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今の監査委員に働く気があるのかを採点する方法('24年秋版)

 この記事は、初めて監査委員になられた方、また、就任を打診されて迷っている方のために記したものです。今までの監査委員が機能しているのかを採点し、自分にできることがあることに気付いてください。それでやる気を起こしてくだされば、筆者の目的は達せられます。それは、この記事が有効であったことの証になります。記事中で説明するように、目的達成は有効性を意味するからです。


 本記事では、監査委員が直面する課題のうち3E監査、監査基準策定及び監査報告作成を取り上げます。3E監査は、義務付けられているものの困難な課題であること、監査基準策定にも総務省が提案した案に問題があること、監査報告作成は監査の実効性を上げる肝であることから、また、正しくアプローチしている者とそうでない者とを外形的に判別し易いことから取り上げています。

第1 3E監査義務を意識して取り組んでいるか

 議会は、住民を代表して課税徴収権能を条例として、公金支出権能を予算としてそれぞれ首長に付与し、首長が行政組織に両権能を行使させます。その行使状況を監査委員が点検した結果に関する報告を議会は直接に又は間接に受け取り、必要があれば、監査委員から説明を受けたり、質疑したりして点検成果を確認します。
 行政組織は税金で維持されており、構成員に対する報酬は、行政組織のパーフォーマンスとは関係なく定まってきますので、構成員には常に「親方日の丸意識」が生じ易くなり、行政組織のパフォーマンスを確保するためには特段の努力が求められます。
 そこで、行政組織のパフォーマンスを確保するために、構成員が定められた仕事を定めに従って遂行しているかを点検する仕事(合規性監査)と、結果的にパフォーマンスが議会の期待どおりに発揮されているかを点検する仕事(3E監査)が、監査委員に課せられています。
 3E監査は、地方自治法第199条第3項で監査委員に義務付けられている監査です。この規定は、監査委員が財務監査と行政監査をするに当たつては、その監査対象が地方自治法第2条第14項及び第15項の規定の趣旨にのつとつてなされているかどうかについて、特に、意を用いなければならないと定めています。
 引用されている第2条第14項は「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」という規定であり、「住民の福祉の増進を図ること」は同法第1条の2で地方自治体の基本とされていることから、前段は行政組織に目的達成の努力を義務付けている規定といえ、後段は行政組織に効率的な業務遂行を義務付けている規定と言えます。したがって、これらに留意しなければならないという第199条第3項の規定は、監査委員に有効性(Effectiveness)の観点からの監査と効率性(Efficiency)の観点からの監査を求めていることになります。
 また、第2条第15項は「地方公共団体は、常にその組織及び運営の合理化に努めるとともに、他の地方公共団体に協力を求めてその規模の適正化を図らなければならない。」という規定であり、前段は膨張しがちな組織と業務について自制を求めるもので、後段も膨張の誘因がある規模について自制を求めるものといえます。したがって、これらに留意しなければならないという第199条第3項の規定は、監査委員に経済性(Economy)の観点からの監査を求めていることになります。この経済合理性だけでなく、「組織および運営の合理化」には目的合理性も含意しており、住民の福祉の増進という目的に沿って組織及び運営を動かしているか、という有効性(Effectiveness)の観点を読み取ることもできるでしょう。この解釈からか、地方自治法の逐条注釈では、「第三項は、監査委員が一般監査を行うに当たっての留意事項ないし監査の観点を示したものであり、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしているか(法二14)、組織及び運営の合理化に努めているか(法二15)といった点に、特に意を用いる必要がある。」(「新版 逐条地方自治法 第9次改訂版」(松本英昭)707頁)としており、「住民の福祉の増進に努める」を明示していません。
 本論に戻ると、第199条第3項が「特に、意を用いなければならない」としている観点とは3Eの観点であり、監査委員には3E監査が義務付けられていることになります。
 しかし、3E監査は、監査委員が通常、取り組んでいる合規性監査とは異質なために、次のように、この義務の遂行は困難であり、これを遂行しているかで監査委員を採点することができます。

