「監視カメラを破壊した」ロシア
北朝鮮をめぐって、3月28日、国連安全保障理事会で大きな動きがありました。北朝鮮制裁委員会専門家パネルの活動を1年間延長する安保理決議案の採択で、ロシアが拒否権を行使して決議案を葬ったのです。
冒頭の写真は、その瞬間(UN Photo/Loey Felipe)。
ロシアによって北朝鮮の制裁逃れは増加へ
この専門家パネルというのは、安保理が定めた北朝鮮に対する制裁措置に違反している行為を調査・報告してきました。2009年に設置され、活動期間は1年間単位。これまで14年間、安保理は活動期間を更新してきたのですが、初めて停止に追い込まれる見通しになりました。
一応、4月末までに新たな決議を採択することができればパネルの活動を延長させることも可能なようですが、ロシアが態度を翻す可能性は低く、このままパネルは消えることになりそうです。
そもそも、北朝鮮に対する安保理制裁は核開発を食い止める目的で2006年から始まりました。しかし「制裁何するものぞ」とばかりに核・ミサイル開発をやめない北朝鮮に対して、その後10回にもわたって制裁措置は強化されてきました。
一方、中国とロシアは2019年あたりから「制裁を強めても北朝鮮の一般国民の暮らしが圧迫されるだけで問題の解決にならない」として制裁は緩和されるべきだと主張してきました。
とはいえ、これまでに安保理が決めた制裁措置が守られているかを監視するパネルを潰すという乱暴な動きはとっていなかったのですが…
今回、ロシアが拒否権を行使し、中国は棄権しました。ここに中露の温度差が示されているわけですが、この記事ではロシアの打算に絞ります。
憤る米日韓&ウクライナ
当然、アメリカや日韓など北朝鮮の核・ミサイル開発と対峙してきた国々はロシアの振る舞いを強く非難しています。アメリカ国務省のミラー報道官はロシアと北朝鮮の協力深化の一例であり、「世界の平和と安全を損なった」と指弾。
確かに、昨年から一気に露朝両国が関係を深めている流れの中で今回のパネル潰しが出たといえます。手前みそながら、以前に私が書いた記事2本をご参考に貼りつけます。
「眠れる森の美女」を仲良く鑑賞するのは、誰にも迷惑をかけないのですがね。
もちろん、パネルが消滅することによって制裁違反が摘発される可能性が下がるので、北朝鮮指導部としては大喜びでしょう。核・ミサイル開発に注ぎ込める資金が増えるかもしれません。
ただ、このタイミングでロシアが拒否権を行使したのは、北朝鮮との連帯感を示す以上に、ロシア自身にとっての利益が大きかったという見方が大半です。
それは、ロシアが北朝鮮の砲弾を購入しているという完全な制裁違反を覆い隠そうという企みです。
ウクライナ侵攻で予想外の苦戦を強いられ、砲弾が底をつきつつあったロシアが、自分たちと同様の規格の砲弾を生産している北朝鮮に接近したのが事の始まりでした。結局、北朝鮮の砲弾やミサイルがウクライナに向けて発射されるようになったわけです。
ロシアはいまだに北朝鮮製兵器を購入・使用していることを否定していますが、おりしもパネルが調査に乗り出していた矢先でした。
ウクライナのクレバ外相は、今回のロシアの拒否権行使は「有罪の申し立て(a guilty plea)」であるという端的な説明とともに、ウクライナ東部のハルキウに撃ちこまれた北朝鮮製ミサイルだという写真をSNSに投稿しました。
また、韓国の黄浚局(ファン・ジュングク)国連大使は、「現行犯逮捕されないよう、監視カメラを破壊するようなもの」とロシアを非難しました。なかなか言い得て妙です。
安保理で常任理事国が拒否権という特権を行使して決議を葬ってしまうのは、もちろんアメリカなども繰り返してきました。最近ではイスラエルのガザ地区に対する攻撃をめぐって見せつけられていますね。
そういう意味で、他の常任理事国(とくにアメリカ)が清廉潔白というわけでは、けっしてありません。
とはいえ、自分の安保理決議違反を隠そうとするために拒否権を持ち出すという今回のロシアのようなケースは、さすがに度を越しているでしょう。
ウクライナでの戦争が、東アジア情勢にさらなる歪みを及ぼしています。