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アジャイル家事とアジャイル組織。公私ともに生産性高く
近年、「アジャイル」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。
もともとはIT業界でよく使われていたこの用語ですが、今では製品開発やプロジェクトマネジメントなど、さまざまな分野で使われています。
何なら、家事や子育てもアジャイルにフィットします!(下記は他の方の記事)
しかし、「アジャイル」とは何でしょうか?
多くの人はアジャイルを「柔軟に対応できる」「スピード感を持って行動する」といった一般的な認識で捉えているかもしれません。
特に日本の企業文化において、日々変化する上位者の指示や要望にあわせて、個人が特定の職務にとらわれず柔軟に働くことは、(良くも悪くも)割と一般的なのではないでしょうか?
しかし、アジャイルとは単なる「柔軟性」や「スピード感」ではありません。
実は非常にしっかりとした方法論であり、明確なプロセスと原則に基づいて運用されます。
今回は、このアジャイル型組織について、その歴史や実際の導入事例を交えながら詳しく解説していきます。
アジャイルは他投稿記事の「プロジェクト型組織」「スキルベース組織」との相性も良いので、ぜひそちらもご覧ください。
この記事を開いていただき、ありがとうございます。グローネクサス代表の小出です。元デロイトで14年、最終的にはディレクターで多くの大手企業を支援していました。
現在ではグローネクサス代表として、主に大手企業における人材戦略・人材マネジメント策定やワークスタイル変革、リスキリングのお手伝いしています。
まずは家事でアジャイルを考えてみる
アジャイルになじみのない方にもわかるよう、アジャイルを家事に例えてみます。というか、ぜひ実践してみてください。
例えば、家事を行う際に「洗濯」「料理」「掃除」といったタスクをすべて一人で順番にやろうとするのではなく、家族全員で協力し、柔軟に対応していくスタイルです。
具体的には、次のように進めます。
スプリント計画(後述)のような週の計画
日曜日に家族全員で1週間の家事・育児タスクを話し合い、役割を決めます。
「洗濯担当は誰」「食事の準備は誰」といった具合に、各メンバーの得意分野や時間の都合に合わせて調整します。
後述しますが、この家事のサービス提供者は家族自身です。家族はただタスク分担をするだけでなく、そのクオリティに対して要望を出します(重要)。
例えば、木曜日の夕飯のカレーには揚げナスを入れてほしいとか、おしゃれ着の洗濯はドライモードでとか、ですね。
デイリースタンドアップ(朝会)
毎朝短時間で「昨日やったこと」「今日やること」「困っていること」を共有する家族会議を行うことで、家族全員が状況を把握できます。
短いサイクルでの改善
例えば、ある料理が子どもに不評だった場合、そのフィードバックを受けて次の日は別のアプローチを試します。
例えば、娘にスクランブルエッグサンドを出したところ、いまいち食べてくれず、翌週以降は違うメニューを出す、とかですね(実話)。
アジャイル的に小さな改善を重ねていくことで、家族全体の満足度を高めていきます(とても重要)。
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アジャイル家事からの示唆
アジャイル家事を踏まえ、いくつかアジャイルのポイントを上げます。
固定化された期間のサイクル(スプリントといいます)を回すこと。家事でいえば毎週日曜日に翌週の献立、洗濯、買い物の計画を立てていますね。
実際に仕事や家事をするメンバーが固定されていること。家族が増えることもあるかもしれませんが、基本的には4人家族であれば4人でできる計画を考えます。
顧客やサービス提供先の満足度(価値)が最大化するように計画見直しや改善を行うこと。家事の例でいえば、家族の要求や要望、改善事項を翌週のサイクルに組み込んでいます。
これを仕事に置き換えてみますと、
週次(または各週次、月次等)の固定化されたサイクルで、次のサイクルに向けてどのようなアウトプットを出すか、どのような品質を出すか、どのように分担するかを考える。
働くメンバー(とその工数)を固定する。要は毎週の仕事に投下するリソースを固定し、その中で出せるアウトプットを考える、ということですね。
毎週、顧客やサービス提供先の要望を聞き、具体化し、価値が最も高まるアウトプットやその品質を定義して、計画の見直しや改善を行う。
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一般的な企業では、上記でいうと、
「最初に決めた計画は、絶対にやりきる(それが顧客にとって価値が低くなっていたとしても)」
「そのために必要なリソースはどんどん追加で投下する」
「さらに追加要望が来て、当初計画していた(価値の低い)アウトプットと価値の高まったアウトプットを両方作って、生産性が下がる」
というのが一般的なのではないでしょうか。
これを計画駆動型といって、要は「最初に立てた計画は神様!」な進め方なのですが、結果として生産性の低下を招きます。
一方、アジャイルでは固定化された短期間のサイクル毎に顧客の最もほしいアウトプット(価値あるアウトプット)を次のサイクルの最優先として計画しますので、価値駆動型といったりします。
当然、価値や優先度の下がったアウトプットは作らない、という判断となります。
これは、アジャイルを勉強しているとよく出てくる「やらないことを決める」という考え方が根底にあります。
日常的な家事や仕事においても、「まずはやらないことを決めよう」の一声から始まると、なんだかワクワクしませんか?
