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【2021】COMIC OF THE YEAR (前編)

ほんとは今年はじめあたりにリリースしたかった「2021年のCOMIC OF THE YEAR」をようやっと発表したいとおもいます。8作品セレクト(+2作品)。音楽の年間ベストアルバムと違って、漫画作品は年をまたいで連載されているので選出基準が難しいのですが、「2021年の時点で漫画雑誌等に連載されている/いたこと」です。連載じゃなくても構わないのですが。

ちなみに2020年はこんな感じでした。「スインギンドラゴンタイガーブギ」「とんがり帽子のアトリエ」「チェンソーマン」「SPY×FAMILY」「ハコヅメ」の5作品。2021年も相変わらずジャンプ+とモーニング中心ですが、もうちょっと幅は広げるようには心掛けました。一応。


では。長いので2つにわけます。まずは前編の5作品。




「怪獣8号」松本直也

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怪獣発生率が世界屈指の日本。この国は、容赦なく怪獣が日常を侵していた。かつて防衛隊員を目指していたが、今は怪獣専門清掃業で働く日比野カフカ。ある日カフカは、謎の生物によって、身体が怪獣化、怪獣討伐を担う日本防衛隊からコードネーム「怪獣8号」と呼ばれる存在になる。(参照:ジャンプ+)

「怪獣8号」は「SPY×FAMILY」なんかとともに、現在のジャンプ+の看板のひとつとも言える作品です。この日本という国では地震災害が頻発していますが、世界屈指の発生率である「地震災害」を「怪獣災害」にすり替え、「怪獣」から国を守る日本防衛隊の活躍を描いた本作。主人公は敵方である怪獣に変化する能力を得た32歳の男・日比野カフカ。ジャンプ作品において30代が主役というのはそれだけで珍しいですが、年齢制限ギリギリで日本防衛隊に入隊し、オールドルーキーとして描かれる彼の努力と献身は、ある世代以上にはグッとくるものがあるでしょう。

とはいえ、ぶっちゃけ「主人公が異形の怪物に変身して闘うバトルモノ」というテーマも使い古されていますし、「敵の姿に変化して戦う」という設定は「進撃の巨人」の影響下にあることは明白だし、ストーリー進行がやや行き当たりばったりのような印象を受けて不安定に感じることもあるし、若干の批判を受けていることもわからなくもないです。

・・・が、それ以上に「ジャンプらしく」少年漫画の王道を歩んでいることには好感が持てます。バトルシーンの迫力は特筆すべきものがあるけれど、いちばん上手いなあと感じているのはキャラクター造形の見事さ。怪獣化する主人公・日比野カフカの年齢設定を30代にしたという点もそうですが、本来であれば主人公的な立ち位置にもなり得た若き逸材・市川レノ、本作のヒロインともいえる最強お嬢様(高慢!)・四ノ宮キコル、糸目&マッシュルームカット&関西弁という特定の層への萌え要素全部乗せの第3部隊副隊長・保科宗四郎。そして日本国内の最高戦力ともされるにも関わらずオタク気質で欠点だらけの第1部隊隊長・鳴海弦(クズ)など、個性的なキャラの作り込みは素晴らしいです。特に鳴海の登場でやや緩慢さを感じていた展開が急に面白くなった。

「シン・ゴジラ」と同様に、「東日本大震災以降」を代表する怪獣モノエンタメ作品と言えると思います。




「ルックバック」藤本タツキ

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学生新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の4コマを載せたいと先生から告げられるが…!? (参照:ジャンプ+)

ジャンプ+連載の「ファイアパンチ」で支持を集め、ジャンプ本誌連載「チェンソーマン」のヒットで評価を決定的なものにした藤本タツキ。「チェンソーマン」第1部連載終了以降にはじめて発表された読切作品が「ルックバック」です。読切と言うと30~40Pくらいのページ数をイメージするけれど、本作は143P。のちにこの作品のみでコミックスを発売するなど、衝撃的なボリュームで話題を呼びました。

主要キャラの藤野・京本の2人を通じて「創作とは」を問いかけている点(読者にも、たぶん自らにも)からも、恐らく自伝的要素も強い作品なのだと思う。藤野と京本をミックスさせると藤本だしね。最近発表された最新読切「さよなら絵梨」にも通じるものがあるけれど、藤本タツキ作品はとかく映画的。自身が熱狂的な映画オタクということが多分に影響しているのだろうけど、カットのひとつひとつ、台詞回しから、映像がざあっと頭の中に再生されるかのようです。漫画というよりは、漫画という表現を通じて映画をつくっているのだと思います。実写で観たい漫画。

