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2023.08.16 現代的・原始的

日差しが突き刺すような夏の昼間、駅前の大きな通りを日を背にしながら歩いていた。道に沿ってには比較的背の高いビルが並んでいるが太陽の光がビルの間の道路分だけ焼き払ったかのように影はない。

日傘を差すもの、汗をぬぐいながらペットボトルの水を飲みつくすもの、無心の顔つきで暑さを滅却しながら歩くもの。みな、各々のやり方で暑さと戦っていた。

チェーン店の牛丼屋やランチが安い焼き肉屋が立ち並ぶ場所に差し掛かった時、店の前の電話ボックスにいる男が目に入った。

ボックスに収まりきらないくらい背が高く、ガタイの良い60から70代くらいの男が扉を全開にし、片脚だけ膝を少し折り曲げて中に入れ、大きな手で受話器をもち、腰に手を当てながら、道を横目に電話をしていた。
白いTシャツを薄いグレーの作業着にベルトでしまいこみ、首には白いタオルを巻いている。濃い顔立ちに白髪の短髪、健康そうに日焼けした褐色の肌にグレーの無精ひげ。吹き出る汗を白いタオルで拭って、電話を続けている。ボックスからはみ出た上半身の白いTシャツがぎらつく太陽光で白色が浮き出している。白い日傘を差し、スマホをいじりながら歩く女やスーツのジャケットを脱ぎ、白いシャツを腕まくりしながら電話をする男もその電話ボックスの横を歩き去っていく。電話ボックスの男は夏だけでなく、時代にすら抗っているように、いや、抗わざるを得なくなってしまったようにボックスからはみ出ながら電話をしている。

少ししてから、男は緑の受話器を戻し、駅に向かって歩いていった。電話ボックスの扉は半開きのままだ。

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