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人生初!祈祷を受けてみた

足を踏み入れた瞬間、最初に思ったのは、「新しそうな部屋だな」だった。

畳の匂いがする。

暖かく迎えてくださった神主さんに、私の名前が書かれた札を渡し、指示された通りに座る。


祈祷が始まる。


体感にして開始1分ほどで、両目に涙が溜まってきた。
うわうわうわ、なんだこれ。
別に悲しくもないし、特段嬉しくもない。感情が大きく動いているわけではないのに。
右目のコンタクトが外れそう。どうしよう。




私の母方の親族が集まって、東京ドームで野球観戦をするのは、毎年恒例の家族(親族)行事である。
昨年から私のオットも晴れてメンバー入りし、先月、野球観戦をしてきた。
土曜日のデーゲームだったのであるが、それまでは各自自由行動!ということで、私たち妊活夫婦は子授けや安産で有名なパワースポットへ行ってきた。

その名も水天宮。

恥ずかしながら私は、「妊活 パワースポット」とググるまで、この場所を知らなかった。
検索すると、子授けや安産に関するパワースポットを紹介するサイトがたくさん出てくるのだが、場所を東京に絞らずとも、ほとんどのサイトに載っていたのが、この水天宮だったのである。
口コミも良く、ホームページも見やすかった。きっと有名なところだし、御利益も期待できそう!と思ったミーハーな私は、オットにここに行きたい、なんなら祈祷も受けたいと伝えた。

オットは、幼いころから両親がシフト制共働きだったこともあり、あまり旅行をしたことがなく、東京に行ったことがある回数も断然私の方が多かった。
せっかくの東京旅行である。もし、オットが他に行きたい場所があれば、今回はオットに合わせ、後日一人で新幹線に乗って水天宮へ行こうと決めていた。
それくらい、私の中では「水天宮に行かなきゃ」という気持ちがなぜだか大きくなっていた。

オットは乗り気だった。ありがたい。ちょっとほっとした。
祈祷には少しびっくりしていたようだが、せっかく行くならと、快く承諾してくれた。



旅行の一か月ほど前、母に「試合が始まるまでどこに行くか決めた?」と聞かれ、「水天宮」と答えたら、なんと母は知っていた。
しかも、私を妊娠していた時、安産祈願をした場所であるとのこと。
当時、母の実家は神奈川県にあったため、戌の日にお参りをしていた。(母の実家、つまり、私の祖父母にあたる家が神奈川県にあったため、祖父母と一緒に東京へ行くことが幼いころから多かった。オットより私のほうが東京に行く回数が多かったのは、これが理由である。)
私は出産予定日より2週間遅れて生まれたが、難産だったとは聞いていないので、ますます御利益に期待できそうだと思った。




家族行事当日。
10時過ぎに東京駅に着いた。新幹線内で合流した私の両親、妹とその婚約者に、「じゃ!後ほど!」と声をかけ、地下鉄に乗る。

乗り換えを1回したが、10分ほどで水天宮前駅に到着した。駅名に名前が着く神社って、昔から日本人が厚く信仰していて、参拝客を運ぶためにその駅ができたのではないかと思っている。
水天宮前駅。うん、なかなか良い名前である。




駅を出て見上げると、本殿と思われる屋根が目の前に見えた。
「うわ、でっけ~!」と隣でオットが言う。
実際に目の当たりにしてびっくりしたのは、目指す場所が新しそうな建物で囲まれていて、入り口がすぐには分からなったことである。
上を見上げなければ、東京によくあるおしゃれなビルが建っているんだろうと思ってしまうような外観。
周りには緑の小さな木が植えられ、警備員さんまでいる。


入り口を見つけた。
大きな石碑に水天宮の文字。
お宮参りだと思われる家族や妊婦さんとそのパートナー。
私も早く仲間入りしたいと思いながら、階段を上る。
階段の上(屋根部分)は、建物の2階部分にあたるのだろうか、やや薄暗いが、晴れ晴れとした表情のおなかの大きい妊婦さんや小さな子ども、おじいちゃんおばあちゃんと思われる老夫婦たちとすれ違う。


階段を登りきると、視界が開けた。目の前には大きな本殿がどしっと構えていた。
赤ちゃんからおじいちゃんおばあちゃんまで、老若男女問わず、多くの人が行きかっている。


たくさんの赤ちゃんや小さい子たちの姿に癒されながら、手水で手と口を清める。
手水舎のすぐ近くに、水天宮のホームページで見た河童の銅像があった。縁起がいいので、オットと一緒に撫でておく。

