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うつ病の両親をもつ息子

一昨日の夜、久しぶりに父親である僕の家に戻ってきた息子に缶チューハイを飲み交わしながら問うた。
「おまえ、自分は不幸だと思ってるでしょ?それは誰のせい?」
息子は
「親のせいだ」
と返答した。

それはもっともだ。
息子は親の欲目ではなく本当に優しいから友人からも相談を受けることが多い。
何も問題を起こしていないし、これまでも仮面夫婦を繋ぎ止めようと彼なりに必死に笑顔を見せてくれていたのだから。

続けて質問した。
「どうして離婚しなければならなかったのか状況は知ってるよね。お父さんもお母さんも心の病で働けなくなり自己破産までしたね。それがきっかけでお母さん側の親族全員が『そんな奴とは早く離婚しろ』『死んだお義父さんの遺産を目当てにして働かずに怠けているだけだ』ってお父さん一人が悪者になった。お母さんの病気は『うちの娘はそんな気狂いじゃない!』とまで言われたね。心の病気に対して理解してもらえなかったからなんだよ。親が病気になった事がおまえの不幸の原因なの?」
それに対しては「これまで一言だってそんな事言ったことないじゃないか!」と涙を堪えて返答してくれた。

息子は本当によくわかってくれている。
実を言えば小学生の頃から親を繋ぎ止めようといつも家庭を明るくしてくれていたのを僕は知っていた。
だけど離婚届という紙切れ一枚で親子の絆が切れてしまった今、理屈では割り切れない憤りを何処にぶつけていいのかわからないで苦しんでいるんだ。

誰が悪いのでもない。
これが運命ってやつなんだ。

だから僕は仏道に入り、運命を変えていく精進を続けてきた。
世間には様々な書物が出回っている。
「うつは治せる」
「気持ちを切り替える実践法」
「ヨガ・瞑想」
「朝日を浴びて身体のリズムを取り戻そう」
「これが般若心経の真髄だ」
「仏教解説書」
等々。
僕に言わせれば所詮、苦しみがわからない人が書いた想像の域を出ない気休め。

軽度の精神病であれば気持ちの切り替えや生活習慣の改善で乗り越えられるケースも多々あるのは承知している。

けれど自分の心と裏腹に身体が動かなくなるほど重度になると、そんな陳腐なエッセイみたいな落書きなどクソ喰らえと苛立ちさえ覚える。
所詮印税目当ての物書きが、いま正に死に直面している人がいる現状など全く理解せず書店の新刊本コーナーに陳列されるという自己満足にひたっているに過ぎない。

医学書だって似たようなものだ。
神経伝達物質セロトニンがストレスによりシナプスにうまく伝わらないから。
という学説が主ではあるが、何十年経っても学説の域を越えないのはなぜか?
様々な新薬が出ては患者を臨床試験同様に扱いデータ収集をする。
僕が初診で大学病院に通院をはじめてからどれだけの新薬を試されてきたか。
笑い事ではないが僕自身20種類以上の薬は処方されてきた。

そして今でも病気は治らないし、原因不明であるからという理由で就労もできず社会的にも抹殺されている。
「寛解」はあっても「完治」は生涯あり得ないのだ。
せめて医学会で「うつ病」という呼称を変えてほしい。
単なる「うつ気分」とは全く異なるからだ。

そんな親を持った息子が不憫でたまらない。
近い将来、自分の守るべき家庭を持ってほしい。
自分の身体を大切にしつつ、それに理解あるパートナーに出会えたらこんな幸せなことはないと思う。

社会に精神の病を理解してもらうには相当な時間と努力が必要。
でも諦めたら何も変わらないんだ。

少しでも早く原因を突き止め「完治」する医療方法を見つけてほしい。
そして同じ人間として、病気で苦しんでいる人々に寄り添う社会になってほしい。

息子よ。
今の辛さは代わってあげたいくらいわかるよ。
だけど自分の運命を直視し、真正面から立ち向かう勇気はお前は持っている。
サッカー部でキャプテンやってたじゃないか。
苦しくても、何度倒されても、いつだって立ち上がってきた自慢の息子だ。
チームだけでなく誰からも相談を持ちかけられる素晴らしい人柄は親譲りだと思ってくれたら嬉しいな。

ダメ親だけど、ずっと見守っているよ。
そして自分の足で道を切り拓いていくんだ。
おまえなら必ずできる。
信じてる。