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台湾総統選"テリー"の手札① #Me Too

来年1月13日、台湾で総統選挙の投票が行われます。韓国大統領選挙と同じように直接選挙でリーダーを選ぶ仕組みです。それだけに、候補者たち個人の求心力が勝負を大きく左右します。

日本の記者たちは、選挙取材で候補者の良し悪しを「タマがいい、悪い」と舞台裏で評してきました。あまり品がいい表現ではありませんね(間違っても放送では使えません)。
ただ、「タマ」には候補者を嘲る意味合いというよりも、「なんだかんだいっても最後は人物だろ」という、ある種の親しみに近い響きが込められていたように思います。

というわけで(?)台湾総統選挙も、各候補者たちの人物像からウォッチを深めていくのも悪くないと思います。
まずはTerry Gouこと郭台銘(かく・たいめい)氏、2回に分けます。


斬新すぎる(?)副総統候補

郭台銘氏といえば鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者です。鴻海は電子機器の受託生産で世界最大手。台湾を代表する大企業であり、日本の大手電機メーカー・シャープの親会社でもあります。
そういう「台湾ドリーム」を体現する郭台銘氏はカリスマ経営者といえ、知名度は抜群です。

そのカリスマ経営者が台湾総統選挙で無所属で出馬を表明。無所属で総統選に出るには有権者の1.5%にあたる約29万人の署名が必要というルールがあるのですが、郭台銘氏の事務所は109万人分もの署名を集めたとしています。選挙管理委員会はその署名を精査して11月14日までに彼の立候補資格の有無を発表することにしています。

と、ここまでは各大手メディアも一通り伝えていますが、ここからは郭台銘氏が選んだ副総統候補に注目します。
アメリカ大統領選挙と同じように、有権者たちは正・副総統をいわばセットとして選ぶことになります。

で、その候補は…Tammy Laiこと頼佩霞(らい・はいか)氏。俳優です。
台湾メディアによる彼女の紹介を少し引用します。

現在60歳の頼氏は18歳で歌手として芸能界入り。俳優業にも活動の幅を広げ、ドラマや映画、舞台に出演する他、近年は体・心・精神の研究にも身を投じ、世界各地で講演活動を行っている。

https://japan.focustaiwan.tw/politics/202309140002

頼佩霞氏も知名度は文句なし。ですが、政治に関わった経験はありません。それでも副総統候補として白羽の矢が立った決め手は、Netflix。

BBCも見出しは"Netflix actress"としていますね。

台湾でも#Me Too

頼佩霞氏が出演したNetflixのドラマは、「WAVE MAKERS ~選挙の人々~ (人選之人—造浪者)」。
今年の春に台湾で放送されました。

そう、選挙。
それも、総統選挙のストーリーなのです。

ドラマの中で頼佩霞氏は政党党首/総統選候補者を演じています。私はまだ視聴していないので、物語の細部を紹介できないのですが、宣伝をみると台湾の総統選挙の舞台裏をかなりリアルに描いているとのこと。

あまりドロドロしたドラマではないそうですが、台湾社会に思わぬ影響を及ぼすことになります。物語でセクハラの問題が取り上げられたことが引き金となって、実社会でのセクハラ被害を訴える女性たちが続出したのです。
台湾版#Me Tooです。

5月末、与党・民進党の元職員が党内で受けたセクハラ被害に関して「WAVE MAKERS 」内のセリフを引用して告発したのが号砲でした。そこから民進党内で同様の訴えが次々と出て、党主席を務める頼清徳(らい・せいとく)副総統が謝罪に追い込まれました。頼清徳氏は総統選の与党候補です。選挙戦での打撃となるのを恐れて迅速に頭を下げたのでしょう。

台湾版#Me Tooは政界にとどまらず、芸能界にも広がりました。人気タレントや俳優が次々と糾弾され、謝罪。俳優業からの引退を表明した人も出る事態になりました。
ほかの分野でも被害の訴えが出続け、台湾社会を揺るがすほどに。ついには蔡英文(さい・えいぶん)総統も謝罪と改善を表明。

Netflixの影響もさることながら、東アジアで初めて同性婚を認めるなど中国(大陸側)と比べて格段に「開明的」なイメージが定着した台湾でもハラスメントの問題とは無縁でないことが強烈に露呈したわけです。
郭台銘氏が副総統候補に頼佩霞氏を迎え入れたのは#Me Too運動の中心となった若い世代へのアピールを強く意識したとみて間違いないでしょう。

ゼレンスキーに倣え?

この予想外の副総統候補をめぐって、個人的にはウクライナのゼレンスキー大統領に倣おうという発想も少しはあったのかなと考えています。もともとコメディアンであったゼレンスキー氏も、大統領選挙を描いたドラマ「Servant of the People ~国民の僕(しもべ)~」でハプニングから大統領になる高校教師を演じたことが、その後、本物の大統領への道を開きました。

ちなみに、彼が主演したドラマのタイトル「国民の僕」は、そのまま彼が実社会で大統領選に立候補した際の政党名にもなっています。

これから台湾総統選に向けて、どれほどゼレンスキー氏と頼佩霞氏というドラマ出演者たちを重ね合わせる向きが出るのか、非常に興味があります。「政界と無縁ゆえのクリーンさ」と肯定的に見る人もいれば、「政治の実績がないための危うさ」と否定的に受け止める人もいるでしょう。

さて、この回の本題は以上ですが、このnoteでのニュース解説は近いうちにメンバーシップ制に移行してみようと考えています。メンバーシップにする趣旨は「取材費支援のお願い」に尽きます。
具体的なことは改めて記事の形でまとめさせていただきますが、これまでに掲載した記事をいくつか読まれて「支援してみてもいいかな」と評価していただけるのなら嬉しい限りです!


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