監査基準に従って監査結果を記載するための選択肢〔第5版〕
平成29年の地方自治法改正で、監査基準の作成と遵守が監査委員に義務付けられました。自分が作成した監査基準を遵守しない監査委員など存在しないだろうと思っていましたが、多くの監査委員が遵守しておらず、自らが策定した監査基準に従って監査報告を作成しているのは限られた自治体の監査委員です。筆者は、監査基準に従っている監査委員を、「監査基準を遵守しているかで監査委員を格付けしてみた」と題した記事で、一流と格付けしていますが、本記事は、その一流の監査委員がどう監査結果を記載しているかを整理して、他の監査委員への参考に供しようというものです。〔この記事は、2024年4月に岐阜県監査委員監査基準が改正されたのを受けて修正した第2版を再考したものです。さいたま市監査委員と長野市監査委員を「1」に追加したので第3版とします。'24年9月に北海道を2-4に追加したので第4版とします。同月に秋田県を1-4に追加し、1'を立てて横浜市を追加したので第5版とします。〕
平成29年の地方自治法改正で監査委員制度に監査基準制度が導入されました。改正法が施行された令和2年4月以降、監査委員には、監査基準を策定する義務(地方自治法第198条の4第1項)と、その監査基準に従って監査等を行う義務(地方自治法第198条の3第1項)が課されました。その「監査等を行う」ことには、監査報告を作成することも含まれますので、監査委員は、自らが作成した監査基準に従って監査報告を作成する法的義務が課されたことになります。
しかし、改正法施行後4年が経過しましたが、監査基準に従って監査報告を作成して法的義務を履行しているのは、中核市以上の129自治体(47都道府県、20政令市、62中核市)のうち35自治体(17都府県、7政令市、11中核市)で、1/3に満たず、多くの自治体では、何らかの意味で遵守していません。その遵守していない内容には、監査基準の上では、監査基準に準拠している旨を監査報告に記載する、と規定しているのに、実際に作成した監査報告には記載していないという致命的なミスもあります。監査基準は相手に通知し、公表もされるので、監査基準に従って監査報告を作成している監査委員は、監査の相手から、監査する資格を疑われかねない状態です。ただ、このようなミスは、制度の定着とともに解消されてきています。
現在、監査基準を遵守していない内容のほとんどは監査結果の記載についてです。その主な原因は、総務省が通知した監査基準案に規定されている監査結果の記載方法が財務諸表監査の考え方に倣っており、従来の考え方からズレているものだからです。
監査基準の策定に当たって監査委員は、このズレにどう対処するかの選択を迫られています。
一つの選択肢は、監査結果の記載について、総務省監査基準案の考え方に従って監査基準を策定することです。しかし、それを選択すると従来の考え方からのジャンプが必要になります。そのジャンプについて「1」でまとめています。ジャンプできない多くの監査委員は従来の考え方のまま監査報告を作成しており、結果的に、監査基準を遵守することなく監査報告を作成しています。
二つ目の選択肢は、監査結果の記載について、総務省案を採用せず、従来の考え方で記載することを監査基準で規定する方法です。その方法を採用している監査委員を「2」と「3」で紹介しています。
最後の選択肢は、監査結果の記載について監査基準で定めを置かずに、監査報告を作成する時点の監査委員に委ねるという方法で、「4」で紹介します。
なお、取り上げる対象は、都道府県、政令指定都市及び中核市の監査委員に限定していますし、監査報告は地方自治法第199条第4項の規定に基づく周期的な監査(いわゆる「定期監査」、「定例監査」)を対象としています。
1 総務省監査基準案の規定を採用して監査結果を正しく記載する11自治体の監査委員
総務省が平成29年地方自治法改正の検討過程で目指したのは、監査委員監査の充実と強化でした。そして、その手段を財務諸表監査の経験に求めて、監査基準制度の導入に至りました。
監査基準のうち一般基準や実施基準は遵守しているかが明確にはなりません、報告基準、特に監査報告に何を記載するかについての定めは、遵守しているか否かが外形的に明らかになります。
したがって、監査基準に従って監査等を行うという地方自治法第198条の3が課している義務を履行するためには、監査報告の作成に関する規定には最も留意して監査基準を策定する必要があります。しかし、監査基準を策定する監査委員の参考にするために、総務省が平成31年3月29日付けで通知した監査基準案には、大きな問題がありました。それは財務諸表監査の発想をそのまま持ち込んでいたことです。
財務諸表監査の発想とは、多数の監査人が多数の企業の財務諸表を監査し、その監査報告は対象の財務諸表と一体のものとして不特定多数の利用に供されることから、不特定多数の利用者に監査報告の趣旨が明確に伝わるように監査報告の書き方を統一し、監査人が遵守することになっている監査基準で定型的に規定するというものです。その監査報告は、監査対象の財務諸表を一体のものとして捉えた上で、それを信頼して良いのか否か、信頼して取引や投資を行って良いのか否か、というメッセージを財務諸表の利用者に伝えるものです。監査基準では、監査の目的を「経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明すること 」(「第一 監査の目的」「1」)としています。
このような財務諸表監査の発想を持ち込んでも支障がない活動も監査委員にはあります。法律上、「審査」と表現されている監査委員の活動で、これは決算書や決算数値を点検して正確か否かを報告する活動です。この活動では、監査対象を一体のものとして正確かどうかの評価を記載しています。その趣旨は、監査報告の利用者である議会に対して当該決算書類や決算数値を信頼して審議して良いか否かのメッセージを伝えるものです。その意味で、投資家や取引先に当該財務諸表を信頼して良いか否かのメッセージを伝える財務諸表監査の報告と類似しています。ちなみに、財務諸表監査の提出先は企業であり、企業が財務諸表とともに利用者の用に供するのと同様に、審査の報告は提出先は首長であり、首長は決算書類とともに議会へ提出して、議員の利用に供します。その利用者に対して点検対象の決算書類が全体として議会審査に値する正確なものか否かという二者択一の評価を全体評価を端的に伝えることが審査報告(意見書)には求められています。
これに対し、法律上、「監査」と呼ばれる監査委員の活動では、特に財務監査の場合、監査は異状を指摘するものであり、監査報告は異状を記載するものでした。異状があった場合にそれを監査結果として監査報告に記載しており、異状がなかった場合には、「指摘事項はなかった」など異状なしを報告するか、「おおむね適正と認められた」などの妥当認定を記載していました。また、異状があった場合でも、異状の記載に留めるか、「それ以外についてはおおむね適正であった」などの妥当認定を付記していました。この「おおむね」という表現は、多数のうちほとんどの執行事績を適正と判断したということであり、監査対象全体を一体のものとして評価しているのではなく、個別事績に対する当否判定の集積を表現しています。
個別判定の集積といっても、監査結果を記載する単位は監査委員によって様々です。課、所など監査箇所とした執行単位ごとに個別評価を集積した監査結果を記載する監査委員もいれば、部など予算を配賦された統制単位ごとに監査結果を記載した監査報告書を作成する監査委員もいれば、公表する監査報告の対象とした全ての監査箇所を一括して監査結果を記載する監査委員もいます。そのいずれも、個別の執行事績の当否判定を行なった上で判定の集積として「おおむね適正」などと記載しており、全体を一体のものとして是か否かの評価を記載することはありませんでした。なぜなら、当否判定の対象となる監査客体は個々の執行事績である一方、一体のものとしての評価の対象として意識されるのは被監査組織(監査客体について説明責任を有する組織)である執行主体だからです。被監査組織を評価対象にするためには、従来の執行事績の当否判定とはレベルが異なる判定をする必要があります。
