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西城秀樹さん「ファーストフライト」を"編曲"や"曲作りの特徴"に着目してレビュー

ファーストフライト」は今もなお愛される歌手の西城秀樹さんの1978年に発売されたアルバムです。

ファースト フライトのジャケット

収録曲は全11曲で、そのうち秀樹さんの自作曲が6曲、残りの5曲を秀樹さんのバックバンドのギター芳野藤丸さんが作曲しています。

秀樹さんが遠征先でよくホテルが隣の部屋だった藤丸さんに作曲の相談をしているうちに「せっかくだから藤丸さん半分書いてよ」と言って、藤丸さんが収録曲の半分を作曲することになったのは有名な話。

アレンジは同じくバックバンドのキーボード大谷和夫さんです。
レコーディング参加メンバーは藤丸さん、大谷さんに加え、ミッチー長岡(ベース)さん、山木秀夫さん(ドラム)、中島御さん(パーカッション)と、のちに「ONE LINE BAND」となるメンバーです。

ONE LINE BAND

今回はそんなアルバム「ファーストフライト」を

・アレンジャーの大谷和夫さんのアレンジ
・秀樹さんの作る曲と藤丸さんの作る曲のそれぞれの特徴

に着目してレビューしていきたいと思います!

↑の記事に目を通していただくと、よりこの記事を楽しめると思います!


まずは全曲レビュー!

①Sweet Half Moon

秀樹さん曲。ギターとコーラスが印象的な1曲。この曲調と展開と最後の転調から「秀樹さんたちは瞳の面影みたいな曲を自分たちで作りたかったのかな?」と感じます。

②その愛は

秀樹さん曲。アップテンポでリズム作りの巧みさと情熱的なブラスが印象的な曲。Bメロの転調がカッコよすぎますし、サビのコードとギターがオシャレです。
当時の単音シンセのソロも最高です。
リズムも影響しているのかもしれませんが、このアルバムで一番エネルギッシュさを感じ、一番自身の歌声の持ち味を活かしているように思えます。

③おぼえているかい

藤丸さん曲。少しラテンっぽい曲です。この曲調でオルガンを入れてくるのが大谷さんの凄さ。
リズムは大谷さんが考えたと思いますが、このギターリフは大谷さん考案か藤丸さん考案か分からないです…
また、この曲はラテンに強いベーシストのミッチーさんのベースが最も光る曲だとも思います。

④ドライ・マティーニ

秀樹さん曲。SHOGUNがカップリングでリリースしそうな曲調です。終盤の藤丸さんのソロのフレーズも音も最高ですね。
大谷さんは本当にリズムやコードの崩し方が匠ですよね。

⑤Je T'aime

秀樹さん曲。パーカッションを活かしたリズム作りやストリングスの差し込み方、シンセの使い方が最高ですね。
藤丸さんのギターで悲哀的で悲しい雰囲気を作り上げる力も凄いと思います。
秀樹さんの優しい歌い方が切ない…

⑥Love is Beautiful

藤丸さん曲。ギター主体で藤丸さんのソロ曲のような曲調ですが、大谷さんのストリングスなどのアレンジの影響で歌謡曲っぽくなっている曲です。
断言しますが、絶対この曲はギターリフまで藤丸さんが考えています

⑦海辺のまぼろし

藤丸さん曲。カッティングのフレーズ主体でループのような作りになっています。間奏のキーボードのフレーズは「どうやって考えたんだ!?」って思うくらい不思議です。
恐らくこの曲も藤丸さんがギターリフまで考えています

⑧愛のバラード

藤丸さん曲。物凄いシティポップのバラードに通ずる要素がある曲です。
ピアノ主体で、基本4リズムでサビまでの音数が少ないからこそ曲の激情さが引き立つように感じます。その手法が似ています。
音数が少ないので秀樹さんの太い声も映えますよね。

⑨東京スカイ・ラウンジ

藤丸さん曲。
・カッティングギターやベース主体のサウンド"
・ハイハットを活かしたドラム
・ジャズコードの連符で音階を落としていくキメ
・間奏のブラスソロ
・硬い音色で複雑なピアノ
など正直「SHOGUNの1stアルバムに入っていてもおかしくない1曲」です。

⑩バリエーション

藤丸さん曲。またしても「どうやって構築してるのか分からないベースのフレーズ」が出てきます。テクニカルなギターがそれ引き立てていますね。「キメで音が上がる」のも大谷サウンドの特徴です。
秀樹さんのシャウトもカッコイイです。。

⑪If You Love Me

秀樹さん曲。イントロの最初が「ギャランドゥ」っぽく大谷さんがこういうイントロがお好きなのが伺えます。
恐らくは「リッケンバッカーをシンセベースっぽい音にしたのではないか」と思われる不思議なベースの音作りが良いですね。フレーズも不思議で。その分ギターが最小限です。

ブラスとストリングスが最高に秀樹さんの歌声を引き立てていますね。ストリングスのフレーズは絶対洋楽に影響を受けています


それでは、
ここから解説に移ります!

