10. ジジと律子と笑っていいとも/純喫茶リリー
萩原のジジは一人暮らしだった。
息子さんがいるらしいが、あまり仲が良くないという噂があった。きっと今までに色々やらかしてきたのだろう。息子さんは結婚したばかりと言っていたから、元泥棒のジジを奥さんに会わせたくないのかな、と律子は考えていた。
ある日、ジジがリリーに来て、大きな声で話し始めた。
「あいつはいかんでぇ」
どうやらジジは、新しく始まった「笑っていいとも!」という番組を見てからリリーにやってきたらしい。
律子に向かって、
「あのタモリってやつ、あいつは失礼なやつだよ。昼間っからサングラスなんかかけやがって。俺、テレビ局に電話して文句言ってやったよ!」と、得意気に語る。
律子は驚いた。
「え?タモリと知り合いなの?」
テレビ局に電話したらタモリが出るの?怒られたのかな?タモリ、ちょっとかわいそう…。
それにしてもテレビ局といえば東京じゃないか、10円玉が何枚必要?
高い電話代を払ってまで文句を言うなんて、ジジはなんて豪快なんだろう、と律子は思った。
実はこの時、律子はタモリのことをあまり知らなかった。
律子が好きだったのは、タモリの前番組「笑ってる場合ですよ」。
最終回を見たとき、律子は悲しくて号泣した。
だから新しく始まった「笑っていいとも!」を観るのは、「笑ってる場合ですよ」への裏切りだと感じ、怒ってテレビを消してしまったのだ。
しかし、そんな気持ちも数ヶ月後の夏休みにはすっかり忘れ、ヒマすぎて仕方なく「笑っていいとも!」をしれっと見始めたのだった。
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