財務諸表監査の場合は、監査結果として表明されるのは、当該財務諸表が、投資などの判断の基礎として信頼に値するか否かの意見です。監査報告の利用者は、是であれば、安心して投資や取引のアクションを起こせますし、否であれば、撤退を考慮すべきでしょう。また、出資者であれば、是の場合、積み増しを検討するでしょうし、否であれば売却を検討します。ただし、大口出資者、特に直接的な利害関係があり、監督責任も有する親会社の場合は、自らの出資とブランドを委ねるにふさわしい組織か否かになります。監査報告書が是の場合、財務指標が許容内であれば、アクションを起こす必要はありませんが、否の場合又は財務指標が許容範囲を超えている時は、自らの出資とブランドを委ねるにふさわしい組織ではないとして、その立て直しのために経営陣の更迭など対処策を講じるでしょう。
一方、財務監査の監査報告書の利用者である議会と首長は、主権者から選ばれた代理人として、公金で造成される公的資源(ヒト・モノ・カネ・データ)を条例と規則で管理し、公金に関する運用、つまり財務事務についても、予算と条例・規則で統制する立場です。言わば、親会社のような立場です。そう考えると、財務監査で被監査組織を評価するのは、公的資源を委ねるのに値する組織か否か、という点になります。公的資源を委ねるに値する組織とは、組織内で生じる過誤や錯誤が相互点検や上司点検で解消され、かつ、組織内分業が効率的に行われ、人的資源が十分に活用されている組織でしょう。言い換えると、組織性が確保されている状態とも言えますし、監査では、組織性が確保されているか否かの判定を行うことが求められます。
つまり、財務諸表監査の場合、是(「無限定適正意見」「限定付適正意見」)は、対象の財務諸表を信頼して投資などのアクションを起こして良い、というメッセージですし、否(「不適正意見」「意見不表明」)は、対象の財務諸表を信頼してのアクションを起こしてはいけない、ことを意味しますが、監査委員監査では、公的資源を託すに値する組織かどうか、を意味します。是というのは、値する組織だということであり、報告を受けた議会や首長は何らのアクションを起こす必要もありません。一方、否と報告した場合には、議会も首長も組織性を回復させるための何らかの対処が求められます。この「否」として報告される場合としては、経理紊乱が確認される場合などが想定されます。
具体的に見ていきましょう。総務省監査基準案は、第15条を「監査等の結果に関する報告等への記載事項」と題し、その第1項では監査報告に記載する事項として「本基準に準拠している旨」、「監査等の結果」など6項目を列挙しています。そして、そのうち「監査等の結果」に記載する内容については第2項から第4項までに定めており、従来の監査報告の発想に基づく規定を第4項に置き、新しく財務諸表監査の発想に基づく規定を第2項及び第3項に置いています。
第4項では、従来「指摘事項」と表現されることが多かった異状を「是正又は改善が必要である事項」と表現しており、執行事績に生じている異状を監査結果として記載するという、従来のスタイルを表現した規定です。同時に、報告に当たっては、異状の原因解明を執行側に任せ放しにしないということも求めていますが、これは、監査活動では、異状の有無を点検することで、修復予防効果と牽制抑止効果が執行側に生じることが期待されてあり、それを重視するあまり、監査報告に重きを置かずに、異状の説明を簡潔にしている監査委員を窘める趣旨です。
一方、第2項及び第3項は、新たに財務諸表監査の発想を盛り込んだ規定で、監査対象全体を一体のものとして、「重要な点において」是であるか否であるかの二者択一で評価し、それを監査結果として記載することを義務化しています。総務省監査基準案第2項本文と第3項にある「重要な点において」という文言は、検討の最終段階で挿入されたものですが、この挿入によって、是か否かの認定は監査対象全体を一つのものとして行うものであることが明確になりました(「重要な点において」を挿入していない監査基準を策定した監査委員を「2-1」で紹介します。)。
前述したように、従来の監査報告の記載は、監査対象を個別事績の集まりと捉えた上で、個別事績ごとに当否を判定し、監査結果として記載するのは「おおむね適正であった」などの文言でしたが、この文言は、監査対象の個別事績の判定では「是」が圧倒的に多いことを「おおむね」で示しています。
総務省監査基準案は、そのような従来の取扱いに対して、「重要な点において」妥当と認定するか、「重要な点において」妥当でないと認定するかの二者択一を迫ります。その背景としては、監査委員制度に監査基準が導入された経緯が、監査委員制度が機能不全に陥っているのではないか、という問題意識が出発点となっており、その対策を、審査活動と類似する財務諸表監査の経験に求めたことに由来します。そして、監査対象の全体評価を是か否かの二者択一の表現で記載するためには、そこに至る経過を的確に説明する必要が生じることから、的確な監査を監査人に行わせることができるだろう、という期待もあるのでしょう。
具体的には、総務省監査基準案第2項第1号の規定に従えば、財務監査の監査報告に、「監査の対象となった事務が法令に適合し、正確に行われ、最少の経費で最大の効果を挙げるようにし、その組織及び運営の合理化に努めていること」が重要な点において認められる場合にはその旨を監査結果として記載することになります。また、第3項によれば、「監査の対象となった事務が法令に適合し、正確に行われ、最少の経費で最大の効果を挙げるようにし、その組織及び運営の合理化に努めていること」が重要な点において認められない場合にはその旨を監査の結果として記載することになります。つまり、重要な点において認められるか認められないかの二者択一で記載することになります。
ここで、念のため、上で引用した第2項本文と第3項にある「その他」という用語について説明しておくと、法令用語では「その他」の前にある名詞と「その他」の後ろにある名詞は並列の関係にあることを示すことになっています。つまり、上の第2項本文の規定にある「その旨」と「監査委員が必要と認める事項」は並列関係です。したがって、上の第2項と第3項の意味は、「その旨」を書くことを義務とするが、それだけではなく、記載を必要と認定したことも書く義務がある、を意味しています(ただし、「ものとする」という表現は、公権力機関については弱い義務付けを意味します。)。ちなみに、「の」を追加して、「その旨その他の監査委員が必要と認める事項を記載するものとする」という規定にすれば、「その旨」が「監査委員が必要と認める事項」の例示となり、「その旨」が記載義務の対象から外れます。また、「その旨など監査委員が必要と認める事項」と規定すると、「その旨」が「監査委員が必要と認める事項」の例示となり、記載義務の対象外となります。(このような監査基準を策定した監査委員を「2-2」で紹介します。)
