擬態女子「ダルちゃん」は新たな「ダルちゃん」になれるのか
読んだら胸がザワザワして苦しくなって、しばらく距離を置いていた漫画「ダルちゃん」。
資生堂の媒体「花椿」で連載されている。ずっと、なぜこの媒体でこの内容なんだろうと考えていた。久しぶりに読んだら色々と話が進んでいて、つらい7割希望3割くらいの感覚なんだけれども、少し考えがまとまったので記したい。
女子に擬態するダルちゃん
ダルちゃんは24歳の派遣社員。本当はダルダル星人だけど、一生懸命周りの人の真似をして、人間に擬態している。違和感を感じたのは小学生のころ。どうも周りになじめない、居場所がないと気付いてから、必死に女子の会話を学び、女子の身づくろいを学び、普通の女の子に見える容姿と振る舞いをゲットした。
メイクを覚えて、苦手だけどストッキングはいて、と擬態する姿に共感できる方も多いのではないだろうか。
上手に擬態できるようになったダルちゃんは、会社員生活にもすっかり慣れ、ちゃんと会社で生きていられる、居場所ができたと感じている。
いいように使われ傷つけられる女たち
「モノマネしすぎて時々自分が本当は何を考えているのかわからかくなる」と思いつつも、笑顔でゆるく生きるダルちゃん。
その後ダルちゃんは、苦手な職場の飲み会で営業のスギタさん(男)に絡まれる。
いつもと違う馴れ馴れしい呼び方や態度に戸惑いつつも、ひたすら会話に合わせていたところ、同僚のサトウさん(女)に「スギタがあなたに何を言ってたかちゃんと聞いてた?」「あなたはねあいつのマスターベーションに笑顔で付き合わされてたの」「あなたの尊厳を踏みにじる奴らにあんな風に笑いかけちゃダメだよ」と咎められる。
そのサトウさんへの反発心から、ダルちゃんはスギタさんを好きになろうと決心。なんでだよ、と思うかもしれないが、わからなくはないんですよね。それなりに必死に生きてるのに、それを否定されてムカッと来たんでしょう。
そしてダルちゃんはスギタさんと2人で飲みに行くことになり、「勝った」「私なんにも間違ってない」と思うのだが、飲んだ後スギタさんにホテルに連れ込まれ、いざというときに泣き出してしまう。
※「ダルちゃん」第10話 画像はすべて花椿HPより
ぐちゃぐちゃな気持になるダルちゃん。「私は打ち捨てられた生ゴミみたい」という台詞が痛い。
その後ダルちゃんは、なんとなく男の人が怖くなる。そして職場でもなるべく男性を避けるように。その一方、最初は反発していたサトウさんとは友達関係に。サトウさんもまた、モラハラ男に追従して深く深く傷つけられた過去を持つ女だったのだ。
装うということ/「花椿」で連載する意味
この漫画を読んでいる時の息苦しさはなんとなく伝わったのではないかと思う。正直、読んでいて楽しいものではない。
この連載を資生堂の企業文化誌に掲載する意味は何だろう。資生堂といえば、いわずと知れた化粧品メーカー。そこで考えたいのが「装う」ということ。
外見を整えること、装うことは時に中身の無さの裏返しや空虚なものとして嘲笑される。「インスタ映えとかw」と言われる時もそれに近い。一方で、装うことで強くなることもできる。化粧や服装を変えることで気持を切り替えたり、自信を持てたり。私が仕事に行く時、化粧をして服装を整えるのは、戦闘準備のようなものだ。他にも、装うことで気分が上がって楽しめることもある。プラスとマイナス両方のイメージがあるが、ようは使いようなのである。
今のダルちゃんの装い方には、問題も多い。ダルちゃんのやり方は
・周りの人の真似
・周りに合わせる
・自分の役割を考える→男の人相手なら、相手の愚痴を聞く、とにかく相手が笑っていたらOK
というものだ。常に自分の役割や自分を社会に当てはめる方法を考えるダルちゃん。今まではそれで順応できていたし、会社は「ルールがわかる、役割がわかる」から好きであった。
しかし、ダルちゃんは今回、模倣でやり過ごすことで自分を危険に晒してしまう。
スギタのような、女や弱い立場の相手にマウントを取ってズカズカ好き勝手に扱うクズには、ダルちゃんの装い方は格好の餌食となってしまうのだ。
ダルちゃんは新しい装い方を手に入れられるのか
ではダルちゃんは、どうすれば良いのだろう。ダルちゃんは、ダルダル星人な部分を一人のときにしか出すことが出来ない。
後に、友達となったサトウさんの前ではダルダルな部分も出すことができるようになるが、基本的に巣の自分を出せるのは一人の時かサトウさんの前だけだ。
ダルちゃんの変わるべき方向性は、本当の自分(ダルダル星人)を出せるようになることだろうか。
私は、ダルちゃんに必要なのは”新たな装い方を身につけること”だと考える。本当の自分を出す、などというと聞こえは良いが、どう考えてもそれでは無防備すぎるし、社会にも適応しがたい。雨の日は仕事休んでスウェットで出社して気に食わない奴の電話は秒で切るとか残念ながらできないからね。だから装うことは基本戦略として間違っていない。問題は、どのように装うか、だ。
サトウさんという、仲間であり導き手でもある相手を見つけられた今、ダルちゃんに必要なのは社会に適応する擬態をしながらも、クソ男に付け入られないような、そんな新たな装い方。それをダルちゃんが獲得できたら心から感動するし、それを掲載できたら資生堂かっこいい!と私は思う。
そして、それでこそ資生堂は「装う」ことの価値を改めて発信することができるし、これまで炎上した女性にまつわる各種CMとは一線を画した情報発信ができるのではないだろうか。
ヒロセさんに期待
最近新たにヒロセさんという男性が出てきた。
彼は女性が多い事務方で産休に入った方の代わりにリーダーになった。仕事はできるらしいが、足に不自由があり、事務の仕事をしている。
彼は彼で新たなポジションで頑張ろうとしているようなのだが、周りの女性派遣社員と上手くやりとりができずトラブルが発生している。
しかしダルちゃんだけは、とっつきにくいと周りから評されるヒロセさんが、実は「緊張する」と思いながら仕事に向かっていることを知っている。
男性であるヒロセさんもまた、踏ん張って装って生きている。
擬態女子の苦悩と受け止められそうな本作だが、装うのは男性も同じ。
眼鏡姿に足を引きずると、ここまでしないと男性は女性と同等に語れないのかと思わなくもないが、今後ダルちゃんがどんな装い方を見出していくのか、ヒロセさんとどんな変化をしていくのか見守りたい。
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