「このマンガがすごい!2022」でも1位を獲ってた。




「屍者の13月」第年秒

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現在、過去、未来…すべての時間に同時に存在する不屍王を滅するには、各時代、同月令に選ばれた術者が同時に不屍王を倒さねばならないという…。時空を越えた戦いが、今始まる! (参照:ジャンプ+)

ジャンプ+にて「群青のマグメル」を連載していた中国人作家・第年秒による最新作品。中国を舞台にして、不屍者(キョンシーみたいなゾンビ)と術者の因縁の戦いを描く作品なのだけど、作品の構成として面白いのが西暦525年(過去)、西暦1906年(現在)、西暦2020年(未来)の3つの時代を交差するようにしてストーリーが進むこと。それぞれの時代に主人公を置いており、現在と未来のキャラが交信したりしていて混乱することもありますが、敵方にもたっぷり感情移入できるキャラ造形、そして何より全編カラーの美麗な作画ですよ。これは本当に毎回感心させられましたね。日本の漫画作品の影響を受けている作家さんとはいえ、やはりお国柄なのかコマ割りなど表現の感覚が日本の漫画とは違うところがあって、そこがまた新鮮だったりします。

2021年8月の第37話にて「第1部完」という形で休止していますが、ジャンプ+でいま全話無料なのでぜひ読んで欲しい。僕は未来(2020年)の主人公・段星煉の姉、周六晴が好きです。強くてスタイルが良い。ちなみにコミックは出ていない。

なお、アニメ化もされた「群青のマグメル」のジャンプ+連載版も知らん間に休載に。この作品は「HUNTER×HUNTER」ぽかった。




「高丘親王航海記」原作:澁澤龍彦 / 漫画:近藤ようこ

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偉才・澁澤龍彦の遺作を、近藤ようこが奇跡の漫画化!  幼い頃に、父帝の寵姫であった藤原薬子より、寝物語で天竺の話を聞かされていた皇子・高丘親王は、長年、彼の地への憧憬を抱き続けていた。それから数十年、成長した彼は夢を実現するために、エクゾティシズムに満ちた怪奇と幻想の旅に出立したのだった。(参照:Amazon)

20代前半の頃、三島由紀夫とか澁澤龍彦とか町田康とかをむさぼるように読んでいた時期があって、この「高丘親王航海記」にもその頃出逢いました。耽美な幻想奇譚に強く魅了されて何度も読み返したのだけど、その作品がコミカライズされるとあっちゃあ読まざるを得ませんよ。

作画を担当したのは「アカシアの道」「五色の舟」などで知られるベテラン作家・近藤ようこ。原作の耽美でエキゾティックな世界観が念頭にあり、くどいほどに濃厚な作画の作家さん(たとえば「シグルイ」の山口貴由や、あり得ないけど「ジョジョ」荒木飛呂彦とか)を想定していたので、あっさりと簡素な作画には拍子抜けしたのも事実。でもそれが妙にハマっているし、独特の風味は「これはこれであり」だし、人選としては正解だったのだと思う。作品は原作をきっちりとなぞって4巻で完結。原作のすばらしさありきですが、見事に漫画化してくれたと思います。ただ、「煩悩丸出しの濃いめ」コミカライズも読んでみたい。




「ワールドイズダンシング」三原和人

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室町ダンスレボリューション!! 知っているようで知らない、社会で習った人「世阿弥」。今も生み出した作品が舞われ続けている彼の「身体」に没頭する物語! 不安定でイカれた時代に、美少年は壁を乗り越え、舞い、物語を紡いでいく…。 (※参照:コミックDAYS)

作品に対する考察とかもろもろ詳細は以前書いたnoteにあるので割愛します。モーニングにて連載中、コミックは現在4巻まで刊行。能の始祖・世阿弥の少年時代を描く物語です。人気があるのかはよくわからず、中途半端なところで打ち切りにならないかビクビクしているのですが、室町時代前期を舞台に世阿弥を主役に据えて漫画を描く、ということ自体がとてもチャレンジングだし、意義がある。「芸とはなんだ?」と自問問答しながら、ひとつひとつ答えを得て成長してゆく、のちの世阿弥=鬼夜叉。彼が長じてからの話も描かれるかどうかは微妙なところだと思っていますが、作品としては間違いなく面白い。できるだけ長く続いて欲しいです。


後編に続きます。








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