1 長文になる低3E事象の報告を定期監査報告に記載できるか

 3E監査は合規性監査とどう異なるのか。まず、問題を取り上げる際の論点が異なります。
 合規性監査で発掘し、監査報告で取り上げる異状は、当為不履行(組織に課せられている規範で為すべきとされていることを行なっていないルール違反)です。合規性監査で異状に気づいた場合に、監査報告で取り上げるために確定すべきことが3点あります。一つはルール違反な確定した執行事実の特定(事績特定)、二つ目は、違反しているとするルールの根拠(為すべきであったことの認定=当為認定)、三つ目は、ルール違反が生じた主な原因が現場の落ち度か、ルールの指導にあるのかの認定(原因認定)です。ルール違反の責任が現場にあれば、当該箇所の問題になり、統制逸脱として指摘することになります。複数の箇所で発生していれば、規範付与者の指導に問題がある可能性があるため、その問題を究明する必要があり、指導の問題が明確になれば統制不備として指摘することになります。この場合は、改善策を記載することになりますが、原因認定が改善策の根拠になります。ちなみに、同一の当為不履行で原因が重畳している場合、統制逸脱と統制不備を指摘する場合もあり得ます。
 これに対し、3E監査で発掘し、監査報告で取り上げる異状は、低3E事象(公的資源にもっと経済的にする余地がある、もっと効率的にする余地がある又はもっと効果的にする余地がある事象)です。3E監査で異状に気付いた場合に、監査報告で取り上げるために確定すべきことは4点あります。1点目は、低3Eな公的資源の特定(事象特定)、2点目は低3Eとなっている背景(事象が生じるに至った背景)、3点目は3Eを向上させる改善策(改善案)、4点目は、その改善案が3Eを向上させる根拠(推奨根拠)です。
 監査報告に記載する際に問題となるのは、ルール違反の指摘は短文にし易いということです。「‥とされているのに、‥していた。」との構文を用いればワンセンテンスで記載することも可能です。これに対し、低3E事象報告の主眼は事態の改善にあり、関係者の全てに、改善の必要性と改善策の妥当性を納得させる必要がありますから、立論の4点はいずれも省略できず、長文にならざるを得ません。
 長文にならざるを得ない低3E事象を記載している監査報告には二つのパターンがあります。
 一つは、監査報告における指摘の文章を長文でも許している監査報告です。ルール違反の指摘も事案によっては指摘の内容が読者に理解できるようにするためには長文を余儀なくされるものもあり得ます。その場合他の事案と平仄を合わせるために無理に短文にするのではなく、長文で記載する慣行が成立していれば、長文の低3E事象も報告することが可能になります。
 今一つは、個別のルール違反の報告とは別な報告区分を用意してある監査報告です。例えば、ある程度長文になりがちな統制不備を、統制逸脱とは異なる区分で報告していれば、発見した低3E事象をその区分で報告することが可能になります。
 上記のいずれかのスタイルであれば、長文になる低3E事象も躊躇なく監査報告に記載できることを踏まえて、そのようなスタイルの監査報告を作成している監査委員には2ポイントを与えたいと思います。

2 過去3年間の定期監査報告に低3E事象が記載されているか

 長文の3E監査結果を記載できる監査報告になっていても、実際に低3E事象を発掘し、取りまとめるためには、合規性監査には必要のない作業が必要になります。なぜなら、3E監査の論点には、合規性監査にはない改善策の推奨根拠があるからです。
 そもそも、監査委員が発掘できるような低3E事象は、現場レベルでは認知されている問題のはずです。それが監査委員が指摘されるまで放置されていたのは、怠慢又は多忙の場合もあるでしょうが、多くの場合、現場レベルでは改善策が不明だったからであり、それは、推奨根拠を認識していなかったからです。逆に言うと、低3E事象を指摘するためには推奨根拠を入手する必要があります。3E監査に必要な作業とは、この推奨根拠の入手です。
 合規性監査の場合に必要なことは、監査対象の事績と課されている規範を照合し、その原因を調査することです。つまり、その監査に必要な知見は、その事務を遂行するために必要な知見で足り、通常の場合、周辺調査の必要はありません。
 これに対し、3E監査では、多くの場合、推奨根拠を入手するために周辺調査が必要になります。つまり、周辺調査が監査慣行となっていないと3E監査を行うのは困難です。
 この困難を乗り越えて低3E事象を監査報告に記載している監査委員は評価されるべきです。したがって過去3年間のいわゆる定期監査の報告に一つでも低3E事象を記載している監査委員は3ポイントを獲得して然るべきです。

第2 総務省監査基準案の問題を回避できているか

 平成29年(2017年)の地方自治法改正では、監査基準制度が創設されています。この制度の施行(2020年4月1日)に当たり、総務省は、2019年3月29日に「監査基準(案)」と「実施要領」を通知しています。この通知は、地方自治行政局長名により行われ、大臣名ではなく、大臣依命通知でもないことから、地方自治法第198条の4(「総務大臣は、普通地方公共団体に対し、監査基準の策定又は変更について、指針を示すとともに、必要な助言を行うものとする。」)に定める大臣の指針には該当しないと判断できます。「地方自治法概説 第10版」(宇賀克也)も、この通知は、地方自治法第245条の4第1項の規定に基づく技術的助言としての性格を有するとしています(359頁)。
 この総務省基準案は、財務諸表監査の知見を基に、公監査との相違を無視して策定されていることから、様々な問題を有しています。このため、その問題をどのようにクリアしているかを観ていくことで、監査委員のやる気と能力を採点できます。

1 第199条第4項の規定に基づく監査を定義していない問題

 監査委員の中心的な監査業務は地方自治法第199条第4項で監査委員に義務付けられている監査です。従来、監査委員は、この監査に「定期監査」「定例監査」などの名称を与えて、監査報告書にも、その名称を冠していました。これは、第4項監査を充実して行うためには必要に応じて財務事務以外の点検も欠かせないのが通例であり、このため、少なくない自治体の監査委員が、第4項監査を行う場合に必要に応じて行政監査を行うこととして、「定期監査」「定例監査」等の名称を与えていました。
 一方、総務省監査基準案は、監査の種類として「財務監査」「行政監査」の文言を用いているものの、地方自治法第199条第4項の規定に基づく監査には名称を与えていません。
 しかし、完全に定着している主要な監査業務の名称を監査基準で定めない合理的理由は見当たりません。したがって、真摯に監査基準を策定している監査委員は、第4項監査の名称を監査基準に規定しているはずであり、さもなくば、監査の種類について定めを置いていない監査基準にしているはずです。また、監査基準に従って監査等を行なっている真摯な監査委員は、監査基準に第4項監査の名称を定義していない場合は、その報告書に定義していない名称を用いることはありません。
 そこで、第4項監査の名称を監査基準に規定している監査委員には2ポイントを付与します。さらに、第4項監査の名称を監査基準で定義していないのに、定義していない名称を用いて監査報告に記載している場合は2ポイント減点するのが相当と考えます。