話が少しそれますが、総務省監査基準案第15条の第2項及び第3項は、監査の結果として「是」又は「否」を記載した上で、「監査委員が必要と認める事項」を記載すると規定しており、続く第4項では異状を丁寧に記載することを規定しています。この第4項に基づく記載を、直前に規定されている「その他必要と認める事項」に該当すると解すれば、言わば接ぎ木のような不自然な状態にも思えます。特に、第2項及び第3項に相当する条項を、記載の任意性が高いものにすると、その違和感が増します。その違和感を解消する解釈として、第4項に基づく記載は「その他必要と認める事項」に該当しないとする解釈もあり得ます。第2項・第3項を、「監査等の範囲及び目的」と第された第2項で定められた監査等の目的、財務監査で言えば「財務に関する事務の執行及び経営に係る事業の管理が法令に適合し、正確で、最少の経費で最大の効果を挙げるようにし、その組織及び運営の合理化に努めているか監査すること」に基づく、「‥いるか」いないかの記載であり、第4項はそれとは別な範疇、例えば財務監査で言えば、もっと効果を上げるようにし、もっと合理化できるようにするために是正又は改善が必要な事項であるとする解釈です。国の会計検査院では、指摘事項に相当する「不当事項」(会計検査院法第29条第3号)という範疇とは別に「意見を表示し又は処置を要求した事項」(会計検査院法第34条・第36条)という範疇があり、それに相当するものであるとする解釈です。ちなみに、「1-1」で紹介する静岡市監査委員は監査の結果を「1 監査基準第19条第2項又は第3項の規定に基づく記載」と「2 監査基準第19条第4項の規定に基づく記載」に分けていますが、異状は「2」だけで記載しており、そのような解釈ではありません。
上記の説明では、総務省監査基準案第15条第2項及び第3項は二者択一的選択肢であるとしていますが、これには異論もあります。
全国の約800市の監査委員が加盟している全国都市監査委員会は、各市の監査委員の参考となるものとして都市監査基準を制定していますが、これには総務省案第15条第2項及び第3項に相当する条項も規定されており、都市監査基準の逐条解釈では、その部分が次のように説明されています。
つまり、二者択一ではなく、「重要か否かの判断がつかない場合は記載を求めていない」としています。
しかし、監査委員の監査基準は、同業者団体の申し合わせではなく、公権力機関である監査委員に対して法律によって遵守することが義務付けられた規範です。しかも、その規範は自らが策定するものですから、「重要か否かの判断がつかない場合」を想定するのであれば、その場合の記載の仕方を定めるはずです。総務省監査基準案には、レアなケースと思われる「監査の結果に関する報告の決定について、各監査委員の意見が一致しないことにより、前項の合議により決定することができない事項がある場合」の定め(第16条第2項)もあるほどですから、「重要か否かの判断がつかない場合」はもっとレアなケースと理解しているのかもしれません。しかし、実際には、多くの監査委員が「重要か否かの判断」をつけることができずに記載していません。上記の解釈は、いわば、「重要か否かの判断がつかない」監査委員を未熟な存在又は過渡的な存在と理解しているのでしょう。それを示しているのが、末尾の「「重要な点」又は「軽微な点」が具体的に何を指すかは、各都市で判断をするものと説明されています。」との表現です。
上記のように、監査報告を作成する監査委員を突き放している背景には、財務諸表監査特有の発想があります。財務諸表監査では、不特定多数の監査人が作成する監査報告をさまざまな利用者が正しく理解できるように、さまざまな場合に応じて、どのように監査結果を記載するかを、全ての監査人が遵守すべき報告基準として定型的に定めています。さらに、実施基準に従わずに監査を実施して粉飾決算を看過した監査人がいれば、その責任を追及することで、監査人全体の信用を確保する仕組みです。その意味では、ミスをした監査人が監査基準に従わなかった故にミスをしたのだという説明ができること、つまり、生じ得る監査ミスを前提とすると、監査人が監査基準を遵守していない状態の方が監査人全体の信用の面からは望ましいとさえ言えます。また、監査基準を遵守した上で粉飾決算を看過した場合は、監査基準の改善を説明することで監査人全体の信用を確保することとするため、粉飾決算が看過される都度、監査基準は充実されてきました。したがって、財務諸表監査の世界では、監査人は監査基準に従わなければならないという原則を立てつつ、個々の監査人が監査基準に従うかどうかは、自己責任である、ということになります。また、監査基準に問題が生じたときに備えて、充実の余地を残しておきたいという意識が働くため、現時点で問題が生じていない場合には、例えば、「重要な点」又は「軽微な点」が具体的に何を指すかの判断がつかないような監査人は未熟な又は過渡的な存在に過ぎないとして放置されることになります
話を戻すと、監査結果として、重要な点において否という否定的評価を議会に示す場合は、執行側が公的資源を委ねるにふさわしい組織とは認められない場合、例えば、経理紊乱の場合しかあり得ないでしょうし、それ以外は、重要な点において是という肯定的評価を記載することが総務省監査基準案第15条第2項及び第3項が求めるところです。それを理解できない監査委員は、この規定を設けるべきではありませんし、勧告制度(地方自治法第199条第11項)ができた以上、この両規定を設ける実益も皆無です。
現時点で、監査報告の記載について総務省監査基準案と同様に規定し、かつその監査基準に従って監査報告を作成している監査委員は少なく、11県市(3県、3政令市、5中核市)に過ぎません。その11県市でも、監査結果の記載が全く同じというわけではなく、「監査した限りにおいて」をどう記載するかで次の1-1〜1-4に分かれています。
1-1 「監査〔を実施〕した限り、」と記載しているさいたま市、川崎市、長野市、静岡市、滋賀県、大津市、和歌山市、高知県の監査報告
総務省監査基準案第15条第2項及び第3号は、検討の最終段階で「重要な点において」が挿入されたためか、その語句をどこに配置するかに迷いが生じます。例えば、財務監査の場合、規定どおりの順番で記載すると「重要な点において、‥‥のとおり監査した限りにおいて、 監査の対象となった事務が法令に適合し、正確に行われ、最少の経費で最大の効果を挙げるようにし、その組織及び運営の合理化に努めていることが認められる」という文章になってしまい、「重要な点において」が何を形容しているか分かりにくくなってしまいます。そこで、分かりやすくするために、「監査した限り」の後ろに移動することで対処するという方法があります。その場合、「監査した限りにおいて」と「重要な点において」が隣接すると重複感があるので、「監査した限りにおいて、」を「監査した限り、」と言い換えることになります。もっとも、この対処方法では、「監査した限り」という文言が何を修飾する連用詞か分かりにくく、浮いてしまっている感じは否めません。
総務省監査基準案を採用して、その趣旨に沿って監査結果を記載している9県市のうち、「監査した限り、」と記載しているのは、さいたま市、川崎市、岐阜県、静岡市、滋賀県、大津市、和歌山市及び高知県の監査委員です。
さいたま市監査委員は、令和6年8月26日付けの監査報告で「6 監査の結果」の冒頭を次のように記載しています。後述の静岡市監査委員と同様に箇条書きにしています。
ちなみに、さいたま市監査委員は、令和6年4月30日付けの監査報告では「6 監査の結果」の冒頭を次のように記載していました。
川崎市監査委員は、令和6年3月25日付けの監査報告で「7 監査の結果」の冒頭を次のように記載しています。末尾を「が、」で止めて、続く異状の報告と合わせて1文としています。
長野市監査委員は、令和6年8月21日付けの監査報告で、「第5 監査の結果」の冒頭を次のように監査基準に従って記載している。
ちなみに、長野市監査委員は、令和6年3月27日付けの監査報告では「第5 監査の結果」の冒頭を次のように記載していた。
静岡市監査委員は、令和6年3月28日付けの監査報告で「第7 監査の結果等」「Ⅰ 監査の結果(地方自治法第199条第9項)」を次のように記載しています。異状報告との接続詞に悩む監査委員もいる中、箇条書きにして悩みを解消しています。
