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地域のつむぎ手の家づくり| 地域工務店だからこそ人や地域をつなげられる 〈vol.64/住まい工房ナルシマ:茨城県取手市〉

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の〈地域のつむぎ手〉は・・・


明治時代から続く材木店・成島商店から独立する形で、住まい工房ナルシマ(茨城県取手市)が誕生したのは1992年。昨年の4月に事業を承継したばかりの社長・成島大敬さんは、同社とともに育ち、迷ったりもしながら、家づくりを自身の一生の仕事に選びました。30年間の蓄積を大事にしつつ、地域に根付いた工務店が果たすべき役割を再構築すべく、日々奮闘しています。

住まい工房ナルシマ社長・成島大敬さん

成島商店創業から数えると5代目に当たる成島さんは1991年生まれ。「工務店の仕事はまだよくわからなかった」が、小学校6年生の時、自宅の建て替え工事で目の当たりにした職人の姿は、今でも印象に残っているそうです。

成島さんは高校卒業後、東京大学に進学しました。3年次には、工務店の息子だからと「流れ」に任せて、工学部建築学科に進みました。ところが、周囲は建築に情熱を燃やす学生ばかり。挫折感を味わったといいます。

卒業後はそのまま大学院に進み都市計画を専攻。修了後は「家業を継ぐにしても視野は広い方がいい」と考え、著名な組織設計事務所に就職し、公共建築物の設計などに関わるようになりました。

学生時代の挫折があるとはいえ、順風満帆に見えるキャリアですが、成島さんにとって就職は「自分を見つめ直すきっかけになった」そうです。建築主と利用者が異なるという公共建築物の特性が「自分と合わない」と感じ、2年半で退職することにしました。


入社早々実務に就き
30周年を機に社長就任

創業者で現会長の父・敬司さんに退職を報告したところ「戻ってこい」と説得され、27歳で同社に入社しました。後日談ですが、敬司さんは知人の工務店経営者に「息子に戻ってきてほしい。どうしたらいいか」と相談していたそうです。

入社後、成島さんにとっての初めての仕事はOB顧客から受注したリフォームの現場管理。2~3カ月後にはいきなり新築の設計を任されました。それでも「お客様が目の前にいて、反応もすぐわかる」住宅の仕事は楽しかったそうです。成島さんは「初めて担当したお客様が、引き渡しのときにうれし涙を流していた光景が、今でも胸に深く刻まれている」と当時を振り返ります。

2020年、会社設立(1993年)からあと数年で30年というタイミングで、父・敬司さんが2度目の脳出血を発症。成島さんは、その前から何となく考えていた事業継承を意識するようになり「30周年を機に社長に就任する」と宣言し、昨年4月、その言葉通り事業を継承しました。

同社のロゴ。成島さんの社長就任を機に新しくつくった

成島さんは、「事業継承は組織を進化させるチャンス」と考え、DXの遅れなど課題解決に取り組みました。一方で、「今後も守り抜いていきたい」と強く感じるものも少なくなく、特に敬司さんの代から同社を支えてくれている職人のネットワークは、同社にとってかけがえのない大切な財産です。

同社が手がけた住宅事例。材木店をルーツとするだけあって、優れた大工たちが木材・自然素材を美しく仕上げるのが同社の家づくりの根幹だ

同社の職人会に属する協力業者は40社ほどですが、誰もが「癖がなく、誠実な人ばかり」で、会社と一心同体とも言える存在です。いざ実践しようとすると難しい現場の清掃・整頓も、ごく当たり前のようにこなしてくれます。誠実な職人を新しく探したり、身に付いた癖を直すのは大変です。若き2代目の成島さんにとって、こんなに心強い存在はありません。


工務店だからこそ
地域と顧客のハブになれる

取手市は東京まで電車で 1時間程度と、都心部へのアクセスがいい場所です。そのため、高校卒業と同時に東京に進学し、そのまま東京で就職する若者が多いのも実情です。Uターン・Jターン組の顧客も少なくないといいますが、いざ地元に戻ってみると、一から地域との関係性を構築し直さなくてはならないケースも多いそうです。

成島さんはここに、工務店の重要な役割を見出しています。地域とのつながりを持たない顧客が、家を建ててその地に住もうとするとき、「工務店が初めて接する“地元民”になる可能性は高い」(成島さん)。工務店は地域と密な関係を築いているので、「顧客と地域をつなぐ“ハブ”の役割を果たせる」というのが成島さんの考え。テレビ番組の人気企画になぞらえて「(顧客にとっての)第一村人になりたい」と成島さんは笑顔で話します。

モデルハウス兼事務所「ムクのイエ」。スタッフが食事や寛ぎのひと時を過ごすための場としても機能する。いずれはコワーキングスペースなどとして地域に開放したいという

また、高齢になったOB顧客らの見守りなども、長く付き合いの続く工務店だからこそできることです。「自分が生まれ育った地域の人々を助けたい。守りたい」という思いから「工務店が、近隣での助け合いのスタート地点になること」を目指しています。そこから家づくりのお付き合い(仕事)へと発展すればなおよし、地域への愛情が、結果的に三方よしを実現するのです。

昨年の5月には、新社屋・モデルハウスの完成にあわせ、旧社屋を改修してグリーンショップ「ムクのミセ」をオープンしました。OB顧客が、気軽に関係を維持できるような場でもあり、新築やリフォーム以外の形で、地域の人々により良い暮らしを提案するためでもあります。

旧社屋を利用して開店した「ムクのミセ」。ディスプレーに使われている古い家具は、かつての成島商店で使われていたものだそう
成島商店の本社だった古民家をリノベーションした「MUNI」。現在は店舗として賃貸している
工作教室やハンドメイドグッズの即売会など、イベントでもものづくりを前面に押し出している


家づくりを通じて
未来のスタッフを育てたい

成島さんの最終目標は「OB顧客のお子さんが、弊社のスタッフになってくれること」。前述のように、地元を離れてしまう若者も多いなか、家づくりの過程や暮らしを通じてものづくりの面白さを子どもたちに伝え、設計や大工への興味関心を醸成。「いずれは地元に戻って働いてほしい」という願いが込められています。

モデルハウス「ムクのイエ」で憩いのひとときを過ごす住まい工房ナルシマのスタッフ


文:新建ハウジング編集部


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