
「悲しいミスマッチ」 #にじいろメガネ 連載(2024年2月号)
このポストは「アイユ」(公益財団法人 人権教育啓発推進センターの月刊誌)の連載からの転載です。諸事情により先方HPでの公開がなくなってしまったため、発行後にここで無料公開いたします。
試験的に投げ銭機能も設置していますが、全編が無料で公開されています。
私が働いていたギャップジャパン社では、一般的な流れとは異なるきっかけで性的マイノリティの人権課題に取り組み始めました。2013(平成25)年頃、「アメリカでGap はフレンドリー企業だから」と日本の当事者団体からイベント支援の相談をもらったことをきっかけに、「日本社でも考えなきゃ」とマーケティング部内で検討が始まりました(そして、そのリードに任命されたのが、社内でゲイであることをオープンにし始めた私でした。)
当初はマーケティング部による企画ばかりでしたが、ある時人事部から「性的マイノリティ向けのインターンシップをやりたい」と相談を受けました。ようやく人事部が動き出したこと、かつ日本で事例の少ない性的マイノリティ特化の採用活動だったことから、私は二つ返事で引き受け、当事者団体の協力も取り付けて説明会を実施しました。幸いそこそこの人数が参加し、その後数名がインター ンシップに進みました。しかしながら、インターンシップを経て正式採用に至った人はゼロでした。「『Gapは性的マイノリティにフレンドリーな企業だから』働きたいという人ばかりで、『お洋服や接客が好きだから』という人はゼロだった」というのが担当者の見解でした。
「心理的安全性」とは、その場(職場、学校、コミュニティなど)に関わる全ての人(ステークホルダー)において「自らの属性において否定されたり排除されたりすること がない」という安心と確信が担保された状態だと私は理解しています。だからこそ企業は、全ての従業員が属性に関わらず100%のパフォーマンスが発揮できるよう、心理的安全性のある職場環境づくりに腐心します。しかし心理的安全性はあくまで前提であって、だからこそ仕事へのやる気や適性、そして何より結果が厳しく問われます。
一方、性的マイノリティ当事者はまず「安心して働けるか」が気になりがちです。結果的に興味・関心や業務適性とは外れたミス マッチが起こる可能性が高くなります。この10年、東京2020オリンピック・パ ラリンピック競技大会やSDGs、人権デュー・ディリジェンスなどが後押しとなり、大企業における認知と取組が進みつつある一 方、企業数で99%、従業員数で7割弱を占 める中小企業では、いまだ課題の認知さえおぼつかない状態です。「働きたい職場よりも、働ける職場」。忌避されている業種や企業、適性に合わない仕事を選択している当事者の従業員を考慮した時、この悲しいミスマッチは日本社会にとっても大きな損失です。性的マイノリティであっても「やりたい/なりたい仕事」を真っ すぐ目指せる社会への道のりは、まだまだ長いのが実情です。
<参考データ>
性的マイノリティも働きやすい職場づくり推進
一般社団法人 work with Pride「プライド指標」
https://workwithpride.jp/
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