滋賀県監査委員は、令和6年3月26日付けの監査報告で「5 監査結果」の冒頭を次のように記載しています。文末後に改行し、「なお」書きで、異状を報告しています。
大津市監査委員は、令和6年3月26日付けの監査報告で、「4 監査の結果」を次のように記載しています。異状の報告を妥当認定の前において「が、」で接続しています。
和歌山市監査委員は、令和6年3月28日付けの監査報告で、「第5 監査の結果」の冒頭を次のように記載しています。文末後に改行し、「また、」に続けて異状を報告しています。
高知県監査委員は、令和6年3月1日付けの監査報告で、「2 監査の結果」の冒頭を次のように記載しています。「監査した」とは監査報告作成・提出を含みますから、「監査を実施した限り」と記載しているのは正しい用語法で好感が持てますが、高知県監査委員監査基準の表現とは異なることになります。文末後に改行し、接続詞無しで異状を報告しています。
1-2 「重要な点において」を主語の後ろに置く呉市の監査報告
上記「1-1」の方法では、「監査した限り、」という文言が読みにくいきらいがあります。そこで、問題の「重要な点において」を主語の後ろに移動して重複感を解消して、「監査した限りにおいて」と記載する方法もあります。
呉市監査委員は、令和6年2月21日付けの監査報告では部局ごとに監査報告書を作成していますが、それぞれの「8 監査の結果」の冒頭は、次のとおり「重要な点において」を主語の後ろに置いています。異状の報告は、改行して「なお」書きとして記載しています。
ちなみに、総務省監査基準案には、第15条第2項の各号の冒頭が繰り返されていて重複感を拭えませんが、呉市監査基準第18条第2項は、次のとおり「限りにおいて」で終わる冒頭部分を第2項の本文に規定してまとめることで重複感を解消しています。
1-3 「監査した結果、」と記載している豊橋市の監査報告
監査結果の記載において、監査委員は従来、「監査の結果」という表現を用いていました。これは、地方自治法上、監査報告が「監査の結果に関する報告」と表現されているのを踏まえてのものです。一方、総務省監査基準案は「監査した限りにおいて」という責任限定的な表現にしています。財務諸表監査では、「監査の結果」という表現はないためでしょう。これは、財務諸表監査が一発勝負だからでしょう。
しかし、監査委員監査には「一事不再理」はなく、むしろ、問題が詳らかになるまで、何度でも監査する責任がありますから、ことさら責任限定的な表現にする必要はありません。また、総務省監査基準案自体も第15条第1項第6号では「監査等の結果」と表現していますから、監査結果を記載する文章でも、「‥‥監査した限りにおいて」ではなく、「‥‥監査した結果」と記載するのが自然です。ただ、その場合は、監査基準においても「のとおり監査した結果」と規定することになるでしょう。
豊橋市監査委員は、令和6年3月27日付け豊橋市監査公表第20号の監査報告で、「第4 監査の結果」を次のとおり記載していますが、豊橋市監査基準では総務省案と同様に「監査した限りにおいて」と規定しています。末尾は「ものの、」で止め、続く異状の報告と合わせて一文としています。
1-4 「監査した限りにおいて」を記載していない秋田県の監査報告
監査報告では「監査の結果」という表題を設けていますので、わざわざ「監査した限りにおいて」という語句を記載する意味はあるのか、という疑問は生じます。そこで、監査基準通りの記載とは言い難いですが、その副詞句を省略した文言で記載する監査委員も登場しました。
秋田県監査委員は9月10日付けの監査報告で、「4 監査の結果」を次のように記載しています。
ちなみに、秋田県監査委員は令和5年10月10日付け監査報告では「3 監査の結果」の冒頭を次のように記載していました。
1' 無理のない記載で妥当性認否を行わせる監査基準を策定している横浜市監査委員
横浜市監査委員が策定している横浜市監査委員監査基準は、「財務監査等の結果に関する報告等への記載事項」について定めている第20条の第2項と第3項を次のように規定しており、3Eについてまで妥当性認否を行わせるような負担をかけることがない監査基準としている。
そして、令和6年3月21日付けの監査報告では、「第1 監査の概要」「4 監査結果の概要」の冒頭を次のように記載している。
2 監査結果として記載する内容を二者択一にしない監査基準を策定している12自治体の監査委員
財務諸表監査の考え方に沿って、是か否かの判定を行うことができたとしても、是否のメッセージを監査結果として記載することに意味があるか、という問題があります。財務諸表監査はほとんどが是であり、是の場合に何らかのアクションを起こすことになりますから、記載する意味は大きいと言えます。しかし、監査委員監査ではほとんどの場合は是になることは財務諸表監査と同様ですが、財務諸表監査と異なり、是の場合は監査報告の読者(議会、首長)にアクションを求めないわけですから、記載する意味はありません。(「2-2」で後述する奈良県は「是」の規定を設けていません。)また、否の場合は、定型的に否と記載するのではなく、経理紊乱の規模など「否」たる所以を監査報告に明瞭に記載して議会等へ報告するべきですし、場合によっては「勧告」(地方自治法第199条第11項)を行うべきで、監査結果として「否」と記載するだけでは足りません。その意味で、「否」のみを記載する意味もないでしょう。
つまるところ、不特定多数の読者を想定する財務諸表監査の監査報告の発想を、読者が当該自治体の議会と首長等と限定され、その読者が、監査報告の趣旨を監査人に問い質す機会がある公監査に持ち込むことに無理があるとも言えます。
総務省監査基準案は、「監査等の範囲及び目的」と題している第2条の第1項各号で「‥‥ているか監査すること」などと財務監査などの目的を定めています。その上で、「監査等の結果に関する報告等への記載事項」と題している第15条の第2項の各号でそれぞれの監査目的を引用する形で、重要な点において「‥‥ていること」が認められた場合にはその旨を記載すると義務付け、第3項では、重要な点において認められない場合にはその旨を記載すると義務付けています。この二者択一的記載義務を回避するためには、さまざまな方法があります。
一つは、「重要な点において」を規定しない方法で次の「2-1」で紹介します。
次に、多いことが予想される「是」の場合を規定せず、「否」の場合も任意記載とする方法があり、「2-2」で紹介します。
3番目に、目的規定を引用しているものの、具体的な記載方法は示さない方法があり、「2-3」で紹介します。
4番目に、「目的を踏まえて監査委員が必要と認める事項」という規定ぶりで、総務省監査基準案の顔を立てる形で、任意記載を規定する方法で、「2-4」で紹介します。
5番目は、監査委員の判断に委ねると規定する方法で、「2-5」で紹介します。
2-1 「重要な点において」を規定していない吹田市の監査基準
総務省監査基準案は、検討の最終段階で「重要な点において」という文言を挿入して、全体として是か否かの認定を監査結果として記載する義務を課していることを明確にしています。逆に、その文言を入れないと、全体としての認定を義務付けない監査基準となります。
吹田市監査委員は、総務省案第15条第2項及び第3項に相当する規定を吹田市監査基準第18条第3項に置いており、その第3項本文と同項第1号は次のとおりです。
そして、吹田市監査委員は、令和6年3月29日付けの監査報告では「6 監査の結果」「 ⑴」の冒頭を次のとおり記載しています。「重要な点において」の文言を挿入していますが、「おおむね」も挿入して個別評価の集積との認識を示しています。これは、上記の監査基準に従った記載と言えます。
