため、そう呼ばれる。
動物のゾンビと言えば『ZOOMBIE ズーンビ』だが、鹿のゾンビはいたかな…?
ゾンビワーム
ケース3
英語表記:"zombie worm"
深海に生息し、沈んできたクジラの骨を食べる多毛虫、Osedax mucofloris(オセダックス・ムコフロリス)のこと。赤いひも状の体が骨を覆って海水にたなびく様子は赤い茂みのようだという。死体に群がる様子がゾンビに喩えられたと思われるが、であれば、ゾンビよりもグールの方が適しているように思う。
初報は2004年7月にScienceで報告された、G. W. Rouseを筆頭著者とした論文。また、同年の8月にもShana K. Goffrediを筆頭著者とした論文がDeep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papersでも出版されている。どちらも有料だが、前者ならばOccidental CollegeのShana K. Goffrediのページで全文閲覧可能である。この時点ではオセダックスを"zombie worm"と呼んでいないようだ。
初めてオセダックスがゾンビワームと呼ばれたのは、2005年5月のScience Newsの記事。
その後、学術論文では2009年のNatureにてRory Howlettがオセダックスを"zombie worms"と呼ぶ記事を出している。
余談だが、新江ノ島水族館の「えのすいの歴史」では2006年2月にゾンビワームという呼称が用いられている。ただしこれは2006年に報告されたオセダックスの別種Osedax japonicusらしい。
情報科学
ゾンビPC
ケース2
英語表記:"zombie computer", "zombie machine"
コンピュータウイルスに感染して、ハッカーに乗っ取られたPCのこと。乗っ取られたPCは"zombie computer"や"zombie machine"、あるいは"bot"とも呼ばれる。基本的な特徴としては、①誰かに乗っ取られて外部から操作される、②アクセス先に不利な行動をする、の二点が挙げられる。
コンピュータが乗っ取られればzombie computerだが、サーバが乗っ取られればzombie server。となれば、あるいはもっと広範なzombie device(ゾンビデバイス)という呼び方もある。
なお、ゾンビPCが出てくる論文では、主にDistributed Denial of Service attack(DDoS攻撃)というサイバー攻撃への対処法が議論されることが多い。DDoS攻撃とは、端的に言えばゾンビPCによる物量攻撃で、ハッカーがPCをウイルス感染させて大量のPCの操作権限を手に入れた後、特定のサーバへ何度もアクセスさせてサーバを機能不能に陥れることである…と私は理解している。
私がゾンビPCによるDDoS攻撃を面白いと思うのは、①誰かに乗っ取られて操作されて、②物量攻撃をしかけるという二点が、それぞれブードゥーゾンビと映画のゾンビの特徴に合致しているという点だ。つまり、誰かに乗っ取られて操られるのはブードゥー教のゾンビの特徴である一方、物量攻撃をしかけるのは(主に)アメリカ映画にモンスターとして出てくるゾンビの特徴である。
元の定義から考えれば、ゾンビPCは「誰かに乗っ取られた」からゾンビの名を冠しているはずだ。攻撃をしかけるのはメインの理由ではない。しかし映画においてゾンビは、誰かに操られるモンスターから出発して、自我を失って人間を襲うようになり、果ては物量で人間を脅かす存在に進化した。その一方で、ゾンビPCも同じ理路を辿ってか、物量で人間を脅かす存在に進化した。これは収斂進化のような偶然か、あるいは人間の悪意のなせる必然か。とにかく、私は奇妙な合致を感じるのだ。
ゾンビパケット
ケース1
英語表記:"zombie packet"
(工事中)
ゾンビサーバ
ケース1
英語表記:"zombie server", "zombie machine"
(工事中)
ゾンビプロセス
ケース1
英語表記:"zombie process"
(工事中)
天文学
ゾンビ星
ケース1
英語表記:"zombie star"
観測上は死んでいるにも関わらず、さも生きているかのように超新星爆発を繰り返す天体のこと。
(工事中)
ゾンビゾーン
ケース1
英語表記:"zombie zone"
ガスと塵が回転してできる原始惑星系円盤という天体では、ガスが重力と磁場の影響を受けて回転運動をしている。どちらの影響も受ける領域を活性ゾーンと呼ぶのだが、その領域にありながらある条件においては磁場の影響を受けない。その領域をゾンビゾーンと呼ぶ。