2 保存書類として「判断の経過」を求めている問題

 総務省監査基準案は「質の管理」を定めている第6条第2項で「監査委員は、監査計画、監査等の内容、判断の過程、証拠及び結果その他の監査委員が必要と認める事項を監査調書等として作成し、保存するものとする。」と定めています。これは、財務諸表監査の監査基準「第二 一般基準」の5として「監査人は、監査計画及びこれに基づき実施した監査の内容並びに判断の過程及び結果を記録し、監査調書として保存しなければならない。」と定められていることに倣ったものですが、そのために、さまざまな問題が生じることになりました。
 一つは、保存すべき監査経過記録書類の名称としている「監査調書」の文言です。
 従来、多くの監査委員は、問題があった場合に、その問題について監査対象組織に計数等を整理させた書類の作成を求めて提出させる際、その書類を「監査調書」と称していました。これは、訴訟法上の「供述調書」や会計検査院の「検査調書」の用例に倣ったものと思われます。
 そこで、総務省監査基準案に倣って自らの監査基準を策定する際には、従来「監査調書」と称していた書類に別な名称を与えるか、監査基準において監査経過記録書類に「監査調書」とは別な名前を与えるかを選択することになります。前者の対応をした一例として鳥取県監査委員を上げることができます。その「令和6年度版鳥取県監査委員のあゆみ」に記載されている「鳥取県監査委員のあゆみ」年表の令和元年度の欄には「監査資料(旧称:監査調書)」という表現があり、監査基準策定時に従来の「監査調書」の用語を「監査資料」へ変更したことが窺えます。これは、外部から窺うことができるケースですが、通常は、この対応をしても、外部からは分かりません。後者の対応をした場合は外部からは明確ですが、前者の対応をした場合が分からない以上は採点項目とすることはできません。ただ、これで危惧される事態は、総務省監査基準案に倣って監査調書を作成するとしておきながら、作成することなく、実務は従前と同様に行なっている場合です。この場合、公文書開示請求を行えば「不存在」と対応になるはずですから、外部から分からないわけではありませんが、評価項目としては採用しづらいところです。

 総務省監査基準案における監査調書の定めには別な問題もあります。それは、監査経過記録書類の作成対象に「判断の過程」が含まれていることです。これは財務諸表監査基準に倣ったものですが、これが財務諸表監査基準に含まれている理由を理解するためには、その背景を理解する必要があります。
 まず、理解する必要があるのは、監査基準の機能の一つに、不正経理を看過した監査人が生じた場合に、監査人全体に対する信頼を損なわないようにすることがあるということです。一つには、問題の監査人が監査基準に従っていないことを指摘して他の監査人に悪影響を及ぼすことを防ぐことであり、今一つは、従来の監査基準に不備があったとして監査基準を改正して、今後の監査に対する信頼を確保することです。つまり、監査基準は監査の失敗の予防策として機能し、監査の失敗の影響を限定的にものにする機能も有しています。
 その上で、監査調書の作成と保存を監査基準で義務付けているのは、監査の失敗が起こった場合に、その理由を事後的に解明できるようにするとともに、その義務付けで監査人が真摯に監査に当たることを確保するためです。
 そして、監査調書として作成する対象に「判断の過程」が含まれているのは、財務諸表監査の特性によるものです。
 すなわち、財務諸表監査は、対象の財務諸表が信頼に足るものか否かを監査結果として監査報告に記載し、その監査報告は対象の財務諸表と一体のものとして利用されます。そして、不特定多数の財務諸表利用者が監査結果を明確に理解できるよう、監査結果の記載を四つのパターンに限定して、それぞれで記載する文言を監査基準に定めています。4パターンとは、無限定適正意見、限定付適正意見、不適正意見、意見不表明であり、それぞれに記載すべきことが統一的な監査基準で定められています。例えば、無限定適正意見の場合には、次のような記載を行うことが監査基準で定められています。

(1)監査人の意見
 監査対象とした財務諸表の範囲、及び経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を全ての重要な点において適正に表示していると認められること
(2)意見の根拠
 一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行ったこと、監査の結果として入手した監査証拠が意見表明の基礎を与える十分かつ適切なものであること
(3)経営者及び監査役等の責任
〔略〕
(4)監査人の責任
〔略〕