なお、吹田市監査委員は監査基準前の令和2年3月30日付けの監査報告では、「1 定期監査等」「(6) 監査結果」の冒頭を「監査の結果、以下のとおり改善すべき事項がありました。」と異状だけの記載でした。
2-2 「是」を規定せず、「否」を任意記載で規定している奈良県の監査基準
前述したように、是の認定は意味がないとして、その記載を義務化している総務省案第15条第2項に相当する条項を規定せずに、妥当性を否認する場合の同条第3項に相当する条項を規定するという方法もあり得ます。
奈良県監査委員は、次のように奈良県監査基準第15条第2項を規定しており、是を規定せず、「など」を付して「監査委員が必要と認める事項」の例示とすることで任意記載としています。これにより、全体評価を是か否かで選択的に記載させる義務を免れています。
そして、令和6年2月26日付けで公表した監査報告の「7 監査の結果」「(3) 所属別」では、異状があった監査箇所については異状のみを記し、異状がなかった箇所については次のように記しています。
ちなみに、監査基準前の令和2年2月26日付けの監査報告でも「5 監査の結果」の「(3) 所属別」では、異状を記載しているだけで、異状があった箇所については異状のみを記し、異状がなかった箇所については次のように記しており、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
2-3 目的規定を引用するものの拘束していない宇都宮市の監査基準
総務省監査基準案第15条第2項及び第3項は監査結果の記載に関する条項ですが、第2項各号に規定されている文言は、総務省監査基準案で「監査等の範囲及び目的」を定めている第2条の第1項を踏まえたものとなっています。この条項は「監査、検査、審査その他の行為のうち、本基準における監査等は次に掲げるものとし、それぞれ当該各号に定めることを目的とする。」と規定していて、例えば、財務監査については第1号で「財務に関する事務の執行及び経営に係る事業の管理が法令に適合し、正確で、最少の経費で最大の効果を挙げるようにし、その組織及び運営の合理化に努めているか監査すること」と定めています。
監査報告はこの目的を踏まえた記載をすることを総務省監査基準案第15条第2項は求めているわけですが、監査結果記載に関する条項で、監査の目的と同様な表現を引用しつつも、記載については義務化しない、というアプローチもあり得ます。
宇都宮市監査委員は、総務省案第15条第2項及び第3項に相当する宇都宮市監査基準第16条第2項を「前項第7号に規定する報告等の記載事項は,おおむね別表第2に定めるとおりとする。」とした上で、その別表第2で、例えば、定例監査と随時監査については監査の結果として記載するものを次のように定めており、解釈の自由度が高い規定となっています。
そして、第3項では「監査委員は,指摘事項又は意見若しくは要望事項があると認められるときは,その内容を第1項第7号に規定する監査等の結果に記載するとともに,必要に応じて,監査等の実施過程で明らかとなった当該事項の原因等を記載するよう努めるものとする。」と規定しています。
6年3月15日付けの監査報告では「8 監査の結果」には「(1) 指摘事項の概要」「(2) 指摘事項の内容」との項目立てで是否認定を記載することなく異状を報告しているだけです。監査基準前の2年3月17日付けの監査報告でも同様に記載しており、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。ちなみに、「意見及び要望」が「8 監査の結果」とは別枠で記載されており、「意見若しくは要望事項」を監査の結果で記載するとしている監査基準との間に若干の乖離が生じています。
2-4 「目的を踏まえて監査委員が必要と認める事項」を記載させる北海道、札幌市、群馬県、神奈川県、山梨県、長野県、京都府、山口県の監査基準
総務省監査基準案では、目的を定めている第2条第1項各号と監査結果記載について定めている第15条第2項各号とで、文言が重複している感は否めません。
この重複感を解消しつつ、二者択一的全体評価を回避する方法として、監査の結果の記載について、全体評価の選択的是否認定の記載義務などを定めずに「目的を踏まえて監査委員が必要と認める事項」と抽象化して規定する方法もあります。
この方法を選択しているのが、北海道、札幌市、群馬県、神奈川県、山梨県、長野県、京都府及び山口県の監査委員です。
このうち、北海道監査委員は、「監査等の結果に関する報告等への記載事項」と題する総務省案第15条に相当する規定を北海道監査委員監査基準に置いており、その第15条第2項を次のように定めています。
この規定は「目的を踏まえて」という限定はあるものの、「監査委員が必要と認める事項」という記載で、報告を作成する監査委員にほぼフリーハンドを与えていると言えます。この規定は、6年8月30日の監査基準改正(同日施行)で設けられたもので。改正前は総務省監査基準案と同様の規定でした。
そして、改正後の9月4日に公表した令和5年度定期監査結果報告書(年間総括)の「第1 監査の概要」の「6 監査結果と所見」の冒頭を次のように記載している。
これは、前年の監査報告と同様の記載で、監査基準と監査報告の生合成を図るために監査基準を改正したのだと理解できます。
札幌市監査委員は、総務省案第15条第2項及び第3項に相当する規定を札幌市監査委員監査基準に置いており、その第18条第2項を次のように定めています。
札幌市監査委員は令和6年1月24日の監査報告では定期監査の「監査の結果」の冒頭を「対象となった事務について、次のとおり指摘すべき事項等がみられた。」として異状を報告しています。監査基準前の令和2年2月28日付け監査報告では、「監査の結果」の冒頭を「おおむね良好と認められたが、次のとおり一部の部局において注意、改善及び検討を要する事項がみられた。」と、肯定的評価を記載していましたが、2年7月29日の監査報告では、提出文の説明に「3 札幌市監査委員監査基準の施行に伴う変更点について」を追加して次のように説明するとともに、監査結果の記載においても、現在と同様に肯定的評価を行なっていません。
群馬県監査委員は、総務省案第15条第2項及び第3項に相当する規定を群馬県監査委員監査基準に置いており、その第16項第2項を次のように定めています。
群馬県監査委員は、6年2月16日付けの監査報告で監査箇所別に監査結果を一覧表で示しており、異状があった箇所については当該異状を記載し、異状がなかった箇所については「指摘事項、注意事項及び検討事項に該当するものはなかった。」と記載しています。ちなみに、群馬県監査委員は、2年2月28日付け監査報告でも同様に記載しており、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
神奈川県監査委員は、総務省案第15条第2項及び第3項に相当する監査結果の記載に関する規定を神奈川県監査委員監査基準第15条第2項として次のように定めています。
そして、神奈川県監査委員の5年10月10日付けの監査報告では、「第7 監査の結果」「1 監査結果の概要」の冒頭を「監査の結果、指摘事項が 252 件認められ、その内訳は、不適切事項 243 件(うち既報告32 件)、要改善事項9件である。」と記載しています。神奈川県監査委員は監査基準制定前の元年10月7日付けの監査報告でも、「第3 監査の結果」「1 監査結果の概要」の冒頭を「監査の結果、指摘事項が 193 件認められ、その内訳は、不適切事項 174 件(うち既報告 29件)、要改善事項19件(うち既報告1件)である。」と制定後と同様に記載しており、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
