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【エッセイ】図書室の宝探し

雨がザァザァ降っている。一日中夕方みたいに暗くて、やる気が出ない。僕はこんな日には、ゆっくり本を読んで、思索の宝探しに出ることにしている。

そういえば、あの日も、雨だった。

          ◇

僕はテニス部に所属していた。大抵、雨でも体育館でやったり、校内のどこかで筋トレをしたが、その日はたまたま全部埋まっていて部活が休みになった。
僕は横殴りの雨の中で帰る気になれず、バスを一本遅らせて帰ることにした。教室で勉強でもすればいいものの、なんだかこれも気分が乗らず、滅多に行かない図書室で時間を潰すことにしたのだった。

久しぶりに行く図書室は、楽しかった。人もおらず、興味がある本を片っ端から開いて立ち読みした。そんな時、一冊の本に手が止まった。

開高健のオーパ!だった。釣り好きの僕は表紙に惹かれ、パラパラと頁をめくる。すると、ひらり、と一枚の紙切れが、落ちた。
本に挟まったルーズリーフの切れ端を拾い上げると、何かが書いてあった。

ーー見つけてくれてありがとうございます。この本を読んだ方に、お宝を贈呈します。お宝の場所は、司馬遼太郎の新史太閤記という本の〇頁に記してあります。
とある。丁寧な筆跡で、聡明さが伺えた。僕は興奮する。退屈しのぎできた図書館だったが、ひょんなことからお宝探しに発展したのだ。

ーー僕以外の人が、もう見つけた後かもしれない。
そんな考えもよぎったが、もう止まらない。本に書かれたお宝の場所を記した別の本を探すが、図書室に慣れていない僕は一向に見つけられない。
視界に司書さんが入る。すかさず司書さんに本の場所を聞く。さすが司書さん、すぐに棚の場所を教えてくれる。

見つけた。
僕はすぐに新史太閤記の〇頁をめくる。また一枚のルーズリーフの切れ端が、あった。

そこには、さっきの紙と同じ筆跡で、
ーーよくぞ来てくださいました。お宝をお渡ししたい所ですが、折角なのでもう少しだけ宝探しにお付き合いください。次が本当に最後です。H・G・ウェルズの宇宙戦争の〇頁をご覧ください。

もう僕は居ても立っても居られない。しかし、時計を見れば帰りのバスまでの時間が迫っている。僕が焦っていると、司書さんがなにやらこちらをチラチラ見ていることに気付く。
僕はラッキーと思いながら、すぐに本の場所を聞く。司書さんは笑顔ですぐに教えてくれた。

僕はついに最後の本を手にした。
どこの誰かは知らないが、お宝は僕がいただく!

また、紙が出てきた。
ーー本当におめでとうございます。あなたが一冊目から読んで辿ってくださった方なら、分かるはずです。あなたは、世界一の秘境アマゾンでの怪魚との格闘に始まり、戦国の世で豊臣秀吉の天下取りへの道を共に歩み、最後は宇宙戦争まで経験しました。あなたは、ごくごく短い時間でこれらのことを成し遂げたのです。
‥‥そうです。あなたが本を通じて経験した壮大な出来事こそが、宝物です。大切になさってください。

ーーいや、ふざけんなよ!
僕は静かな図書館で、叫んだ。
ずっと視界の端にいた司書さんは、どうやら笑っているようだった。

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