ステキな音楽を、ステキな文章で
メディアパルさん主催の#アドベントカレンダー2021 「あなたの好きなことのイチ押し本」に参加しています。
*
音楽が好きです。
クラシック、ジャズ、ポップス、洋楽、なんでも聴きます。
その中で心が震える曲はたくさんあるのですが、
それを言葉で説明するのは、すごく難しいなと感じます。
一つ一つはどんな音なのか。
全体はどんな曲なのか。
どこに感動したのか。
目に見えたものや自分の内面は、比較的掘り下げて文章化しやすいと思うのですが、匂いや音は、難しいと感じます。
皆さんはいかがでしょうか。
私は学生時代に、指揮者をやっていました。
指揮者って、音を言葉にするのが大事な仕事の一つなのです。自分の中の音のイメージを、演奏者と共有するためです。それが出来ないとみんなの音はバラバラになってしまいます。
これが、大変です。
作曲者はきっと、“言葉に出来ないほどの思い”があるから、音楽というものを使って表現しているのだと思います。
それなのに、指揮者はそれをまた、あえて言葉にしなければならないのですから。いくら訓練してもなかなか思うようにいかないものでした。
けれど、音楽を聴くのではなく、読んで楽しむものにしてしまう、素晴らしい作品に出会ってしまいました。
◆革命前夜 須賀しのぶ
東西ドイツ時代、ベルリンの壁が壊される前の時代に、東ドイツに音楽留学した日本人眞山が主人公。眞山はピアニストで、そこは音楽の本場。才能溢れる友人に囲まれ、自分の音を探す中、いつしか時代の渦に飲まれていく。
教科書でしか知らなかった歴史を、まるで体験してきたかのように肌で感じることができる作品です。それでいて東ドイツ特有の“誰が敵で味方か分からない”ミステリーのような要素もあり、退屈することがない。読後は、その熱量に圧倒され、しばらく動けなかったほどです。
そんな骨太のストーリーや、舞台設定もさることながら、音楽をやっていた者として、舌を巻いたのは、その音楽への向き合い方と、表現の仕方です。
好きな文章がいくつもあり、ノートに書き留めました。
この豊かさ。
ともすれば、音楽の教科書に並んでいそうな言葉ばかりを使ってしまいがちな、曲や音楽の言語化。
須賀さんは、ありきたりな表現ばかりでなく、独自の言葉でそれを表しています。
しかも、独自の表現というと、一定の人に理解されないこともありそうですが、そうではない。きちんと誰もが想像することができる文章です。
その曲を知らない人でも、どんな曲か想像できるものでありながら、その道の玄人にも、これ以上の表現があるだろうかと唸らせる表現だと思います。
しかも、須賀さんはなんと、音楽経験がないのだそうです。「解説」で述べられていて、驚きました。経験の有無なんて、関係ないのかもしれないですね。
難しいと言われているものにも果敢に挑戦する勇気、そして、それをとことん考え、取り組み、言葉にしていく力。
そういうものが結局、突き詰めれば、どんな作品にも必要なのかもしれません。
学ぶものが多い作品でした。
音を言葉で表現する。
ステキな音楽を、ステキな文章で。
その世界に浸ってみたい方、音楽好きな方。
だけでなく、全ての文章を書く方、読む方に、
オススメの一冊です。