死んでから蘇る、死んでいるはずなのに生きている、というよりは、生きているはずなのに死んでいると言ったところか。ケース1としたが、ちょっと違うようにも思う。
初出は2013年にThe Astrophysical Journalに掲載された、Subhanjoy Mohantyらの論文。
原始惑星系円盤というのはガスと塵によって定義される天体である。地球のような鉱物でできた惑星も、大元ができた原初のタイミングではガスと塵の回転体だった。地球はその回転体が重力によってギュッと集まって個体になったが、中には重力が弱く回転体を保持したままの天体も存在する。それを「原始惑星」系「円盤」と呼ぶのである。
実際には原始惑星が惑星になる仕組みは「重力が強いから」よりももう少し複雑であり、シミュレーションで突き止めようとする研究が精力的に行われている。数々の研究の結果、現在では「時期回転不安定性(magnetorotational instability: MRI)が乱流粘性を生成する」というモデルが有力候補となっている。
このモデルにおいては、ガスや塵は天体から受ける重力と磁気によって運動の仕方が決まる。重力と磁気に影響を受ける速度をそれぞれケプラー速度、アルヴェーン速度と呼び、それらの大きさを基準に「円盤」は次の3領域に分けられる。
活性ゾーン:どちらの速度も十分大きく、ガスは回転運動をする
アンデッドゾーン:ケプラー速度のみ十分大きいためMRIは消えるが、隣接する活性ゾーンから磁場を吸い上げて活性化する可能性がある
デッドゾーン:どちらの速度も十分小さい(=ガスが磁場から切り離されている)ため、ガスは回転運動できない
しかし、活性ゾーンに定義できる速度を有しているにも関わらず、磁場がガスに影響せずにデッドゾーンにあるかのような振る舞いをするケースがある。この領域をゾンビゾーンと呼ぶ。
なお、2024/01/14現在、Googleスカラーで「"zombie zone" "MRI"」を検索すると七件しか引っ掛からない。非常にマイナーな単語なのか、あるいは研究例が少ないだけなのか。
参考文献
ゾンビ衛星
ケース1
英語表記:"zombie satellite"
故障してから放棄され、地球の上空を回るスペースデブリとなった人工衛星のこと。放棄されたものの致命的な故障が起きていないケースもあるため、再利用の可能性もある。死んでから蘇るため、ゾンビに喩えられる。
社会学
ゾンビ新自由主義(ゾンビネオリベラリズム)
ケース1
英語表記:"zombie neoliberalsim"
ゾンビ新自由主義は2011年にワシントン・ポストの記事で初めて使われた。
新自由主義のおかげで差別問題は解決しつつあるが、その一方で新自由主義のせいで所得格差が拡大している。新自由主義は未来をより良くする思想であるべきだが、差別問題を解消する意義があるという点では生きていて、所得格差を広げてしまうという点ではほとんど死んでいるようなものである、と。その半分生きて半分死んでいる様子がゾンビに喩えられているのだろう。
この語が論文に出てくるとき、大概は新自由主義の次にあるべき思想や行動の形が論じられることが多い。
人種差別も格差拡大もアメリカの問題である点も気になるが、差別問題が解決しつつあるというのはいわゆる「ポリコレ」の広まりが要因と推測する。であれば、これ以上生かしておかれては世界もひいてはアメリカも困るだけなのだが。
ゾンビヒューマニズム
ケース1
英語表記:"zombie humanism"
(工事中)
ゾンビボックス
ケース1
英語表記:"zombi box"
ロシアの政府管理テレビのこと。ロシア人自身がそう呼んでいる。政府のプロパガンダを嫌っているのだろうか。
参考文献
ゾンビ炭鉱
ケース1
英語表記:"zombie mine"
技術的には稼働しているが生産がおこなわれていない炭鉱のこと。稼働していないだけならいいのだが、政府から補助金をもらっているため社会問題になっている。ゾンビ企業の炭鉱バージョンと理解すればよい。
なぜ炭鉱が補助金をもらっているかは、わからない。日本だと政治的な判断で石油への大転換が行われたため、補助金を出しながらゆるゆると炭鉱を閉鎖していったようだが。
ゾンビ火災
ケース1
英語表記:"zombie wildfires", "zombie fires"
冬眠する山火事のこと。山火事が鎮火したと思いきや、完全には鎮火しきってはいなくて、春になって再び山火事が起こるという現象を指す。死んだ(=鎮火した)のに生きている様子がゾンビを彷彿とさせる。いや、死亡確認がうまくできないだけでずっと生きてるから、ゾンビではないのでは…?
