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映画館の想い出

そういえば子どもの頃、映画を観るために早朝から並んだことがある。

ネット予約システムがなかったからだ。

当時、映画は映画館に行くまで希望の回が観られるかわからないものだった。
人気の映画は希望の回が満席で時間をずらさなければならないこともあったし、「席は満席だけど立ち見なら入れますよ」と立ち見で見ることもあった。

全席完全入れ替え制じゃなくて、その気になれば何時間でもいられるところもあったと記憶している。

わずか25年前の話だ。記憶も曖昧だし、子どもだったのでシステムを完全に理解しているわけじゃなかったけれど、色々なことが今よりずっとゆるく、今でいう"不便"がごく当たり前だった。

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印象に残ってるのは『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年公開)と『もののけ姫』(1997年公開)だ。

『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』は影があるけどまだあどけない少年が、将来シュコーシュコーするおっさん(ダースベイダー)になる前の話。

当時私は中学生。
仲の良かった男女混合グループの1人が「公開日に絶対観たい!みんなで観よう」と言い出して、みんなで観に行くことになった。

なんと最寄駅は横浜駅という住環境だったため、映画館が徒歩圏内にあった。そのため中学生でも友達同士で映画を見に行くことが度々あったのだ。

「とりあえずこの時間に来て、俺はもう少し早めに並んでるから」と告げた言い出しっぺの彼はかなり早くから並んだようで、我々が到着すると前から3番目くらいにいた。

シャッターの前でやや疲れた顔をした彼がコンクリートに直座りだったせいで「尻が痛い」と漏らしながらも目をギラギラさせていた姿が今でも目に浮かぶ。

スターウォーズにあまり興味のなかった私は、彼の情熱に驚きつつ、すごく寒くも暑くもない気候でよかったな、と思ったりした。

世界は新作公開に沸いていたようだが、横浜駅前の映画館はそこまでの熱狂ではなく、コスプレする人もいなかったし、奇声をあげて騒ぐ人もいなかった。なんなら正直並ばなくても当日には鑑賞できたのではと、口にはしないが思っていた。

それでも、普段みない程度の人数は並んでいた。

当時は1人が先に並んで後から残りのメンバーが合流するというゆるさが多分許されていたので、全員揃って無事当日に初回上映を観ることができた。

映画のためにみんなで早起きして集まり、「起きれた?」「朝ごはん何食べた?」「観れるかな」「この位置なら大丈夫でしょ」と話しながら並ぶ、ということが結構楽しかった。

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もうひとつ印象に残っているのは『もののけ姫』(1997年公開)だ。

この時私は小学生で、横浜市内に住んでいた。横浜駅付近へ引っ越す前の話だ。

映画を観に行くときは、関内の、たぶん馬車道まで電車で1時間ちょっと揺られていった。

母がジブリ作品好きだったので、ジブリ映画は家にビデオも揃っていたし、全部みていた。

新作の公開は日本全体でだいぶ話題になっていたし、我が家も楽しみにその日を待っていた。

確か夏休みの1日だったと思う。

当日は、それなりに早く家を出たけれど、お目当ての回はチケットが売り切れで、そのかわり次の回のチケットは入手でき、2時間ちょっと、母と一緒に映画館の向かいの喫茶店でお茶をして時間を潰すことになった。

たしか暑い日で、強い日差しに地面が熱されるのを眺めながらのんびり時が来るのを待った。私は白いノースリーブのサマーニットでちょっとおめかしをしてたような気がする。

この喫茶店は、たしか観終わった後休憩するのにも使っていた。今でいうレトロ喫茶で、私は何を飲んでいたのだろう。全然思い出せない。

いよいよ自分たちの回が来て、わくわくしながら席に座った。あまりにも待ち焦がれていたから、冒頭数分で私は静かに涙を流しはじめてしまって、隣の席の男性も、反対側の母もびっくりしていた。

ああ、ようやく観れるんだぁ、とそれだけで感無量になってしまったのだ。
しかし今思うと、まだ話も転がり出す前から涙を流す小学生女児、こわすぎる。

チケットを買う時だったか、映画館に入る時だったか、この時もとても人が多くて並んだ記憶がある。

◆◆

今では映画といえばスマホでさっと時間を調べて、ポチッとチケットを買えてしまう。

なんなら発券まで機械でいける。
窓口でチケットを買ったのはいつが最後だろう。

お目当ての回がみれなくて現地で時間をつぶすことも、後ろの方で立ち見なんてポジションももうない。

子ども時代の映画経験を思い出すと、今では信じられないことばかりで隔世の感がある。

かつては雑然としていて、今は端正に整っている。

もうあの朝の待機列や喫茶店での時間は過ごせないのだろう。
そのかわり、便利に鑑賞できるようになり、音や映像は進化し、4DXまで現れ、配信でその気になればどんどん観られるようになった。

映画と過ごすこれからの人生もまた、楽しみだ。

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しいなかおる
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