山梨県監査委員は、総務省案第15条第2項及び第3項に相当する山梨県監査基準第18条第2項を次のように定めています。
そして、令和5年度 定例監査実施結果では「7 監査結果」の冒頭を「財務に関する事務及び工事の執行全般について、概ね適正に処理されていたが、一部において改善を要する事項が認められた。」と記載しています。これは、監査基準制定前の平成30年度 定例監査実施結果と同様であり、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
長野県監査委員は、総務省案第15条第2項及び第3項に相当する長野県監査委員監査基準第15条第2項を次のように定めています。
そして、「令和5年度定期監査の結果に関する報告」では、「第2 監査結果」「1 監査結果」「(1) 総括」の冒頭を「一般会計・特別会計において、指摘事項が1件、指導事項が25件、検討事項が2件ありました。企業特別会計においては、指摘事項等はありませんでした。」と記載しています。これは監査基準策定前の「令和元年度 定期監査の結果に関する報告」と同様であり、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
京都府監査委員は、総務省案第15条第2項及び第3項に相当する京都府監査基準第15条第2項を次のように定めています。
そして、令和6年3月26日の監査報告では、「3 監査の結果」「(1) 監査結果の概要」の冒頭を、「令和5年12月27日から令和6年1月31日までの監査委員会議において、指摘事項5件を、次のとおり決定した。」と記載しています。監査基準施行前の令和2年1月17日付け監査報告では「第1 定期監査」「「3 監査の結果」の冒頭を「監査の結果は以下のとおりである。」と記載してあり、表現は異なりますが、異状の報告だけで肯定的評価の記載がないことについては、監査基準制度導入の前後で変化はありません。
山口県監査委員は、総務省案第15条第2項及び第3項に相当する山口県監査委員監査基準第17条第2項と第3項を次のように定めており、総務省監査基準案の「是正又は改善が必要である事項」という表現を「改善留意が必要である事項」に変更しています。
山口県監査委員は、監査基準前の令和2年3月27日付けの定期監査の報告では、「I 令和元年度(通年)」「2 監査の結果」の冒頭を「定期監査の結果、改善留意を要するもの168機関、476件のうち、不適正の度合いが大きく、報告・公表すべきと認めたものは51機関、89件あった。」と記載しています。そして、監査基準後の6年3月26日付けの監査報告では、「2 監査の結果」の冒頭を「定期監査の結果、 改善留意を要するもの80機関、 308件のうち、 不適正の度合いが大きく、報告・公表すべきと認めたものは20機関、40件あった。」と記載しており、監査基準制度導入の前後で、「改善留意を要するもの」との表現を含め、監査結果として記載する内容に変化はありません。
2-5 監査報告を作成する時点の監査委員に委ねている愛知県
是否の記載を規定せずに、任意記載のみを規定するアプローチもあり得ます。ただ、その場合は、異状報告の規定との関係が問題となります。
愛知県監査委員は、総務省案第15条第2項及び第3項に相当する愛知県監査委員監査基準第15条第2項を次のように定め、監査報告を作成する監査委員にフリーハンドを与えています。また総務省案第15条第4項の異状報告に関する規定は、そのまま採用して第3項として規定しています。
愛知県監査委員は、監査基準前の元年9月6日付けで公表した監査報告の「第2 監査の結果」の「1 概況」の冒頭では「監査の結果、25 件の注意改善を必要とする事項があった。」と記載し、「2 監査結果」の冒頭では、「注意改善を必要とする事項の内容及び監査意見は、次のとおりである。なお、 指摘事項等については、主にどのような観点(合規性、経済性、効率性、有効性) から、注意改善を必要とするかを括弧書きで付記した。」と記載していました。そして、監査基準後の令和5年の監査報告では「第2 監査の結果」「2 監査結果」の「(1) 概況」の冒頭で「監査の結果、30 件の是正又は改善を必要とする事項があった。」と、「是正又は改善が必要である事項」と表現している監査基準に従った表現に変更しており、また、「(2) 監査結果」の冒頭でも、「是正又は改善を必要とする事項の内容及び監査意見は、次のとおりである。なお、是正又は改善を必要とする事項については、主にどのような観点(合規性、経済性、効率性、有効性)から、是正又は改善を必要とするかを括弧書きで付記した。」と「是正又は改善を必要とする事項」へと変更していますが、基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
3 監査結果として異状を記載すると規定する監査基準を策定している9自治体の監査委員
上記「2-5」では、総務省監査基準案第15条第2項及び第3項に替えて「監査等の種類に応じ、監査委員が必要と認める事項を記載する」と規定する対処方法を紹介しました。ただ、これですと、続く異状報告の規定との関係が分かりにくいものになります。そこで、第2項及び第3項に相当する規定を設けないという対処もあります。例えば、「1」で言及した都市監査基準に関しては、全国都市監査委員会のサイトに「(参考:都市監査基準対案)」という資料も掲出されていますが、この資料には、総務省監査基準案第15条第2項及び第3項に相当する規定について、これを削除するべきとする意見も記載されており、削除すべき理由が次のように説明されています。
この対案のとおり、総務省監査基準案第15条の第2項及び第3項に相当する条項を規定していない監査基準も存在します。具体的には、八戸市監査基準、栃木県監査委員監査基準、東京都監査委員監査基準、岐阜県監査委員監査基準、静岡県監査委員監査基準、京都市監査基準、堺市監査委員監査基準、兵庫県監査委員監査基準、神戸市監査基準及び鳥取県監査基準です。
次の「3-1」では、第2項及び第3項に相当する条項で異状を報告する範疇を規定している監査基準を、「3-2」では総務省監査基準案第15条第4項に相当する規定だけを残している監査基準を、「3-3」では、第1項から第4項までを一括して規定している監査基準を紹介します。
3-1 異状の原因究明とは別に、異状を報告する範疇を規定している静岡県、岐阜県
静岡県監査委員は、総務省案第15条第2項が監査の種類別に監査結果の記載を規定していたのと同様な条項を静岡県監査委員監査基準第15条第2項として規定していますが、その条項で記載を求めているのは、次のとおり異状を分類して記載する旨であり、続く第3項には総務省監査基準案第15条第4項と同じ規定を置いています。
静岡県監査委員は、2年3月10日付けの定期監査報告では、「第2 定期監査(出先機関)の結果」を「1 監査委員が監査対象機関で実施したもの」と「2 監査委員が書面で実施したもの」に分け、それぞれで監査箇所別に監査結果を「指摘」「注意」の別に「なし」「特殊勤務手当の不正受給」などと記しています。そして、5年12月19日付け静岡県監査委員告示第17号の監査報告では、「第2 定期監査(出先機関)の結果」を「1 監査結果がある機関(監査結果の概要は別表のとおり。)」と「2 監査結果がない機関」に分け、「1」では監査箇所ごとに異状を「注意 不動産取得税の課税誤り」などと記載しており、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