①大谷和夫さんのアレンジについて

大谷和夫さんの編曲はどの曲にも共通して言えるのですが、
・ブラスやストリングスのフレーズが印象的
・リズムの作り方も崩し方も上手い
・ピアノのフレーズはめちゃめちゃ複雑
・ジャズコード中心のアレンジ
・曲のキメで連続したジャズコードの切り替えで音階を落としていったり上げていったりする
・キメで音が上に上がる
といった特徴があります。

このアルバムの曲のブラスは明らかに"大谷さんのアレンジだ!"と分かるくらい印象的ですよね。

そして時期も近いので、使う音色やアレンジの傾向は結構One Line Bandのアルバム「Yellow Magic」やSHOGUNの1stアルバムとかなり近いですね。

アルバムの曲のシンセの音色はOne Line Bandの「Yellow Magic」のイントロなどで使われているこの頃の大谷さんがよく使う音色がよく使われています。

個人的には「"硬いピアノの音とオルガン"、"宇宙的なシンセサイザーサウンド"」「ザ・大谷和夫の音」だと思っているので、このアルバムの音色は大好きです!

②秀樹さん作曲の曲の特徴

秀樹さんの曲は全体的に"情熱的でオールドロックっぽい、それでいてクール"のが特徴です。
アップテンポ曲だとかなり顕著ですね。

バラードはこの頃の洋楽(特にアメリカ)のバラードの方向性に近く"激情的だがストリングスが少しあるくらいの音数で静かでタイトなリズムの曲"なので、秀樹さんが洋楽の影響も受けて曲を作っていることが読み取れます。

というより、衣装やカバー曲の方向性も含め、この頃の秀樹さんはかなりアメリカ音楽、L.A.音楽の影響を受けているように思います。

③藤丸さん作曲の曲の特徴

藤丸さんの曲は全体的に"オシャレで大人っぽい"のが特徴です。

アルバムとしてシティポップ要素が強いのは藤丸さん曲の影響だと思います。

AORっぽく、ラテンのような曲もあります。また、秀樹さんの曲と比べると変わったコードが鳴っていたりします。

アルバムを聴いててオシャレな曲だと藤丸さんの曲だとすぐ分かります。

・ちょっと編曲の話

これは藤丸さんの作った曲だけに言えることではないのですが、
恐らくこのアルバムの曲のギターは藤丸さんがギターのフレーズをレコーディングの時にアレンジしたり、何なら藤丸さんがデモの譜面に書いてきたフレーズをそのまま使ったりということもあると思います。

また、このアルバムの曲でソロを弾く際に使われている音色は、
"今の藤丸さんがギターソロを弾くときに使われているメタルっぽい突き刺さる音色とかなり近い音色"です。
(藤丸さんはサンタナがお好きなんです、)

この頃の太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」やSHOGUNの「You Turn Me On」でも近い音色を使われていますね。

僕の中では「"メタルっぽい突き刺さる音"と"カッティング映えするクリーンな音"と"刻み映えする歪んだリード音"」が、「ザ・芳野藤丸の音」という印象です。

④2人の曲を対比してみると

これは個人的な考えなのですが、

ドラマー出身のロック歌手の秀樹さんが、
"情熱的"な曲を書くこと

ギター出身のAORギタリストの藤丸さんが、
"オシャレ"な曲を書くこと

はとても自然なことだと思います。

そして、

"その曲たちを合わせて、1枚のアルバムとして聴いてもいい感じになるようにアレンジしてまとめた大谷さんの手腕"

は凄すぎます。

結果的に「洋楽」と「シティポップ」のハイブリッドという不思議で先進的なアルバムに仕上がっていますね。

ただ秀樹さんは"自分が歌うこと"を考えて書いていますが、藤丸さんは"秀樹さんに提供すること"を考えて書いていると思うとまた違った見方が出来ますね。

秀樹さんの曲は聴いていて自分の情熱的な歌声で歌うことを想定して書いているのが感じ取れます。歌メロも秀樹さん自身の歌声に最高に合っていると思います。

だからこそ、どっちの曲もどっちの曲に負けていないですよね。

⑤レコーディングメンバーの演奏について

藤丸さんと大谷さんは"自分で複雑なアレンジをしているということは自分で凄いテクニックで弾いてる"ということなので凄いということは説明不要なのですが、
何と言ってもリズム隊のミッチーさん、山木さん、中島さんのタイトなリズムが最高ですね。

この3人の技巧無くしてはこのアルバムのサウンドは完成しないと思います。

また、この頃の秀樹さんは後年と比べると若いエネルギーが溢れるような歌い方をされています。シャウトをしていたりもします。


まとめ

・「ファーストフライト」は"洋楽"と"シティポップ"のハイブリッドアルバム。
・大谷さんのアレンジは印象的で複雑。
・アレンジの傾向がOne Line Bandや初期SHOGUNっぽい。
・秀樹さんの曲は情熱的で、バラードはその頃のアメリカ音楽っぽい。
・藤丸さんの曲は大人っぽく、多くがAOR調。恐らくギターもちょくちょく考えている。
・レコーディングメンバーの演奏が凄い巧みで、それによってこのアルバムのサウンドは完成している。

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