アジャイル導入事例
アジャイル戦闘機開発
アジャイルの歴史について、特にスウェーデンのサーブ社による取り組みは非常に興味深いです。
サーブ社が開発した戦闘機SAAB 39(グリペン)は、アジャイルの手法を取り入れたことで、プロジェクトコストをわずか140億ドルに抑えることに成功しました。
これは、F-35の100分の1という驚異的なコストパフォーマンスであり、グリペンは世界で最もコスト効率の高い戦闘機の一つとされています。
グリペンの開発プロセスは、「エンジン」「コックピット」「機体」「兵器」に分けられ、3週間を1スプリントとする開発サイクルを採用しています。
各部門は3週間ごとに成果を戦闘機に組み入れ、テスト飛行を行い、その結果を基に次の改善を行うというプロセスを繰り返しています。
これにより、各パートの機能を短期間で熟成させていくことが可能となりました。
さらに、毎日7:30から各チームが15分間の朝会を行い、各チームのオーナーが次の段階の朝会に出て報告を行うという仕組みも取り入れています。
この朝会は数珠つなぎで進められ、最終的には8:30にはエグゼクティブ層に全チームの進捗や課題が共有されるというスムーズな情報共有の体制が構築されています。
この手法により、サーブ社はわずか1時間で4,096人に情報を伝達することが可能となり、組織全体のスピード感と透明性が確保されているのです。
参考文献:Owning the Sky with Agile - Scrum Inc.
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アジャイル内部監査
アフラック生命保険では、「アジャイル型監査」を導入しています。
従来の内部監査が完了するまで数カ月かかるのと違い、2週間という短いサイクルでアジャイルに繰り返す手法です。
2週間サイクルでステータスレポートや監査報告書をまとめ、フィードバックを得ながら進めていくサイクルを実践しています。
その成果として、改善機械の伝達までの平均日数を2年間で35日間も短縮できたとのことです。
参考:chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.ifra.jp/pdf/2021/1/126_web.pdf
その他アジャイルの導入事例は、LIXILや東京都庁など、非IT組織においても多く導入されています。
アジャイルの進め方に関するポイント
本稿ではアジャイルの具体的なやり方について網羅的には触れません。
多くの組織やビジネスパーソンがわかりやすく解説されている記事も多いので、そちらを参照していただければと思います(上記の都庁の事例など)。
本稿ではその中でも、初めてアジャイルに触れた時によくある「気づき」についてあげたいと思います。
とにかく見える化
家事でも仕事でもそうかもしれませんが、何となく「この仕事はXX」といった、暗黙の中で分担が行われるケースが多いかと思います。
で、よくあるのが仕事や家事の偏り、認識齟齬、ポテンヒットなど。
このあたりは初歩的な話かもしれませんが、通称「見えない家事」といわれるタスクが一方に偏る(多く場合は妻)って、ありますよね?(自戒)
アジャイルはむしろプランニングが大事
2つ目は「アウトプットとその品質の要件を初期に固めること」。ここがアジャイル導入においてよく勘違いされるところなのです。
アジャイルだから、「アウトプットはとにかく出して、その反応を見て改善するんだよね?」という認識の方が多いかと思います。
実際にそういった認識の方が初めてスプリントプランニング(上記家事の例でいうと、翌週の計画作成の段階)をやってみると、「想像以上にアウトプットとその内容・品質を初期段階で具体化しようとするのに驚いた」という感想が聞かれます。
例えば、業務マニュアルの作成、という仕事にアジャイルを適用したとします。
