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LUNA SEAと男闘呼組に見る「20代でリリースした楽曲を50代でセルフカバーする意義」
昨年2023年、日本のロックバンド
「LUNA SEA」と「男闘呼組」が
それぞれ「セルフカバーアルバム」をリリースしました。
LUNA SEAは、29年前と27年前にそれぞれリリースされたアルバム「MOTHER」と「STYLE」をそのままセルフカバーしたアルバムをリリース。
男闘呼組は、新バンド"Rockon Social Club"として30年以上前にリリースされた男闘呼組の名曲8曲をセルフカバーしたアルバム「2023」をリリース。
そして、それぞれ
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を行い、共に
"約30年前の曲だけでセットリストを組んだLIVE"
を敢行していました。
個人的にはどちらのセルフカバーアルバムも最高のアルバムだったので、今回の記事では
「20代の頃にリリースした楽曲を50代でセルフカバーする意義」
について考えたいと思います!
※男闘呼組とRockon Social Clubは全く別のバンドですが、ロックオン側が「2023」を"セルフカバーアルバム"として売り出していることもあり、
当記事では"男闘呼組(ロックオン)"という表記を用いて「2023」を「男闘呼組(ロックオン)によるセルフカバーアルバム」として取り上げます。
①そもそもなぜ2組とも2023年に20代の頃の楽曲のセルフカバーアルバムをリリースしたのか?
・LUNA SEAがセルフカバーアルバムをリリースした経緯
LUNA SEAのセルフカバーアルバムは、
「昨年行われたMOTHERとSTYLEの再現LIVEツアーに合わせて企画されたもの」
です。
元々LUNA SEAは、2018年の年末に初期のアルバム「IMAGE」と「EDEN」の再現LIVEを開催していました。
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そのLIVEがとても好評だっため、メンバーも
「いつかはMOTHERとSTYLEの再現LIVEもやりたい」
と考えていたようで、タイミングが合った昨年
「MOTHERとSTYLEの再現LIVEツアー」が開催されました。
その際に「ツアーに合わせてアルバムもリリースする」ということで、制作されたアルバムです。
セルフカバーアルバムを制作する案が出た当初は、バンド内でも
「あんなに完成度の高いアルバムを録り直す必要があるのか」
などの賛否がありましたが、最終的に
「LIVEツアーをやるに当たって、リリース当時の音と今演奏した音がかなり異なるため、そこの辻褄を合わせる必要がある」
と判断され、制作されることとなりました。
男闘呼組(Rockon Social Club)がセルフカバーをリリースした経緯
男闘呼組のセルフカバーアルバムは、
男闘呼組メンバーを中心とした新バンド「Rockon Social Club」の2ndアルバムとして制作されたものです。
(実際は2ndアルバムではなく、LIVE DVDの特典CDとしてリリースされました。)
まず、Rockon Social Club(以下"ロックオン"と表記)の成り立ちから説明すると、
当初のロックオンは、
「音楽プロデューサーの寺岡呼人さんと男闘呼組の成田昭次さんの2人を中心として、"その時その時でゲストミュージシャンを迎える"バンドプロジェクト」
として企画されていました。
しかし、成り行きで男闘呼組メンバー全員とドラマーの青山英樹さんが加入し、「男闘呼組メンバーを中心とした6人編成での新しいバンドプロジェクト」
として始動しました。
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そのため、LIVEでは新曲を中心に演奏しながら男闘呼組のカバー曲も演奏するというバンドとなっております。
ロックオンは、男闘呼組の解散後も精力的に活動を続け、昨年末にはMISIAさんと一緒に紅白歌合戦にも出場しました。
そのロックオンの「1stアルバムのリリースLIVEツアー」のMCで、
「2ndアルバムは男闘呼組のカバーアルバムをリリースする」
と宣言され、ツアーファイナルまでの間に実際にレコーディングされました。
その後2ndアルバムとしてはリリースされませんでしたが、
「ロックオンのLIVE DVD
"ROCKON SOCIAL CLUB 1988"
の特典CD"2023"」
としてリリースされ、後にデジタル配信も行われました。
②セルフカバーアルバムを制作するためにバンドをまとめた人物
・LUNA SEAをまとめた人物: スティーヴ・リリーホワイト
セルフカバーアルバムを制作するにあたり、LUNA SEAをまとめる人物が必要となり、メンバー全員が満場一致で任せられる人物ということで、前作「CROSS」でタッグを組んだ音楽プロデューサーのスティーヴ・リリーホワイトさんに白羽の矢が立ちました。
