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AB'S 「AB'S-3」が海外のシティポップファンの間で大人気になった理由を考える

今回は日本を代表するフュージョンバンド 「AB'S」に関する記事です!
僕のnoteでは、SHOGUNについては色々書いているのですが、AB'Sを取り上げるのは初となります。

タイトルの通り本記事で取り上げるのは
・AB'Sの3rdアルバム 「AB'S-3」です!

1985年2月25日リリース

ロンドンの"Marcus Recording Studios"
でレコーディング

何故いきなり3rdアルバムから取り上げるの!?
と思われる方もいらっしゃると思いますが、実は本作が、
昨今の海外シティポップ/AORシーンで一番人気なAB'Sのアルバム
なのです。

では、
何故3rdアルバムが一番人気なんだ!?
という疑問を抱かれる方も多いと思います。

"それ"が今回の記事のテーマなのですが、
まず、この「AB'S-3」はAB'Sのメインコンポーザーの1人だった松下誠さん(Gt.)が、ソロワークが忙しくなってAB'Sを外れることになり、残った4人のメンバーで制作されたアルバムとなっています。

「AB'S-3」製作時のAB'S

左から、
・岡本郭男さん (Dr.)
・渡辺直樹さん (Ba.)
・芳野藤丸さん (Gt.)
・安藤芳彦さん (Key./作詞)

後年のメンバーのインタビューでは、

安藤さん : 当時は誠くんが居なくなってメンバー、スタッフ、エンジニア全員が不安だった。

藤丸さん : マコトの脱退は残念だったけど、"相性の良いギタリスト"はそう簡単に見つからないし、"AB'Sはツインギターがマスト"という考えも無かったので、新ギタリストは入れず4人で制作することにした。

と語られています。

僕としては、
誠さんが抜けた穴を埋めるために、残ったメンバーが様々な変化球アプローチでサウンドメイクをしたこと
本作が海外で大人気になった理由なのではないかと考えています。

ということで、今回は
「AB'S-3の変化球サウンドメイク」
について掘り下げて行きたいと思います!!

AB'Sが「AB'S-3」のサウンドメイクで用いた変化球アプローチまとめ

①リズム隊が強いバンドなのに打ち込みを多用

この時期の藤丸さんは、Rolandのシーケンサー「MC-505」で曲作りをされていたそうで、日本で作ったリズムやシンセベースの音源データをロンドンへ持ち込んでレコーディングされたそうです。

そのため、「リズム隊が打ち込みの楽曲」が数多く収録されていて、
結果的に、"ダンディな生楽器フュージョン曲"よりも、"エレクトロでニューウェーブっぽい曲"が増えたように感じます。

Roland MC-505

作詞担当の安藤さんもこの打ち込みサウンドに衝撃を受け、今までに無かった歌詞のイメージが湧いたそうです。

打ち込みのリズムトラックが全面に出ている「By The End of Century」は、
"海外シーンで最も有名なAB'Sの楽曲"
となりました。

ただ、
「AB'Sは国内でトップクラスにリズム隊が強いバンドなのに打ち込みのリズムを多用するの!?」
「AB'Sは国内でトップクラスにリズム隊が強いバンドなのに、海外で一番ヒットした曲は打ち込みの曲なの!?」
ということも思ったのですが、
前者→それだけのバンドがそういうアプローチをするのは攻めていてカッコいい
後者→それくらい独創的なことをしないと海外でバズるのは難しい
のではないかと解釈しております。

また「By The End of Century」は、LIVEで演奏する際は普通に生リズム隊で演奏されていて、最近の藤丸さんのソロアルバム「50/50 Fifty-Fifty」収録のセルフカバーver.も生リズム隊でレコーディングされています。
(やっぱり生リズム隊だと雰囲気が物凄く大人っぽくなります。)

②LIVEを想定していないが故の攻めたサウンドメイク

打ち込みもそうなのですが、
・ギターを多重録音しまくる
→「CRY BABY BLUES」など

・コーラスを多重録音しまくる
→ほとんどの曲

・とにかく色んなシンセの音色を切り替えまくる
→「ETHNIC COSMIC」など

などの手法でサウンドメイクをされていて、リリース時期を考えると実験的な作品になっています。

これらについては藤丸さんがインタビューで、
「元々LIVEを想定していなかった」
「多重コーラスの再現が不可能だったのでLIVEが出来なかった」
と仰っているので、意図的に変化球アプローチが多用されたと考えています。

また、安藤さんは
「CRY BABY BLUESが4人のAB'Sの方向性を決定付けた(意訳)」
と語られていますね。

③ジャズピアニストの方をフューチャーした楽曲

このアルバムでは、たまたまロンドン旅行中だったキーボーディストの富樫春生さんが参加されたことによって、
今までのAB'Sには無かった超絶テクのピアノが全面にフューチャーされた曲が2曲収録されています。
(富樫さんはその他の曲にも参加されていますが、ピアノがフューチャーされているのが2曲です。)

富樫さんのピアノが大活躍された2曲は、それぞれ
・「BORDERLINE」…超絶テクのピアノが全面にフューチャーされているので、本格的なクラシック/ジャズの要素が入ったフュージョン

・「SEQUENCE LIFE」…ジャズピアノのループをフューチャーしたの妖しい雰囲気のフュージョン(しかもこの頃はDAWが無いので、富樫さんはループの難しいピアノのリフを1発撮りでずっと弾き続けたと考えられます。また、この時代からサビでボーカルドロップを使われるのもAB'Sならではですね。)

という仕上がりとなっています!

