ヴィジュアル系と昭和歌謡 ① 「絶唱型〜V系歌唱への変遇について考える」
今回は、不定期連載企画
「ヴィジュアルと昭和歌謡」
の第1弾をお送りします!
この企画は以前、ライターの藤谷千明さんから
「SHU-TO.さんは昭和歌謡が専門ジャンルなので、"ヴィジュアル系と昭和歌謡"のイベントをやればいいのでは?」
とアドバイスを受けて誕生した企画となります。
(これを思いつかなかったのは盲点でした…)
書くにあたって、僕の頭の中を全て出す必要があったため、公開がこの時期になりましたが、その分面白い記事になったと思います!
記念すべき第1弾のテーマは
「絶唱型〜V系歌唱への変遇について考える」
です!
いわゆる昨今のヴィジュアル系歌唱の源流は、昭和歌謡における"絶唱型"という歌唱法から来ているのではないか!?
という部分に迫ろうと思います。
それでは本編に移ります!
絶唱型〜V系歌唱への変遇について考える
■そもそも「絶唱型」とは?
絶唱型とは、歌手の西城秀樹さんが編み出されたワイルドなボーカルスタイルで、「喉の奥からハスキーな声を絞り出すように歌い上げる」点が特徴的です。
秀樹さんはロッド・スチュワートさんやジャニス・ジョプリンさんに影響を受け、"洋楽ロックのエッセンスを歌謡曲に落とし込む形"でこの歌い方を編み出されたそうです。
※一説には「ポール・アンカさんのしゃくり歌唱もインスパイア元なのでは?」という説もあります。僕も当時の洋楽の中で一番V系歌唱に近いのはポールさんだと思います。
この絶唱型は、甘い声での歌唱が定石だった男性アイドル歌謡の世界に、ワイルド/ロック要素を取り入れた革新的な歌唱法でした。
絶唱型の代名詞楽曲といえば何と言っても「傷だらけのローラ」です。
"泣きの響き"を用いた静かなAメロから、サビの"パワフルな歌唱"でその場を圧倒する「傷だらけのローラ」は絶唱型の代名詞であると共に、まごうことなき秀樹さんの代表曲でもあります。
僕はこの
・秀樹さんによる"絶唱型"が、V系歌唱の源流なのではないか?
また、
・"秀樹さん"と"歌謡曲"は数多くのV系ボーカリストに影響を与えているのではないか?
と考えています。
次の項目でそれぞれ解説していきます。
①絶唱型が与えたV系歌唱への影響
筆者の中のV系歌唱は
「声を鼻にかけてしゃくり上げたりひっくり返しながらビブラートを多用して歌う歌唱法」
というイメージです。
既にこの一文の中にかなりの絶唱型要素が詰め込まれています。
まず、V系ボーカリストのほとんどは
・"鼻腔共鳴"という鼻で声を響かせる発声のテクニック
・"しゃくり"という音を下から上に上げるテクニック
・激しいビブラート
を多用して歌いますが、ルーツを辿ると絶唱型の
・フレーズに泣きの響きを込めるテクニック
・しゃくりで声を更に伸ばすテクニック
・激しいビブラート
が少なからず影響を与えているのではないかと考えています。
実は僕がこの企画を思いつかなかったのも
「多くのV系ボーカリストが秀樹さんからの影響を公言されているため、自分の中で"絶唱型がV系歌唱の源流"というのは当たり前になっていた」
というのが理由です。。
"西城秀樹さん"と"歌謡曲"がV系ボーカリストにどのような影響を及ぼしたかは次の項目で解説していきます!
