OneShotの感想:ニコとの思い出をそっと抱える
この記事は『OneShot』の感想を記した記事です。ゲームのネタバレが多く含まれますので未プレイの方はご注意ください。
どうもどうも、S(h)inと申します。ちょっと前に遊んだ『OneShot』というゲームが面白かったのですが、感想を出力するにはちょっと時間が必要に思えたので、ひとまず未プレイ向けおすすめ記事を作っていました。
時間が経過し、ようやく整理がついたので、今回はネタバレありの「プレイ感想」を記事にしていきたいと思います。楽しんでいって貰えると助かります。
ニコと「私」の二人旅
ゲームは主人公のニコがまるで知らない世界に迷い込んでしまう所から始まります。最初に調べたPCを通じてプレイヤーは「君の「使命」はニコが帰れるように手助けすることだ。」と何者かに告げられながらも、塔を目指すニコの不思議な旅は幕を開けることとなるのです。
まずプレイを開始して一番最初に気に入ったのは「プレイヤーというキャラクターがゲームに存在する」という部分です。プレイヤーの名前として急にPCのユーザーネームが表示されたのはビビりましたが。(とりあえず「Administrator」に変更しました)
通常のRPGは操作する主人公の役割を演じる=ロールプレイをすることで物語を進行するのに対し、本作はニコという主人公を導く「神様」を演じることが求められます。
ニコを操作してマップを探索するのは「ニコに指示を出した後、本人の意思でそこへ移動する」ということになりますし、何かを調べた時の反応も「ニコがプレイヤーに伝えるように話す」ようになっています。これらの要素がロールプレイへの没入感を増していたのが良かったですね。
ニコとの会話を続けながら世界を探索するのはまさに「二人旅」といった感じ。そして物語を進める中での各種描写の積み重ねによって、ニコの優しい性格や子供っぽい一面などがが良く分かるようになってきてからは「この子のために何をしてあげられるか」と考えるようになりました。
ここから思うに本作のテキストはとにかく「ニコを魅力的なキャラクターとして描くことが上手い」ように思いました。本作をプレイしてニコに悪印象を持つ人はまずいないでしょう。
滅びを待つ世界
愛すべき主人公・ニコと旅する世界は、今まさに終わりを迎えようとしています。かすかな明かりが生活を支えながらギリギリ生きながらえる人々ですが、今後の展望はなく陰鬱な雰囲気が漂います。
しかし、この壊れた世界を薄明りが照らす光景はとても幻想的で美しかったです。星空のような青の海、乱れ舞う緑の光、煌々と輝く赤の川。どれもこの世界で最後の生きる源だからこそ、一層美しさを感じました。
こんな世界にいる人々もやはり限界を感じているようで、救世主たるニコの到来対しても冷めた反応を示したり、世界が滅びる前提で生活していたりと何とも物悲しい描写も多かったです。
一方で、キャラクターの多くがニコの旅のことを応援してくれたり、手伝ってくれたりするので、基本的に嫌いになるキャラクターがいない作品になっているのがすごいと思います。そのため、「ニコと一緒に世界を救うぞ!」というゴールに向けた歩みにも力が入ります。
直球と変化球の混合パズル
本作のジャンルは「パズルアドベンチャー」。ゆえにゲーム上での戦闘、QTE、アクションなど「何かに急かされること」がなかったので世界を堪能する時間がしっかりとれることが嬉しかったですね。
ですが、そのパズル要素は本作の目玉なわけですから一癖も二癖もあるものばかりで飽きさせません。これらは大別と以下の2種類になります。
世界の探索で解く
ニコと一緒に世界の隅々でアイテムや情報を集めることで解く問題がここに当てはまります。基本的にオーソドックスなRPG的な謎解きではありますが、本作では「複数アイテムを組み合わせて解決する問題」が多く、注意深く各種を探索する必要がありました。
特に序盤のバッテリー修理に関しては各種パーツが分かりやすい場所に点在していたのに対し、レンズだけどこにあるのか分からず右往左往していました。実際は坑道に元となるアイテムが落ちているんですが、見つけるまでかなり回り道をした記憶があります。
これ以降はかなり慎重にオブジェクトを調べるようにしたので、取りこぼしによる進行不能はありませんでした。特に後半でのエレベーターボタン作成はアイテムの組み合わせが決まった時の達成感が良かったですね。
反面、こういった地道な探索が苦手に感じるゲーマーさんは結構いらっしゃるので、この点は少し人を選ぶゲームかなとは感じました。そもそも、本作に好意的な方のプレイ感想でさえも「パズルは一部だけ攻略を見た」という話があったので、難易度自体が高めだった気もします。
PCを使って解く
ゲームの画面内に謎を解く方法がなく、PCでの操作が解決につながる問題。この部分が本作の最も特徴的で面白い要素だと思います。
最初は「PC内に答えのファイルがある」というシンプルなギミックながら、このゲームの独特さを教えてくれるに留まりますが、次第に解決法が「デスクトップがヒントになる」とか「ウィンドウを一度画面外に出す」 などという考えもしなかった方法になるのはかなり面白かったです。
独特過ぎて解き方が分からない、という人のためにゲーム内のPCから会話ができる謎のキャラからヒントをもらうことができます。これのおかげで「せっかくの面白いギミックを気づかずに詰む」といったことがないようにできているのも良かったですね。
救世主を導くストーリー
1周目:一度きりの選択
