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「本物」のおいしさを伝えたい。京都の老舗和菓子店「一乗寺中谷」がこだわる和洋折衷菓子とは

京都駅から比叡山のある北へ車で20分、京都の洛北エリアに位置し、住宅街が広がる京都一乗寺。ここはかつて平安時代から比叡山延暦寺へと続く交通の要衝で、宮本武蔵の決闘で知られる一乗寺下り松など歴史的名所が多い地域です。

今回ご紹介する和菓子店「一乗寺中谷」は80年続く老舗。名物「でっち羊羹」など正統派和菓子がそろうお店です。それだけではなく、元パティシエで三代目の若女将・中林恵子さんと若旦那・中林英昭さんの夫婦でつくりあげた和洋折衷菓子も注目を集めています。その評判の味わいを確かめに、お店を訪ねてみました。

住宅街に佇む、昔ながらの老舗和菓子店

叡山電鉄叡山本線・一乗寺駅から徒歩6分、大通りの白川通りから少し入った静かな住宅街が広がる場所に「一乗寺中谷」はあります。建物は昔ながらの洗練された町屋風のつくりで、落ち着いた佇まいが印象的。正面玄関の古い木の看板に書かれた「中谷」の文字が目印です。

入口入ってすぐの店内の様子

和の空間が広がる店内には、和菓子、洋菓子ともに15種類以上が並ぶほか、手土産用のお菓子も充実。入った瞬間、商品の数に圧倒され、とにかく種類がたくさんあって迷います。

店の奥には茶屋スペース25席の用意も。購入したお菓子を店内で味わうことができます。

「このスペースは『カフェ』ではなく『茶屋』と呼んでいます。若旦那の『お客様にお茶を飲んでゆっくりしてもらいたい』という思いから名付けました。日本では昔から畳に座ってお茶と和菓子をいただきますよね。ですから、長椅子には畳を使ってお座敷風にしているんです」(恵子さん)

一乗寺中谷の名物和菓子「でっち羊かん」(500円)(画像提供:一乗寺中谷公式HP)

一乗寺中谷の名物和菓子といえば「でっち羊かん」です。丹波産大納言小豆とあっさりとした高級白双糖、米粉を使い、竹の皮に流してつくった蒸し羊かんで、もちっとしたやわらかな食感を楽しめます。素朴な味わいで甘さはひかえめです。

その他にも、武将・石川丈山を偲んでつくられた「詩仙もち」(5個入り800円)、宮本武蔵の守り刀の「鍔(つば)」を型取った和菓子「武蔵」(185円)などがあります。

若女将おすすめの一乗寺中谷のメニューとは?

正統派和菓子もおすすめですが、和洋折衷菓子も見逃せません。元パティシエで洋菓子専門の若女将恵子さんが考案し、和菓子職人の英昭さんと共に夫婦でつくっています。

その中でも、恵子さんが特に開発に苦労したメニューが「白みそと木の実のケーキ」です。生地に京都の白味噌を入れたこのケーキは、試作段階で思うように膨らまず、開発には3年もかかったといいます。

「最後の決め手は白味噌だけではなく、ヨーグルトを一緒に入れることでした。それでようやくバランスのとれたケーキが完成しました」(恵子さん)

「白みそと木の実のケーキ」(大1,300円・小250円)(画像提供:一乗寺中谷公式HP)

夫婦が試行錯誤して完成させた「白みそと木の実のケーキ」。さっそくいただいてみましょう。

フォークで一口切り分けて口に運ぶと、優しいバターの香りと白味噌の味が口いっぱいに広がります。表面はさくっと、中はしっとりとした食感がたまりません。トッピングの木の実の香ばしさと、ゴロゴロと入ったりんごのコンポートが良いアクセントになっています。抹茶と共にいただくと、和と洋の素材の風味が一層際立ち、幸せでほっとするひとときを味わえました。

ケーキに合わせるお抹茶は、京都の日本茶専門店「京都瑞松園」の茶葉を使用しているのだそう。「店のお菓子はすべてこのお抹茶に合うようにつくっているんですよ」と恵子さんは語ります。

白みそと木の実のケーキ(小)、絹ごし緑茶てぃらみす(小)、お抹茶のセット

その他、和洋折衷菓子には、ヘルシーな「豆乳プリン」(450円)、甘いものが苦手な人でも食べやすいあっさりした生クリームを使用した「ざるわらび」(680円)、「三色お豆のタルト」(大1,300円)などがあります。

