これからの特別支援教育の方向性とLITALICO教育ソフトのアップデート〜支援体制の構築と関係者連携〜
すべての子どもが自分らしく学べるインクルーシブ教育を実現していくために大切なことはなんでしょうか。担任の先生や特別支援教育コーディネーターなど、「特定の誰か」だけに頼るのではなく、保護者、教育委員会等と連携しながら学校全体で子どもたちの学びを豊かにしていくには?保護者の気持ちに関する研究結果も交えながら、教育委員会や学校関係者のみなさまとともに、これからの特別支援教育のあるべき姿を考えたセミナーの模様をお届けします。
「特別ではない特別支援教育」を実現するために
セミナーの第1部は、国立特別支援教育総合研究所理事の清重隆信さんによる基調講演です。
「特別支援教育は、もはや特別ではない。教職員や教育委員会関係者が身につけるべきスタンダードスキルです」と、清重さんは指摘します。
多様な教育的ニーズに対応するために、どんな支援体制を構築していけばいいのでしょうか。保護者との信頼関係の築き方、学校内での共通理解の深め方について、お話をいただきました。
就学先決定のプロセスで保護者が感じている気持ち
保護者との信頼関係構築には、日頃からのコミュニケーションが大切であることはいうまでもありません。個人面談や三者面談のほかにも、電話やメールでの相談、連絡ノートなどを活用しながら、家庭との連携をとっている先生も多いでしょう。
こうした日常的なコミュニケーションに加え、保護者との関係構築に際して意識したいポイントとして、清重さんは「就学先決定のプロセス」に注目することを提案します。
「国立特別支援教育総合研究所で、お子さまの就学先が決まったときの保護者の気持ちを調査した研究があります。(教育相談・就学先決定に関する研究)特別支援学校に入学するグループは、比較的、気持ちが安定している保護者が多かった一方で、小学校に入学するグループは、不安を訴える声が多い、という結果でした。特別支援学校に入るケースでは、入学までに保護者も心の準備ができていることが多いです。どんな支援をお願いしたらいいだろうかと、前向きに学校生活への準備に臨んでいます。小学校に決まったグループは、「本当に大丈夫だろうか」という不安を持つ方も多いんですね。この違いは、障害の程度によるところもあると考えられます。グレーゾーンや障害の程度が軽いお子さまの場合、保護者もまだ本人の特性をどう捉えたらいいのか、迷いがあるケースも少なくありません。気持ちが揺れ動く時期だと思います」
入学する前の段階から、保護者にはさまざまな不安があります。その不安に思いを馳せることは、保護者と目線を合わせ、お互いの考えを共有していくための最初の一歩になります。
「就学相談の段階で、保護者がずいぶんと複雑な思いをされてきていることもあります。相手の気持ちを慮り、想像してみることが必要だと思います」
一方で、家庭と学校での認識がまったく同じでなければならない、と身構える必要もない、と清重さん。
「子どもは日々成長し、変化し続けています。また、場面が違えば行動や態度が変わるのは、私たち大人もそうです。だから、保護者と学校の認識が異なることがあるのも、当たり前かもしれませんね。保護者と学校とでは、見ている場面が違うということも留意していただけるといいかな、と思っています」
特別支援教育を進めるための学校全体の意識づくり
特別支援教育に取組むにあたっての課題としてよく挙げられるのが、専門性を持つ人材や担当教員への負担が大きくなりがちなことや、学校全体を巻き込む難しさです。
特別支援教育の経験をもつ管理職がまだ少ないことも、その理由の1つと考えられます。小学校や中学校の校長で、自身が特別支援学級等での教職経験がない方の割合は、小学校で約70%、中学校で約73%という調査結果もあります。
しかし、通常の学級にも何らかの支援を必要とする子どもたちがいることは、調査の結果からも明らかです。
「通常の学級の指導においても、指導上の工夫が必要とされている、ということです」
「特別支援教育は学校全体で取組むテーマです。障害のある子どもを担任する先生や、特別支援教育コーディネーターだけに任せるのではなく、すべての先生の理解と協力が必要です。学校運営上の特別支援教育の位置付けを明確にし、学校組織の中で担当する先生が孤立することのないように気を付ける必要があります」
学級経営に特別支援教育の視点を
「学校の大きな課題の1つに不登校があると思います。不登校の背景要因として、特別支援教育のニーズや発達障害の診断や疑いがある、という認識は、実は先生も保護者も共通して持っています。これは文部科学省の調査でも明らかです」
清重さんは、不登校の子どもに対する支援だけでなく、登校しているものの生きづらさを感じている子どもや、普段は学校生活に困りごとがないように見える子どもにも目を配る重要性を訴えます。
