令和5年度第2回 特別支援教育に関わる先生方向け事例共有会レポート
特別支援教育に携わる先生方のリアルな悩みや喜び、日々の指導や連携での具体的な工夫を共有したい。そんな思いから始まったのが、LITALICO教育ソフトの先生方向け事例共有会です。今回のキーワードは「自己理解」と「みんなができる特別支援教育」。実際に教育ソフトを活用されている2つの学校の先生が、各校での取り組みを紹介してくださいました。
LITALICO教育ソフト(以下、教育ソフト)は、お子さま一人ひとりへの個別最適な学びの提供を目指して開発されました。個別の教育支援計画・指導計画の作成をサポートするアプリ「まなびプラン」、約13,000枚の教材を掲載する専用ウェブサイト「まなび教材」、特別支援教育に関する研修動画「まなび動画」の3つで構成されています。
今年度は、全国の教育ソフト導入自治体数が120自治体を超え、日々、教育ソフトの活用アイデアが各地から届いています。「試行錯誤しているけれど、これでいいのだろうか」と不安を感じている先生方や、教育委員会で特別支援教育関連の担当をされている方のヒントになりましたら幸いです。
開催概要
進路指導にまなび教材を活用。共に障害のない社会をつくりたい
〜東京都日野市 中学校 池本先生
1人目のご発表は、東京都の特別支援教室で巡回通級指導を担当されている池本先生。まなびプランが連携の共通ツールとなったことや、まなび教材を進路指導に用い、お子さまの自己理解が深まった例をお話しくださいました。
■まなびプランを連携の共有ツールに
池本先生のご勤務校では、まなびプランを使って個別の教育支援計画等を作成されています。以前は、各計画書にどのように記述したらよいのか、先生方の間で基準が定着していないという課題があったそうです。池本先生がまなびプランのよいと感じているポイントを、2つご紹介くださいました。
「1つ目は、質問項目にクリックして回答するだけで、専門的なアセスメントができることです。分析もグラフで表示されて見やすく、各生徒の実態を把握しやすいです。アセスメントを元に合理的配慮や目標等の文例が表示されるので、生徒一人ひとりに即した内容で計画作成ができます。初めて特別支援教育を担当する教員でも使いやすいと感じています。」
「2つ目は、まなびプランが共通ツールとなり、非常に連携がしやすくなった点です。東京都では多様な専門性・立場の人材が校内に配置されており、連携がとても重要になっています。アセスメントは、特別支援教育の担当やスクールカウンセラーが専門的な知識を持って入力しています。その結果を管理職や養護教諭を含めた校内委員会でも共有し、それぞれの生徒について、校内全体で実態を把握することができました。」
教員研修では、まなび動画を活用。校内研修担当の先生が動画を事前に視聴し、動画の内容を用いて研修が行われました。各自で動画を視聴するだけの研修は、内容が定着しづらいという課題があり、時間を取って、先生による解説と共に学べるよう、工夫されたそうです。
■スモールステップの進路指導。まなび教材で自己理解を深める
実際の授業では、どのように教育ソフトが活用されているのでしょうか? 池本先生は、中学3年生を対象に、自己理解を深めるための授業でまなび教材を取り入れられています。高校受験を控えた3年生は、進路選択において不安や課題を抱えています。進路に関するアンケートで生徒のみなさんから出てきた言葉は、「希望の進学先に合格できるか、自分の学力がどこまで伸びるか、入学後うまく人間関係を築いていけるか」など、さまざまです。
こうした不安の解消と、中学校3年間の振り返りのため、「自己理解」を深める目的で 授業を組み立てたそう。「不安を感じている生徒の特徴として、言語化して表現することが苦手、周りの目を気にするあまり自己肯定感が低下している、記憶を保持することが苦手、といった特性があることが多いと考えています。」と話す池本先生。
まなび教材の自己分析ワークシートを活用し、まずは、自分の好きなことや嫌いなこと、長所、短所、性格や特徴などを言語化。「生徒が自分の意見や考え方を客観視できるようになり、それが認められることで、自己肯定感が高まり、自分を表現することに意欲的になったと感じます。」
面接等は、「やったことがない、うまくいった試しがない」という未学習・未習得が主な障壁となっているといいます。通常の学級では、全体的な指導が中心で、個別に面接をする時間はほとんど取れません。そのため、個々に応じた実践的な学習を、通級による指導で行うことが必要だと感じているそうです。面接練習に関するワークシートは、保護者の方からも感謝の声が多く、持ち帰って、家でも保護者の方と練習するよう声掛けをされているとのこと。東京都の自己PRカード様式は、いきなり記入するにはハードルが高く感じる生徒が多いため、まなび教材をスモールステップとして活用されています。