手水舎の反対側にある、祈祷の受付を案内する看板に、吸い寄せられるように多くの人が向かう。
体育祭の本部席などでよく見る白の簡易テントが2つ。警備員さん2人が受付をしている。なかなか珍しい。


「はい、こんにちは~。本日はどのような目的で?」
愛想のいい警備員さんである。
子授けの祈祷を受けたいんですけど、と伝えると、紙を渡され、必要事項を記入するよう教えてくれる。
子授けや安産、宮詣、七五三詣などの選択肢がある中、子授けにチェックをし、うろ覚えだが、祈祷を受けますと書かれている欄にチェックをつける。
名前をふりがな付きで記入し終えると、簡易テントの端に繋がる建物の入り口に案内された。
そう、この水天宮を囲んでいる建物は、祈祷を受け付けたり待機するまでの場所だったのである。


建物に足を踏み入れると、木を基調とした清潔感あふれるカウンターが私たちを待ち受ける。
まるで、ホテルのチェックインカウンターである。オットはカウンターの茶色い見た目も相まって、銭湯の受付に似ていると思ったらしい。

先ほど簡易テントで記入した紙を渡す。
神主と思われる方が、上部に「子授」と金色で書かれた細長い紙に、私の名前をさらさら記入する。とてもきれいな字である。
名前の下に、「1120」と書かれており、11時20分から祈祷をすると伝えられた。
初穂料を払い、お守りやお札、お神酒などのセットを受け取る。



時刻は10時45分。
受付したカウンターを左に進むと、下に続く階段が6段ほどあり、そこを降りると待機所と呼ばれる場所が広がっていた。
祈祷までの時間に待つ場所なのだが、白いレザーの椅子が5つセットに繋がっているものが、同じ方向を向いてずらーっと並べられていた。
大きなテレビモニターが3台あり、まるで総合病院の待合室のようである。
モニターには、水天宮の歴史やお参りの仕方、祈祷の流れ等の説明が流れていた。


祈祷まで時間があったので、本殿にお参りをしようと一旦待機所を出る。今ほどモニターで予習したのでばっちりだと私たち夫婦は意気込んでいた。
外に出るとむわっとした。湿度が高く、蒸し暑い。
本殿は、最初に見たときよりも人が並んでいた。

お賽銭には、45円を入れた。
オットが中学生のとき、修学旅行で「始終(40)ご縁(5円)がありますように」で45円を入れると良いと聞いていて、私たちはお参りをする際は、よく45円を入れる。
少しでもご縁があるように、手持ちの5円玉3枚に、10円玉3枚を入れた。

二拝二拍手一拝をし、後ろの方に場所を譲る。
周りを見ると、これまたホームページに載っていた子宝いぬの銅像があったので、撫でておいた。




待機所に戻り、モニターを観ながら祈祷の流れをおさらいする。
11時5分の安産祈願の方たちが呼ばれていく。
祈祷は15分程度と聞いていたので、この次は私たちの番である。

待機所にいる人数も増えてきた。
ほとんどがお宮参りなのか、赤ちゃんに2〜5歳くらいのお姉ちゃんやお兄ちゃん、そのご両親、そして両家のおじいちゃんおばあちゃんといったような家族が多い。
そして、赤ちゃんのお母さんたちはのしめをテキパキと準備する。


まずい。もっとちゃんとした服を着てくるべきだった。露出の激しい服やジーンズではないが、このあとの野球観戦に備え、カジュアルめの服装で来てしまったのである。
周りを見て、私たちと同じようにカジュアルな服装をしている人たちを発見しては、心を落ち着かせる。
時間が刻一刻と迫ってくる。なんだか緊張してきた。


緊張しているとオットに伝えるとびっくりしていたが、一緒に深呼吸をしてくれた。
それでも緊張は収まらない。

息を吐くほうに集中して、深呼吸を繰り返していると、とうとう11時20分になった。
モニターにも、11時20分からの祈祷の方は準備をお願いしますといった内容が映し出される。
準備は特にないので、とりあえず姿勢を正してお行儀よく待っていた。

女性の神主さんがやってきて、幣串を渡された。祈祷の際に使うことは、モニターで勉強済みである。
本殿まで案内される。笑顔で接してくださって、緊張が和らいだ。

いよいよ祈祷の部屋へ足を踏み入れる。ここで冒頭に戻る。
土足で入れる部屋なのだが、畳の匂いがした。
名前が書かれた紙を神主さん(もしかしたら宮司さんかもしれない)に渡し、一列目の中央に近い席に座った。子授け祈祷は私たち夫婦だけであった。



