「検察共和国」韓国 パート1
韓国政界が揺れています。国会で、21日、最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表の逮捕同意案が可決されたのです。大方の予想を覆す展開で、驚きが広がっています。李在明氏が検察によって獄中に送られる可能性、かなり高まっています。ソウルに駐在していたころ、検察があまりに強大なことから「我が国は検察共和国だ」と韓国の人たちが揶揄したのを思い出します。このニュース、観点を「政界」と「司法」に分けて、2回にわたって掘り下げてみたいと思います。1回目は「政界」。
ハンストという悪手
韓国で現職の国会議員は会期中は逮捕されない不逮捕特権があります。ただし、それでも検察が逮捕状を請求すれば、国会が逮捕に同意するかについて投票をします。出席議員の過半数が賛否どちらになるかが勝負。今回は出席295人中、賛成149、反対136、棄権6、無効4。過半数は148でしたので、ギリギリ、李在明氏は「逮捕やむなし」と宣告されたわけです。
この政治ドラマが起きた時、当の李在明氏は病院のベッドの上でした。福島からの処理水放出とそれをめぐる尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の対応に抗議するとして8月31日からハンガーストライキを行い、9月18日に体調が悪化したため病院に搬送されたのです。
このハンストと入院、結果的には李在明氏の悪手だったかもしれません。逮捕同意案への賛否は、投票をするときに出席している議員の過半数で決まるわけですが、李在明氏は出席できませんでした。もし本人が投票していれば当然「反対」に一票でしょう。そして何よりも、議場で「共に民主党」の議員たちに対し、造反して賛成票を投じないよう直接働きかけるチャンスを手放したのです。「共に民主党」は国会で過半数を占めています。一致団結して自分たちの代表を守ろうとしていたら、逮捕同意案は確実に否決されていました。実際、李在明氏に対しては今年2月にも逮捕状が請求されましたが、国会で同意案が否決されています。今回もそうなるだろうという見方が広がっていた所以です。
しかし、ひっくり返りました。「造反」が続出したわけです。無記名投票なので検証が困難ですが、その数、30人ほどと見積もられています。政界の事情に詳しい韓国人ジャーナリストに話を聞いたところ、次のような指摘が返ってきました。
「昨年行われた『共に民主党』の代表選で李在明氏は77%の票を集めて当選しました。しかし、残る23%の人たちはその後も基本的には「反・李在明」でした。いま現職の同党国会議員は170人。その2割が造反したとすると34人。『30人前後の造反が出た』という結果と符合するわけです」
もう一つ、ハンストが悪手だったのではないかと思われる理由は、より簡単です。世論の支持が集まらなかったのです。上記の通り、李在明氏が断食を始めた主な理由は福島からの処理水放出と、放出に理解を示した尹錫悦政権への抗議でした。その中では処理水放出を「危険なごみを皆の海に捨てるテロ」と評する彼らしい過激なワーディングも連発されましたが、もとからの熱心な支持者以外、あまり共感は得られませんでした。
そして、こちらのほうが重要なのですが、彼がハンストを始めたのは、検察が北朝鮮への不正送金疑惑や城南(ソンナム)市長時代の都市開発事業をめぐる背任容疑で捜査を積み重ねて逮捕へと動き出したのと同じタイミングだったのです。このため、多くの人から「ハンストの本当の目的は逮捕から逃れるためでしょ」と冷ややかに見られる結果になりました。
ちなみに、北朝鮮への不正送金は重大な犯罪とみなされて無期懲役宣告もありうる、と伝える韓国メディアもあります。
強気の姿勢一変でさらに見放される
李在明氏は、ハンストに加えて、より痛々しい悪手を打ちました。実は、当初、「自分は不逮捕特権は放棄する」と表明していたのです。逮捕状が出れば堂々と検察に赴き、「これは政権による政治報復だ」と明らかにしてみせると意気込んでいました。この強気には、少なくない政界関係者やメディアも「おお、やるな」と感心する向きを示していました。
ところが…
国会での投票前日になって、李在明氏はSNSで「逮捕同意案の可決は、政治検察の工作捜査に翼をつけることになる」などと書き込んだのです。堂々と捜査に応じるとしていたのを一変させ、逮捕同意案に賛成するなと呼びかけたわけです。多くの国民は呆れ、「共に民主党」内でも「もうついていけない」という空気が広がりました。韓国人ジャーナリストも「あれは、まるで命乞いのように映りました」という。
逮捕の確率9割?
こうして自ら逮捕容認への道を開いてしまった李在明氏。このあと実際に逮捕されるのでしょうか。裁判所が逮捕状の内容を審査して、逮捕にゴーサインを出すかどうかを決めることになります。逮捕状をほぼ100%認める日本の裁判所とは違い、韓国の裁判所は2割ぐらいは逮捕状を退けます。
今回はどうでしょう。韓国人ジャーナリストいわく「9割がた逮捕されるでしょうね。ただ、進歩派判事が審査を担当して却下する確率も1割でしょうか」とのこと。
進歩派判事?
判事の政治的なカラーは、韓国司法の構造や潮流に関する話になります。これは、続編で掘り下げます。
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