全裸中年男性、甲冑の使い方を学ぶ
全裸中年男性は東京・高尾山で特殊訓練を行っている。特殊訓練に使われているのは桐の葉だった。訓練に参加した全裸中年男性に配られた桐の葉には説明書がついていた。
「※死亡事故に注意 桐の葉は陰茎を隠すためのものです。頭の上に乗せて人を化かすためのものではありません。妖術による死亡事故が多発しています。ご注意ください。 」
全裸中年男性たちは口々に「俺たち死ぬのかよ」「説明書にやるなって書いてあるだろ」と教員に食ってかかったが、教員は落ち着いた様子で言った。
「全裸中年男性たぬき派の博士の研究により、甲冑を着れば助かるということが分かっている。全裸である部族の誇りを汚すが、訓練中は甲冑を着て欲しい。いずれ全裸でもできるようになる。
博士は中学生だった1997年に頭に桐の葉を乗せて重傷を負い後遺症に苦しんだ。その後は東京大学や早稲田大学に盗聴器を仕掛けて学問に励まれた。黒板が見えずその学問は苦難を極めたが、ついに桐の葉の使い方を極められ、狸学博士を自称されるようになった。博士はこれにより警察だけでなく文部科学省のお尋ね者となった。
従来、桐の葉が爆発するものだと考えられていたが、博士は御自身の経験から葉が周囲のものを呼び寄せるとお考えになられた。実際に事例を収拾すると、全身に石を投げられたような傷、道路のアスファルトが割れて刺さっていた、看板が頭に当たった、電線が切れて感電したなど多種多様な死に方にひとつの法則が発見された。甲冑くらいのもので生存率が格段に上がるということも発見されたのである。
博士はこの学問的業績を一般に普及させるため、アメリカ大統領リンカーンは南北戦争に勝利するため甲冑を着て敵の調伏を行ったという嘘サイトを立ち上げたが、サイトは何者かにハッキングされ甲冑を着ているリンカーンの絵画以外は削除された。」
「え、嘘。あのネタサイトは博士の作品だったんですか?」
全裸中年男性たちは口々にそのサイトを見たことがあると言った。全裸中年男性たちはそれまでまったく知らなかった博士を尊敬するようになり、甲冑を着た訓練に参加するようになった。訓練初日に10人中3人が死んだが、教員は甲冑の着方が悪いと言って非を認めなかった。
その夜、宿舎にいた教員のもとに博士危篤の報が届いた。
教員は訓練の予定を中止し、博士の教え子100人と合流した。博士の教え子の全裸中年男性は、1人が1万人の日本刀を持った全裸中年男性に化けた。甲冑を着て馬に乗った博士に化けた全裸中年男性が先頭を務めた。100万人の全裸中年男性は霞ヶ関や永田町に火を放ったあと皇居に突入し、警察をあわてふためかせたあと消えた。
博士はこの様子を動画中継で見たのち、息を引き取った。享年40歳。事故で負った傷と闘い続けた生涯を終えた。
数日後、岸田文雄が辞意を表明した。