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岸田首相の訪韓をめぐるモヤモヤ(前)

岸田首相が9月6日にソウルを訪れて韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談しました。

自民党総裁選への出馬を断念して退任間近…というタイミングで訪韓する意義を疑問視する向きもあるようですが、私は行って良かったと思います
次の自民党総裁≒首相が誰になっても、日韓関係改善の流れを逆行させてはいけないと内外に示す効果があるためです。

ただ、2つほどモヤモヤとする事柄はあり、前後編でお伝えしたいと思います。


レガシー?

今回の会談、内容に関しては、初めの方に貼りつけたNHKの記事が過不足なくまとまっているかと思います。

来年の日韓国交正常化60年に向けて良好な関係を維持すること、北朝鮮の軍事挑発を中心とする安全保障の課題に日韓とアメリカの3か国で連携を深めて対応するのは、いつも通り。

それに加えて、▼第三国で有事が起きた際に日韓が(自国民だけでなく)相手国の国民も退避させるために協力する覚書を交わした、▼来年の万博も踏まえて日韓双方の空港などで入館手続きをよりスムーズにするための具体策を検討する、といった具体的な成果もありました。
第三国からの退避でいうと、既に日韓が相手国の国民をも退避させた実績はあるので、現状追認という形ではあります。それでも、合意を結ぶことで現場で双方が相手国の国民をも強く意識することは期待できるでしょう。

というわけで会談の内容、日韓関係を逆行させないというメッセージなどはいいのですが…ひとつ気になって仕方ないのは、岸田首相が日韓関係改善を自分の政治レガシー(遺産)とアピールし、多くのメディアがそのまま伝えていること。

徴用工訴訟をめぐる動きを振り返れば、解決策の取りまとめから韓国の反対世論への説明、そして実行まで、最初から最後まで主役は尹錫悦大統領でした。やや乱暴な言い方をすれば、岸田首相は、尹大統領が逆風を浴びながら打ち出した政治決断を「ごっつぁんです」とばかりに受け取ったのです。

もちろん、半導体素材に関する輸出規制を速やかに解除したのは日本側の一手ではありましたが、あれは安倍政権の愚策でした。以前も強く批判したとおりです。

日本側の動きが足りない

「いやいや、何を言っているのだ。徴用工訴訟での韓国の司法判断は国際法に違反しているから、韓国側が全面的に解決するのは当然」と主張する人たちもいます。確かに、国際法の専門家に話をうかがうと、1965年の日韓請求権協定を骨抜きにした韓国大法院(最高裁)の判決は、国際法の原則と整合性がとれていないという見方が強いです。韓国の法曹界からも疑問視する声が出ました。

とはいえ、立法・行政・司法の三権がしっかり分権されている民主主義国家において、行政府は司法府の判断に介入できませんし、いったん司法判断が確定すれば行政府はそれに拘束されます。

尹政権が編み出した解決策は、そうした三権分立の原則を迂回する性格のものです。政治的にも、また司法的にも、かなりのリスクを背負い込んだスキームです。

そのことは、日本政府も分かってはいます。そしてリスクを軽減する方法も知っています。最も効果があるのは、徴用工訴訟の賠償を肩代わりする韓国の財団に、日本企業が資金を拠出すること。韓国世論に「日本企業も誠意を示している」という姿勢を示すのもさることながら、一連の裁判で原告勝訴の判決が相次いでいるために、このままでは財団の資金が底をついて肩代わりできなくなる恐れがあるのです。

岸田首相が、徴用工訴訟を乗り越えたことを自分のレガシーとして堂々と語るには、日本企業に財団への資金拠出を働きかけることが必要でした

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