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どうすればよかったか?

20250114@シネマ・ジャック&ベティ

友人がおすすめしていたこともあり、気になって観てみた。

藤野知明監督の姉がある日突然統合失調症の症状を見せるが、医者で研究者でもあった両親はそれを認めようとせず、何年にも及んで世間から隠すように、肉体的にも精神的にも家の中に閉じ込めてしまう。
その家族の様子を弟である監督が映像として記録したドキュメント作品。

ネタバレあり
(ドキュメント作品で”ネタバレ”という表現も違う気もするが…)

とにかく壮絶であった。といっても、あれやこれやといったドラマや喜怒哀楽があるわけではなく、ただひたすらに助けを求める姉の叫び。

統合失調症については明るくはないが、世間一般のイメージでいうところでは電車内や町中で時々見かけるような、一人でぶつぶつ話したり怒鳴ったり奇声を発したりしているような、「やばい人」というような言葉で片付けられるような存在だろう。
私自身、ある時にそれらは精神疾患によるものであると認識した時から、その「やばい人」は、自分の知り得ない未知の存在から、随分と身近な存在のようなものに見方が変わったように思う。

とはいえそれは他人だからこそ、それで適切な距離の取り方を分かった気になっているだけなのかもしれない。身近な家族が精神を患ったとき、どう向き合うことができるか、イメージすることも難しい。

両親は娘に何事もないかのように、たしなめる様な接し方を続け、幸せな家族というものを壊したくなかったんだろう。そうした会話などの様子から、かつての藤野家は夫婦仲・家族仲も良かったのであろうし、両親に憧れて医学の道を目指す成績優秀な自慢の娘は愛されていたのだろうと感じた。
そんな娘だけに、そしてそんな両親だったからこそ、目の前の事実を受け入れ難かった。

地道に向き合おうとする弟が、姉に「調子はどう?」「何か言いたいことはある?」などと問いかけるも、まともな返答はないものの、何か言いたげで時折泣き崩れそうな表情が見え隠れしていたのが印象的であった。

それにしても、精神科に入院するまで発症から25年て…
投薬を受けて数か月後に退院した際に、同じように「調子はどう?」と弟が問いかけると直ぐにきちんと返答があったのには驚いた。
自炊をしたり花火を写真に撮って父と会話をしたり、カメラの前でポーズをとってみたり、こんなにも生き生きと別人のように回復に向かうことができる可能性がそもそもあったろうに。本人はもちろん、家族にとってもこの25年という時間はあまりにも重すぎる。

自分を取り戻した娘を観て、両親はどのような気持だったんだろう?手放しに喜べる気持ちでもないんじゃないかな。
姉の葬儀の際に父が「娘の人生はある意味で充実していた」という言葉、なかなか無責任な言い草でもある気もするけど、父自身そう言い聞かせているのかもしれない。たった2時間の作品でこの家族の人生何も分かるわけもないし、じゃあ「どうすればよかったか」。

家族も結局は他者同士の集まりで、分かり合うことは難しい。
想い合うからこそ、愛するからこそ、誤った選択をしてしまうこともある。

家族や恋人との関係性の中で、向き合い方や自分自身の在り方ってどうあるべきなんだろうとか思ってみたりもする。そもそもこの作品から無理くり自分自身のどこか重ねる必要もないし、全く違う性質・方向の話でもあるけどね。

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