韓国の防衛装備品が守るもの(後)
お待たせしました(?)
10月下旬、ソウル近郊の軍用空港で開かれた韓国最大の航空宇宙・防衛産業展示会「ソウルADEX」について、前編の記事 ↓ の続きとなります。
3:西側陣営を守る
前編では勢いづく韓国の防衛産業が韓国の人と技術を守っていることを紹介しました。
ここでは外国に波及している影響を掘り下げます。
ADEXの開会式で挨拶に立った尹錫悦大統領。軍用空港の滑走路に並べられた自国の戦闘機や自走砲など10種類も指し示しながら、それぞれの名称を述べ、世界に売り込むことに意欲を示しました。
いわく、大統領自身が「1号営業社員になり、防衛産業企業の輸出促進のために努力する」とのこと。大統領になるまで検事一筋の尹錫悦氏ですが、外国を訪問した際のトップセールスに力を入れるというわけです。
実際、韓国にとって有力な輸出品といえば半導体や自動車が思い浮かびますが、どちらも中国などとの熾烈な競争にさらされています。そうした中、防衛装備品の輸出増加への期待が高まっているのです。
尹大統領は「世界第4位の防衛装備品輸出大国になることを目指す」とも述べました。
「え、そんなに売れるの?」と驚く方も多いでしょう。
世界の軍備の動向を分析しているSIPRI(ストックホルム国際平和研究所)によれば、22年までの5年間にわたる武器輸出シェアで、韓国は世界9位。1位は断トツでアメリカ、2位ロシア、3位フランスと続きます。この3か国がビッグ・スリーで、実は4位中国から9位の韓国までは、そう大きな差はありません。韓国製兵器類の購入国は東南アジアから中東、南米と幅広く、4位はそれほど無理のある目標ではないとされています。
とりわけ、ロシアのウクライナ侵攻を受けて韓国から「爆買い(古いですかね)」した国を二つほど見てみましょう。
ポーランドと、アメリカです。
ともにロシアによるウクライナ侵攻が背景にあります。「新冷戦」という概念がすっかり定着している昨今、いわゆる西側陣営の防衛において韓国の存在感が増しているのです。
欧州を席巻する‟K9”
ウクライナが侵攻されるのを目の当たりにして、ロシアの脅威をひしひしと感じることになったポーランド。NATO(北大西洋条約機構)の中でもとりわけ積極的にウクライナを支援し、戦闘機やドイツ製の最新鋭戦車レオパルト2などを提供してきました。
今年の秋以降、ウクライナ産穀物の禁輸措置をめぐって両国は対立を深めていて、今後の軍事支援は雲行きが怪しくもなっています。それはさておき、これまでにウクライナに提供した兵器の穴を埋めるためにポーランドが目を向けたのが韓国でした。とりわけ多く購入したのがK2戦車とK9自走砲です。
ここではK9にフォーカスします。
兵器に詳しい方は覚えておられるでしょうが、2010年に北朝鮮が韓国の延坪(ヨンピョン)島を砲撃した事件で、K9は島に配備されていたものの有効に反撃できなかったという見方が広がり、能力に大きな疑問符がつきました。
しかし、その後の検証で「言われたほど反撃できなかったわけではない」と分かり、各国がその性能と価格のバランスなどを吟味した結果、高い評価を受けるようになりました。
ポーランドは昨年7月に韓国と大型の契約を結び、K9は672両を購入することになりました。はじめは韓国からの輸入、のちに300両はポーランドでのライセンス製造となる予定です。ポーランドでつくられたのは名称がK9PLとなるそうです。
そして、K9がまずどこに配備されるかというと、ロシアの飛び地カリーニングラードと接する地帯です。「ロシアの侵攻はウクライナにとどまらないのではないか」という警戒感が東欧でひしひしと高まっていることを象徴しています。
ポーランドがウクライナへの支援の穴埋めとしてK9などに白羽の矢を立てたのは、コストパフォーマンスに加えて、製造・納入までのスピードもありました。ロイター通信は「韓国がどの国よりも迅速な武器納入を提案したことが、選考の決め手になった」と伝えています。実際、K9の初出荷(24両)は契約締結後からわずか数か月でした。一方、例えばドイツは、ハンガリーから2018年に受注した戦車レオパルト44両のうち、今年5月時点でまだ1両も納入できていないとのこと。
現在、K9は7か国で実戦配備されていて、そのうち5か国はNATOのメンバー(ポーランド、ノルウェー、エストニア、フィンランド、トルコ)。欧州を席巻しつつあるのです。
アメリカには砲弾
ウクライナに最大の軍事支援を行っているのはアメリカです。とりわけ砲弾はカギを握っています。「ウクライナ軍は一日あたり4000発から7000発、ロシア軍は2万発撃ってきた」といった推計が出ていますが、正確なところは分かりません。
戦争が長期化して消耗戦の様相を呈する中、ものすごい数の砲弾が使用されていることは確かです。
韓国の尹錫悦政権は、直接ウクライナに兵器を送ることは控えてきました。紛争当事国に殺傷兵器の供与はしない、という大方針があるためです。また、地政学的にロシアとの関係にも配慮せざるを得ないという事情もあります。今年2月24日、ロシアの侵攻開始から1年に合わせて多くの国が改めてプーチン大統領を糾弾する声明を出した中、韓国の声明には「ロシア」という国名すら入りませんでした。
しかし、尹錫悦大統領は、そうしたロシアへの配慮よりも、同盟国アメリカからの支援要請のほうを重視しなければならない状況となりました。アメリカがウクライナにガンガン砲弾を提供したため、アメリカの在庫が急速に減ったのです。
とくに求められている種類がNATO標準の155ミリ砲弾で、これはK9も撃つものです。
尹政権は難しいバランスの中で苦心しながらも、五月雨式にアメリカに155ミリ砲弾を輸出あるいは貸与する方向へと舵を切りました。昨年11月に韓国が10万発をアメリカに輸出したのは確認されましたが、それ以後、メディアでは様々な情報が飛び交うようになったものの、真相は分からなくなってきています。
今年5月にはアメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙が「韓国が極秘の取り決めによってアメリカ経由で数十万発の砲弾をウクライナに送る」と報じました。韓国政府はこの報道について「不正確な部分がある」としながら全面否定はせず、曖昧な説明に終始。
直接的にか間接的にかは分からないものの、ウクライナが自国を守る戦いに韓国の砲弾が「活用」されているのは間違いなさそうです。
このように、ポーランドやアメリカをはじめとする西側陣営を韓国の防衛産業が支えているのに対し、以前書いたように、北朝鮮はロシアに砲弾を提供していることが明るみに出ています。
自国を守る側への合法的な輸出(韓国)と、侵攻した国への国連安保理制裁破りの輸出(北朝鮮)とを、同列に語るべきではありません。ただ、外形的にみれば、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに朝鮮半島が東西両陣営の「武器庫」となりつつあります。
朝鮮戦争がいまだに法的には終わっていないという厳しい現実の、一つの表れといえるでしょう。
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