女神 (23) 私、、、怖い
私、、、怖い
12月半ばの金曜日、夜中の2時過ぎ、寝ていた雄大の枕元でスマホの着信音が鳴った。
【…んっ?、、、誰だ?、、、良太か?、、、酔っ払ってんのか?、、、】
スマホの画面に”山下さん”の文字。
【ありゃっ!、、、何かあった?】慌てて、電話に出た。
「もしもし!、渡嘉敷です!山下さんっ、何かありましたかっ?」
「…………渡嘉敷さん、、、、、、、私、怖い、、、、、」弱弱しい声がした。香織の声だ。
「山下さんっ!何があったんですかっ?、、、話せますか?」
「……アパートに強盗が、、、今、警察が来てて、、、、、、怖い、、、」涙声の様な気もする。
「俺、直ぐ行きます!待っててください!、、、あっ、住所、それとアパート、部屋の番号、教えてください」
「……西日暮里6丁目***-** 村上ハイツ、203、、、」
「西日暮里6丁目***-** 村上ハイツ、203ですね、、、直ぐに行きます。大丈夫です。待っててくださいっ!」
「……渡嘉敷さん、、、」
「電話、そのままでも良いですか?そっちに行くまでの間、何か話してましょうか?」
電話をスピーカーにして、カラーボックスの上に置き、ジーンズ、ネルシャツ、ダウンジャケットに着替えた。「山下さん、大丈夫ですよ。すぐ行きますから。」
電話を持ち、財布をポケットに入れ、部屋の鍵を閉め、西日暮里方面へと駆け出した。
「今、出ました、、、何か飲み物とか要りますか?、、、走ってます、、、風が冷たいです、、、コンビニの近くに来ました、、、ハア、ハア、、、
何か要りますか?、、、このまま走ります、、、信号です、、、、、、青になりました、、、もうすぐです、、、ハア、ハアっ
6丁目って近くに何がありますか?、、、目印とか、、、」
「……小学校の駅寄りです、、、」
「近づいたら、マップで探します、、、もうすぐです、、今、新三河島駅です、、、もうすぐです、、、ハアハアハアっ、、、」
しばらく走ると、向こうの方に赤い点滅するものが見えてきた。
「あっ、パトカーだ、、、警察の人達、まだいますかっ?ハアっ ウグっ、、ハアっハアっ」
「……まだ居ます、、、聞き込みしてます、、、」
「じゃ、あそこかっ、、、ウグっ、、もうすぐ着きます、、、待っててください!」
「ハアっ、ハアっ、ハアっ、ハアっ、」規制線が張られた前で両膝に手を着き、息を整えた後、制服警察官に尋ねる。
「203の山下さんを訪ねてきました。ハアっ、ハアっ、、、入っても良いですか?」
「今はまだ、ご遠慮ください。」制服警察官がつっけんどんな物言いで答えた。
「すぐに来て欲しいと言われました。お願いします。通してください。」
「……少々、お待ちください、、、」制服警察官は雄大を睨みつけた後、奥に居る私服警察官らしき人に聞いてくれた。
直ぐに戻って来て、「同行します。どうぞ。」と言いながら、規制線を持ち上げて入れてくれた。
階段を昇り、2階の手前から3番目の部屋を目指す。203の番号と無記入の表札。警察官がチャイムのボタンを押す。
暫くして、ドアがすこし開く。すき間から制服警察官が「山下さんですか?、お知り合いの方ですか?」と尋ね、雄大の方を見る。
雄大はドアのすき間から中が見える場所に移動し、髪の毛だけ見える人影に話しかけた。
「渡嘉敷ですっ。山下さん、大丈夫ですか?」
すき間から見える人影の頭が動き、顔が見えた。山下さんだ。
「……渡嘉敷さん、、、」弱弱しい声で、香織は答えた。
一度、ドアが閉まり金属性の音がした。ドアチェーンを外す音。ドアが開く。香織が雄大に飛び付く。裸足のままだ。
制服警察官が「それでは。」と言い残し、去っていく。
雄大のダウンジャケットの胸の部分を両手で握り、小刻みに震えている香織に、
「もう、大丈夫です、、、中に入りましょう。……あ、入っても良いですか?」
握っていた両手の力を緩め、コクリと頷く香織。
香織の腰に手を回し、部屋の中へと誘導する雄大。
部屋の中は暗い。香織は奥に行き、何かしらのリモコンを持ち、照明が点く。
右側に簡素なキッチン。シンクの下に小さなビジネスホテルにありそうな冷蔵庫。左にユニットバスらしき折り畳みドア。
奥にベッド、床に小さなこたつとクッション。小さな机と椅子。
小さなテレビが乗り、少しの雑誌と趣味の本、ドライヤーが入ったカラーボックスが一つ。
香織はベッドに座り、雄大はこたつの前に座る。香織をよく見ると、名前のワッペンがついたジャージの体操服。
髪はぼさぼさで、すっぴんで、お世辞にも綺麗とは言えないが、か弱く座る香織を見て、守ってやらないとと思う雄大。
「もう、大丈夫です、、、朝まで傍に居ますから、、、安心して横になってください。」
「……渡嘉敷さん、、、急にすみません、、、怖くて、怖くて、、、頼れる人、他に居なくて、、、」
「頼って貰って、、、ありがとうです、、、」雄大、照れて小声になった。
「……夜中、12時頃、大きな声や音がしたんです、、、良く判らない外国語の様な声もして、、、
怖くて、布団を被って、、、しばらくしたらサイレンの音が、、、窓の外が赤くなったり、、、、
もっと怖くなって、、、我慢してたんですが、、、渡嘉敷さん、思い出して、、、電話しました、、、」
「寝てないんですよね、、、朝までもうちょっと寝れます。横になってください。……俺は、こたつを貸してください。」
「……はい、でもそれ、壊れてて、、、暖かくなりません、、、」
「……良いです、良いです。ダウン着てますし、、、電気、消しましょうか?」
雄大はこたつの上にあるリモコンで常夜灯のボタンを押した。オレンジ色の小さな明かりが点く。
「……渡嘉敷さん、、、明日はお休みですか?」
「はい、休みです。”もう帰って”と言われるまで居ても良いですよ。」
「ふふ、、、じゃ、おやすみなさい、、、」
「おやすみなさい、、、」
【男の人、初めて部屋に入れた、、、私が呼んじゃった、、、何かされそうになったら、、、ダメ、ダメ、】香織。
【本当に怖かったんだろうな、、、いつも何かに怯えてる上に、事件じゃ、、、俺、力になりますから。】
雄大は、3回会った香織が、只の内気な人とも思えない雰囲気がある様な気がしていた。
何か事情がありそうだが、聞き出そうとは思わない。話してほしいとも思わない、、、、今は。
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