キャリアデザインにも、まなび教材を役立てられています。「職業に関するまなび教材も、画像やイラストが豊富でイメージしやすいです。自己理解のワークシートと連動して自分の強みや得意などが切り口となっていて、1つの流れとして活用できるのがよいと感じました。」
■ハートをもって業務にあたる意欲がわいてくる
まなびプラン活用をしてみた率直な感想として、連携がしやすくなった点に加え、教材作成の時間短縮や、個別の指導計画等の文例活用による業務時間の短縮も挙げられました。また、まなび動画の「障害のある当事者の声 」※については、「この仕事に対する使命感のような気持ちが湧いてきます。」とお気持ちを話してくださいました。
※まなび動画「障害のある当事者の声 」
まなび動画内には、特別支援教育の中で育ってきた大学生等のインタビュー動画があります。ご自身の障害に気が付く過程や、学校を含む周りの人との関わりで感じていたことなど、大切な気持ちをお話ししてくださっています。
「異動等もあり、教育ソフトを活用しきれていない点もありますが、多くの教員が共に使うことで、共通ツールとしてのよさが高まり、システムそのものも成長していくと感じました。教育ソフトを活用してみて、『障害のない社会をつくる』というLITALICOのビジョンに共感しました。発達特性のある生徒にアプローチするだけではなくて、私たち教員が学校の環境を柔軟に変えていくことで、生徒の困りやバリアは解消していくと感じております。」
・LITALICOサポート担当 河西より
・LITALICO教育ソフトアドバイザー 野口さんより
みんなができる特別支援教育
~千葉県柏市 小学校 小川先生
続いて、千葉県柏市で知的障害特別支援学級※を担当し、4年目を迎えられた小川先生からのご発表です。特別支援学級に至る前に、15年以上通常の学級で担任をされている中で、どのクラスでも、困りを抱えているお子さまがいることを目の当たりにしたそうです。特別支援教育について学びたいという気持ちが強くなり、特別支援学級の担任を志すように。希望して特別支援学級担任になったものの、実態把握と目標設定、教材作り、時間のなさなどに悩んだという小川先生。それぞれの課題に、教育ソフトをどのように役立ててくださったのでしょうか?
■客観的な裏付けで支援に自信
実態把握と目標設定の要は、保護者との情報共有と、客観的なデータ。小川先生のご勤務校では、まなびプラン内にある「保護者アンケート」を活用されています。「保護者アンケートの項目には、診断名、手帳に関すること、関わりのある医療機関等を書く欄があります。面談ではなかなか聞きにくい部分も情報収集することができ、児童の実態を詳しく把握するのに効果的です。」
保護者からの情報と共に、先生の見立てをまなびプランに入力していきます。「感覚・運動面、学習面、行動面など、さまざまな質問項目に担任が答えていきます。回答結果が数値化・グラフ化されることで、一人ひとりの強みや困りが分かりやすいです。児童を理解する視点が増え、客観的な裏付けが加わったことで、自信を持って支援ができると感じています。」
■カタカナの読みをかるた遊びで。まなび教材に加えたひと工夫
「LITALICOの教材があると、特別支援教育の経験が少ない先生でも、自信を持って支援ができるようになる。そんな意味を込めて、発表テーマを『みんなができる特別支援教育』としました」とお話しされた小川先生。読み書きの支援を中心に、活用の工夫をご紹介くださいました。
「カタカナの読みを定着させるために、カタカナカードでかるた遊びをしています。よく見ると、カタカナカードのどこかに小さな写真のヒントがあります。例えば『サ』には『サル』の写真がついています。私のクラスでは、読めるようになってきたら、シールで写真を隠し、ヒントなしでもカードが取れるように練習しています。」
「まなび教材を使うと、どのような教材が必要か分かり、教材準備の時間短縮にもなります。それでもまだまだ時間は足りないのですが、教材を作る際のポイントも参考になっています。色分けやイラストの工夫、課題の量などが適切で、児童が意欲的に取り組むことができます。」
(小川先生のご勤務校では、ほかにもいろいろな教材を工夫して活用されています。詳しくはこちらのインタビュー記事をご覧ください。)
■「お茶べり」の時間を大切に。連携が子どもたちの安心につながる
小川先生が大切にされている「連携」についても、お話しくださいました。「児童が安心して学校生活を送り、『分かった! できた!』と、自信を持って学習に向かえるためには、教員間の連携が必須。本校は4つの特別支援学級があり、4人の担任と教育支援員で子どもたちをサポートしていますが、特別支援学級の教員間の連携は学校内でいちばんだと自負しています。」
連携のポイントとして「壁なし」、「お茶べり」、「共に学ぶ」を挙げられた小川先生。それぞれ、どんな活動なのでしょうか?