監査基準 第四 三 無限定適正意見の記載事項〕

 このように定型化しているのは、不特定多数の監査報告利用者が、異なる監査人の監査報告の趣旨を的確に理解するためであり、また、当該会社ごとに個別情報を記載しないのは、営利企業に関する具体的情報を記載することを回避するという意味もあります。監査基準の「第二 一般基準」には、「8 監査人は、業務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は窃用してはならない。」とも定めています。これは、監査対象組織が躊躇なく説明することを確保して、監査を円滑に進めるためにも必要なことです。
 したがって、個別の監査において、無限定適正意見とした判断の過程を記録として残しておくことは監査人の弁明のためにも必要なことですし、また、監査の失敗があった場合に、責任を監査人に求めるか監査基準に求めるかを判断するためにも必要です。
 これに対し、公監査は事情が異なります。公監査は、議会の意向に沿って行政組織が与えられた権能を行使しているかを点検し、意向に沿っていないものを摘出して議会へ報告し、是正又は改善を図るものです。監査報告に記載するのは、異状としたものであり、合規性監査の場合は判断の根拠は明確で、判断の過程を書類として作成する必要はありません。3E監査の場合は、判断の根拠は監査報告に記載することになり、その判断の過程を書類として作成する必要はありません。
 したがって、公監査の場合には、「判断の過程」を書類として作成する必要はありません。あるとすると、決算審査についてでしょうが、財務諸表監査と異なり、監査報告利用者が、議会の質疑で質せば足りるはずですので不要でしょう。
 この総務省監査基準案に対して真摯な監査委員はいろいろな選択を迫られます。その選択は、そもそも、監査経過記録書類を作成する義務を設けるのか、設けた場合に「判断の過程」を含むのか、という選択です。財務諸表監査の監査人は私人ですから保存すべき文書を監査基準で定めておく意味はありますが、監査委員は公人であり、その活動に係る文書は公文書であって保存するのは当然であり、自ら策定する監査基準で義務付けするのは無意味です
 したがって、真摯に監査しようとしている監査委員は、監査経過記録書類を作成する義務を監査基準で定めないか、定めた場合も「判断の過程」は明記しないはずです。このいずれかの選択をしている監査委員に2ポイントを付与することにします。

3 第4項監査の結果を二者択一で記載させる問題

 総務省監査基準案は財務監査の結果に関する報告に、「監査の対象となった事務が法令に適合し、 正確に行われ、 最少の経費で最大の効果を挙げるようにし、その組織及び運営の合理化に努めていること」が重要な点において認められるか否かを監査結果として記載することを第15条第2項及び第3項に定めています。
 これは、財務諸表監査の場合に、不特定多数の監査報告読者が、監査対象の財務諸表が信頼に足るものか否かを明確に理解できるよう、4者択一で記載させることに倣ったものと言えます。これを踏まえると、財務監査の場合に二者択一で監査結果を記載する趣旨としては、課税徴収権能と公金支出権能を委ねるに相応しい相応しい組織になっているか否かを報告することが考えられます。
 しかし、委ねるに相応しい組織でないと判断した場合は、定型的な文章で記述するのではなく、そう判断した理由を具体的に記載する方が遥かに実効ある監査と言え、このように、二者択一で報告する意義は乏しいと言えます。したがって、真摯に監査基準を策定している監査委員は、二者択一で財務監査の結果を記載する監査基準にはしないはずであり、これによって監査委員を採点することが可能です。
 そこで、第199条第4項の監査結果を2者択一で記載させることとしていない監査基準を策定している監査委員に3ポイントを計上することにします。

4 地方自治法と重畳する規定を設けている問題

 監査基準制度の下敷きとなっている財務諸表監査の監査基準は、一般基準、実施基準及び報告基準から構成され、一般基準では監査主体についての定めが置かれています。監査委員の場合は、監査主体である監査委員についての規範は地方自治法で定められていますので、公機関である監査委員が監査基準という規範を策定するに当たっては、上位規範である地方自治法との重畳を避けることになります。
 一方、財務諸表監査の場合、例えば、公認会計士法第27条で「公認会計士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。公認会計士でなくなつた後であつても、同様とする。」と守秘義務が定められ、さらに、財務諸表監査基準でも「第一 一般基準」で「8 監査人は、業務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は窃用してはならない。」と守秘義務について定めています。前者は資格である公認会計士に関する規定であり、後者は職責である監査人に関する規定ですので重畳の問題は生じません。さらに、財務諸表監査基準自体が法規範ではなく「一般に公正妥当と認められる監査の基準」に過ぎないことからも重畳の問題が生じません。
 これに対し、監査委員は資格であるとともに職責であり、地方自治法の監査委員と監査委員監査基準の監査委員は同一ですし、監査委員は自らが策定する監査基準に従って監査等を行う法的義務がありますので、地方自治法の定めと同じ定めを置いた場合は、重畳の問題が生じます。このため、従前、都道府県監査委員は、一般基準が地方自治法で規定されているとして、共通の参考基準は実施基準に限定して定めており、一般基準は定めていませんでした。
 このような経緯がありつつ、財務諸表監査に倣って監査基準案を作成する立場に立った総務省はこの問題に悩まざるを得ません。
 想像になりますが、この悩みの一つとして監査基準案が局長通知になっているということがあると思っています。地方自治法第198条の4第5項は「総務大臣は、普通地方公共団体に対し、監査基準の策定又は変更について、指針を示すとともに、必要な助言を行うものとする。」と定めていますが、局長通知の監査基準案は、大臣の指針にはなっていません。その理由として、大臣通知とするために必要な総務大臣官房の法令審査を通過しないと判断して断念したのではないか、そのため局長通知として発出しているのではないかと筆者は想像しています。
 また、この悩みは、総務省が公式サイトで公表している「監査基準(案)及び実施要領についての地方公共団体からの主な意見・質問」でも確認できます。例えば、「守秘義務を監査基準に盛り込む必要はないのか。」との質問に対して、「守秘義務は、地方自治法において監査委員の行為規範として明確に規定しているものであり、監査基準に規定することとしていませんが、守秘義務等の本監査基準(案)に規定がない事項について、各地方公共団体の監査委員の判断で加えていくことは何ら問題ありません。」としています。つまり、総務省は、重畳を避けるけど、監査委員が重畳して監査基準を策定することについては文句を言わない、と言っています。
 一方、総務省監査基準案では、監査専門委員について地方自治法と完全に重畳する規定を置いています。地方自治法第200条の2第1項は「監査委員に常設又は臨時の監査専門委員を置くことができる。」とし、第3項で「監査専門委員は、監査委員の委託を受け、その権限に属する事務に関し必要な事項を調査する。」と定めています。そして、総務省監査基準案は、第13条第1項で「監査委員は、 必要に応じて監査専門委員を選任し、 必要な事項を調査させることができる。」と地方自治法の規定と同じ趣旨の規定を置いています。その上で第2項で「監査委員は、監査等の実施に当たり、効率的かつ効果的に実施することができるよう、監査専門委員、外部監査人等との連携を図るものとする。」と地方自治法と重畳しない規定を置いています。想像になりますが、外部監査人を監査基準に盛り込むべきであるという意見に押されて、この第13条を規定したのかもしれません。
 この問題は実施基準についてですが、報告基準においても地方自治法との重畳の問題は生じています。この問題が生じ易いことから前記の都道府県共通の参考基準は報告基準を定めていなかったわけですが、上記の総務省の資料では、「報告基準において、地方自治法に規定されている手続きを監査基準(案)に規定しているのは何故か。」という質問に対して「報告基準において、法令に規定のない事項のみを監査基準に規定することとすると、断片的な内容となりプロセスの全体像がつかめません。このため、本監査基準(案)には法令に定めのある事項についても必要な規定を設けています。なお、都市監査基準や標準町村監査基準も、法令に定めのある事項についても規定しているものと承知しています。」としています。
 この地方自治法との重畳については、最も重畳が明確な監査専門委員を監査委員の採点項目とします。つまり、地方自治法との重畳を避けて監査専門委員については規定しない監査基準を策定している監査委員と、重畳を避けた表現で規定している監査基準を策定している監査委員に2ポイントを付与することとします。また、問題の守秘義務について、地方自治法と重畳して監査基準で定めている監査委員は1ポイント減点することにします。