②"西城秀樹さん"と"歌謡曲"がV系ボーカリストに与えた影響
"西城秀樹さんからの影響"
に関しては、ヴィジュアル系のボーカリストだとRYUICHIさん、GACKTさん、松岡充さん、
ヴィジュアル系以外のボーカリストだと氷室京介さん、森重樹一さん、ダイヤモンド☆ユカイさん、西川貴教さんなどが公言されています。
特に
・RYUICHIさんは秀樹さんへ楽曲提供されている
・GACKTさんは秀樹さんとセッションされている
・松岡さんは秀樹さんの主催イベントに出演されている
など、秀樹さんとの親交が深いことでも有名です。
また、RYUICHIさんとGACKTさんは秀樹さんの絶唱型を継承されているため、歌唱面でも秀樹さんへのリスペクトが深いお二人です。
そして、"歌謡曲"がV系ボーカリストに与えた影響についてですが、
V系ボーカリストがカバーアルバムを出すと、大体昭和の歌謡曲のカバーが収録されています。
以前、数多くのヴィジュアル系バンドのプロデュースを手がけられた明石昌夫さんがご自身のYouTubeチャンネルで
「バンドは、ボーカリストほど邦楽ルーツが強い人が多く、楽器隊の人は洋楽ルーツが強い人が多い」
仰っていたのですが、僕もそう思います。
そのため、V系ボーカリストのカバーアルバムにはそのアーティストが幼い頃に慣れ親しんでいた歌謡曲のカバーが収録されているのであると考えられます。
大半がクセの強いカバーばかりなのですが、不思議なことに、歌唱法の系譜があるからなのか、「昭和歌謡×V系歌唱」はとても相性が良いです。僕もV系アーティストによる歌謡曲カバーは、好きなカバーが沢山あります。
この"歌謡曲メロディ/演歌メロディのヴィジュアル系サウンドとの親和性"については、
「ヴィジュアル系と昭和歌謡③」
くらいで詳しくお話出来ればと思います!
※余談ですが、90年代末期にデビューされたV系ボーカリストの方々は氷室京介さんや宇都宮隆さんの影響を公言される方が多いです。
筆者の考えるV系歌唱の系譜
これは僕の持論なのですが、
「絶唱型+元祖V系歌唱=V系歌唱
なのではないか」
と考えています。
そのため、
「V系歌唱には
・歌謡曲要素を司る始祖
・ロック要素を司る始祖
が居て、90年代初期はそのお二方の要素を混ぜ合わせる形でV系歌唱が生まれるも、90年代中期あたりから
・V系歌唱 (歌謡曲要素が強い流)
・V系歌唱 (ロック要素が強い流)
に別れて行き、それぞれに家元が居る」
のではないかとも考えています。
※これを書いてる時に僕も
「いかにヴィジュアル系が型を受け継ぐ文化なのか」
を思い知らされました。
では、具体的に"始祖"と"家元"はどなたなのかを次の項目で解説していきます!
◯V系歌唱の始祖
西城秀樹さん (歌謡曲要素の始祖)
V系歌唱の始祖のうち一人目は勿論、西城秀樹さんです!秀樹さんは"歌謡曲要素を司る始祖"と言えます。
昭和の歌謡曲シーンで、ワイルドな絶唱型を用いて沢山の方々を魅了した秀樹さんは、数多くのV系ボーカリストに多大なる影響を与えました。
実は秀樹さんの歌い方も、20代後半以降は"絶唱型を踏まえた上で、大人の余裕を感じるような歌い方"へ進化されています。
そのため、V系歌唱始祖としての秀樹さんは
「10〜20代前半の絶唱型期の秀樹さん」
とさせていただきます!
MORRIEさん (ロック要素の始祖)
もう一人の始祖は、元祖ヴィジュアル系バンド DEAD ENDのボーカリスト MORRIEさんです!
