日大ローR5年度第一期憲法答案
1,国家公務員法(以下「法」)102条1項は憲法21条1項に違反するか。
(1)憲法21条1項は「表現の自由」を保障しているところ、これには政治的行為をする自由も含まれる。そしてかかる保障は国家公務員にも及ぶ。
(2)法102条1項は「職員は…政治的行為をしてはならない」としており、上述の政治的行為をする自由への制約が認められる。
(3)では、かかる制約は「公共の福祉」(憲法12条後段、13条後段)によって許容されないか。
ア、たしかに政治的行為をする自由は、その効果が政治、ひいては民主主義、自己統治に直結するものであるし、これを通じて自己実現することもでき、権利の重要性は高い。
また、一度侵害されると、権利の性質上事後的に金銭等によって回復することは困難で、それが比較的容易な経済的自由に比して要保護性も高い。
さらには法102条1項は国家公務員の政治的行為をする自由を「何らの方法を以てするを問わず」として広く規制しており、その制約の強度も強いようにも思える。
イ、しかし、後述するように「政治的行為」について合憲限定解釈を行えばその規制範囲は小さく、制約の強度は弱い。
また、そもそも「公務員は、全体の奉仕者であ」る(憲法15条2項)から、自分勝手な行動は許されず、秩序維持の要請が強く存在する。
そしてそのような「全体の奉仕者」には、自らの意思で就職する以上、権利の要保護性も低いといえる。
ウ、したがって法102条1項の憲法21条1項適合性は、規制目的が正当なものか、そのための手段が目的と合理的関連性を有するか、で判断する(猿払事件判例参照)。
エ(ア)法102条1項の立法目的は公務の安定と秩序維持にあると考えられるところ、その目的は上述のような「全体の奉仕者」性を考えると、正当な目的である。
(イ)公務員各人がそれぞれ自己の「政治的行為」を行うと、国家としての統制が取れず、ひいては民主政治の崩壊という事態が生じかねない。そしてこのような行為を禁止すればこうした事態を防止できるから、目的手段は適合性を有する。また、この規制により失われるのは国家公務員の「政治的行為」をする自由であるにすぎず、上述の国家秩序や政治体制の維持という利益に比して著しく均衡を欠くともいえず、相当性もある。
よって目的手段間の合理的関連性も肯定できる。
(4)すなわち本件制約は許容される。
2,したがって法102条1項は憲法21条1項に違反しない。
3,では、本件Aの行為は法102条1項の「政治的行為」に該当するか。
(1)上述の「政治的行為」をする自由の権利の性質、重要性、要保護性等からして、「政治的行為」とは厳格に判断すべきである。
具体的には、「政治的行為」とは、当該行為によって民主政治の混乱や国家秩序の破壊等、公務員に要求される政治的中立性を害するおそれという危険の発生が現実的に認められる行為を指す。
その判断に当たっては、当該行為の態様、方法、時間や場所、人数、当該公務員の公務員としての地位、影響力、市民へのインパクトの強さ、等を考慮する。
(2)たしかにAは係長という役職を有していて、部下もそれなりにいると考えられる立場にあった。そしてAの本件行為がなされたのは、参議院議員選挙の投票日2週間前の日曜であった。市民はAの行為以前より政治に関心が向いていたと考えられるところ、時間もゆとりがある日曜にB党支持のビラを受け取れば、多少なりとも市民の政治的意思決定に影響はある。
よってAの行為は「政治的行為」であるようにも思える。
(3)しかし、Aは高齢者障がい者庁の一部署の係長に過ぎず、その公務員としての力は大きくない。また、Aの行為はビラ80枚を約1時間で平穏に配布したにすぎず、ビラの枚数も少なく、短時間であるから、周囲への悪影響も少ない。さらにはAは自らの名前や職業を名乗っておらず、一人でやっていたにすぎないので、そもそも市民から公務員である旨理解されていない可能性が高い。
(4)上述のように考えると、Aの本件行為により公務員の政治的中立性が害されることは無かったものと考えるべきで、そのような危険の発生が現実的に認められるものでもなかった。
4,よってAの行為は「政治的行為」に該当しない。
以上