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ちっちゃなあおはる 12

 卒業式

 年が明けて冬休みが終わり間もなくして、残雪の多い中、彼女たちは卒業式を迎えた――。ぼくは冬休みの間に何度か咳に悩まされたが、湯治の甲斐あって全快することができていた。ぼくの朝風呂習慣はこの頃から身についている。


 卒業式のその日は、暖冬の一年前とうってかわって、朝から凍てつく雨が降り続く寒い一日だった。


 卒業生が入場して来た時、すでに泣いてしまっている子もいた。卒業生は思い思いの出で立ちで"えりかちゃん"は初めて見る、袴姿であった。背もそこそこあったので、いつもより凛々しく幾分大人びて見える。


 冷えきった体育館での卒業式は、みんな震えながらも、温かい眼差しに見守られ無事に終えることができた。ぼくは背の順でいつも一番前なので行事では邪魔が入ることなく、全部を見れるのだ。


 卒業生退場の際には、涙でくしゃくしゃになりながら、笑っている子が多かった。"えりかちゃん"も例外なく号泣しながら笑っている。ぼくの前を通りすぎるとき「ひでかず、バスケ続けてね。中学校でも跳んで!」と短く言い、ぼくは大きくうなずくと、彼女も満足げにうなずき、そのまま振り向かず退場していった――。

 彼女を見送って、ぼくは天井を向いているバスケのゴールを見上げた。
 
 ――"えりかちゃん"、卒業おめでとう。次は中学でバスケしよう!――

                            小学生編 終


 卒業アルバムと後日談――(エピローグ)

 この日、兄の"かずあき"も卒業した。兄は卒業祝いで先生や親たちとパーティをして卒業証書やアルバムのほかに、記念品やお菓子などを持って帰って来た。


 ぼくは、在校生なので先に家に帰り、こたつにすっぽり入って冷えた身体を温めながら、うとうと昼寝をしていた――。


 お菓子を食べながら、卒業アルバムを眺めていた兄が「あ、ひでかずが写ってる。ほら!」と、ぼくを文字通り、叩き、起こして見せてくれた。

ぼくは、重たいまぶたを開けアルバムの片隅に見入った。「あれ?これ最後の"1on1"のときのだ!なんで写真あるんだろ?」――。

 あのとき、校内をたまたま撮影に来ていた学校専属のカメラマンさんが偶然にも居合わせ、スナップ写真を撮っていたのだった。


 このカメラマンさん、時々小さいカメラ(当時の、俗にいうバカちょんカメラ)を持って授業風景や放課後の様子などを撮っているのを、ぼくらも知っている。


 アルバムに入っているのは、もちろん"えりかちゃん"が卒業生だからだ。

そういえば、あの日、児童見守りの先生から、学年とクラスをふたりとも聞かれたのを思い出した。見守りの先生はたしか3年生の先生だったはずだけど――。

 それにしても、こんな形で残っているとは思ってもいなかった――。

ぼくにとっても、忘れられない思い出深い1シーンは、幸運にもアルバムに刻まれたのであった。

中学生編へつづく。

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