ONE LINE BAND 「YELLOW MAGIC」 全曲レビュー & "SHOGUNと比べてみて"
今回は、1978年に芳野藤丸さんや大谷和夫さんを中心に腕利きスタジオミュージシャンたちで結成されたバンド「ONE LINE BAND」のアルバム「YELLOW MAGIC」についてのnoteです。
ONE LINE BANDは後に伝説を残す「SHOGUN」の前身となるバンドで、メンバーは芳野藤丸さん(Gt)、大谷和夫さん(Key)、ミッチー長岡さん(Ba)、山木秀夫さん(Dr)、中島御さん(Per)の5人です。
このアルバム「YELLOW MAGIC」はONE LINE BANDの唯一のアルバムで、秀樹さんのアルバム「ファーストフライト」に参加したメンバーでハワイでレコーディング出来る」ということになって制作されたアルバムだそうです。
(そもそもONE LINE BANDという名前も藤丸さん曰く「飛行機に乗ってハワイに行く時の空港の滑走路の"白線"」から"ONE LINE" BANDになったらしいです)
また「アルバムをリリースしてプロモーション活動のする前にSHOGUN結成の話が来たのでプロモーション活動がお流れになった」という話があるので、SHOGUNの話がなければ元々このメンバーでこの方向性で売り出す予定だったということを考えるとまた見方が変わりますね。
今回は「YELLOW MAGIC」の全曲レビューと解説をやっていきます!
全曲レビュー
※ONE LINE BANDのメンバーが楽器の演奏がめちゃめちゃ上手いということは、色んなnoteに書いているので、もう曲のレビューと同時に「ここの演奏やフレーズがこう凄い!」と書いていきます!
①YELLOW MAGIC
ギターのカッティングリフとテクノ系のシンセの絡み合うサウンドが最高なリード曲。原曲はスローテンポでSF的なサウンドで作り上げられていて洋楽っぽいですね。藤丸さんの高めな歌声やホイッスルボイスも良いです。
②Cold Wind
マイナー調でクールな曲です。突き刺さるギターソロと随所随所の特徴的なブラスが印象的ですね。山木さんのドラムのキメが良い味を出しています。
③In The Movement
大谷さん作編曲のインスト曲。ギターを主体としたジャムサウンドに時にトランペット、時にサックスが絡んでいき、要所要所でシンセという曲です。
ギターはループっぽい感じかと思いきや、藤丸さんがブラスに合わせてちょくちょくフレーズを変えてきているのが凄いですね。藤丸さんはこういう系のギターが一番得意だと思います。
④夢の中まで
哀愁が漂う渋い曲なのに鳴ってる楽器のフレーズがオシャレというのが凄いですね。歌詞も渋いので、間奏の女性コーラスが良い味を出しています。しかもリズム隊も凄いですね。
これもギターのフレーズはループっぽい感じです。
⑤渚づたいのフリーウェイ
歌詞も含め暖かい曲の雰囲気、藤丸さんのカッティング、印象的なブラス、キメで連続したコードの切り替えなど、キーボードソロがあるなど、
凄い真面目なAORの曲です。
この曲もBメロあたりの山木さんのドラム凄いですね…。
⑥灰色の月
ゆったりなリズム隊と儚げな曲調を土台にフィルター系や単音系など、様々なシンセの音色を使っている曲です。ストリングスもあります。
"歌メロがワンフレーズが終わるあたりに差し込むギターフレーズのオシャレさ"は藤丸さんの特徴ですね。
⑦You're The Only One
シンセとストリングスをかなりメインで使った曲です。ベースが渋く、ドラムのフレーズがカッコよすぎる曲でもあります。
鉄琴の音にハイハットのドラムが絡んで来るのがいいですね。パーカッションもかなりの種類が使われています。
⑧Mr.Mへの手紙
ミッチーさんが作曲とボーカルを務めるファンクの曲です。ファンクでありブラスが強く、ブラスロックの要素もあります。ベースラインがかなりメロディアスです。
藤丸さんとはまた違う渋さのミッチーさんのボーカルが良いですね。
ここから解説に移ります!
①アルバムのサウンドメイクの方向性について
最初に結論から出すと、
このアルバムは「SF的なAORサウンド」なアルバムですね。
アルバム全体としてかなりブラスの主張が強いです。しかも吹き方が特徴的でフレーズが複雑です。
それもそのはずです。こちらをご覧ください。
この「ホーン・スペクトラム」というのは新田一郎さん(Tp)、兼崎順一さん(Tp)、中村哲さん(Sax)によるスペクトラムの前身となるブラスユニットです。
つまり「SHOGUNの前身&スペクトラムの前身によるアルバム」みたいな面もあります!
もっと言うと、全曲を通して「"コーラスを省き"、"歌声がダンディ"で"ギターリフがオシャレ"なスペクトラム」に近い印象がありますね。
また、ブラスを多用していることに加えて、サウンドメイク面ではかなり「テクノ系、SF系のシンセの音色やフィルター系のシンセの音色を多用」していることや「ギターフレーズのループっぽい感じで作っている曲が多い」こと、「ドラムが全曲を通してカッコよすぎること」が特徴です。
②近い時期同じメンバーでリリースされた西城秀樹さん「ファーストフライト」とSHOGUN「SHOGUN」と比べてみて
時系列的には
「ファーストフライト」
↓
「YELLOW MAGIC」
↓
「SHOGUN」
となります!
1個1個比較してみます!