5 関係人調査について定めがない問題

 地方自治法は第199条第8項で「監査委員は、監査のため必要があると認めるときは、関係人の出頭を求め、若しくは関係人について調査し、若しくは関係人に対し帳簿、書類その他の記録の提出を求め、又は学識経験を有する者等から意見を聴くことができる。」という定めを置いています。この権限は、民間人を含め関係人に、強制はできないものの義務を生じさせる(「新版 逐条地方自治法 第9次改訂版」(松本英昭712頁))ものですから、その手続について監査委員であらかじめ合意を形成しておくことが望ましいと言えます。
 また、この関係人調査は公監査らしい監査である3E監査を行うために不可欠なものであり、国の公監査機関である会計検査院についても会計検査院法第28条で「会計検査院は、検査上の必要により、官庁、公共団体その他の者に対し、資料の提出、鑑定等を依頼することができる。」と類似の規定があります。
 しかし、総務省監査基準案は、監査専門委員についての定めを置いているのに、関係人調査については何も定めていません。おそらく財務諸表監査では必要とされないためと思いますが、次に述べるように、3E監査を行うのであれば必要不可欠の規定です。
 合規性監査においては、財務記録の閲覧と監査対象組織の説明により、どのように財務事務が行われたのかを把握し、それと規範を照合して適否を判断できます。また、正確性監査も把握した執行事績を記録と照合し、記録と帳簿を照合し、帳簿と決算書を照合することで正否を判断できます。
 これに対し、3E監査は、放置されている低3E事象の発掘であり、相手が無知の故に放置されていることも事象も多くあります。その場合、相手外から知見を得ることが必要となる場合があり、関係人調査権限を背景として、監査対象組織以外から説明を求めることもあります。
 関係人調査の権限を含め、公監査の実施に必要な権限をどう行使するかについては監査委員個々の判断に委ねられますが、関係人調査の結果は、監査報告の内容に関わることも多く、また、個々の監査委員が別々に同一の相手に行使して監査対象でない相手に余計な負担を掛けることを避けるために、監査委員の合議をあらかじめ成立させておくことは、円滑・迅速な行使のためにも望ましいと言えます。少なくとも、監査専門委員に関して地方自治法と重複的な規定を置くよりも必要性は高いと言えます。
 したがって、関係人調査に関して、行使要件などを監査基準に定めている場合には2ポイント付与することとします。

第3 策定した監査基準に従って監査報告を作成しているか

 総務省監査基準案の報告基準で、従来の実務になかったものが二つあります。一つは監査基準に準拠していることを監査報告に記載させようとしている点、今一つは前記「第2」の「3」で説明した監査結果を二者択一で記載させようしている点である。

1 監査基準に従って基準に準拠している旨を記載しているか

 総務省監査基準案は、「監査等の結果に関する報告等への記載事項」を定める第15条第1項第1号で、監査等の結果に関する報告等には、原則として「本基準に準拠している旨」を記載するものとすると定めています。これは、財務諸表監査基準「第四 報告基準」の「三 無限定適正意見の記載事項」に次の「(2) 意見の根拠」も記載することとされていることに倣ったものでしょう。

 一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行ったこと、監査の結果として入手した監査証拠が意見表明の基礎を与える十分かつ適切なものであること