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こうして、スティーヴさんをMIXエンジニアとして起用し、セルフカバーアルバム制作が開始されました。
(スティーヴさんはU2のラスベガス公演をプロデュースしながらLUNA SEAのMIXを行うというハードスケジュールだったそうです。)
今回RYUICHIさんと真矢さんはスティーヴさんの感性を信じてほとんど音の注文をしなかったそうです。
真矢さんは
「シンバルを叩いているのに全く聴こえてないところもあったりしたが、全体像で見ると物凄い音だった」
とインタビューで話されていました。
個人的にもスティーヴさんのMIXは音の分離や厚みが凄まじく、とても重厚感のあるサウンドで大好きです。
・男闘呼組(ロックオン)をまとめた人物:寺岡呼人
セルフカバーアルバムを制作するにあたってロックオンをまとめた人物は、ロックオンのプロデューサー兼メンバーである寺岡呼人さんです。
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アルバム「2023」の収録曲も、呼人さんが男闘呼組の楽曲を全曲聴いて、良い曲を8曲セレクトしたことにより決まりました。
(昭次さんもラジオで「自分が選んでいたらLOVE BLUEは収録しなかった」と語っています。)
楽曲のレコーディングも今までのロックオンの楽曲と同様に、呼人さんのプライベートスタジオにてレコーディングされています。
後ほど詳しく解説しますが、恐らく「BACK IN THE CITY」にブラスの音を足したり、楽曲の細かいフレーズの変更など、セルフカバー版を録るために全体的に楽曲をアレンジをし直したのも呼人さんだと思われます。
(※これはあくまで僕の考察ですが、
「男闘呼組メンバーが著作者人格権を駆使してカバー音源を制作可能な男闘呼組の楽曲は、
"メンバー自身で作詞作曲した楽曲のみ"」
だと思われるので、実際は
「"男闘呼組の自作曲の中"から良い曲をピックアップして収録曲が決まった」
のだと考えられます。)
③セルフカバーで「変えた箇所」と「変えなかった箇所」
・LUNA SEAが「変えた箇所」と「変えなかった箇所」
「MOTHER」と「STYLE」の楽曲は、LIVEで長い年月演奏し続けたため、LIVEで演奏する際はかなりアレンジして変えてしまっている部分が多いそうなのですが、それはあくまで「LIVEでのお楽しみ」として、今回の再録では出来る限り原曲に忠実に演奏したそうです。
その上で曲を書いたメンバーが「ここを変えたい」という箇所があれば変更したのだといいます。
例:「MOTHER」のストリングスアレンジなど
そのため、「原曲を更にグルーヴさせる」というイメージでレコーディングされています。
また、雑誌やメディアでのインタビューでは、
・当時は全員が「自分の音を一番聴いてほしい」という気持ちで演奏していた(そのため音のぶつかり合いが激しかった)が、今は「ここは自分が一歩引いたほうが音楽的に良くなる」と分かるので一歩引いて演奏出来るようになった。
・当時は1日かけるほど拘っていた箇所も、今は熟練の技術や機材の進化でそこまで時間をかけなくてもカバーできるようになった。
・コードの構成音とメロディの音程が重なってしまっていた箇所を修正した。
・「FAKE」など、意図的にBPMを少し落とした楽曲もあるが、当時は自分たちの技量が未熟で、あの早いテンポで演奏しなければ間が持たなかった。今の実力であれば少し遅いテンポでも十分当時理想としていた表現ができる。
などと語られており、変更した方が音楽的に良くなるような細かい面は現在のメンバーの成熟した音楽センスを用いてそこそこ変更していると見受けられます。
・男闘呼組が変えた「変えた箇所」と「変えなかった箇所」
ラジオでのメンバーの発言によると、
「特に大幅にアレンジは変えておらず、サウンド面で変わったのは楽器の音色やプレイの仕方、時を経て変化した声質くらいで、ほとんど原曲から変えていない」
のだといいます。
しかし、このセルフカバーアルバムには全体を通して一番原曲と異なる点があります。
それは、
「原曲と歌割りが異なり、男闘呼組メンバー4人全員のスイッチボーカルによる新しい歌割りに変更されている」
という点です。
そのため、原曲ではソロ曲である「無題」や「LOVE BLUE」も4人で歌う形へ変更されていますり
このアイデアを提案したのは昭次さんで、
「男闘呼組メンバー4人の声は全員特徴があるが、原曲をリリースした当時は4人全員でのスイッチボーカルは出来なかった。
50代になったからこそ(当時も勿論完成していたが)やっと曲が完成したと感じているため、
30年かけて"当時の自分たちはこれがやりたかったんだ"というのを見せたかった。」
という意図があったそうです。
昭次さん主導で新しい歌割りが考案されたそうなのですが、メンバー内でも「ファンが長年聴き続けてきた歌割りを変えないほうがいいのでは…」という賛否があったのだといいます。
