ブックレビュー:『本屋のミライとカタチ 新たな読者を創るために』北田博充 編 PHP 2024.2
【こんな人におススメ】
●出版不況の正体について興味のある方
他の業界では当然の経営努力がなされてこなかったことも出版不況を招いている要因になっている
●様々な業界の新規顧客獲得の事例を知りたい方
窮地にある書店業界で新規読者獲得のために高校教師、TikToker、薬局、プロレスなどさまざまな事例を挙げている
●書店開業を目指している方
今まさに業界の構造変化の時、書店業界の可能性を示せている。
●本好き、書店好きな方
書店だけではなく、一人一人の読者も「本屋」として業界に貢献できる時代
【内容概略】
●筆者によると本屋をほんを売る人と定義すると、狭義の本屋(=いわゆる従来の本屋)と広義の本屋(本を売る人だけでなく、教えたりPRしたりする人などを含める)に分かれる。
●今後の本屋のミライは広義の本屋の事例を参考に新たに本を読む人を創り出していく事が重要
●この本ではその事例として、高校教師、TikTocker、薬剤師、プロレスラーなど主に書店業界と縁のない事例を参考に書店業界に置き換えて考えてみるという構成になっている
●最後に、書店業界のメンバーで座第会を開き本の内容をしめる
【感想】
この本を一読して最初に感じたことは、書店業界は他の業界に比べかなりマーケティング的な施策がかけているという点でした。
北田さんがおっしゃっている「狭義の本屋」と「広義の本屋」という考え方は他の業界ではマーケティングファネル(顧客の段階に応じてマーケティング戦略を段階的に設計する)やUGC(ユーザー・ジェネレイティド・コンテンツ:消費者が自発的に商品利用の感想を拡散するメディアコンテンツ)など一般的な話です。
しかし、書店業界ではいまだに読者の新規開拓の戦略を持っている企業が少なく、情報発信をしてくれる方々を軽視しているようです。
正直、それでは出版不況に陥ってしまうのも当然では?と思ってしまいます。
その点を考えると、この本は業界の方にすると耳の痛い話であり、業界の外にいる人からすれば驚く話に思えます。
これだけ聴くとリアル書店はもう駄目だと思われるかもしれません。
しかし、私自身は逆の印象を受けました。
つまり、これからの書店業界はかなり面白くなる。
むしろ、チャレンジしてみる価値と市場がある業界と感じました。
なぜならば、問題点が明確であるならば、それをいち早く改善する方法を見つけ出せばチャンスになります。
その点では、書店業界はチャンスに溢れた業界に思えます。
実際、地方の大手書店の閉店ニュースが昨今多く流れていますが、同時に日々新規出店の独立系書店も増えています。
それは、従来の書店の流通網以外の形で創業できる環境が生まれ、個人の力で書店を始められる環境が整ってきたことが大きいです。
そのため、業界の外にいたため商慣習がわからないことが必ずしもデメリットにならなくなっているのかもしれません。
「書店のミライは明るく、ワクワクするもの」
そう感じさせる一冊でした。
【編者紹介】
北田博充:
梅田 蔦屋書店 店長・文学コンシェルジュ
20240116_kitada_02.jpg大学卒業後、出版取次会社に入社し、2013年に本・雑貨・カフェの複合店「マルノウチリーディングスタイル」を立ち上げ、その後リーディングスタイル各店で店長を務める。2016年にひとり出版社「書肆汽水域」(https://kisuiiki.com/)を立ち上げ、長く読み継がれるべき文学作品を刊行している。2016年、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社。現在、梅田 蔦屋書店で店長を務める傍ら、出版社としての活動を続けている。2020年には本・音楽・食が一体となった本屋フェス「二子玉川 本屋博」を企画・開催し、2日間で3万3,000人が来場。著書に『これからの本屋』(書肆汽水域)、共編著書に『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)、共著書に『本屋の仕事をつくる』(世界思想社)がある。
参照:CCCサイト
この記事がよかったと思った方は是非とも
いいね!
フォロー
をお願いいたします!