監査基準

 ほとんどの監査委員は、この規定を採用して自らの監査基準を策定しています。
 ただ、これに従った原案を観た新任の監査委員が「地方自治法で監査委員は監査基準に従って監査等を行うことになっているのだから、この記載は意味がないだろう」という疑問を持つことも十分想定できます。そして、監査基準を変更する手続きを怠って、従来の記載を削除することも考えられます。
 監査基準変更の手続を怠り、監査基準で記載するとしている基準準拠を監査報告に記載していない監査委員には3ポイントを減点することとします。

2 二者択一的に監査結果を記載する監査基準に従っているか

 総務省監査基準案には監査結果を二者択一で記載させるという問題があり、その規定を採用しなかった監査委員には3ポイントを付与することは、前記「第2」「3」で説明しました。
 この規定には問題がありますが、前述したように、全く意味がないわけではありませんので、総務省監査基準案に倣って監査基準を策定し、実際に作成した監査報告において、その監査基準に従って監査結果を記載している監査委員には2ポイントを付与することとします。

第4 議選委員を廃止した6府市について採点

 上記のポイントで単独の自治体について採点しても、その数値のレペルが分からないと意味がありません。そこで、まず、議選委員を廃止している地方自治体の監査委員について採点し、その平均値を基準レベルとして設定することにします。
 採点の前に、議選委員廃止の意味について考えてみます。
 会計検査院にしろ戦後の監査委員にしろ、およそ公監査機関の監査報告は直接に又は間接に議会へ提出されます。これは、財政議会主義の下では、公監査が、行政組織の租税徴収、公金支出及び公的資源運用が議会の意向に沿っているかを点検するものだからです。
 もとより、議会は公監査機関に頼るだけでなく、自らが行政に委ねた権能の行使及びそれによって形成されている公的資源について調査することもあります。
 国の場合、日本国憲法は第62条で「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。」と定めています。そして、国会法((昭和二十二年法律第七十九号)は、「第十二章 議院と国民及び官庁との関係」に置いた第103条から106条までに、国会の調査権限を記載し、その中の第105条では「各議院又は各議院の委員会は、審査又は調査のため必要があるときは、会計検査院に対し、特定の事項について会計検査を行い、その結果を報告するよう求めることができる。」と定めています。
 地方自治体については、地方自治法は、第98条第1項で、地方自治体の議会は、当該団体の事務に関する書類及び計算書を検閲し、当該団体の長、委員会又は委員の報告を請求して、当該事務の管理、議決の執行及び出納を検査することができると定め、同条第2項で監査委員に対して議会が監査とその報告を請求できると定めています。さらに、国会の国政調査権に相当する権限が地方自治体の議会に付与されています。すなわち、地方自治法第100条は、地方自治体の議会は、当該団体の事務に関する調査を行うことができ、当該調査を行うため特に必要があると認めるときには、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができると定めています。
 上記のように、公監査機関とその監査報告を受ける議会とは別個の存在として位置付けられていますが、その例外的な仕組みとして議選委員制度があります。地方自治法第196条第1項本文は、監査委員の選任範囲を、人格が高潔で、普通地方公共団体の財務管理、事業の経営管理その他行政運営に関し優れた識見を有する者(議員である者を除く。)及び議員と定め、このうちから、議会の同意を経て首長が選任すると定めています。一般に前者から選任された者を識見委員と言い、後者から選任された者を議選委員と称していますが、この例外的な制度は、地方政府の公監査制度が整備されていなかった戦前の制度を引き継いだものであり、議選委員は二人又は一人を置くとされていました。しかし、平成29年(2017年)の地方自治法改正により、平成30年4月1日に、地方自治法第196条第1項に但し書き(「ただし、条例で議員のうちから監査委員を選任しないことができる。」)が付加されて必置義務は廃止されました。
 議選委員制度を廃止する自治体は、監査委員制度が機能していて議選委員はもはや不要になったと判断したところと、議選委員制度のメリットより弊害が大きくなったというところがあると思いますが、「地方自治法概説 第10版」(宇賀克也)によると、必置義務の廃止を受けて議選委員制度を条例で廃止している自治体は、大阪府、大津市、嬉野市、大府市、高砂市、唐津市等があるようです(360頁)。
 そこで、この記事では、この6府市を取り上げて採点し、その平均点を基準値として示すことにしました。

1-1について

 前記「第1」の「1」では、3E監査を行うためには、監査報告での異状の記載が長文であるか、合規性監査の統制逸脱(ルール違反)とは異なる報告区分を用意している必要があることから、そのいずれかの場合は、2ポイントを付与することにしました。

 大阪府監査委員は、統制逸脱を「事務処理に関するもの」として報告し、統制不備及び低3E事象を「施策事業に関するもの」として報告しており、異なる報告区分を設置していることから2ポイントを付与します。
 大津市監査委員は、「監査の結果」とは別に「意見」という項目で「意見監査の結果、組織及び運営の合理化のため、検討又は改善を要する事項として次のとおり意見を付す。」として3E監査の結果を記載する区分を用意しており、2ポイントを付与します。
 嬉野市監査委員は、監査項目ごとに監査結果を記しており、3E監査の観点を項目として立てれば、結果として3E監査結果を記載しやすくなっており、2ポイントを付与します。
 大府市監査委員は、「監査の結果」と「是正又は改善が必要であると認める事項」を異なる項目として監査報告を記載しており、後者では「改善事項」という表現もあることが示されていて、これは3E監査結果を報告する区分に該当すると理解でき、2ポイントを付与します。
 高砂市監査委員は、特段の用意はないように思えますが、異状報告の記載方法が自由記載になっていて、長文の3E監査結果を記載することも可能であり、2ポイントを付与します。
 唐津市監査委員は、「指摘事項」とは別に「意見・要望事項」を用意しており、この区分で3E監査結果を報告することができると思われ、2ポイントを付与します。