パズルを越えて各地の人々との交流を経て、塔へ向かうストーリーはとても王道なRPGという感じで楽しんでしました。しかし、その過程で今までゲーム内のPCを通じて会話していた謎の相手が「存在」というものらしいと判明します。それは「作者」によると「この世界の魂」とのことで、ちょっと話が難しくなったなと感じ始めます。
そのうえ、「存在」はニコが塔に着くと同時にプレイヤーが干渉する手段を断ち切り、ニコに「世界は救われた」と宣言してしまいます。ゲームがこんな意味不明な幕切れを迎えるのかと思いきや、「作者」がこの状況に対するカウンターを残していたことが明らかになりました。
「存在」の罠を突破するべく「作者」の残した紙片をゲーム画面に合わせながら迷宮を突破するシーンは本作で一番面白いギミックだった気がします。ですが、その過程でプレイヤーはこの世界を救うか、ニコを元の世界に返すのどちらかしかできないという残酷な真実を知ることになります。
この二者択一の選択肢は本当に悩ましいものです。ちょっと俯瞰した言い方になりますが、とにかく「いいバランスでできている」のです。
ニコがいい子で感情移入しやすく、元の世界に帰りたがる描写が多い
世界が救われると信じる人、もう手遅れだと思う人が両方いる
世界かニコか、と言われはするが世界を取ってもニコが死ぬわけではない
この「どちらの選択を取っても仕方ない」という塩梅でできた問いだからこそ、この一度きりの選択が重要になっています。
私は世界を救うためにここまで来たんだという気持ちと、ニコがこの世界を見捨てて帰っても罪悪感にさいなまれそうだなぁという思いから、太陽を戻し世界を救うことを選びました。
そうして塔の頂上から世界に光が差し込み世界は救われます。いままでニコを助けてくれたみんながこの光に歓喜し、プレイヤーの行った選択を祝福するようでした。
一方で、それ以降ゲームの画面に映るのは誰もいない部屋。何か寂しさを感じさせる、そんな風景が広がっていました。
2周目:覚悟を胸に全てを救う
これでちゃんとエンディングも見たわけですが、なんとも歯切れが悪く感じました。そこで「作者」の残したファイルを再び見ると、「一度きりの制限は突破でき、やり直せる」と伝えられます。
ここから、ニコと一緒に「全てを救うための旅」が始まります。最初の方は以前と似たような話の流れですが、「作者」の本をきっかけに物語が全く違う展開を見せるのはとてもワクワクしました。
しかし、このルートはいくつもの心の痛みを伴います。
ニコをもう一度この世界に呼んでしまったこと
1周目で会ったキャラの記憶がリセットされていること
そんな主要なキャラが次々と犠牲になること
ですが、苦しい道中を経て、ルエ、セドリック、プロトタイプの3人の紡いだ希望を胸にニコは「存在」=ワールドマシンに向けて説得を行います。
そして、ついにワールドマシンが自身の制御化に成功。失われていた真のエンディングを再構築し、今まで失った人たちが戻ってきます。ここでスタッフロールをプレイヤーに歩かせるという演出はかなり粋だったなぁと。
そして、ニコとの最後の時間がやってきます。2人で「この世界を忘れない」ことを約束し、今度はしっかりをお別れをしてから元の世界へ送り出します。
そして、最後にニコがウィンドウを飛び出し元の世界へ消えていきゲームは真の終わりを迎えます。今までウィンドウ外の行為はこちら主導の操作のみだったこともあり、このサプライズは予想外で印象深く、とても素晴らしい最後だったように思います。
ストーリー総合
ストーリーの要所をざっくり振り返ったところで思うのはやはり「一度きりの選択をさせながら、それを覆すシナリオ」が衝撃的だったなという所です。ゲームをプレイしていた自分としてはそもそも「ハッピーエンド」を望んでいたので、この構造は気に入っています。
一方で、プレイヤーにとっての山場だった「一度きりの選択」が、2周に渡るゲームプレイ全体を見ると「どちらを選んでも変わらないもの」になってしまっている点はやや引っかかるところがあります。
ただ、本作が重要視しているのは「プレイヤーがどちらかを選択したことそのもの」にあったのかなと思いました。プレイヤーが選択によってどちらかを見捨てたが、それでも両方を救いたいと思わせるためのギミックとしてあの二者択一はとても強烈で秀逸でした。
そして、本当のエンディングを迎えた後にゲームを起動した際、ワールドマシンを会うことができること、そして「記録の再現という形ならもう一度旅ができる」とゲームをリトライさせてくれるところもが良かったですね。
メタ要素の強い作品だからこと、一般のゲームでは普遍的な「セーブデータの完全リセット」をデリケートに扱っていることに好印象を受けました。最後の最後まで丁寧で優しい作品だったように感じます。
おわりに
プレイを始めた当初は「名作と言われているけど自分に合うだろうか」などと心配していましたが、終わってみれば大満足でしたね。語りのシーンが多いので「読み物」的な性質が強かった点だけ予想外でしたが。
本作の体験を通じて私はニコというキャラクターをとても好きになりましたが、この「ニコをどれだけ好きになれるか」は評価におけるキーポイントだなと思いました。これは作中のワールドマシンの制御化の話と似たような部分を感じます。
ニコのことを「ゲームのキャラクター」より深く、「旅の同行者」としてちゃんと意識してあげられるかどうかが、この本作の面白さを決定付けるような気がしました。
だからこそ、このゲームを好きな人はみんなプレイ後に考える想像するわけです。元の世界に帰って、パンケーキを嬉しそうにほおばるニコの姿を。