令和4年司法試験労働法第2問答案
第1、設問1
1、X1はY社に対して基本給月額2か月分の賞与の支払を請求することができるか。
(1)X1は上述の主張を、30年前になされたY社とA労働組合との書面化されていない合意及び令和2年改定前のY社正社員就業規則に基づいてなすと考えられる。
この主張は妥当か。
ア、たしかに上述のY社とA労組間の合意は書面化されていない30年も前のもので、労働組合法(以下「労組法」)14条の労働協約としては認められないし、同法15条1項2項が労働協約の有効期間を3年とする趣旨が、当事者を不当に長期にわたって協約で拘束すると、物価の上昇等の社会情勢の変化に対応できず、不当であるという点にあることからしても、上述の合意が労働協約の内容となっていたとも言えないように思える。
イ、もっとも、同法14条の趣旨は労働条件明示や将来の紛争防止にあるにすぎない。また、上述の同法15条1項2項についても、同法1条が「労働者の地位を向上させること」を目的としていることからして、労働者にとって有利な労使間の合意が相当程度長期間継続されてきた場合には、当該慣行に対する労働者の信頼保護の見地からして、そのような慣行は例外的に労働協約と同じ効力を有すると考えるべきである(労働契約法(以下「労契法」)3条4項)。
これを本件についてみるに、Y社とA労組は30年前に、同社正社員に年2回基本給月額2か月分の賞与を支給する旨の合意をし、その後30年間そのような運用が継続され、特段その取扱いが同社内で問題となることもなかった。すなわちこのような運用はY社正社員にとっては保護すべき信頼の対象となっていたといえ、労働者の利益になるものとして労働協約と同じように扱われるべきである。
ウ、そうであるならば、令和2年改定前の正社員就業規則が賞与の支給要件等について定めていなくても、上述のA組合とY社との30年前の合意に従って、賞与は支給されるべきこととなる(労組法16条参照)。
したがって上述のX1の主張は妥当であるようにも思える。
(2)しかしY社は令和2年に賞与について基本給月額1.8か月分とするとの労働協約をA組合と締結し、同様に就業規則も改定した。そのため上述のX1の主張は失当ではないか。
ア、労働協約は労組と使用者が検討し合って締結するもので、労組は長期的な組合員の利益も考慮して交渉する。そのため労働協約の一部のみを取り上げて有利不利を論ずるのは、そもそも不当だし、仮に一時的には労組側にとって不利であっても、長期的には有利となるような場合もある。
そのため労働協約の不利益変更は認められる。
イ、令和2年の労働協約はそれまでの30年間の合意と比べて、賞与について、基本給月額2か月分から1.8か月分とするため不利ではあると考えられるものの、上述の通り令和2年の労働協約は適式になされたもので、有効である。そしてこれに伴う令和2年改定の就業規則も有効である(労契法9条、10条本文)。
したがってX1の主張は失当である。
2、以上より、X1は上述の請求をすることができない。
第2、設問2
1、X2はY社に対して、正社員と契約社員の間の令和2年7月以降の賞与の差額の支払を請求することができるか。
(1)労働基準法(以下「労基法」)3条は、使用者による労働者の差別的取扱を禁止しているところ、令和2年改定後の就業規則で正社員は賞与が基本給月額1.8か月分とされている一方、契約社員は0.5か月分とされていることから、同法同条に反しないか問題となる。
ア、労基法3条は合理的な理由に基づく区別を禁止していないと考えるべきである。
イ、Y社では正社員と契約社員とは勤務地の変更を伴う配置転換の有無や、正社員は職能給制で幹部になることを視野に入れた長期的な人材育成がなされる一方、契約社員は時間給制である、というような、両者の差異は自ずから大きい。また、Y社は契約社員から正社員に登用する制度を有しておらず、両者を明確に区別していると考えられる。
このような両者の差異の大きさ、性質の違いからして、本区別は労基法3条に反しない合理的なものである。
(2)また、X2は自身の職務内容が同じ部署の正社員と同じであることや、自身が正社員に対して業務遂行について教育指導を行うこともあった旨主張している。
しかしこの主張は結果論であって、上述の制度が労基法3条に反することを基礎付ける理由とはならないし、契約社員であっても労契法18条によって正社員となる事は可能であり、同人の保護はそれで必要十分である。
2、以上よりX2は上述の請求をすることができない。
以上
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