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台湾が初めて潜水艦を建造

「たとえ1万年かかっても、我々は原子力潜水艦を建造する」

こう宣言したのは毛沢東。1959年のことでした。

戦史に登場して以来、潜水艦は昔も今も戦況を大きく左右するとされています。第2次世界大戦ではナチス・ドイツの「Uボート」が連合国側(とりわけイギリス)を大いに苦しめました。

言うまでもありませんが、潜水艦が恐れられるのは敵から発見されにくいためです。静かに潜行して、敵艦あるいは敵地に近づき、魚雷やミサイルで攻撃をする。とくに、毛沢東が時空を超えるかのような渇望を表した原子力潜水艦は半永久的に潜航し続けることが可能で、行動範囲が通常の潜水艦とは比べ物にならないほど広大です。もちろん、いくら潜水艦の性能上は半永久的に潜っていられるといっても、積んでいる食料と乗組員の精神力には限界があります。それでも、潜水艦を保有しているかどうかは、その国の軍事力を推し量る上で極めて大きいのです。

その潜水艦をめぐって、台湾が湧いています。


悲願の「國造潛艦」

9月28日、台湾が初めて自前で建造した潜水艦の進水式が南部の高雄で行われました。冒頭の写真は台湾総統府のHPからです。

とりあえず「自前で」と書きましたが、この言葉がピッタリ合うのか迷います。台湾の政府やメディアは「國造潛艦」と呼んでいます。日本語でいえば「国産潜水艦」ですね。ただ、台湾では「IDS」という略称もけっこう使われています。「IDS」とはindigenously developed submarineの頭文字をとったもの。indigenouslyは「土着に」とか「原産に」と訳されますが、潜水艦が「土着」というのも違和感がありますよね。要は台湾としては「自力で建造した」と強調しているわけですが、イチから全てを台湾がつくったともいえません。それについては、後ほど。

進水式において、蔡英文総統は「自分たちで潜水艦を建造するのは不可能な任務だと考えられていたが、我々はやり遂げた」と高らかに宣言。その上で、「潜水艦の国内建造は目標である以上に、国を断固として守るための具体的な実践だ。潜水艦は海軍の戦略と戦術において『非対称戦』の重要な装備だ」と述べました。この「非対称戦」は、有事が起きた場合の台湾側のキーワードです。単純に軍事力を比較すれば中国の人民解放軍のほうが台湾軍よりずっと強大なので、正面からぶつかっても勝ち目はない。ボクシングや柔道でいえば、階級が違う。そうした非対称的な状態であることを認識したうえで、いくつかの戦局でピンポイントに中国側を攻めて、その勢いを削ぐ。あるいは、米軍が応援に駆けつけてくるまで中国側を食い止める。ゲリラ的な戦い方です。

台湾在住のジャーナリスト宮崎紀秀さんは、「台湾周辺での中国軍の活動がエスカレートし続けていて、それが大々的に報じられているだけに、台湾の人々はこうした自前の軍事開発やアメリカからの兵器購入が加速することを許容している」と話します。

性能はベールに包まれて

台湾初のIDSは「海鯤(ハイクン)」と命名されました。中国の古典に登する大魚だそうです。しかし、詳しい性能はベールに包まれています。全長約70メートル、排水量2700トン級だと推察はされていますが、進水式でそうしたディテールが説明されることはありませんでした。中国側に性能を把握されるのを避けるためです。魚雷を発射する前方部分は台湾の旗で隠され、進水式を取材したメディアは「海鯤」を間近で撮影することが禁じられました。

ただ、建造が始まる段階から「海鯤」の駆動方式は電気式ディーゼルが採用されるとは明らかにされています。これは、水上に出ているときはディーゼルエンジンで進み、海中に潜っているときはリチウムイオン電池で駆動するというもの。リチウムイオン電池は長時間にわたって持続するうえに、原潜よりも音が静かで探知されにくいという優れものだということです。

また、外見から分かるのは、船尾の舵が「X」のようにクロスしている形であること。これは、台湾海軍がこれまで保有してきた潜水艦の「十字型」の舵とは違います。防衛産業に関する情報分析が専門の機関Janesによれば、この「X」舵は浅い海域で潜航しているときの機動性に優れているそうです。一般的に、台湾の潜水艦隊は台湾の東側海域に展開して人民解放軍から完全に包囲されるのを防ごうとするとの見方が多いです。でも、「海鯤」が浅い海域を得意とするならば、中国大陸と台湾島の間、台湾海峡に潜むことが想定されているのかもしれません。

台湾軍は自前の潜水艦が中国に武力行使を思いとどまらせる上で大きな効果を発揮すると自信を持っています。「海鯤」はこれから各種のテストを重ねて2024年末までに海軍に引き渡される予定。すでにもう1隻、自前の潜水艦建造は進んでいて、それを含めると台湾の潜水艦隊は10隻となります。中国は60隻以上なので、数の上では圧倒されますが、それでも抑止効果が高まるのは確かでしょう。

中国側は「海鯤」の登場に猛反発しています。中国共産党系のメディア「環球時報」は進水式に先立って「台湾の独立派勢力は『白昼夢』を見ており、潜水艦計画は『ただの幻想』だ。人民解放軍は既に台湾島の周囲に多元的な対潜水艦網を構築している」と報じました。

実は「多国籍」潜水艦

中国が、言うならば1隻に過ぎない潜水艦の完成に強く反応しているのは、戦力という観点からだけではありません。「海鯤」は台湾が自らの手で建造したとはいえ、実は「多国籍」ともいえるのです。ロイター通信によれば、戦闘システムはアメリカのロッキード マーティン社製、搭載する魚雷もアメリカのMK-48とのこと。アメリカ以外の国々も支援をしています。その実態は明らかにされていませんが、ロイターは、台湾が少なくとも7か国に技術供与や専門家の派遣を依頼したと報じています。

実際、「海鯤」の進水式では、アメリカ、韓国、そして日本の窓口機関の代表らの名前が紹介されたそうです。

台湾「自由時報」より

日米韓のプッシュもあって完成したのは間違いありません。台湾を孤立させることで統一に近づきたい中国にとって、こうした各国からの支援は腹立たしい。
そして、繰り返しになりますが、進水式では日本も紹介されました。台湾情勢に日本は深く(潜水艦の話だから「深く」とかけたわけではありませんよ)関わっていることが改めて分かります。

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