しかし、新しい歌割りを試した際に「メンバー側もファン側も驚いた」ことや、
「ロックオンの楽曲でメンバー全員でのスイッチボーカルを経験したからこそ、新しい歌割りで歌うことで"自分たちはこういう形での表現も出来るのか"という気付きがあった」
のだといいます。
(その分、健一さんは"4分割していない原曲の歌割りの負担"を実感したそうです。)
今回のロックオンのように「何十年も活動を続けるうちに歌割りを全員歌う形に変更した」グループは少なくなく、例えばダンスボーカルグループのMAXも近年は「初期曲の歌割りをメインボーカル以外のメンバーも歌う形」へ変更されています。
とはいえ、アレンジも全く変更されていないわけではなく、
・曲の構成を大きく変更した「無題」
・LIVEに合わせてキーを変更した「目で見ちゃだめさ」
・ブラスが付け足され派手になった「BACK IN THE CITY」
など、楽曲の細々とした部分のアレンジは変更されています。
また、ドラムマガジンの英樹さんと昭次さんの対談によると、
「再始動後の男闘呼組は全部の楽曲のBPMを約10ずつ落としている」
とのことなので、LIVEで演奏される際は少し原曲よりゆっくりめのテンポで演奏されていますが、その分ツーバスドラムや演奏テクニックによって音にリリース当時以上の厚みが出ています。
セルフカバーによって進化した部分
・楽曲を約30年間演奏し続けたLUNA SEA
まず前提として、LUNA SEAはバンドで(勿論終幕期間を6〜7年ほど挟んだものの)
「MOTHERとSTYLEの収録曲のほとんどを約30年間演奏し続けています」。
そのため、「MOTHER」と「STYLE」は、
「LUNA SEAがバンドとして30年間演奏し続けたことによる楽曲、音、演奏の成長」
が顕著に現れているアルバムとなっています。
RYUICHIさんの歌声も含めて全員の楽器が変わっているため、メンバーも「ユニゾンと"♪ジャーン"と弾いた時も音の分厚さが昔と全然違う」と感じているほど重厚感ある音へ変化を遂げています。
その上で、「今のメンバーの音楽センスで原曲を更にグルーヴさせた演奏」をレコーディングしたことにより、楽曲も"新曲"のように感じるほど新しく生まれ変わっています。
"LUNA SEAの基本形"と"今のLUNA SEA"を濃縮したアルバムなので、
長年LUNA SEAを聴いてきた方にもこれからLUNA SEAを聴く方にもとてもおすすめです!
LUNA SEA側も完成したアルバムについて
「ずっと演奏していたため、曲自体は古くなっておらず、自分たちと共に曲も成長していると思っている。
しかし、今回録り直したことで逆に新曲のように感じている。"焼き直し"ではなく"新しく生み出した"という感覚。
まだ曲の可能性には続きがあったのか…。」
と感じているようです。
・楽曲を約30年ぶりに演奏した男闘呼組(ロックオン)
一方、男闘呼組は、(ソロではそれぞれ演奏していたものの)
「2023の収録曲を含めた男闘呼組の楽曲を約30年ぶりに演奏しています。」
そのため、「2023」は、
「男闘呼組メンバーの"個々での30年間の成長"が音に現れ、曲や歌詞、バンドサウンドを当時以上にブラッシュアップされている」
アルバムとなっています。
男闘呼組メンバーは1993年に活動休止してからも、それぞれ
・バンド
・ロック
・ダークアンビエント
・ミュージカル
・カントリー
・DTM
など、30年間個々で音楽への関わりを続けてきました。
中には、男闘呼組時代にはプレイしていなかった新しい音楽ジャンルや表現に挑戦していたメンバーもいます。
30年間個々で活動していたことにより、
"それぞれが持ち帰ってきた経験や年齢を重ねた渋み"、"演奏力や表現力の向上"によって、バンドで男闘呼組の曲を合わせた時のグルーヴ感や爆発力が桁外れになっています。
具体的に説明すると、
当時の"棘があって荒削りな激しい音"ではく、今の"50代の男闘呼組(ロックオン)"による"熟練の技術や渋さを活かした音"へ変化しています。
シンプルな演奏でもパワーが違うので、当時よりも"純粋な演奏力で勝負している感"がとても強いです。
全員が歌声や音色、プレイで今の自分の音を体現していますが、
特に昭次さんのギターソロは原曲と比べて
「独特のファズやワウを効かせた今の昭次さんの音」
になっているように感じます。
一言でまとめると、良い意味で(昭次さんじゃないですが…)
「"オジサンになった男闘呼組"の楽曲と演奏の良さをそのままパッケージされたアルバム」
になので、昔からのファンも新しいファンも楽しめるアルバムだと思います!
男闘呼組(ロックオン側)も完成したアルバムについて
「演奏はシンプルだが、生々しい。
セルフカバーというのは聖地に足を踏み入れる感覚だが、今の自分たちの演奏になっており、オリジナルを超えているように感じる。
元々大人っぽい歌詞が多かったので今歌っても合う。
逆に今歌うために書いた歌詞なのでは?」
と感じているそうです。