・歌詞
歌詞に着目してみると歌詞がほぼ英語なSHOGUNと比べると日本語の歌詞の曲が多いというのが特徴ですね。
(「SHOGUN」は男達のメロディー以外は英語なアルバムですが、「YELLOW MAGIC」はYELLOW MAGIC以外日本語です。)
これはSHOGUNがアメリカンで洋楽的な音楽性を目指していたことに加えて、SHOGUNには"ケーシー・ランキンさんという本場の洋楽を一番知っていて英語で歌詞を書くことが出来るメンバーがいるというのが大きい"気がします。「なら英語メインで行くか」というのも納得できますよね。
そもそもずっと同じ5人でやってきたONE LINE BANDのメンバーがSHOGUNになる時に新メンバーのケーシーさんを受け入れたのは、「ケーシーさんが入ることで音楽性の幅が広がるのではないか」という理由だそうです。
・サウンドメイクの方向性
まず、このアルバムでONE LINE BANDが使っている楽器の音色はほぼ「ファーストフライトのレコーディングで使っている音色」と一緒ですね。
1つ、シンセサイザーの関して言うと、フィルター系のシンセの音色はSHOGUNでも度々使われるのですが、「テクノ系、SF系のシンセの音色」はSHOGUNではほぼ使われていないので、それは「ファーストフライト」と「YELLOW MAGIC」限定ですね。
もしかしたら「SHOGUN」プロデューサーさんの意向かな?
ただコードは「ファーストフライト」と比べると、少しクセの強いコードが鳴っていたりします。
その点からは"スタジオミュージシャンとして参加する作品とは違って、自分たちのバンドで好きなことをやろうとしている"のが読み取れます。
方向性に関してもケーシーさんによってアメリカンな方向性に磨きがかかっているSHOGUNと比べると、ONE LINE BANDは「邦楽で和モノ」という感じがします。
大谷さん色と藤丸さん色が強めですね。
アレンジも「ファーストフライト」に近く一応邦楽寄りなのですが、度々かなりAORでコアなことをやっていたりします。特にドラムのアレンジが凄まじいです。
他にも大谷さんがかなりの頻度でされる
「曲のキメでジャズコードを連続で切り替えて音階を落としていったり上げていったりする」
というのはこのアルバムではさはどされていないですね。
・歌メロ
歌メロを聴いてみると、SHOGUNは「ケーシーさんの手が加わっているのでメロが洋楽っぽい」のですが、ONE LINE BANDは「まだ日本の歌謡曲の範疇」に思えますね。歌モノAORという感じです。
そこの歌謡曲的な歌メロのキャッチーさは「ファーストフライト」寄りなのではないでしょうか?
しかしながら「歌もAORバンドサウンドの一つ」のような印象はありますね。そこはSHOGUNに近いです。
また藤丸さんのボーカルもSHOGUNのアルバムに収録されている歌声の方が上手いと思いますね。
ただ、藤丸さんは去年のLIVEのMCで
「歌詞の意味とかを考えると入り込んで変になるので昔から歌詞の意味とかは深く考えずに渡された曲を淡々と歌うことにしている」
と仰っていたので、だとしたらあの艶や表現力は意識せずやっている素ということになります…。
僕的には藤丸さんやミッチーさんがあの渋い歌声を持ちながら"歌は自信ない"って仰ってるのが本当に信じられないです…。
結果的に、近い時期にリリースされたその2枚と比べてみると、
歌メロや雰囲気が歌謡曲寄りな曲があったりするのは「ファーストフライト」に近く、
歌謡曲から一歩踏み込んだコアなAOR的な曲やインスト曲、ボーカルもAORバンドサウンドの1つとして内包したよう音楽性は「SHOGUN」に近いです。
なので「ファーストフライト」と「SHOGUN」の中間なアルバムだと思います。
※1975年リリース藤丸バンドの「BGM」は大谷さんが携わっておらず、"当時の"藤丸さんメインのサウンドメイクで、メンバーも異なるためここでは割愛させていただきます。
レビュー自体は今度します!
③リード曲「Yellow Magic」のカバーについて
実はこのアルバムのリード曲「Yellow Magic」は「西城秀樹さんによるカバーver.」と「新生SHOGUNによるセルフカバーver.」があります。
・西城秀樹さんによるカバー
秀樹さんによるカバーは1979年の秀樹さんのLIVEにて行われたものです。
当時藤丸さんは秀樹さんのバンドをやりながらONE LINE BANDをやっていたので、その縁でのカバーですね。藤丸さん自身も「芳野藤丸とU.F.O.」としてギターを弾かれています。
(藤丸さんはこの年の半ば頃にSHOGUNとしてデビューされます)
秀樹さんの「YELLOW MAGIC」はイントロ等のシンセのフレーズを全部ブラスで吹いているのと、秀樹さんが情熱的な歌声でメロディをフェイク気味に歌われるのが特徴ですね。
テンポも早くノリも良く「LIVEアレンジ版」といった感じです。
しかし、当時のLIVEの録音音源は残っていますが音源化はされていません…。
・新生SHOGUNによるセルフカバー
大谷和夫さん亡き後、新メンバーを加えて再始動したSHOGUNの2013年のアルバム「SOUND SPLASH」に「YELLOW MAGIC」のセルフカバー版が収録されています。
アレンジですが、"アップテンポでラテンっぽく"なっています。
ギターが強くなっていたり、イントロ等のシンセのフレーズがシンセブラスになっていたり、僕的には「LIFE WORK」アレンジのような印象があります。
加えて、Yammyさんのコーラスもガッツリ入っていたり、SF的だったシンセの音色が結構純粋なAORのシンセの音に寄っていますね。
僕は新生SHOGUNのLIVEバージョンの「YELLOW MAGIC」が一番好きです!