なぜ「Careless Whisper」は日本のアーティストにカバーされやすいのか
今回の記事では、
1984年リリースのワム!のジョージ・マイケルさんによる楽曲
「Careless Whisper」
が日本のアーティストにカバーされやすい理由を研究していこうと思います!
元々ヨーロッパを中心とした海外圏でも数多くのカバーがリリースされている楽曲で、日本のみならず、「アジア圏全体のアーティストさんにもカバーされる」ほどの人気楽曲です。
前回の記事はフランキー・ヴァリさんの「My Eyes Adored You」について取り上げられましたが、「Careless Whisper」も同じレベルで沢山の日本のアーティストさんにカバーされています。
それでは本編に移ります!
そもそも「Careless Whisper」とは
「Careless Whisper」は1984年7月24日にワム!のジョージ・マイケルさん初のソロ楽曲としてリリースされました。
↑ ワム!のお2人による共作であり、ワム!のオリジナルアルバムにも収録されているため、しばしばワム!の楽曲として扱われることもあります。
(アメリカや日本では"Wham! featuring George Michael"名義で発売されました。)
この曲の一番印象的で有名な点は何と言ってもアルトサックスによるイントロのフレーズで
「世界一有名なアルトサックスのソロフレーズ」
とも言われています。
(このサックスソロは映画「デッドプール」を始めとした様々な映画で使われている他、海外では人気のネットミームと化しているようです。)
楽曲自体はR&B/ソウル/AORの要素があるメロウなバラードで、歌詞は浮気をテーマとしています。
個人的にはサックスだけでなく、
・硬いエレピの音色
・アコースティックギターのフレーズ
・ラストに差し込まれるボコーダー
も魅力だと感じています。
また、
・10か国以上のレコードチャートで1位
・売上枚数1100万枚以上
を記録した大ヒット曲なため、世界中で沢山のアーティストにカバーされており、海外ではケニーGやバナナラマ、シーザーなどのカバーも有名です。
その他、動画サイトには
・サックスソロ吹いてみた
・指弾きでアコギのフレーズ弾いてみた
などの弾いてみた動画も多数投稿されています。
日本人アーティストによる有名なカバーを4つ紹介
※ジョージ・マイケルさんのオリジナルver.のキーはDmです。
①西城秀樹さん 「抱きしめてジルバ -Careless Whisper-」
訳詞は森田由美さん、編曲は丸山恵市さんが担当されています。
訳詞は登場するワードには共通点があるものの、原曲とは異なるオリジナルの内容で作詞されていています。内容自体は「別れてしまったことを悔やむ」という内容です。
(そもそも「ジルバ」というのが"アメリカのリズミカルなパーティーダンス"のことなので、原曲で歌われている「ダンス」とはかなりニュアンスが異なると思われます…。)
秀樹さんver.の最大の特徴は、原曲では裏拍から入るサビのメロディを
「♪抱き寄せて Dance again〜」と表気味に入る歌謡曲調のメロディにアレンジされていることです。
Dメロの「♪Tonight なにもかも〜」などもそうなのですが、原曲のメロディをそのまま活かすよりかは、ピッタリ日本語の音を当てはめるカバーとなっていますね。
トラックのアレンジはほぼ原曲に忠実ですが、秀樹さんの歌声のロックなグルーヴ感が強いので、雰囲気としては情熱的な仕上がりとなっています。
僕は秀樹さんのセルフカバーアルバム「LlFE WORK」に収録されている芳野藤丸さんアレンジver.がとても大好きなので、是非そちらもお聴きいただきたいです!
②郷ひろみさん 「ケアレスウィスパー」
訳詞はヘンリー浜口さん(郷さんご自身の変名)、編曲は大村雅朗さんが担当されています。
こちらもやはり訳詞は原曲と異なるオリジナルの内容で作詞されていて、秀樹さんと同じ「別れてしまったことを悔やむ」という内容なのですが、"過ち"という歌詞があるので主人公側が何かしてしまった可能性があります。
かなり生々しさが出ている歌詞です。
郷さんのカバーはサビの英詩をそのまま残されていたり、歌い方のアプローチもかなり原曲に近いので、原曲の空気感やメロウ感がそのまま残っているように感じます。
そのため、AORとしての完成度がかなり高いのですが、Dメロの「♪憶えてる〜」のフレーズを繰り返す箇所などは歌謡曲感が強いですね。
トラックのアレンジもほとんど原曲通りですが、スラップベースやスキャットのコーラスが多用されているなど、郷さんver.ならではのアレンジが施されています。
また、本作より少し早くリリースされていた秀樹さんver.が既にヒットしていたため、歌番組「夜のヒットスタジオ」では秀樹さんとの
「同一セット/同一演出でのCareless Whisperカバー対決」
が企画されました。
こちらもセルフカバーver.がいくつかリリースされていて、
・1991年のセルフカバーアルバム「準備万端 -VINGT ANS-」には難波正司さん編曲ver.