MORRIEさんは"ロック要素を司る始祖"と言えます。
MORRIEさんの歌い方はご本人が
「初期から比べると同一人物とは思えないくらい変わっている」
と仰っている通り、キャリアを通して進化を続けられています。
初期のMORRIEさんの歌い方は、当時のHR/HMシーンの流れを汲んだ"その身に獣を宿したような甲高い声でのシャウト歌唱"でした。
※便宜上「HR/HM歌唱」と呼称させて頂きます。
この時期の歌い方はロニー・ジェイムス・ディオさんやBAKIさんの影響を受けられていたそうです。
DEAD END後期以降は、"やや声が低くなり、しゃくりを多用する切れ味の鋭い歌声"に進化されています。
※便宜上「元祖V系歌唱」と呼称させて頂きます。
現在は(2006年頃から)"太いローボイスに強くビブラートをかけて響かせるような歌い方"で歌われていて、ファルセットも多用されています。
そのため、V系歌唱始祖としてのMORRIEさんは
「80年代のDEAD END時代のMORRIEさん」
とさせていただきます。
(HR/HM歌唱〜元祖V系歌唱まで)
MORRIEさんも秀樹さんと同じレベルで数多くのV系アーティストに影響を与えられていて、個人的には
「VISUAL JAPAN SUMMITの主催者は、
・YOSHIKIさん
・西城秀樹さん
・MORRIEさん
でも良かったのではないか」
と思っています。
◯それぞれの要素を継承したV系歌唱の家元
RYUICHIさん (V系歌唱"歌謡曲流" 家元)
V系歌唱"歌謡曲流"の家元は、LUNA SEAのRYUICHIさんです。RYUICHIさんはV系ボーカリストの中で一番歌い方が秀樹さんに近いため、秀樹さんの絶唱型の正統継承者とも言えます。
RYUICHIさんの歌い方もキャリアを通して進化を遂げられていて、大まかに進化を辿ると、
デビュー初期はほぼMORRIEさんの「HR/HM歌唱〜元祖V系歌唱」そのまま
↓
90年代中期から歌謡曲要素や絶唱型要素が強くなる
↓
90年代後期から甘い声での絶唱型になる
↓
2007年頃から声の重心の位置を低めに捉えた太い声での歌唱になる
といった流れです。
そのため、V系歌唱家元としてのRYUICHIさんは
「90年代中期〜後期にかけてのRYUICHIさん」
とさせて頂きます。
この時期のRYUICHIさんは始祖のお二方の良いところを絶妙な配合で混ぜ合わせた歌い方をされていますね。
前述の通り、RYUICHIさんはV系ボーカリストの中で一番歌い方が秀樹さんに近く、絶唱型のボーカリストであるため、"歌謡曲流"の家元はRYUICHIで間違いないと思います。
しゃくり上げてどこまでも声を伸ばすあの歌い方は非常に歌謡曲を感じます。
清春さん (V系歌唱"ロック流" 家元)
V系歌唱"ロック流"の家元は、黒夢/SADSの清春さんです。
僕は、MORRIEさんの「HR/HM歌唱〜元祖V系歌唱」を自分なりにアレンジされて、今に繋がる「V系歌唱の型」を完成させたのは清春さんだと考えています。
現在の清春さんの歌い方は、
「太いハスキーボイスでのブルージーな歌い方」に進化されていますが、
デビュー当時から2000年代半ばまでの歌い方は、
「鋭い声をひっくり返したり、小刻みにビブラートをかけながら響かせる歌い方」
をされていました。
そのため、V系歌唱家元としての清春さんは
「デビュー当時から2000年代半ばまでの清春さん」
とさせて頂きます。
90年代後期にデビューされたV系ボーカリストの殆どが清春さん直系の歌い方をされていたり、ネオV系世代のボーカリストも清春さんからの影響を公言されている方が多いため、
ロック味が強いMORRIEさんの歌い方を継承された"ロック流の家元"は清春さんで間違いないと思います。
また、清春さんは度々バラエティ番組などで「歌詞が聴き取れないこと」をピックアップされることがありますが、ご本人曰く「あの歌い方は他と違う歌い方をして個性を出すためにやっていた」「僕らの時代は普通に歌ったらデビューさせて貰えない時代だった」そうです。
■HYDEさんも家元なのでは?
この時点で
「HYDEさんもV系歌唱の家元じゃないんですか!?」
と思われる方もいらっしゃると思います。
確かに筆者も
"HYDEさんは家元の一人"
だと考えているのですが、
HYDEさんの
「ねっとりした太い声で唸るように歌う歌い方」
はご本人が公言されている通り、デヴィッド・シルヴィアンさんの影響が強く、
「デヴィッド・シルヴィアンさん+MORRIEさん=HYDEさん」
なのではないかと感じております。
そのため、HYDEさんは言うなれば
「V系歌唱 "洋楽流"の家元」
となりますので、
今回のテーマ「ヴィジュアル系と昭和歌謡」
では、強くピックアップせずに「HYDEさんは洋楽流の家元だよ!」くらいの取り上げ方となることをお許しください…。
90年代後期以降のV系ボーカリストの歌い方は、確実に家元のお三方からの影響を受けられているのですが、ルーツを辿るとそこには
「始祖の秀樹さんとMORRIEさんが居る」
というのが今回の研究の成果でした!