※すべて2024年8月時点の価格です。

若女将が伝えたい「本物」の和洋折衷菓子とは

一乗寺中谷の和洋折衷菓子は、「本物」のお菓子をつくりたいと考えたご夫婦が、並々ならぬ情熱を込めてつくっています。恵子さんは次のように話します。

「京都を訪れた外国人観光客が喜ぶだろうと『映え』を意識した和風ケーキは巷に多いです。でも、日本の文化や歴史を感じる美しい見た目に期待して食べてみたら、味に一体感がなかったり、素材の風味がいまいちだったり……これではがっかりしてしまいますよね。だからこそ私たちは、見た目重視の『和風』ケーキにはしたくないんです」

恵子さんは、本物の和祥折衷菓子をつくるには、和菓子と洋菓子の両方の専門家がいないとつくれないと話します。

「和菓子と洋菓子の素材を組み合わせるだけでは、美味しいものはつくれません。どちらの素材にも相性のいい素材のつなぎを入れて味を中和させることで、和洋折衷菓子は完成します。

たとえば、洋の素材も使用したわらび餅『ざるわらび』の生クリームも試行錯誤していて、黒蜜やラム酒を先に入れてから、きなことクリームを合わせると格段に美味しくなりました。このひと手間が大事ですね」

「一乗寺中谷は、和菓子、洋菓子それぞれを極めた夫婦によるお店です。大切にしているのは、京都の気候や土壌でつくられた食材を徹底的に吟味し、最高品質のものをきちんと選び抜くこと。そして、素材の良さを生かすために、技術を磨き、手間暇かけることです。いつでも真面目にお菓子に向き合い提供しています」と真剣な表情でその想いを語ってくれました。

苦しいときも頑張れた理由は「地元の人たちの支え」があったから

恵子さんは、22年前、結婚を機に生まれ育った京都・西陣から、一乗寺に嫁いできました。当時は、周りに知り合いがひとりもいない状態だったといいます。そんな中、朝から晩までお店で働いていました。

大変だったことは、仕事と子育ての両立だったそうです。サービス業のため家族総出で土日も仕事をしているため、面倒を見てくれる人はおらず、実家の母親は豆腐料理屋の経営が忙しく頼ることもできません。ベビーカーを隣においてあやしながら厨房に立ったり、お店の二階が家になっているため子供を寝かしつけて、モニターで様子を見ながら仕事をしたりしていました。

そんな大変な状況のなか、日々の仕事と子育ての両立という壁を乗り越えることができたのはお客さんやママ友、地域でお店を営む同業者たちのあたたかい励ましや協力のおかげだといいます。

「ご近所の友人が子供のお誕生日でお店にケーキを買いにきてくれたり、出会ったママ友つながりで口コミでお店に来てくださるお客様が増えたこともあります。他にも子供の友人が芸大に通っていて、お店のパッケージをこれから無償で作ってくださるというお話もいただいています」(恵子さん)

だんだんと知り合いの輪が広がっていった恵子さん。地元の人たちとのあたたかいつながりは、お店の将来に不安を感じたときに、このお店が地域に根ざし必要とされていると実感でき、大きな励みとなったそうです。

心を込めたお菓子で幸せとワクワクを届けたい

地域の人たちに支えられてきた一乗寺中谷。長く愛されるお菓子が生まれ、この店が今も続いて商売ができることは、支えてくれた人たちあってこそだと恵子さんは話します。

「これからも感謝の気持ちを込めて、一乗寺中谷を支えてくれた人たちへ、お菓子を通じて恩返しと幸せな気持ちを届けていきたいと思っています。

私が大事にしていることは『お店を訪れる人にワクワクしてもらうこと』なんです。結婚する前に、大手洋菓子店で働いていたとき、当時の副社長が『ケーキはイライラしながら買いに来る人はいない。お客様にとってケーキはワクワクして買いに来るものだ』と教えてくれました。言葉が信念となっています」(恵子さん)

支えてくれた人たちとの大切なつながりを守り育てながら、和洋折衷菓子を通じて、人々を笑顔にできる仕事に誇りを感じている恵子さん。お客さんに驚きや感動、ワクワク感を届けたいという想いを胸に、これからも「本物」の味を追求し続けます。

一乗寺中谷
・住所:〒606-8151 京都府京都市左京区一乗寺花ノ木町5番地
・営業時間:9:00~18:00(茶屋 L.O.17:00)
・TEL:075-781-5504
・定休日:水曜日

・アクセス:
 ■市バス5系統、北8系統「一乗寺下り松町」下車、徒歩1分
 ■ 叡山電鉄叡山本線「一乗寺駅」より徒歩6分
・駐車場:
    中谷専用駐車場(3台)、もしくは近隣の駐車場をご利用ください。

・公式サイト:https://www.ichijouji-nakatani.com/
・公式Face Book:https://www.facebook.com/ichijoujinakatani
・公式Instagram:https://www.instagram.com/ichijoujinakatani/


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