岐阜県監査委員は、岐阜県監査委員監査基準を令和6年3月27日に改正(4月1日施行)し、第15条第2項第1号「⑴ 財務監査」を次のように定め、監査の結果には「当該各号に定める事項その他監査委員が必要と認める事項を記載するものと
する。」と第2項本文で定めています。
そして、7月30日付けで公表している監査報告には、「5 監査の結果」として次のように記載しています。これは、令和元年7月26日決定の監査報告で「第2 監査の結果」を「監査の結果、23 機関において、18 件の指摘事項及び 15 件の指導事項が認められたので、対象機関に対し是正又は改善の措置を講ずるよう求めた。」と記載していることを踏襲しているものと理解できます。
3-2 異状の記載は規定している八戸市、栃木県、東京都、兵庫県、京都市、鳥取県
総務省監査基準案で問題となる第15条第2項及び第3項を削除する変更にとどめている監査委員がいます。第4項の表現を変更している監査委員も含めると、6都県市の監査委員です。
八戸市監査委員は、令和6年2月22日付けの監査報告では、「5 監査の結果」を次のように記載しています。
そして、監査基準前の2年2月6日付け監査報告でも「6 監査の結果」を同様に記載しており、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
栃木県監査委員は令和6年3月8日付けの監査報告では、監査結果を監査箇所別の一覧表で示し、異状がある箇所には当該異状を記載し、異状がなかった箇所については「指摘事項、注意事項及び検討事項に該当するものは認められなかった。」と記載しています。監査基準前の2年3月10日付けの監査報告でも同様に監査結果を監査箇所別の一覧表で示し、異状がある箇所には当該異状を記載していますが、異状がなかった箇所については「指摘事項に該当するものは認められなかった。」と記載していました。表現こそ違いますが、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
東京都監査委員は、東京都監査委員監査基準では、監査結果について「監査委員は、指摘事項又は意見・要望事項が認められる場合は、その内容を監査等の結果に記載するとともに、必要に応じて、監査等の実施過程で明らかとなった当該事項の原因等を記載するよう努める。」と定めていて、総務省案の「是正又は改善が必要である事項」との表現を「指摘事項又は意見・要望事項」へ変更しています。令和5年9月11日付けの監査報告では、「第2 監査の結果」「1 監査結果の概要」の冒頭に「監査の結果、是正・改善すべき事項が認められたので、表3及び表4のとおり、16局に対し、116件の指摘、2件の意見・要望を行った。」と異状を記載しています。監査基準制度前の令和元年9月13日付けの監査報告でも同様に、「第2 監査の結果」「1 監査結果の概要」の冒頭に「監査の結果、是正・改善すべき事項が認められたので、表2及び表3のとおり、20局に対し、68件の指摘、11件の意見・要望を行った。」と異状を記載しており、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
兵庫県監査委員は、令和元年12月2日付けの監査報告で、「第2 監査の結果」の「1 総括」の冒頭を次のように記載しています。
そして、5年11月30日付けの監査報告でも、「第2 監査の結果」の「1 総括」の冒頭を「今回の監査の結果、指摘事項が31機関・3団体において87項目あった。内容面では収入事務と契約事務が多く、両事務で全指摘項目の約6割を占めている。」と記載しており、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
京都市監査委員は、京都市監査基準で異状の報告について「監査委員は、措置を講じるべき事項があると認めるときは、その内容及び必要に応じてその原因を監査等の結果に記載するものとする。」(第15条第3項)と定めて、総務省案の「是正又は改善が必要である事項」との表現を「措置を講じるべき事項」へ変更しています。令和2年3月31日付けの監査報告の「第2 監査の結果」では、部局の別に「(1) 抽出した課等」と「(2) 指摘事項」を記載しており、後者では、異状がある部局では当該異状を記載し、異状がない部局では「‥に措置を求める指摘事項はありませんでした。」と記載しています。そして、翌年の3年3月31日付けの監査報告では、「第2 監査の結果」の冒頭に監査と報告に対する姿勢を説明した上で、「1 重点監査項目」をまず記載し、その「(1) 選定理由」と「(2) 結果」を記載しています。そして「2」以降で。前年に「1」以降として記載していた部局別の監査結果を記載していますが、構成は、前年の「(1) 抽出した課等」、「(2) 指摘事項」に「(3) 改善済事項」を加えていますが、異状の説明は「専決権限の行使」など種別が記載されている簡素なものになっています。異状があれば当該異状を記し、なければ「措置を求める指摘事項は認められなかった。」と記していることは前年と同様です。5年3月30日付けの監査報告も3年のものと同様ですが、異状の説明は「専決権限を有しない職員が支出等の決定をしていたものがあった。」など3年よりは充実しています。また「1 重点監査項目」では、新たに「(3) 総括(令和3年度及び令和4年度)」が追加され、記載がより充実されています。そして、その末尾は次のようなものです。
もっとも、令和6年4月5日付けで公表している監査報告では、構成は同じですが、上記の「(3) 総括」の記載はなくなっています。4人の監査委員のうち3人が変わった影響かと思いますが、そのことは、監査委員主導で監査報告を作成していることを示唆しています。
以上見てきたように、京都市監査委員は、監査報告を充実させてきています。ちなみに、総務省監査基準案にある様々な重複感の一つに、監査等の結果に関する報告の記載事項の一つに「監査等の結果」を挙げるというものがありますが、京都市監査基準は、その重複感を回避しています。その方法は、第15条の題名を「(監査等の結果を記載した書面の作成)」として「報告等」という表現を回避し、第1項を「監査委員は、監査等を終了したときは、その結果を記載した書面を作成するものとする。」とし、第2項を「前項の書面には、監査等の結果を決定した監査委員の氏名を表示するほか、次に掲げる事項を記載するものとする。ただし、監査等の性質によりその記載事項を省略することがある。」として、続く各号には「監査等の結果」を規定していないというものです。
鳥取県監査委員は、サイトに掲出している監査報告は3年度分であり、監査基準前のものは掲出されていません。令和5年11月28日付けの監査報告では、「第1 監査結果報告」「2 監査の実施状況」の「(1) 概要」で、異状の報告区分を説明し、「(2) 勧告事項」で、「今回、監査を行った結果、勧告事項に該当するものは認められなかった。」と説明し、「(3) 指摘・注意事項及び実施状況」で、次のように説明していて異状の報告に終始しています。
3-3 監査結果の記載についてまとめて規定している堺市、神戸市
堺市監査委員は、堺市監査基準で「報告書等の記載事項」と第した第17条で「監査報告書、検査報告書及び審査意見書には、おおむね次の各号に掲げる事項を簡潔明瞭に記載する。」とした上で、その「(5) 監査等の内容及び結果」に「ア 指摘事項」、「イ 事務の執行、事業の管理状況等についての意見」、「ウ 外部の専門家に監査の事前調査を委託した場合はその旨」を列記しています。サイトに掲出している監査報告は3年度分であり、監査基準前のものは掲出されていません。令和5年12月21日付けで部局別に4本の監査報告を公表しており、その「第5 監査の項目及び結果」では、監査項目毎に異状があればその異状を、異状がなければ「‥に係る事務について関係書類を調査した結果、特に指摘すべき事項はなかった。」と記載しています。