考察
①絶唱型はモノマネされやすい?
絶唱型はその特徴的な歌い方やクセの強さ故に
「とてもモノマネされやすい歌唱法なのでは?」
という疑問を感じております。
例えば
・秀樹さんが「アーイ!!(木梨憲武さん)」「ハーン!!(山口智充さん)」
・RYUICHIさんが「ぽぉぉぉ!!」「ファー!!(たむたむさん)」
といった表現でモノマネされているのをよくメディアで目にすることがあります。
そのため、
「秀樹さんとRYUICHIさん、明らかに他の歌手の方々よりモノマネされやすくないか?」
と思うようになりました。
しかし絶唱型は、逆にそれだけのインパクトがあり、大衆の心を掴むことが出来る歌唱法であるため、ヴィジュアル系界における「個性を大事に」という思想に沿っている歌唱法であることは間違いないありません。
今後もヴィジュアル系界で「絶唱型のボーカリストが居なくなること」は無いと思います。
むしろ増え続けるはずです。。
②ちなみに多くのV系アーティストが影響を公言する"沢田研二さん"はどういった影響を与えているのか
続いては、
「多くのV系アーティストが影響を公言する"沢田研二さん"はどういった影響を与えているのか」
という疑問についての考察です。
沢田さんも秀樹さんと同じレベルで数多くのV系アーティストに影響を与えられています。
特に清春さんは沢田さんの「6番目のユ・ウ・ウ・ツ」が大好きだそうで、活動/サウンドメイク(ベースレス)のスタンスもかなり近いです↓
しかし、沢田さんがV系アーティストに与えた影響は、"歌い方"ではなく、
・メイクや派手な衣装などのヴィジュアル面
・ステージング面(ステージ上での振る舞いや仕草)
の方が強いのではないかと考えています。
※勿論、鋭く艷やかな歌声も多くのV系ボーカリストに影響を与えられています。
何故そのように感じているかと言うと、僕の思う沢田研二さんの一番の凄さは、
「顔でも歌声でもなく、
1曲に本気で入り込んでその曲の世界観を演出するところ」
なので、その部分がV系アーティストによる「幻想的/非日常的な世界観の演出」に繋がっているのではないかと考えているからです。
そのため、
西城秀樹さんと沢田研二さんのお二方は、
「ヴィジュアル系というジャンルを形成する上での始祖的な存在」
と言っても過言ではないと思います。
まとめ
・V系歌唱の系譜を辿っていくと、そこには「西城秀樹さんの絶唱型」や「MORRIEさんの元祖V系歌唱」がある!
・ヴィジュアル系は、昭和の歌謡曲から多大なる影響を受けているジャンルである
※記事内での発言は全てSHU-TO.個人の見解となります。イベント化の際は登壇者の方と意見を交わす予定です。
また、昨年
・ヴィジュアル系とシューゲイザー↓
を開催した分、今年は
・ヴィジュアル系と昭和歌謡
・ヴィジュアル系とトランス
の研究に力を入れる予定です!
次回のnoteの更新は、1/17(金)の
「対談/インタビューシリーズ②
60〜90年代の旧ジャニーズ事務所楽曲をテーマに対談してみた」
になります!
そのため、
「ヴィジュアル系と昭和歌謡②
改めてSUGIZOさんのSuper Loveについて考える」
は、再来週の1/24(金)更新となります!
どちらもお楽しみに!
■ヴィジュアル系と昭和歌謡っぽい研究記事集
※記事はここまでですが、今後のnoteの制作費確保のため今年から記事の有料化を進めております。よろしければ購入して頂けますと助かります!
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