ホンダイズムとは? ホンダジェットとNSR500 '84 【ファクトリーマシン7:モビリティリゾートもてぎ2】 栃木県芳賀郡茂木町
栃木県茂木町にはホンダの所有するサーキットがあり、モビリティリゾートと名付けられた施設群が併設されています。その中にはホンダの歩みを展示するミュージアムも。ジェット機まで展示されています!
日本にはホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキと4つの世界的バイクメーカーがあり、それぞれに個性的なバイクを生み出しています。その中で航空機を製作したのはカワサキとホンダだけ(カワサキは社名に重工業と冠するぐらいなので、新幹線やら豪華客船に航空母艦まで手掛けていて、他社とはチョット違います)。
2024年10月のMotoGP日本ラウンド開催に合わせてか、今や絶滅危惧種2ストロークマシンの企画展示が行われました。しかも4メーカーのバイク(市販車&レーサー)が並ぶという好企画。
今回はホンダテクノロジーの到達点ホンダジェットと、ホンダ2ストローク 500ccのマイルストーンとなったGPマシンのストリップ展示を。
ホンダコレクションホール
栃木県芳賀郡茂木町桧山120-1
コレクションホールは、ホンダの歴史を詰め込んだ鈴鹿に次ぐ第二の聖地。すべてを見られる日は、いつ来るのでしょうか?
まずは玄関に鎮座する新たな歴史の1ページから
ホンダジェット
このホンダジェットが実物なのか不明ですが、客席には座れます(コクピットは不可)。
ホンダジェット エリート2は2022年に発売。ホンダジェット エリートの後継モデルで、航続距離を伸ばし自動化技術を搭載。
その性能は、
航続距離:1,547km、最大巡航速度:782km/h、最大運用高度:13,106m
全長は12.99m、最大定員:8名(乗員1 or 2人)
ホンダジェットは世界20ヶ国で運用され、機体数は230機以上に。
小型ジェットのカテゴリーで最も速く、最も高く、最も遠くへ飛行できるのが自慢。
地図上では北海道・千歳と鹿児島空港間をギリギリ飛べて、所用約2時間。
上の階から見るとなにやら違和感が。
翼がありません。まあ展示スペースには邪魔ですけど。
ドン底時代のマクラーレン・ホンダ的なカラーリング。
上階には展示解説コーナーが。
ホンダジェットは1997年に全く新しいビジネスジェット機のコンセプトから始まっています。主翼上面のエンジン配置が特徴。
風洞実験時はアメリカの技術者に冷ややかな目で見られましたが、画期的な試験結果が得られると彼らの見る目が変わったそうです。
2003年に初飛行、2015年から納入開始。そして2017年にはホンダジェットが小型ジェットの納入数世界1位!
ホンダジェット エリートは2018年の発表。ホンダジェットの改良版。
エンジンについては、その性能数値がまったく馴染みのない単位。
そのテクノロジーはF1にも注入。
NSR500 '84:NV0A
今回の主役は1984年登場のNSR500初代モデル、コード名はNV0A。
車体を包むカウリングを外せば、他社とは一線を画すメカニズムが随所に。
V型3気筒の軽量コンパクトエンジンが特徴だった先代のNS500は、1983年にチャンピオンを獲得しましたが、ピークパワーは他社に劣っていました。
直線での最速はホンダの伝統。ホンダのエンジニアは、その最適解として振動面の改善や高回転化のため4気筒エンジンを選択します。
ホンダのサイトにも特集ページが。
興味のない方には、何が特別な車体なのか分からないストリップ。
比較のためにスタンダードな車体をヤマハから。
タンクとチャンバーがさかさまの配置です。
NSR(NV0A)のために新設計されたエンジンは、水冷2ストローク90度V型4気筒。吸気はケースリードバルブでクランクシャフトは1軸(他社は2軸)。
排気量は499ccで、最高出力は140PS以上。
ボア×ストロークは54mm×54.5mmとほぼスクエア(この数値は以後の500ccや250ccにも踏襲されている黄金比率:他社はショートストローク傾向)。
このエンジンがホンダ500ccエンジンのメートル原器に。
エンジン本体も他社とはコンセプトが違いましたが、車体の構成方法が84モデルの最大の特徴。それは83年チャンピオンの天才F・スペンサー専用機。
低重心化を狙って、通常エンジンの下部にある排気系(チャンバー)を上部に配置し、上部にあるガソリンタンクを下部に配置。
これがいろいろと問題を引き起こします。
またホンダでは、このマシンがアルミツインスパーフレームの始祖。
現在の高性能バイクでも、そのあまりのエンジン発熱量から「ストーブを抱えて走る」と表現されます(特に夏場)。
排気系の上部レイアウトはまさにストーブを抱えるスタイルで、走行風での冷却方法も十分ではなく、ライダーとバイク共に熱害に悩まされました。
加えてガソリン残量の変化による重心位置の移動が引き起こしたのが、不安定な操安性(ハンドリング)。例えると自転車に載せた荷物が動き回ると運転しにくいカンジ。
コンセプトがやや机上の空論的で、結果的に実戦で潜在能力が発揮できなかったマシンに。
スペンサーは84年シーズンに5勝していますが、旧型NSを持ち出しての2勝が含まれています。残念ながらタイトルは失うコトに。
ドレッドヘアを束ねた風のチャンバー4本。その下にキャブレター。
1アップ・4ダウンの表示はいわゆるレースシフトパターン。5速なのか?
そのステッカーが貼られた黒いケースは、下部タンクからポンプで汲み上げられたガソリン用のフィルター。そしてチャンバー下のキャブレターまでガソリンの流路も長い。
2ストロークの排気音は、低回転時はペンペンと情けないのですが、高回転になるとパァーンと弾けた音を奏でます。
500ccは4本からのユニゾンとなって、その排気音は唯一無二。
4つのサイレンサーがシートカウルにきれいに収まり、デザイン的には完成されています。
その後ろ姿をライバルにあまり見せつけられなかった初代。
その苦い記録がまとめられた1冊。(アマゾンとは無関係です)
84年の経験から後継機となる85年型NV0Bは、フツーの車体レイアウトに戻され進化を続けます。レースは走る実験室を体現。
そしてスペンサーは見事1985年のタイトルを奪還(圧勝の上に、250クラスにも出場して奇跡の2冠達成)。
85年型は、4本のチャンバーをエンジン下で知恵の輪のようにレイアウト(いわゆるトグロを巻いて絡まった状態)。
映像でしか見たコトのないマシンたちを、圧倒的な数で展示する飽きるコトのないミュージアム。