1-2について

 前記「第1」の「2」では、過去3年間の監査報告に一つでも低3E事象を記載している監査委員に3ポイントを付与することとしています。

 大阪府監査委員の監査報告をみてみると、例えば令和6年9月18日付けの上半期監査結果では「府立高校の部活動改革推進事業(部活動大阪モデル)について」が3E監査結果と言えますので、3ポイント付与です。
 残る5市の過去3年間の監査報告を観た限りでは、3E監査結果と言えるものは見受けられませんでしたので、5市の監査委員はポイントなしです。


2-1について

 前記「第1」の「2」の前段では、第4項監査の名称を監査基準で定義している監査委員に2ポイント付与するとしています。そして、その後段では、第4項監査の名称を監査基準で定義していないのに、定義していない名称を用いて監査報告に記載している場合は2ポイント減点するとしています。

 6府市の中で高砂市監査委員は第4項監査の名称を監査基準で定義しています。高砂市監査基準は「監査等の種類」を定めている第5条の第2項を「前項第1号に規定する財務監査は、定期監査(法第199条第4項)又は随時監査(法第199条第5項)として実施する。」と「定期監査」の定義規定を置いていますので高砂市監査委員には2ポイントが付与されます。
 他の5府市の監査委員は、このような規定を置いていませんので、監査報告で使用していないかを点検します。
 大阪府監査委員は、公用文中でも4項監査を示す文言は使用していませんので減点なしです。ただし、公式サイトには「定期監査」の文言があります。
 大津市監査委員は、監査報告では「第199条第1項及び第4項の規定に基づき執行した財務監査(定期監査)」と定義した上で用いていますので、減点なしです。ただし、公式サイトでは「定期監査」を括弧なしで用いています。
 嬉野市監査委員は、監査報告中に「定期監査」という文言を用いていますので、2ポイント減点です。ちなみに、公式サイトでも用いています。
 大府市監査委員は、監査報告で「定期監査」の文言を用いていませんので、減点なしです。ただし、公式サイトでは「定期監査」の文言を用いています。
 唐津市監査委員は、監査報告で「定期監査」の語を用いており、2ポイント減点です。ちなみに、公式サイトでも「定期監査」の文言を用いています。

2-2について

 前記「第2」の「2」では、監査経過記録書類を作成する義務を監査基準で定めていない監査委員と、定めているが「判断の過程」は明記しない監査基準としている監査委員に2ポイントを付与するとしています。

 大阪府監査基準は、監査基準に策定に当たって上位規範と重畳的に規定することを避けているようで、公文書として保存義務が生じる監査経過記録書類についての定めは置いていませんので、2ポイントが付与されます。
 一方、大津市監査基準、嬉野市監査委員監査基準、大府市監査基準、高砂市監査基準及び唐津市監査基準は、総務省監査基準案に倣って、監査経過記録書類に「監査調書」の名称を与えて保存を規定しています。このうち、高砂市監査基準は、「監査調書の作成及び保存」と題した第10条を「監査委員は、年間計画及び実施計画(以下「監査等の計画」という。)並びにこれに基づき実施した監査等の結果及び関連する証拠の写しを監査調書として作成し、高砂市文書取扱規程(昭和52年訓令第12号)に従い適切に保存しなければならない。」と定め、「監査調書」の作成対象に、総務省案にある「監査等の内容、判断の過程、証拠」を規定していませんので、2ポイントが付与されます。他の4市はポイントなしです。

2-3について

 前記「第2」の「3」では、第199条第4項の監査結果を2者択一で記載させることとしていない監査基準を策定している監査委員に3ポイントを計上するとしています。

 大阪府監査基準は監査報告の記載内容について定めを置いていないため、大阪府監査委員に3ポイントが付与されます。
 高砂市監査基準は監査結果の記載内容について定めを置いていないため、高砂市監査委員に3ポイントが付与されます。
 他の4市は、二者択一で作成することとしていてポイントなしです。

2-4について

 前記「第2」の「4」では、地方自治法との重畳を避けて監査専門委員については規定しない監査基準を策定している監査委員と、重畳を避けた表現で規定する監査基準を策定している監査委員に2ポイントを付与するとしています。さらに、守秘義務について、地方自治法と重畳して監査基準で定めている監査委員は1ポイント減点するとしています。

 大阪府監査基準では監査専門委員にも守秘義務にも言及がありませんでしたので大阪府監査委員に2ポイント付与されます。
 大津市監査委員と大府市監査委員は、それぞれの監査基準の第13条に、総務省監査基準案と同様の監査専門委員の定めを置いており、また、守秘義務の定めを置いていませんのでポイントなしです。
 嬉野市監査委員は第14条本文に「監査委員は、監査専門委員、外部監査人等の制度を導入する場合には、次のとおり制度を利活用するものとする。」と定めつつ、その第1号を「監査委員は、必要に応じて監査専門委員を選任し、必要な事項を調査させることができる。」と地方自治法と重畳する規定を置いています。また、守秘義務についての定めは置いていません。したがってポイントなしです。
 高砂市監査委員は、監査基準に監査専門委員について規定を置いておらず2ポイントが付与されますが、「倫理規範」を定めている第6条の第3項で「監査委員は、職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は他の目的に利用してはならない。その職を退いた後も同様とする。」と地方自治法と重畳して規定しており、1ポイント減点になります。したがって、差し引き1ポイントが付与されます。
 唐津市監査委員は、監査基準に監査専門委員についても守備義務についても規定を置いていないので、2ポイントが付与されます。