神戸市監査委員は、神戸市監査基準の「監査等の結果に関する報告への記載事項」と題した第17条の第1項で「監査等の結果に関する報告には、概ね次の各号に掲げる事項を記載する。」として、その「(2) 監査等の結果」に次のように列挙しています。
つまり、総務省監査基準案第15条が第1項から第4項までで規定している内容を第17条第1項だけで規定しています。
令和2年3月30日付けの監査報告では、「Ⅱ 監査の結果」と「Ⅱ 監査の結果(各局別)」を設け、前者では「今年度の重点監査項目「会計年度所属区分」については,監査の結果,事務処理はおおむね適正に行われているものと認められた。」とした上で15項目の異状を詳細に記しており、後者では部局別に監査結果を記していて、部局毎に「1 監査の結果」で「監査の結果,事務処理はおおむね適正に行われているものと認められた。しかし,事務の一部について次のような改善を要する事例があったので,今後,適正な事務処理に努められたい。」とした上で異状を詳細に記しています。そして、5年12月18日付けの監査報告では、「II 監査の結果」を部局別に記載しており、それぞれ「1 監査の結果」を「監査の結果、事務処理はおおむね適正に行われているものと認められた。しかし、事務の一部について次のような改善を要する事例があったので、今後、適正な事務処理に努められたい。」とした上で、異状を詳細に記載していて、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
4 監査結果の記載について定めを置いていない監査基準を策定している5自治体の監査委員
上記「3」記載の監査基準のいずれも、監査結果として記載する内容について何らかの定めを置いていますが、監査結果として記載する内容について定めを置いていない監査基準も存在します。
4-1 監査結果の記載内容について何の定めも置かない川越市、八尾市、尼崎市、奈良市
川越市監査委員は、川越市監査基準に「監査報告等の内容」として第20条を置いており、第1項では、「本基準に準拠している旨」、「監査又は検査の結果及び意見」など8項目を列挙していますが、あとは第2項で「監査又は検査の結果及び意見を決定するための合理的な基礎を形成することができなかった場合」の定めを置いているだけです。その川越市監査委員は、監査基準前の令和2年2月26日付けの監査報告の「第5 監査の結果」には、異状があったところには当該異状を記載し、なかったところには「監査の対象となった各施設における施設管理等については、法令に準拠するなど適正に執行されているものと認められた。」と肯定的評価を記載していました。そして、監査基準制定後の6年3月27日付けの2本の監査報告では、部(統制単位)ごとに監査報告書を作成しており、それぞれの「第6 監査の結果」では、異状があった監査対象についても「監査の対象となった部署における事務の執行及び財務に関する事務の執行について、以下の点を除き、おおむね適正に執行されているものと認められた。」と肯定的評価を記載しており、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
八尾市監査委員は、八尾市監査基準に「監査等の結果に関する報告等への記載事項」として第14条を置いており、そこでは、「この基準に準拠している旨」、「監査等の結果」など7事項を列挙していますが、その「監査等の結果」に記載することについいては何らの定めを置いていません。その八尾市監査委員は、6年3月4日付け監査報告で、「6 監査の結果」の冒頭を次のように記載しています。
これに対して、監査基準前の2年3月30日付けの監査報告では「5 監査の結果」の冒頭を次のように記載しています。この記載は3年1月4日付けの監査報告や4年3月3日付けの監査報告、5年2月28日付けの監査報告でも踏襲されており、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
尼崎市監査委員の尼崎市監査基準も、「監査報告等の内容」と題した第21条には、第1項で「監査報告等には、原則として次に掲げる事項を記載するものとする。」として1号から8号までを列挙していますが、その第7号に規定した「監査等の結果」に記載する内容についての定めは置いていません。
尼崎市監査委員の令和2年3月24日付け監査報告は、とても興味深いものとなっています。監査報告の冒頭に、「「都市監査基準」の適用に伴う監査手続の変更について」と題するコラム的な長文の記載があり、その構成は「背景」と「監査手続き変更の考え方」から成り、前者には「1 地方自治法が定める監査委員監査」「2 国による監査制度の見直しと、「都市監査基準」の策定」「3 「これからの自治体ガバナンスのあり方」を受けた地方自治法改正」が記載されています。後者では、変更した内容が次のように記載されていま。
この次の段落には31年3月29日付け総務省通知の説明がありますが、上記までの文章は30年3月26日付け監査報告から記載されていました。そして、上記2年の監査報告も、令和6年3月22日付けの監査報告も、冒頭に「〇〇年度監査結果を総括して」という項目を置くなど斬新で素晴らしい構成をしており、監査基準の前後で記載する内容に変化はありません。
奈良市監査委員の奈良市監査基準も、「監査等の結果に関する報告等への記載事項」と題した第12条で「監査等の結果に関する報告等には、おおむね次の各号に掲げる事項を記載するものとする。なお、監査委員は、重大な制約等により重要な監査等の手続を実施できず、監査等の結果及び意見を表明するための監査等に係る証拠を入手することができなかった場合には、必要に応じて監査報告等にその旨、内容、理由等を記載することができる。」として1号から5号までを列挙していますが、その第5号に規定した「監査等の内容及び結果」に記載する内容についての定めは置いていません。
奈良市監査委員は、令和6年3月29日付けの監査報告で、「4 監査結果」の冒頭を「監査した財務に関する事務は、おおむね適正かつ効率的に執行されているものと認められたが、一部において改善を要する事例が見受けられたので、その措置を講じられたい。」と記載しています。ちなみに、既往の監査報告は3年度分が掲出されており、監査基準導入前後の比較はできません。
4-2 監査報告の記載内容について定めを置いていない大阪府
上記の監査基準のいずれも、監査報告に記載する事項について何らかの定めを置いていますが、監査報告に記載する内容について定めを置いていない監査基準も存在します。大阪府監査基準は条文数が9で、「報告、公表等」と題する第9条はありますが、報告の内容への言及はありません。
大阪府監査委員の令和2年2月21日付けの監査報告は、報告文では、「監査の結果」を「別添のとおり。なお、別表2の機関においては、検出事項に該当するものはなかった。」と記載し、別添は、検出した異状毎に1ページに「対象受検機関」・「検出事項」・「是正を求める事項」又は「事務事業の概要」・「検出事項」・「改善を求める事項(意見)」をまとめたものを編綴しています。そして、5年度の監査報告でも同様であり、監査基準制度導入の前後で、監査結果として記載する内容に変化はありません。
なお、大阪府監査基準の規定が簡素だからといって、大阪府監査委員の監査が充実していないわけではありません。むしろ、監査報告における監査結果の記載の充実ぶりは日本でトップクラスですし、また、報告されているものも、統制逸脱の事例に限らず、公的資源の活用度の向上を図る事案もあり、内容面でも日本のトップクラスです。
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