・2001年のセルフカバーアルバム「MOST LOVED HITS OF HIROMI GO VOL.2~Cool~」には田中直紀さん編曲ver.
がそれぞれ収録されています。
個人的には原曲そのままの英語の歌詞、ギター基調&打ち込み多用でR&B感を強めた2001年ver.が好みです!
③橋本和美さん 「ケアレス・ウィスパー」
今回ご紹介するカバーの中で唯一の女性アーティストによるカバーです。
訳詞は荒木とよひささん、編曲は入江純さんが担当されています。
この訳詞もオリジナルの世界観なのですが、「浮気相手側が主人公」という内容で作詞されています。
こちらのカバーは、橋本さんがこぶしを回しながら哀愁マシマシに歌い上げるので、「都会の夜の世界」をイメージさせるような仕上がりとなっています。
演歌っぽいところもあるので、ある意味一番和風なカバーです。
そのため「Careless Whisperの女性カバーなのに、演歌っぽい」という点から一部のレコードマニアの間ではかなりの人気を誇っており、レコードはプレミアがついています。
トラックのアレンジ面では、かなりギターのカッティングがフューチャーされており、吐息のコーラスが入っているなどの特徴があります。
それでもしっかりイントロの印象的なサックスのフレーズはそのまま使われていますね。
④hydeさん 「Careless Whisper」
hydeさんのカバーは1998年8月8日放送の音楽バラエティ番組「LOVE LOVE あいしてる」内のゲストが好きな曲をパフォーマンスするコーナーで披露されました。
キーも原曲キー、歌詞もオリジナルの英詞で歌われています。
hydeさんがいつもの歌い方のままで歌われるので、どのカバーよりもクセが強いですが、"裏声を多用した色気のある歌声"が楽曲自体の妖艶さを引き出しています。
また、Dメロを"グッと前に出てくるような強い声"で歌われるのは秀樹さんと近いアプローチです。
とにかく自分の色を曲の世界観にぶつけているカバーで素敵だと思います!
また、番組のバックバンド「LOVE LOVE ALL STARS」によるビックバンド編成で演奏されており、原曲に沿ったサウンドメイクですが、終盤の多重コーラスなどの要素も追加されています。
特に元チェッカーズの藤井尚之さんによるサックスソロは聴きどころです!
(藤井さんは00年代の音楽番組で郷さんとも「Careless Whisper」をセッションされていました。)
「Careless Whisper」が日本のアーティストにカバーされやすい理由を考察
※前回同様
「主に1984年当時についての考察」
「昭和の音楽界では流行りの洋楽をカバーすることが多かった」
という点は前提で考察しています。
①楽曲の持つ妖しくムーディーな雰囲気が昭和の歌謡界に合っていた
1984年はまだまだ演歌やムード歌謡のアーティストさんも数多く歌番組に出演されていたほど、ムーディーな楽曲に馴染みがある時代です。
そのため、楽曲自体のムーディーな雰囲気がとても昭和の歌謡界に求められていたのだと思います。
"インパクトのあるDメロ"が存在することも実に歌謡曲に馴染みやすいですね。
僕自身もこの楽曲に「ムーディーな昭和っぽさ」「歌謡曲〜演歌っぽさ」のようなものをかなり感じております。
②ジャジーでメロウなサウンドメイクがシティポップに近かった
この曲のカバーが多くリリースされた1984年はシティポップの全盛期です。
それこそ「印象的なサックスが入る」というのもオメガトライブなどの海岸系のシティポップに近いですし、キーもシティポップの代表曲「プラスティック・ラブ」と一緒だったりします。
なので、1984年は
「大人っぽいメロウな洋楽のテイストを日本語の歌詞と合わせる」
というのが時代的に流行っていたので、日本でも沢山のアーティストにカバーされる要因の1つとなったのだと考えられます。
まとめ
・「Careless Whisper」は多数の日本のアーティストにカバーされている。しかし訳詞の世界観は全員オリジナルである。
・日本のアーティストにカバーされやすい理由は、「楽曲のムーディーな雰囲気やシティポップのようなサウンドメイクが昭和の日本の音楽とマッチしやすかった」のだと思われる。