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【エッセイチャレンジ①】七夕の夜に思うこと
七夕といえば天の川。
だが、我が家の周りではたいした星は見えない。端っことはいえ、さすが東京。腐っても東京。市街地でもたぬきが出たり、自転車で20分も行けばカブトムシが普通にいる公園が点在する田舎、緑豊かな土地なのだけど…
これまで見た、数少ない美しい星空を思い返してみると、たぶんTOP3には祖母の田舎の夜空だと思う。
私が心の底から愛しく思う場所だ。
母の故郷は東北の小さな町。
店の端っこには衣料品が売られているような大きめのスーパーが生活のパイプラインで、その周りに点々とある個人商店では店主も客もだいたい知り合いという具合だ。
町民の娯楽はパチンコとカラオケだったが、私のお気に入りの過ごし方は夜の散歩をすることであった。
調子が良ければ祖母の愛犬『ポンタ』も一緒に行く。が、17歳で亡くなる1年前まで子犬のように元気だった彼に「早く来い」せっつかれながら歩くより、ひとり口を半開きにし、上を見ながらぼんやり歩く方が好きだった。
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ある夜、30分ほど空を見上げていたら視界の上の方で星が流れた。
「えっ?気のせいだよね?」と思った瞬間、続けてひとつ、ふたつと流れたときは、シンプルに衝撃的だった。
『なんちゃら流星群が見えます!』というニュースを見るたび、パジャマのまま家の前の道路に飛び出していた思春期の自分。同級生に会わないよね…と、人が通るたびにもじもじと顔を伏せ、自意識過剰な羞恥に耐えながら夜空を見たのに、何も見えなかった切ない(痛い)経験を思い出した。
祖母の町では、目が慣れてくると強い光を放つ一等星や二等星だけでなく、都会ではネオンに力負けするであろうクズ星も儚く輝いている。なんと天の川の『もやもや』まで見えるのだ。
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祖母の家について、他に象徴的な記憶といえば、朝と夜の空気の匂いだ。それを嗅ぐと幼いながらに「今年もやっと夏が来た」そんな風に思ったものだ。
最近になって気付いたが、あれは湿った土と濡れた木が放つ甘い香りの混ざった匂いであった。梅雨どきなど、朝の公園の小道や、猫の額ほどの自宅の庭からも同じ匂いがする。
気軽に祖母の元に行けなくなった今、瑞々しい大地の香りを感じる度、目をつぶり祖母の家を思い浮かべる。そうして手軽なノスタルジックを味わう、夏の始まりである。