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さよならのあとさきに 秋分 (2)
子
乗り込んだ車両はボックス席が8個くらいで、3人横並びのシートが前と後ろ両側にある1両タイプ。
入ってすぐの横並びに俺は座る。
すると例の3人は、すぐ横のボックス席へと陣取った。俺の左側に背凭れを挟み、あの男性が座った。
「私、眠い、、、」と子供の声がした。ボックスの片側に寝た様だ。女性は男性の隣に座った。
車両には他の乗客はいない。内心、例の話の続きをしてくれと祈る。
汽車が走り出す。
「お父さん、、、利彦さんと光( ひかり)さんは、、、、」女性が早速切り出した。俺はまた目を閉じ、寝たふりをした。
「うん、、、、杏子が腹大きゅうして帰ってきたんよ。出て行って一年ちょっとかのう、、、、それが利彦じゃ。」
「……じゃあ、、、お父さんの子じゃ、、、、」
「いや、杏子の子供はわしの子じゃ。なんちゅうて言いか、、、、わしらが子供の頃までは、どこで生まれた子でも育てたんじゃ。
血の繋がりとか喧しくゆうようになったんは、、、、、テレビや映画の影響じゃろうてぇ~。
争う程の財産も無い。親がしょうる仕事が自分に合うかどうかも分からん。年頃になって奉公に出たり出稼ぎに出て戻ってこにゃぁそれでもええ、、、
親の方も子供がおりゃ、もうち~と辛抱しょうかゆう気になろう。自分を戒める為にも、頑張る理由の為にも子供が必要だったんよ。
誰の子だろうと構わんのんよ。家族になるんよ。助けおうて生きるんよ。
そうせにゃぁ~、、、今おる所を出て行ってすぐ食えんようになって、乞食になるんが関の山じゃけえ、、、みんなそう考えとったんよ。」
「……そうですか、、、、」女性の何か言いたげな相槌。俺も違和感があった。
【家父長制じゃなかったのか、、、、農家は土地に縛られていたのでは、、、、、比較的自由だったのか?、、、、、、】
「わしゃあ~、百姓する以外取り得が無かったけぇ、田んぼと畑をしながら子供を育てたんじゃ。
杏子は杏子で出来る事はするが、飽き性でもあるし、すぐ癇癪起こして叫んだり、子供を叩いたりするけえ、、、また出て行ったんじゃ。
それから4年、、、また腹大きゅうして戻ってきたわ。それが光じゃ。
いっぺん杏子に聞いた事が有る。利彦と光のてて親は同じか、違うんか、、、、ゆうて。そしたら同じじゃゆうた。それ以上は聞かんかったんじゃ。」
「お母さんの事、責めたりしなかったんですか?」女性の声が明らかに怒っている。自分の基準に合わないのだろうと思う。
「もしかするとわしは種無しじゃったんかも知れん。2年一緒におってやる事しても出来んかった。それを分かっとって杏子は出て行ったんかも知れん。
わしと一緒に居るためにゃ子供がおった方がええ思うても、わしじゃ出来ん。じゃあよそで作って帰る。そう思うたんかも知れんようのう。
でも子供が生まれたら、どう育ててええか分らん。近所の人らぁ杏子の事、良お思うとらんかったし、当たりは厳しかったし、宥めても宥めても杏子は癇癪、おこしょったわ、、、
杏子もえっと我慢したんでぇ~、、、、気の毒になる位にの~、、、、わしには優しゅうしてくれたし、女を買う所でしかしてくれん事もしてくれたし、、、、こりゃ要らん事ゆうたのぉ~、忘れてくれぇ。ガハハハ。」
そこまで聞いてところで寝ていた子供が起きたらしい。
男性の話はそこで終わった。あさって行くらしいテーマパークの話を3人でし始めた。その内、子供が突然、、、
「おじいちゃんて優しいね。怒ったりしないの?ママは良く怒るよ。パパも時々怒ったよ。」と発した。女性の声で「こらっ。」と反射的に聞こえた。思わず、笑いそうになったのを我慢した。
「怒っても何もええ事無いで、、、特に男はの怒らんのが一番じゃ。でも女はそうはいかんけぇ、、、どうしても感情が先に来るし、好きか嫌いかで決める所があるしの~
男は最後にゃこうなっとけばえかろうゆうんがあるけぇ、少々の事ぁ~見逃すんよ。細かい所をああだこうだゆうて先に進めんかったら元も子も無ぁし、、、
細かい所見るんは女に任せて、大雑把なところをやっていくんじゃ男は、、、
へじゃけえ、いちいち細い事を女は覚えとるし、聞いた事はすぐ忘れるんが男じゃ。細かい男は嫌われるけぇのぉ~
我慢すりゃ上手いこといくし、なんじゃかんじゃ言われとっても最後が上手いしこういったら褒めて貰えるし、、、、
面白う無い事は、棺桶まで一緒に持っていくねぇ、、、、」
男性の話は、興味深い。
今まで習ってきた事、思っていた事をある程度否定しないと、理解できそうに無い。
妄想が始まる予感がした。
出来れば趣味の小説にしてみようと考える俺。
汽車は広島駅に到着した。
俺は東京行の切符の変更を済ませ、乗り込む。
あの3世代親子も東京へ行くのだろう。
見かけても話しかける事は無い。
あの男性の生き様を妄想してみたくなった。
申し訳ないが、勝手に使わせてもらいますよ、お爺さん。
鞄からタブレットを取り出し、東京行のぞみの座席で俺は、思いつくままキーボードを叩いた。