よくあるのが、どんなアウトプットを出すのかを特に明確にせずにいきなり業務フローとか、作業手順を作成してしまうようなことはよくあるかと思います。
アジャイルで推進する場合には、そのアウトプットとして、どのようなものを、どの程度の品質でやるのかについて明確にします。
そのアウトプットごとに、「誰が」「何のために」「何をしたいのか」を具体化することが大事します。
例えば、業務マニュアルと一言で言っても、その構成要素には「経費精算のフロー」とか「フローに沿ったシステム操作手順」など、いくつかの章立てやコンテンツがあるはずです。
そのコンテンツやフローを価値のある最小単位(MVP:Minimum Viable Product)として、どのようなMVPが優先度が高いのか、また、そのMVPは「誰が」「何のために」「何をするのか(どう使うのか)」を洗い出していきます(これをユーザーストーリーマッピングといいます)。
「経費精算のフロー」であれば、「(特に)中途含む新入社員が」「問い合わせなしに自分で経費精算を完結するために」「フローを辿っていくことで精算を実施できる」などです。
上記のような具体化を、経費精算のフロー以外の各アウトプットについて、計画時点で言語化していくのです。
そしてその内容を顧客やサービス提供先と一緒に考え、アウトプットとその品質の要件を明確にし、優先度を決めていきます。
カイゼン活動
3つ目は、必ずサイクルの終わりに「振り返りと改善」の時間をとることです。
アウトプットがイケてたとかイケてなかったというよりは、チームとしての作業の進め方やコミュニケーション、使っているツールなど、アウトプットを生む「プロセス」を振り返り、次のサイクルでどう改善するかを考えます。
結構原始的な話なのですが、意外にこういった振り返り活動、ほとんどの企業ができていないのではないでしょうか。
しかも、この改善はサイクルごとに行うので、かなりの高頻度で改善を重ねていくことができます。
なお、リソースを固定する意味はここに起因するところが大きいです。
メンバーが入れ代わり立ち代わりだと、チームとしての経験値が一向にたまりません。
改善サイクルが断絶され、生産性が高まらない現象が起きます。
ゆえにリソースを固定し、チームとしての成熟度を高めていくことが重要なのです。
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アジャイル展開方法【アジャイルCoE/事務局向け】
私がご支援してきた企業において、アジャイルを他組織や全社に拡大していくアプローチには、大別して3つありました。
最後の章で、それぞれのパターンについてご紹介します。
パターン1. 手法伝播型:アジャイルを導入したい部門/チーム/個人を公募し、ワークショップや個別相談を実施
アジャイルに興味のある部門やチームを公募し、彼らとともにワークショップや個別相談を行うことで、アジャイルの基本概念や具体的な実践方法を学びます。
パターン2. スモールスタート型:アジャイル適用の親和性が高い部門、前向きな部門から徐々に拡大
アジャイル導入に積極的な部門や適用の親和性が高い業務から始めて、徐々にその適用範囲を拡大します。最初に成功事例を作り出すことで、組織全体の理解と支持を得やすくなります。
パターン3. トップダウン型:トップダウンでビジョン・戦略→組織→教育の順に全社的に推進
経営層からのトップダウンでアジャイルのビジョンと戦略を示し、一定程度強制的に落とし込みます。この際には、組織構造の再編や従業員への教育を通じて、全社的なアジャイル化を推進します。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
自社で、アジャイル導入に関する課題への対応にお悩みの方や、プロジェクト型、スキルベース型組織の導入を検討されている方は、お気軽にお問合せくださいませ。