【感想】ツバキ文具店
なにげない文章でも、それが手紙となると胸が詰まるような、顔がほころぶような気持ちになるのは不思議だ。そういうものが詰まったお話。短編集としても読めるので読みやすい。
代筆屋の主人公がその職責と向き合い数々の難題に取り組むうち、しかして自分自身の内面の問題とも向き合うことになる。という。
手紙を代筆するということは、送り主の心の内側に触れること。受け取る人のことを同じ切実さで想うこと。
手紙を書くまでの様々な事情や思いを鮮やかに描きながら、手紙を出したあとの事にはほとんど触れないのがミソというか。手紙の性質をちゃんと感じさせる構成がよかった。
あと、それぞれの手紙に合わせて選定される紙や、装飾や、筆記具の解説も興味深く、なんだか手紙という文化の神秘性を感じた。
これが廃れてなくなってしまうのは寂しい。
しかし、自分で書くかと言ったら・・・なかなか。
そういえば10年ほど前に結婚を許可してくれた北海道に住む妻のご両親に感謝の手紙を書いたのが、自分で書いた唯一のちゃんとした手紙かもしれない。あれ何度も書き直したっけな。ペンもそれ用に新調したんだった。紙や封筒にももっとこだわればよかったな。