打ち込み曲のエレクトロ要素が強い分、アコースティック要素をこのピアノ曲で補っているようにも感じます。
「リズムセクションの全体の質感はニューウェーブっぽいのに、めちゃめちゃ本格的なピアノが入る」
という構成は凄いですよね…。

ちなみにこのアルバムでの安藤さん&富樫さんの使用シンセ/サンプラーは、
・E-mu Emulator (サンプラー)
・Oberheim OB-X
・SEQUENTIAL CIRCUITS PROPHET-600
・YAMAHA DX7
・Minimoog
・Fender ローズ・ピアノ (エレピ)
・アコースティックピアノ
だそうです。

④収録曲のRemixを作った

本作に収録された「C.I.A.」はRemix版が12インチレコードでリリースされています。

1985年リリース

これらはかなり本格的なRemixとなっていて、
・コードがマイナー調になっている
・カッティングギターの代わりにシンセベースがフューチャーされている
・各楽器の音が前に出て来ている
・ブレイク部分でかなり音が切り貼りされている
などの特徴があります。

「フュージョンバンドなのに、Remixでこんなにダンス/ユーロビート寄りになるんだ…」
と驚きましたね。
このRemixは海外リスナーやシティポップDJの方々の間でとても人気だそうです。

AB'Sがここで活動休止せずに、4人のまま4thアルバムを作っていたとしたら、このRemixトラックのような路線の曲が多く作られていたのかもしれません。。。


考察

①"誠さんが抜けた穴"を埋めるために、バンドとして"変化球アプローチ"を多用した結果、海外で大人気になったと考えられる

「AB'S-3」が昨今の海外シティポップシーンで大人気になった理由ですが、恐らく
前作までで出来上がったAB'Sサウンドをベースに、"誠さんが抜けた穴"を埋めるための"変化球アプローチ"を多用したから
であると考えられます。

変化球アプローチの影響か、
「AB'S-3」の収録曲は、エレクトロな打ち込みフュージョンを中心に、生ピアノフュージョン、ジャーマン感のあるフュージョン、変拍子っぽいフュージョンなどバラエティに富んでいて、独創的な楽曲も多いです。

なので、
やはり海外は日本より音楽が進んでいるから、
海外の"流行りサウンド"や"一時代を築いたサウンド"に音を近づけるより、
このレベルの変化球を投げたり、このレベルで独創的/個性的なことをしないとヒットしづらいのかもしれない…。

「海外リスナーに刺さるサウンドの組み合わせは
"打ち込みのリズム×ニューウェーブ/ポップの音色×変化球アプローチ"
(+ちょっと英語の歌詞があるとなお良し)

なのかもしれない…。」
ということを考えたりしました。。

※もちろん海外シティポップシーンでの"松下誠ムーブメント"の影響もAB'S人気の一因だと思われます!

②なぜ洋楽っぽいサウンドの「SHOGUN」よりも「AB'S」の方が海外人気が高いのか?

AB'Sのメインメンバーである芳野藤丸さんがSHOGUNというバンドもやられているのは皆さんご存知かと思いますが、SHOGUNは、
・日本のTOTOを作ろう!
・英語が出来て、海外のレコード会社に持っていっても笑われないようなサウンドのバンドを作ろう!
・"日本ウケする曲"も、(日本の味を出した上で)"海外ウケする曲も"作ろう!
というコンセプトで誕生したバンドです。

そのため、「SHOGUN」というバンド名も含めて海外展開を意識したバンドで、洋楽的なサウンド/英語の歌詞を特徴としており、初期にはアメリカの音楽番組「American Bandstand」にも出演されていました。

しかし、最近の海外のシティポップ/AORシーンでは、SHOGUNよりもAB'Sの方が遥かに人気が高いです。
僕も「SHOGUNの方が洋楽っぽい音なのになぜ!?」と思っていたのですが、これには"時代"や"システム"が大きく関係していると思われます。

恐らくですが、今の時代は
「インターネットで時代も国も関係無しにほぼ全ての音楽を手軽に聴くことが出来る時代」
なので、SHOGUNがデビューした70年代当時と比べて"どこの国のバンドなのか"という点があまり関係なくなっていると思われます。

加えて、海外は洋楽の本場なので、
海外リスナーは"SHOGUNよりも遥かにファンキーなサウンドの洋楽バンド"を沢山聴いているため、SHOGUNが海外のシティポップ/AORシーンで人気になりづらい
のも理由の一因かと思われます。

※そもそもSHOGUN自体も
「・AB'Sの藤丸さん
・マライアの山木さん
が組んでるバンド」
という見られ方だそうです。

日本だとSHOGUNは、「海外のバンドみたいなサウンドだ!凄い!」という見られ方をされているのですが、サブスク全盛の時代の海外リスナーにはウケづらいのかもしれません…。

そのため、例え「歌詞が日本語でも独創的/個性的なサウンドメイクを行っているフュージョンバンド」のAB'Sの方が海外リスナーに刺さりやすいのかと考えています。

※近いアーティストだと松下誠さんソロやマライアなども海外シーンで人気です。


まとめ

・「AB'S-3」は"誠さんが抜けた穴"を埋めるために、バンドとして"変化球アプローチ"を多用した結果、海外シーンで人気になったと考えられる。

・海外シーンでは、"変化球"や"独創的"なアプローチでサウンドメイクしないと人気になりづらいのかもしれない。。

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