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"アイドル歌手のデビュー曲"の領域を数段飛び越えた、岩崎良美さんの「赤と黒」

今回の記事は、岩崎良美さんのデビュー曲「赤と黒」についての記事になります。

「赤と黒」 ジャケット

岩崎良美さんは世間的には「タッチ」などのアニメタイアップの楽曲をヒットさせている印象が強いと思われますが、初期作品は制作陣に「ニューミュージック系のミュージシャン」を多数起用して制作されています。

なので「昭和スタジオミュージシャン音楽」が大好きな僕はとても岩崎良美さんの初期の曲が好きなんです!

このデビュー曲「赤と黒」も、作詞がなかにし礼さん、作曲が芳野藤丸さん、編曲が大谷和夫さんと、僕のnoteの読者の方にはお馴染みの面々で制作されているんですね。

ただ、この面々で制作されている以上、同時期の他のアイドル歌手のデビュー曲とは"明らかに毛色が違う"というか、
もっと言うと、もう「"アイドル歌手のデビュー曲"という領域を数段飛び越えている楽曲」なんですね。

それが何故かというのを今から
・楽曲の解説
・制作背景や時代背景
・結果的に今現代どうなのか
という観点から解説していきたいと思います!

・「赤と黒」という楽曲について

①歌と歌詞について

・歌について

まず良美さんの歌唱力が圧倒的ですよね。情感を帯びて、それでいて伸びやかな歌声が凄い美しいです。

アイドル歌手特有のデビューしたての初々しさなどはあまり感じず、もう既に完成してるという印象を受けます。

こんなリズムやメロディーが複雑な曲を圧倒的な歌唱力で歌いこなす良美さんはさすがですね。

・歌詞について

なかにし礼さんによる歌詞は「フランス文学の"赤と黒"」をもとに作詞されたそうです。

大体アイドル歌手のデビュー曲は、
"身近な日常的なことを歌う"か、
"メルヘンやファンタジーのような非日常的なことを歌う"か
の2つに別れると思うのですが、この曲は曲調も相まって"バリバリ日本人には馴染みのない非日常感あることを歌っている"ように思えます。

しかもその"非日常感"がメルヘンとかじゃなくて"フランス文学の世界観を歌う"というのが凄いですよね。その点も同時期のアイドル歌手のデビュー曲とは明らかに違います。

②作曲と編曲について

・作曲について

まず藤丸さんの書いた歌メロがですね、"めちゃめちゃボサノバ"なんですよ。「アイドル歌謡にこんなメロディ持ち込んでいいのか!?」ってなりますね。

"フランス歌謡"とか"フレンチポップス"というより、明らかにボサノバ色が強くて、多分このメロディをボサノバギターの弾き語りとかで歌ったら完璧にそれでしかないと思います。

それでも歌謡曲的なんですが、ちょっとメロディがコアなんですね。
さっき述べた通りちょっとリズムが複雑だったり、音程の上がり方が特徴的だったり、歌い出しが難しかったりしますね。

その反面、使われているコードは歌謡曲的ですね。

(良美さんの近年のインダビューによると、デモテープも藤丸さんが歌唱されていたらしいです。)

+して、この曲はAメロBメロサビといった曲のセクションというのが明確ではないです。

多分最初の歌い出しのフレーズがサビなはずなのですが、1番にそれ以降サビは出てこなくてそのまま2番に行って曲の最後でサビを歌ってフェードアウトして終わります。ストロングな構成ですね…。

編曲について

対して大谷さんがこの曲をどうアレンジしたかと言うと、大谷さんの持ち味である複雑なストリングスによって文学的な世界観をこれでもかというくらい引き出しています

それでいて1曲の中で曲の展開や勢いが目まぐるしく変わる曲なため、"リズムセクションも演奏パターンを頻繁に変えていく必要がある"と思います。多分物凄い演奏が大変です。

そして藤丸さんのリードとカッティングも曲を引き立てていますね。

僕がこの曲で「大谷さん凄すぎる…」と思ったポイントは、
・ドラムのフレーズがカッコイイ
・AメロとBメロの間に、"やや長めなブレイク"がある
(普通ならAメロ歌い終わったらすぐBメロに移ると思うのですが、この曲はその間にストリングスとドラムによるブレイクがあります。しかも他の曲よりやや長めですね。)
間奏をギターソロとかではなく、"浮遊感のあるホーンのソロ"に任せることで、歌詞の世界観を更に引き出している
です。


・なぜこのような楽曲になったか

恐らくは、
良美さん御本人の洋楽志向
ディレクターの渡辺有三さんのディレクションの方向性
の二点が理由だと思われます。

①良美さんの洋楽志向について

元々良美さんはヨーロッパの洋楽がお好きな方で、洋楽のカバーも多数発表されています。

そのため音楽的志向や方向性がしっかりある方なので、楽曲制作にもしっかり意見を出されているようです。

良美さんご自身はこの「赤と黒」というデビュー曲をとても気に入っているらしく、「赤と黒」とB面の「クライマックス」のどちらをデビュー曲にするかという時に自ら「赤と黒」をデビュー曲に希望されたということを話されていました。

また、活動20周年、30周年といった節目には必ず「赤と黒」のセルフカバーをリリースして、「もう一回この曲でデビューする!」という気持ちで望んでいるそうです。

②ディレクターの渡辺有三さんのディレクションの方向性について

良美さんの音楽ディレクターを務めた渡辺有三さんは、元々バンドマン出身の音楽プロデューサーさんなのもあり、渡辺さんの手かげたアーティストはポピュラー音楽のアーティストでも結構楽曲の音楽的な部分が強いように感じます。
元バンドマンだからこそかもしれません。

そもそも藤丸さんたちをデビュー曲の制作陣に起用したのも渡辺さんです。その後の良美さんのシングルやアルバムもかなりニューミュージック系のミュージシャンから楽曲提供を受けていますね。

そのため、今僕に刺さっているように、当時もニューミュージックのファンなど、音楽好きな方々に楽曲が刺さっていたらしいです

また「アルバム先行で楽曲を制作し、シングルを小出しにしてリリースしていた」そうなので、この「赤と黒」が収録されたデビューアルバム「Ring-a-Ding」は、一貫してヨーロピアンな音楽性のアルバムになっていて凄い良いアルバムです。

当時から良美さんの楽曲は「アイドルというよりアーティストすぎる」「大人っぽすぎる」「売れ線じゃない」「先を行っている」という評価もあったものの、売り上げは良かったようですね。
「赤と黒」も11万枚の売り上げで当時としてはヒットの分類に入るそうです。

ただ、1980年の楽曲なのですが、"ギリ70年代っぽさ"は感じます。それは恐らく松田聖子さんがデビューする少し前なので、まだアイドル曲も70年代の音楽の空気感が残っているのが理由だと思われますね。

・今の時代から考えてみると

「赤と黒」は、1980年当時だと、アイドル歌手のデビュー曲としては少し音楽的で難解な曲だったのかもしれません。

しかし近年のアイドルやダンスボーカルグループだと、例えばSixTONESの「Imitation Rain」や、BE:FIRSTの「Gifted.」など、音楽的で難解なデビュー曲でデビューしても成功したりしているので、今だと大人っぽく音楽的なデビュー曲でデビューするのはポピュラーになっていますね。

むしろ音楽がグローバル化しているので"アイドルはデビュー曲こそ音楽的に!"という風潮すら感じます。

なので、「赤と黒」というデビュー曲は結構先進的なことをしていたのかもしれません。

まとめ

・「赤と黒」はアイドルのデビュー曲として飛び抜けているが、先進的な曲でもある!

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