祈祷が始まった。
幣串を胸の高さまで両手で持ち、頭を下げるよう、神主さんから指示があるので、その通りにする。

開始1分ほどで、じわり。
両目に涙が溜まる。

あくびなんて不謹慎なことはできないし、一体何なのか。
祈祷を受けながら、若干パニックになる。
目から涙がこぼれないように必死に耐える。


右目のコンタクトが外れそうである。
でも、ここで目をぎゅっとつぶれば、下を向いていることもあり、涙が目から零れ落ちるのは明らかである。

どうしよう、どうしよう、と思っている間にも、じわり、じわり。
ついに涙に負けた。

ポロっと涙が落ち、コンタクトも外れた。
慌ててコンタクトを右ポケットに入れる。
はっきりと見える左目が今後は頼りである。
頑張れ左目コンタクト、負けるな左目コンタクト。


お直りくださいと言われ、頭を上げる。
まずい、今度は鼻水が出てきた。

ティッシュは左隣にいるオットのさらに隣の席に置いてある私のカバンの中である。ゴムゴムの実のゴム人間でなければ届かない。
そもそも、幣串を両手で持っているので、ポケットティッシュからティッシュペーパーを1枚取り出し、鼻水をかむなんて行為は、釜爺のように手がたくさんないとできない。


やばい。


とりあえず鼻水が垂れてこないよう、そして、神様に失礼に当たらないように、小さく鼻をすする。
控えめにすすったものだから、1回では十分ではなく、スンッスンッスンッと変な呼吸法をすることになってしてしまった。


涙もぽろぽろと両目からあふれてきてた。
こうなるともう涙は止まることを知らない。
ぽろっぽろぽろ。

もういいや。
涙はもう仕方ない。でも、鼻水は死守したい。

神主さん、ひいては神様の前で、鼻水を垂らした女が祈祷を受けているなんて、ふざけているのか!と罰が当たりそうである。

涙や鼻水のことを頭で考えながらも、心では『どうか健康な赤ちゃんを…!』と必死にお祈りした。




幣串を中央に置かれた黒い台の上に置くため、立ち上がる。
モニターで幣串の置き方は把握していたが、神主さんも丁寧に再度教えてくれる。

ぼやけた視界とはっきりした視界が入り混じる中、鼻水を垂らさないことに必死になっている、涙で顔が濡れた妻とその夫。アンバランスすぎる。


席に戻って再度座る。
両手は空いたが、ティッシュはないので、結局顔はぐしょぐしょのままである。

あ、鼻水が垂れてきた。
あーーーー!どうしよう!どうしよう!


そう思っているうちに、祈祷が終わった。

神主さんに幣串を戻され、神棚に飾るよう説明を受ける。
鼻水と涙、片目がぼやけているせいで、まともに神主さんの顔が見えないが、お礼はきちんと伝えないと、と思い、しっかりと目を見て「ありがとうございました」と言った。
涙のせいで声が上擦っていたが、神主さんは私の鼻水を垂らした顔を見ても驚かず、優しく接してくださった。



出口を案内される。
もはや鼻水をティッシュでかんでいる時間はない。
カバンに手を突っ込み、ティッシュよりも先に見つけたハンカチを慌てて鼻に当てる。


オットが私を見て、ギョッとする。
そりゃあそうである。
「どうした!?」
「なんか…涙が止まらなくなっちゃって…」
自分でも、なぜあんなに涙が止まらなくなったのか、説明ができない。

鼻水をかみ、持ってきておいた予備のコンタクトを入れた。視界良好。泣いてすっきり。

晴れ晴れとした顔で水天宮を後にする。



なぜ、あんなに涙が止まらなくなったのか気になって、ネットで調べてみた。
ちなみに私は霊感などはなく、これまで祈祷を受けたこともなかったので、初めての経験だった。

調べると、神様からの歓迎のサインや、心が洗われる浄化作用、相性の良い神社、などなど、ポジティブなことが書かれてあった。
涙が出てしまうのも、決して悪いものではないと書かれていて、ちょっと安心した。鼻水垂れっぱなしについてはよく分からなかったが、涙の延長と捉えることにしておく。




我が家はまだ賃貸マンションなので、神棚がない。
帰ってきてからそのままにならないよう、とりあえず100円ショップで買った、壁に取り付ける台を神棚にし、簡易的ではあるが、即席神棚を作った。

朝と夜、毎日身だしなみを整えて、ニ拝ニ拍手一拝をして、心の中で強くお願いをする。
お守りは持ち歩くよう書いてあったので、お財布に入れた。
ピンク色がかわいいお守りである。



さて、できるか!?妊娠!!



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