タイムリーに人を集散する仕組み「プロジェクト型組織」
近年、プロジェクトという言葉がより日常的に受け入れられるようになってきました。
筆者が子どものころ、何となくビジネス系のドラマを見ていて、主人公がプロジェクトにアサインされ、そこで描かれる悲喜こもごもを見ていました。
そしてプロジェクトって「格好いい!」と感じていたのが思い出されます。
そんな古くて新しいテーマ「プロジェクト型組織」ですが、昨今のDXトレンドや環境変化の激しい時代において、実際に導入する企業が増えています。
本稿では、プロジェクト型組織について、改めてその目的や歴史、具体的な運用プロセスについて解説します。
なお、別で投稿している「スキルベース組織」と親和性の高い記事になっていますので、ぜひそちらもあわせてご覧ください。
この記事を開いていただき、ありがとうございます。グローネクサス代表の小出です。元デロイトで14年、最終的にはディレクターで多くの大手企業を支援していました。
現在ではグローネクサス代表として、主に大手企業における人材戦略・人材マネジメント策定やワークスタイル変革、リスキリングのお手伝いしています。
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プロジェクト型組織とは?
プロジェクト型組織とは、特定の目標を達成するために必要な人材をタイムリーに集め、目的を果たした後にまた解散するという仕組みを持つ組織形態です。
筆者は高校までラグビーをやっていたのでそれで例えるのですが、ラグビー日本代表チームが試合ごとにメンバーを集め、試合が終わった後には解散するような仕組みです。
代表戦は試合の相手や位置づけ、目的ごとに招集するメンバーを変えます。
例えば、この試合は育成的位置づけが強いので、早稲田大学の矢崎選手を招集するとか、この試合はキックが重要になるので神戸製鋼の山中選手を招集するなど、です。(わからない方は申し訳ないです)
試合の位置づけ(仕事の位置づけ、目的)に合わせ、試合(プロジェクト)の役割を定義し、そこにフィットする選手(社員)を招集する。
選手(社員)はその役割を認識し、自身の持てるスキルを活かして役割を遂行する。
そして試合後には、また元の所属チーム(所属組織)に戻っていく。
選手(社員)は自身のパフォーマンスを振り返り、さらに伸ばしていくスキルや能力を決め、努力する。
少しラグビーによる例えが長くなりましたが、これがプロジェクト型組織の基本的なサイクルになります。
伝統的な日本企業では、人を固定してそのメンバーであらゆる仕事が降りかかってきても何とか頑張る、という形式が通常かと思います。
それでは、求められるスキルや役割が高速に変化する昨今の環境には対応できなくなってきた、という実情もあります。
このような変化の激しいビジネス環境では、このような柔軟な組織構造が重宝されます。
プロジェクト型組織では、メンバーが自分のスキルを最大限に発揮し、それに応じた報酬や評価を受けることが多く、仕事の流動性が高いことが特徴です。
そしてこのようなプロジェクト型組織は、新規プロダクトの開発やクライアントの要望に対するカスタムソリューションの提供など、期間や目標が明確な業務に適しています。
プロジェクト型組織の歴史
プロジェクト型組織の起源は、20世紀中頃の建設業や宇宙開発の分野にさかのぼります。
特にアポロ計画のような大規模かつ一時的な目標を達成するために、多くの専門家が集まってプロジェクトチームを形成する必要がありました。
参考文献:
Chaikin, A. (1994). A Man on the Moon: The Voyages of the Apollo Astronauts. Viking.
Cleland, D. I., & King, W. R. (1983). Project Management Handbook. Van Nostrand Reinhold.
このような成功体験から、他の産業分野でもプロジェクト型のアプローチが採用されるようになり、現代のさまざまな企業で応用されています。
また、1990年代からのIT業界の急成長もプロジェクト型組織の普及を後押ししました。
短期間での技術の進化や顧客ニーズの多様化により、より機動力のあるチーム編成が求められたのです。
1969年に米国プロジェクトマネジメント協会が設立後、事実上のプロジェクトマネジメント方法論のグローバル標準となっているPMBOK®は、1996年に初版が発行されました。
その後、日本にもPMIJが設立され、2000年以降徐々にプロジェクトマネジメント組織の普及が始まりました。
プロジェクト型組織の導入企業
プロジェクト型組織を採用している代表的な企業として、多くのコンサルティングファームや、IBMやマイクロソフト、ユニリーバなどが挙げられます。
また、昨今は国内企業でもこのようなプロジェクト型組織の導入を行っています。
例えば、JTBでは、『経営企画・事業開発・IT部門が三位一体で取り組む、JTBの「プロジェクト共創型」の新規事業』に取り組んでいます(2019年5月21日時点)。
また、損保ジャパンの本社においても、『プロジェクト型業務運営の拡充』を図っています(2024年11月7日時点)。
これらの企業は、プロジェクトの進行に応じて柔軟に人材を配置し、適材適所のスピード感ある対応を実現しています。
特にユニリーバは、社内の各プロジェクトやタスクを細分化し、それぞれのタスクに最も適したスキルを持つ人材を柔軟に配置する仕組みを導入しています。
