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泥中に咲く一輪の白い花(27)
母
あの日、実家を出た経路を逆に辿る。
母が連れてきた男たちからの凌辱。
母親に目撃された父との行為。
愛とも言えず、慰めには幼い父親への行為。
外面が良く、帰れば人を罵る母親。
それらが頭を駆け巡る。
指定された事務所を訪ねた。
母親の精神疾患は寛解する見通しは不明。との事。
入院、その後の治療の申し込みと支払いに関する事。
母親の預貯金は殆ど無く、土地家屋を処分、もしくは賃貸に出して費用を負担する方法もあるが、桜子が進めるか、任せて貰えるか。その為には後見人制度が必要になるという事。
家庭裁判所へ、その後見人選任の申し込みを桜子が行う事。
その一連の手続きや、これからの事をお任せいただきたい。月々5万円で、、、。財産処分時の売却が成立すれば、その際も、、、、。
桜子には難しい事は分からない。「お任せします。」としか、選択肢は無かった。
光が丘病院を訪ねた。母は個室に居た。ベッドに腰掛け、窓の外を見ている。桜子、パイプ椅子へ無言のまま、座る。
暫く、母の横顔を見る。母は相変わらず窓の外を見ている。何かに気付いたのか、急に母は桜子を見た。何も話さないで見ている。
「元気そうね。」桜子から話した。
「……誰?、、、、」と一言、言うと顔を背け、また窓の外を見始めた。
「じゃあね。」とだけ残し、桜子は病院を後にする。
【一体、いつまで私を苦しめるの、、、】母親から逃げて10年。その10年は何だったんだろう。何もかも捨ててしまいたくなった桜子。
自分として生きていく事に小さな明かりを灯し続けてきた桜子。その明かりを吹き消そうとする母親との因縁。
そんな時に、帯刀からの「一緒に住まないか?、、、いずれは結婚も、、、」の申し込み。
「……駄目。貴方には私はふさわしくない、、、、結婚は出来ない、、、でも、、、、」
心が弱っている時の申し入れに、揺れ動く桜子のこころ。
【こんな私でも、誰かの奥さんになれば新しい自分になれるのかなあ、、、この人に尽くせば、愛すると言う事が分かるのかな、、、】
帯刀の部屋へ度々、訪れる様になった。
「桜子は心根の優しい子だと思う。人の為に尽くせる人だと思う。うちの母は反対はすると思うが、押し切るつもりだよ。」と、帯刀は言ってくれる。
最初の頃は「駄目です。」と伝えてはいるものの、段々と否定しなくなっていく。