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交通事故解説動画への疑義(14)

ある交通事故解説系Youtubeチャンネルの17:56で、
人身事故+無免許運転によって禁錮以上の有罪判決で執行猶予5年を受けた場合、社会保険労務士法5条5号により、執行猶予期間満了後3年間を含めて「8年間は資格を有しない」と解説されていた。

逐条解説書籍『社会保険労務士法詳解』(Amazon)(全国社会保険労務士会連合会、末尾の書籍)などを持っておらず確証はないところ、通達に照らせば、執行猶予期間満了後、3年経過せずとも資格の再取得は可能のようだと感じた。

この点を掘り下げてまとめておくこととした。

なお、法の専門家ではないので、正確性は逐条解説書籍や通達や弁護士サイト、さらに正確性を望むなら、弁護士相談やお知り合いの社労士との会話などで補完してほしい。


条文は以下のとおり。

(欠格事由)
第五条 次の各号のいずれかに該当する者は、第三条の規定にかかわらず、社会保険労務士となる資格を有しない
五 前号(当方注、社会保険労士法又は労働社会保険諸法令の規定)に掲げる法令以外の法令の規定により禁錮以上の刑に処せられた者で、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から三年を経過しないもの

社会保険労務士法 第5条 4号、5号

関連する通達は2つある。社会保険庁の昭和43年通達と昭和54年通達である。なお昭和43年は、同法が制定された年でもある。社会保険庁は2010年に廃止されており、本省にあたる厚生労働省の通達を見たものの、これらの通達を上書きするものは見つからず、いまも有効と思われる。

今回の話題に関連する部分を抜粋しておく。

(昭和43年12月09日庁保発第23号)
第五 欠格事由(法第五条関係)
 本条は、免許の欠格事由を定めたものであり、受験についてのそれではないので、本条に該当する者であつても受験することはさしつかえないこと。
 「刑に処せられた者」とは、刑を言渡した判決(執行猶予の言渡があると否とを問わない。)が確定した者をいうこと。
 「執行を受けることがなくなつた」とは、刑の執行が免除された場合及び執行猶予期間が満了した場合をいうこと。

社会保険労務士法の施行について
(◆昭和43年12月09日庁保発第23号)

(昭和54年06月05日庁保発第21号)
 社会保険労務士法第五条第四号及び第五号に規定する刑に処せられ、その執行を猶予された者であつて、当該執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予期間を経過したものに対する当該第四号及び第五号の規定の適用については、「(刑の)執行を受けることがなくなつた」場合に該当し、その後二年を経過するまでは社会保険労務士の免許を与えないものとしてきたところであるが、刑の執行猶予制度の趣旨及び類似の規定についての他の行政機関の解釈も考慮し、以後左記のとおりとすることにしたので了知されたい。
 なお、昭和四十三年十二月九日付け庁文発第二三号「社会保険労務士法の施行について」記の第五のうち、このことに関する事項は、本通知によつて改められたものと了知されたい

 社会保険労務士法第五条第四号及び第五号に規定する刑に処せられ、その執行を猶予された者が当該執行猶予の言渡を取り消されることなく猶予期間を経過したときは、当該者は、執行猶予期間満了日の翌日から当該第四号及び第五号に規定する「・・・・刑に処せられた者」には該当しないこととなり、したがつてこれらの規定の適用はないものであること。
 また、大赦又は特赦があつた場合も、同様であること。

刑の執行猶予期間を経過した場合等における社会保険労務士の免許に係る欠格事由について
(◆昭和54年06月05日庁保発第21号)

現行法、5号は以下のように見える。

①に該当する者のうち、②または③に該当する者

① 前号に掲げる法令以外の法令の規定により禁錮以上の刑に処せられた者
② 刑の執行を終わった者
③ 刑の執行を受けることがなくなつた日から三年を経過しない者

社会保険労務士法5条5号をベースに付番などを行ったもの

執行猶予中の者は①に該当する(昭和43年通達「執行猶予の言渡があると否とを問わない」)。しかし、執行猶予中の者が②や③に該当するようには見えない。ただし、弁護士サイト(参考)によると、執行猶予期間中は資格を失うようである。ここはちょっと分からないので置いておく。

さて、執行猶予が取り消されることなく満了の場合、「執行猶予期間満了日の翌日」=「執行を受けることがなくなつた日」と解することができる。そのため、

ケース:禁錮以上の有罪判決で執行猶予5年の場合
執行猶予明け~3年経過まで → ①と③に該当する → 欠格

と読める。そして、昭和54年通達前はこの解釈で運用していたことが、通達の以下の部分から窺える。なお、通達当時の欠格期間は2年だった模様。

 社会保険労務士法第五条第四号及び第五号に規定する刑に処せられ、その執行を猶予された者であつて、当該執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予期間を経過したものに対する当該第四号及び第五号の規定の適用については、「(刑の)執行を受けることがなくなつた」場合に該当し、その後二年を経過するまでは社会保険労務士の免許を与えないものとしてきたところであるが、刑の執行猶予制度の趣旨及び類似の規定についての他の行政機関の解釈も考慮し、以後左記のとおりとすることにしたので了知されたい。

昭和54年通達

しかし、刑の執行猶予制度の趣旨や類似規定の解釈も考慮して、以下のように通達されている。

 社会保険労務士法第五条第四号及び第五号に規定する刑に処せられ、その執行を猶予された者が当該執行猶予の言渡を取り消されることなく猶予期間を経過したときは、当該者は、執行猶予期間満了日の翌日から当該第四号及び第五号に規定する「・・・・刑に処せられた者」には該当しないこととなり、したがつてこれらの規定の適用はないものであること。

昭和54年通達

昭和54年通達に「・・・・刑に処せられた者」には該当しないとあるので、この通達以降は

ケース:禁錮以上の有罪判決で執行猶予5年の場合
執行猶予明け~ → ①に該当しない → 欠格でない

と読むのが正解のように思う。先に示した弁護士サイト(参考)にも「執行猶予が明ければ資格は取れる」と記されており、通達から導いた解釈と整合する。


元動画の解説、執行猶予が取り消されることなく満了した場合に、執行猶予期間満了後も一定期間は欠格だとする解説は、どの情報に基づくものだろう。

逐条解説書籍や通達などの参考情報をまったく用いずに、条文だけで法を読み解くことの危うさを再認識した次第である。

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