このような取り組みは「スキルベース組織」と言われますが、別の投稿記事で具体的にまとめていますので、ご参照ください。
このように、プロジェクト型組織は特に大規模な企業や多国籍企業において、業務効率を高める重要な手法となっています。
プロジェクト型組織の運用 - 人と仕事の両方の管理が重要
プロジェクト型組織を効果的に運用するには、人と仕事の両方をタイムリーに管理することが欠かせません。
プロジェクトの成功には、適切なスキルセットを持つメンバーを選定し、彼らが十分なパフォーマンスを発揮できるようなサポートが必要です。
具体的なプロセスとしては、以下のような流れがあります。
1.プロジェクトの定義と計画:
最初に、プロジェクトの目標、スコープ、タイムライン、必要なリソースを明確に定義します。
この段階で、プロジェクトに必要なスキルセットを特定し、プロジェクトの成功に必要な要件を洗い出します。
2.メンバーの選定とアサイン:
プロジェクトの要件に基づいて、必要なスキルを持つメンバーを選定します。
この前提として、複数あるプロジェクトと多数のメンバーのマッチングを行うため、下記のような情報は常時リアルタイムで管理しておく必要があります。
・仕事側:プロジェクトのゴール、タスク・スケジュール、アサインが必要な役割、役割に求められるスキルセット、必要な工数、勤務地など
・人側:各メンバーの稼働状況(空き工数)、スキルセット、経験・実績、本人のキャリア志向、稼働可能時間(短時間勤務等)、稼働可能場所 等
また、AIやデータ分析ツールを活用して、各メンバーのスキルや経験、現在の稼働状況を評価し、最適な人材を配置手法も普及してきております。
このようなツールを「タレントマーケットプレイス」といった概念でとらえることもありますが、こちらはまた別の記事で書きたいと思います。
3.プロジェクト開始とキックオフミーティング:
メンバーが揃ったら、プロジェクトの目標、役割分担、スケジュールなどを共有するキックオフミーティングを実施します。
このミーティングでは、各メンバーの役割や責任、期待される成果を明確にし、プロジェクトの方向性を共有します。
4.進捗管理とモニタリング:
プロジェクトの進行中は、進捗状況を定期的にモニタリングし、必要に応じてリソースの再配分やスケジュールの調整を行います。
プロジェクト管理ツールを活用して、各タスクの進捗状況や問題点を可視化し、早期に対策を講じることが求められます。
5.評価とフィードバック:
プロジェクト終了後には、プロジェクト全体の評価とフィードバックを行います。
達成できた点や課題となった点を振り返り、メンバー個々のパフォーマンスについても評価します。
このフィードバックは、次回以降のプロジェクトに活かすための重要なプロセスです。
6.知識の共有と学習:
プロジェクト終了後、得られた知識や経験を組織全体で共有します。
これにより、他のプロジェクトでも同様の課題に対応できるようになり、組織全体の知識資産が増加します。
ナレッジシェアリングのセッションやドキュメンテーションの整備を行い、得られた学びを次に繋げます。
このように、プロジェクト型組織の運用には、プロジェクトの計画段階から実行、評価、知識共有に至るまでの各プロセスを丁寧に管理することが重要です。
これにより、プロジェクトごとの目標達成を効果的に進めると同時に、組織全体のスキルアップと効率的なリソース活用を実現します。
メンバーシップ型とプロジェクト型組織の関係
メンバーシップ型組織とプロジェクト型組織は、実は補完的な関係を持っています。
メンバーシップ型組織は、社員が長期間にわたって組織に所属し、多様な業務を経験しながら成長することを目指す仕組みです。
一方で、プロジェクト型組織は特定のプロジェクトごとに人材を集め、そのプロジェクトの目的を達成することに重点を置いています。
メンバーシップ型の安定した雇用基盤があることで、社員はリスクを恐れずに新しいプロジェクトに挑戦しやすくなります。
さらに、プロジェクト型組織の中で得られた経験や知識は、メンバーシップ型組織に戻った後にも活かされ、組織全体の知識資産の強化に寄与します。
プロジェクト終了後に社員が元の部門に戻ることで、その部門に新たな視点やスキルを持ち込むことができ、組織全体の能力を底上げする効果も期待されます。
プロジェクト型組織の導入に適している組織
プロジェクト型組織は、特に変化が激しく、新たな取り組みやイノベーションが求められる環境に適しています。具体的には、次のような組織がプロジェクト型の導入に適しています。
経営企画部門:戦略的なプロジェクトや新規事業の企画・推進など、短期間での成果が求められる業務が多い。
DX部門/IT部門:デジタル技術を活用した改革やシステム導入プロジェクトなど、変化に迅速に対応する必要がある部門。
新規事業開発部門:市場のニーズに応じて迅速にプロダクトやサービスを開発する必要があり、柔軟なチーム編成が求められる。
人事企画部門:人材のリスキリングや制度改革など、組織全体に影響を与えるプロジェクトを推進する際に、スピーディーな対応が必要。
エンジニアリング部門:特に製造業や建設業など、プロジェクトベースでの開発や設計が求められる環境において、効率的な人材配置が求められる。
このような組織では、プロジェクトごとにチームを編成し、各プロジェクトの目標達成に向けてメンバーを集めて取り組むことで、成果を上げやすくなります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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