1つ目のキーワードは「壁なし」。特別支援学級4クラスで、朝の会や給食、掃除など、みんなでいっしょに過ごす時間を設けているそう。「ほかのクラスの児童の実態や適切な支援情報を共有でき、どの教職員も児童に対して同じ対応をすることができます。クラスを超えて全員が担任という意識を持っています。」
2つ目は「お茶べり」。「お茶を飲みながらおしゃべりする、放課後のこの時間を大切にしています。児童について情報共有したり、プライベートについて話したりしています。ときには、誰かが買ってきてくれたデザートをじゃんけんで取り合っています。この時、年齢や経験年数は関係ありません。こういう遊びも大切だと思っています。」
3つ目は「共に学ぶ」。昨年度から4人の先生方みんなで特別支援学校教諭免許取得に向けて大学に通っているとのこと。特別支援教育に関する校内研修も4人で企画されたそうです。「経験年数が長い先生の指導が絶対ではありません。私も若手の先生から学ぶことはたくさんあります。お互いを尊重し、知恵や知識を活かし、その時ベストだと思うことを試しながら、日々更新していくことがよいのではないかと考えています。」
最後に、特別支援学級を担任するうえで大切にされていることをお話しされました。「みんなができる特別支援教育」という言葉には、「特別支援学級だけでなく、通常の学級の先生たちも当たり前のように、特別支援教育の視点を持って子どもたちと関わることが必要」という想いが込められています。「特別支援学級の担任は孤独になりがちな立ち位置でもありますが、特別支援学級を学校の中心として捉え、積極的にコミュニケーションを取ることが大切です。効果的な連携が図れると、時間と気持ちに余裕が生まれます。」
具体的な取組みの一つとして、郵便局の取り組みが挙げられます。校内に郵便局を開設し、特別支援学級の子どもたちがはがきの配布や配達を行い、活躍しているそうです。
・LITALICOサポート担当 嘉村より
・LITALICO教育ソフトアドバイザー 野口さんより
全国で頑張る仲間とつながる交流タイム
事例発表のあとは、「進路・キャリア教育」、「読み書き支援」の2テーマに分かれ、小グループでの交流タイムへ。ブレイクアウトルームを覗いてみると、「カタカナの指導でICTを活用している事例を知りたい」と情報共有されているグループもありました。参加アンケートでは、「いっしょに頑張っている仲間が全国にいると感じられ、活力をいただけました」との声も。
事例発表や交流タイムを通して、先生方の想いと、日々の指導の具体的な工夫が共有され、エネルギーあふれる会となりました。
<ご案内>
LITALICO教育ソフトは、先生方の計画作成業務をサポートし、児童生徒の特性に応じた指導を学校全体で展開することや切れ目ない支援の実現に貢献します。
「LITALICO教育ソフト」について気になる方は下記問い合わせ先よりお問い合わせくださいませ。
TEL 050-3138-4614(平日9:30-17:30)
Mail iep_sys4school@litalico.co.jp
HP https://s-edu-soft.litalico.jp/
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