具体的に説明すると、山火事が生じたときに泥炭に火が燃え移り、鎮火したと思いきや泥炭の中で火がくすぶり続けており、雪の下で泥炭とメタンが火に絶やさず燃料を供給することで、春が来て雪が溶けると再び火事になる。
参考文献
教育学
ゾンビアクティビティ
ケース無し
ゾンビを組み込んで作られた体験型の授業や講義全般を指す。
ゾンビには生徒たちの興味を引き、授業に向かわせる効果があるため、教育現場によく使われる。その場合、フィールドワークや協力型ゲーム、心理ゲームなどにゾンビに登場してもらい、授業や講義と呼ぶよりもアクティビティと呼んだ方がふさわしいため、私が勝手にそう呼んでいる。
その他
こちらでは特定のジャンルに当てはまらないゾンビを記録しておく。ジャンル不明のものや、幅広い研究分野で見られるゾンビが該当する。
スマホゾンビ
ケース3
英語表記:“smartphone zombie”, “smombie”
日本語で言うところの歩きスマホ。ゾンビのようにふらふら歩きまわる様子がゾンビに喩えられる所以か。
スクリーンゾンビ
ケース3
英語表記:“screen zombie”
画面を見つめるゾンビということで、スクリーンゾンビ。画面の向こうの仮想世界に夢中になっている孤立した子供たちを指す。と、表現されると、ぼうっとした顔でスマホに無心になる子供たちを想像しないだろうか。それが、無気力で覇気のないゾンビを連想させたか。
あるいは、映画に出てくるゾンビを単にそう呼ぶこともある。
似たようなゾンビに、"zombie scrolling"(ゾンビスクロール)がある。こちらも画面を見つめている点では同じだが、インターネットの検索結果やSNSをスクロールしまくるという動作に注目されている。通常のゾンビはふらふらと歩きまわることしかできないが、インターネットに入り込めばスクロールすることしかできなくなる、ということか。
ロブ・ゾンビ(人名)
英語表記:"Rob Zombie"
ジャンル:音楽学
フェラ・アニクラポ・クティ(人名)
原語表記:"Fela Aníkúlápó Kuti"
ジャンル:音楽学
ゾンビ病
ケース1
英語表記:"zombie disease"
ジャンル:水産学
エビがかかる病気。
ゾンビ太陽電池
ケース1
英語表記:“zombie cell”
ジャンル:工学(細かくは、分子工学)
太陽電池には大きく分けて液体タイプと個体タイプがあり、液体タイプはその名の通り液体が電解質(=発電に必要な要素)の役目を果たしている。その液体が乾燥しているにも関わらず太陽光を受けて発電した、という事実から、死んだと思ったのに(機能が)生きていたということでゾンビに喩えられる。
2015年にスウェーデンのウプサラ大学に所属するGerrit Boschloo教授のグループによって発見された。"zombie cell"と呼び始めたのも、このグループである。
英語表記はゾンビ細胞と同じく"zombie cell"。しかし、cellの原意は「分割された小部屋」であり、特に同じサイズ同じ要素の小部屋が並んでいるとcellと呼ばれる傾向にある。その面では、細胞はもちろん直列並列につないで回路に電流を流す電池もcellと言える。
編集履歴
2023/07/24 記事を作成
2023/09/11 ゾンビアリとゾンビキノコの項目を更新
2023/10/22 全般を追加し、ゾンビ概念とゾンビアイデアをそこに持ってきた。ゾンビ病を追加
2023/12/24 ゾンビアリの解説を別記事に作成
2024/01/14 ゾンビゾーン、ゾンビ(DNAバーコードの一種)、ゾンビ効果、ゾンビツイントロンを追加
2024/01/18 ゾンビ鹿病、ゾンビ火災を追加
2024/03/20 ゾンビ衛星、ゾンビ議論、ゾンビ炭鉱を追加。ゾンビアイデアを整理
2024/04/07 ゾンビワーム、スクリーンゾンビ、ゾンビルール、ゾンビ都市主義、ゾンビ太陽電池を追加。ゾンビ細胞とゾンビPC、ゾンビ新自由主義に追記。
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