「文部科学省による『子どもみんなプロジェクト』のハンドブックに、先生をはじめとする大人たちが、子どもの健康度を毎日チェックするだけでも、子どもの心の健康状態にいい効果がある、という可能性が示されています。気にかけてもらっていると感じられることが大切なんですね」
どの学校、学級にも支援が必要な子どもは存在します。また、生徒指導上のさまざまな課題への対応には、必ず特別支援教育の取組みが必要です。
「特別支援教育を特別なものにせず、日常の教育活動においても特別支援教育の視点をもって子どもたちに関わることが大切です」
特別支援教育の視点をはぐくみインクルーシブ教育の推進を目指すLITALICO教育ソフト、3つのアップデート
160自治体、1200校以上(2024年4月時点)の学校で活用されている、LITALICO教育ソフト。インクルーシブ教育の実現を通して、すべての人の「自分らしさ」をはぐくむことを目指しています。
2024年4月に大型のアップデートを行い、さらに使いやすく進化しました。
第2部では、アップデートの3つのポイントをご紹介します。
「まなびプラン」にウェブアセスメントツールが登場。保護者連携がスムーズに
「まなびプラン」は、個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成をサポートするアプリです。搭載されているアセスメントを実施することで、子どもの実態に合わせた計画づくりが可能に。優先的に習得できるとよいスキルのおすすめも表示され、目標設定の検討材料にすることができます。
今年度、新たに搭載されたのが、保護者のかたがスマートフォンやパソコンで回答できるウェブアセスメントツールです。
保護者のかたにとっては、忙しい毎日のなかでもすきま時間に回答を進めることができる点が大きなメリットです。
入力された回答は、簡単な操作でアプリに反映することができ、先生がたの作業効率もアップすることが期待できます。
保護者のかたにもアセスメントに回答していただくことで、学校と家庭での様子の違い等を多面的に捉えることができ、保護者のかたの納得感も増した、というお声もいただいています。
「まなび教材」の新プログラム:中学生向けソーシャルスキルと数学教材
「まなび教材」は、授業等で使える教材を掲載するLITALICO教育ソフトの専用ウェブサイトです。教材の数は約20,000枚。子どもたちが楽しく学べるよう工夫された教材で、先生がたの教材作成の負担を軽減します。
今年度の大きなアップデートは2点。
まずは中学生以上を対象としたソーシャルスキルトレーニングの教材です。援助要求が難しい、気持ちのコントロールが苦手などの困りごとに対して、「自己決定」を尊重した形でのプログラムを作成。自立に向け、自ら環境に働きかけたり、自分自身が安心して過ごせる環境をつくっていけるように、自分で考えて決めるプロセスを大事にした教材です。
2つめは、高校受験も視野に入れた算数・数学の教材です。学力の定着には、正しく解けることに加え、スピードも重要です。正しく、素早く解ける問題を増やし、確実に点数が取れる領域を1つずつふやしていくことも、受験対策のポイントです。
まずは正しく解けること、そして次第に速くできるようにしていくことを目指し、スモールステップで成功体験を積み重ねることができる教材の拡充を進めています。
保護者からの相談の際に活用できる「まなび動画」
先生の自主学習や校内研修で活用されている「まなび動画」。10〜15分ほどの短い動画で、指導のポイントを学ぶことができます。
今年度は、保護者のかたからの相談でも多い、ゲーム依存や不登校、長期欠席、こだわり、癇癪などをテーマにした動画をリリース。保護者のかたとお話する際の参考にしたり、面談の際にいっしょに視聴したりすることもできます。
インクルーシブ教育の実現に向け、アップデートを重ねているLITALICO教育ソフト。実際に活用されている先生からのフィードバックや要望の声が、ソフトをよりよいものへと進化させる大きなパワーとなっています。
〈ご案内〉
特別支援教育に携わる先生がたをサポートするために開発された「LITALICO教育ソフト」では、子どもの実態把握をアセスメントツールを通して行うことが可能です。子どもの実態に合わせた手立てをご参考にしながら、支援方法や合理的配慮を検討する際にもご活用いただけます。
「LITALICO教育ソフト」について気になる方は下記問い合わせ先よりお問い合わせくださいませ。
TEL: 050-3138-4614(平日9:30-17:30)
Mail: iep_sys4school@litalico.co.jp
HP: https://s-edu-soft.litalico.jp/