2-5について

 前記「第2」の「5」では、関係人調査に関して、行使要件などを監査基準に定めている場合には2ポイント付与することとします。

 6府市のいずれも、関係人調査について定めを置いていませんので、ポイントなしです。

3-1について

 前記「第3」の「1」では、監査基準で記載するとしている基準準拠を記載していない監査委員には3ポイントを減点するとしています。

 大阪府監査委員は、「2-3について」で説明したように、監査報告の記載内容について定めを置いていないため、基準準拠も定めておらず、この採点項目の対象外です。
 高砂市監査委員は、高砂市監査基準第20条第1項第1号で監査報告には原則として「本基準に準拠している旨」を記載しなければならないとしているのに、令和5年度定期監査結果報告書に記載されていないため、3ポイント減点となります。
 他の4市については、減点はありません。

3-2について

 前記「第3」の「2」では、総務省監査基準案に倣って二者択一で監査結果を記載することを監査基準に定め、実際に作成した監査報告において、その監査基準に従って監査結果を記載している監査委員には2ポイントを付与するとしています。

 大阪府と高砂市を除く4市は、総務省監査基準案に倣って二者択一で監査結果を記載することを監査基準に定めています。
 大津市監査委員の令和6年3月26日付けの監査報告では、「4 監査の結果」の冒頭を「前項のとおり監査した限り、以下に指摘するように一部不適正なものも見られたが、重要な点において、監査の対象となった事務が法令に適合し、正確に行われ、最少の経費で最大の効果を挙げるようにし、その組織及び運営の合理化に努めていると認められた。」と記載しており、監査基準に従って監査報告を作成しているため、2ポイントが付与されます。
 嬉野市監査委員の令和6年2月27日付けの監査報告では、「第5 監査の結果」の冒頭を「令和5年度の事務事業の執行については、監査した範囲内において、おおむね適正に行われていると認めた。」と記載しており、監査基準に従った監査報告を作成していませんので、ポイントなしです。
 大府市監査委員の令和6年8月26日付けの監査報告では、「5 監査の結果」の冒頭を「上述のとおり監査した限りにおいて、重要な点において、監査の対象となった事務が法令に適合し、正確に行われ、最少の経費で最大の効果を挙げるようにし、その組織及び運営の合理化に努めていることが認められる。」と記載しており、監査基準に従って監査報告を作成していますので、2ポイントが付与されます。
 唐津市監査委員の令和6年4月23日付けの監査報告では、「8 監査の結果」の冒頭を「監査の結果、改善を要する事項及び問題点等は、別紙「是正又は改善が必要な事項」のとおりであった。」と記載しており、監査基準に従った監査報告を作成していませんので、ポイントなしです。

まとめ

 大阪府監査委員は、1-1については2ポイント付与、1-2については3ポイント付与、2-1については減点なし、2-2については2ポイント付与、2-3については3ポイント付与、2-4については2ポイント付与、2-5についてはポイントなし、3-1と3-2については該当なしで、計12ポイントになります。
 大津市監査委員は、1-1については2ポイント付与、1-2についてはポイントなし、2-1については減点なし、2-2についてはポイントなし、2-3についてはポイントなし、2-4についてはポイントなし、2-5についてはポイントなし、3-1については減点なし、3-2については2ポイント付与で、計4ポイントになります。
 嬉野市監査委員は、1-1については2ポイント付与、1-2についてはポイントなし、2-1については2ポイント減点、2-2についてはポイントなし、2-3についてはポイントなし、2-4についてはポイントなし、2-5についてはポイントなし、3-1については減点なし、3-2についてはポイントなしで、計0ポイントになります。
 大府市監査委員は、1-1については2ポイント付与、1-2についてはポイントなし、2-1については減点なし、2-2についてはポイントなし、2-3についてはポイントなし、2-4についてはポイントなし、2-5についてはポイントなし、3-1については減点なし、3-2については2ポイント付与で、計4ポイントになります。
 高砂市監査委員は、1-1については2ポイント付与、1-2についてはポイントなし、2-1については2ポイント付与、2-2については2ポイント付与、2-3については3ポイント付与、2-4については1ポイント付与、2-5についてはポイントなし、3-1については3ポイント減点、3-2については該当なしで、計7ポイントになります。
 唐津市監査委員は、1-1については2ポイント付与、1-2についてはポイントなし、2-1については2ポイント減点、2-2についてはポイントなし、2-3についてはポイントなし、2-4については2ポイント付与、2-5についてはポイントなし、3-1については減点なし、3-2についてはポイントなしで、計2ポイントになります。

  したがって、上記6府市のポイントの最大値と最小値を除外して算出した平均値4.25に腰だめで7掛けした3を基準値とします。読者におかれては、自己採点の結果が3を上回るよう一段のご尽力をお願いいたします。

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